ハリウッドの実写映画では、アメコミを代表するヒーローたちが連合チームを結成し、スマホアプリの世界では、アニメやコミックの人気キャラクターが登場するコラボイベントが、どのゲームでも当たり前のように行われている。現代のエンターテインメントにおいて、異なる作品世界のキャラクターが集結する「クロスオーバー」は、もはや定番の手法と言えるだろう。
このクロスオーバーの手法を25年以上に渡って続けてきたのが、シミュレーションRPGの『スーパーロボット大戦』(以下、『スパロボ』)シリーズだ。第1作の発売から26年を経てタイトル数も80作を超えた、この『スパロボ』シリーズは、まさにその先駆けとも言える作品だろう。
といっても『スパロボ』シリーズのクロスオーバーは、最近流行のマーケティング重視によるコラボとは、本質的に異なっている。
原作となるロボットアニメのストーリーや設定はもちろんのこと、制作スタッフや出演声優の小ネタまで熟知した上で、原作のストーリーを再現しつつ、そこから「夢の顔合わせ」によるオリジナル展開へと発展させていく。原作を知るファンは、複数作の共通点を巧みに絡み合わせる手際に感嘆し、原作を知らない人でもそのアニメを思わず見てみたくなる。これこそが『スパロボ』のクロスオーバーだ。
そんな『スパロボ』シリーズ最新作『スーパーロボット大戦V』が、が2017年2月にPS4/PS Vitaで発売されている。それを語るにあたり、今回はTYPE-MOONの奈須きのこ氏に、シリーズの顔役である寺田貴信氏と話していただいた。
奈須氏は、ビジュアルノベル『Fate/stay night』のシナリオを執筆した人物。古今東西の歴史・伝説上の英雄たちが「サーヴァント」として現代の日本に召喚されて、マスターである魔術師とともに聖杯戦争を戦うという、『スパロボ』にも相通じるクロスオーバー要素を持つ名作だ。その後もシリーズは人気を博し、今や累計900万ダウンロードを突破する高い人気を獲得しているスマホアプリ『Fate/Grand Order』では、ついに登場するサーヴァントの数が150騎以上にのぼり、そのスケールも圧倒的になった。
そんな奈須氏が、実は『スパロボ』シリーズの大ファンだという。今回の対談は、奈須氏の『スパロボ』に対する「愛」が随所にほとばしる、熱気あふれるものとなっている。シリーズに参戦したロボットアニメから、オリジナルのメカやキャラクターまで、マニアックな固有名詞が次々と飛び出してくる“濃さ”は、この顔合わせならではと言えるだろう。
対談では、日本のキャラクターコンテンツが、これからどこへ向かうべきなのか。そして、それはどう「ゲームで」表現されるべきかなどが、熱く語り合われた。『スパロボ』のクロスオーバーに匹敵するような、最強のマッチメイクをお届けしたい。
奈須きのこと『スパロボ』の出会い
――読者には奈須さんが『スーパーロボット大戦』シリーズ【※】のファンだと知らない人も多いと思うんです。ちなみに、奈須さんはロボットアニメは、どのくらいお好きなのですか。例えば、好きな作品の名前を挙げていただけると、読者にもわかるんじゃないかなと。
※『スーパーロボット大戦』シリーズ
1991年に第1作が発売された、シミュレーションRPGシリーズ。ゲームボーイで発売された第1作は、擬人化されたロボットたちが敵に制御されたロボットたちを説得しつつ戦うという、現在とはやや異なる内容だった。同年にファミコンで発売された『第2次スーパーロボット大戦』以降、パイロットがロボットを操縦し、原作を再現したストーリーがクロスオーバーして進行する、現在みられるようなフォーマットとなった。
奈須きのこ氏(以下、奈須氏):
好きな作品は、『勇者ライディーン』【※1】です。毎回冒頭で、2人の敵幹部が「今週のオレの推しはコレだ!」ってロボットを戦わせて、勝ったほうが今回のライディーンの敵になるという斬新な展開【※2】で、開始3分で超面白い(笑)。それはともかく、ちょっとオカルトの要素も入っていたので、いずれ伝奇物を書くようになる人間としては、何か惹かれるものがあったんでしょうね。
※1 勇者ライディーン
1975〜1976年に放送されたTVアニメ。1万2000年前にムー帝国を襲った妖魔帝国が復活。主人公・ひびき洸(あきら)はムー帝国が生み出したライディーンに乗り込み、これに立ち向かう。後に『機動戦士ガンダム』を手がけることになる富野喜幸(現・由悠季)氏が、初めてロボットアニメのチーフ・ディレクター(前半のみ)を務めた作品である。
※2
監督が富野氏から長浜忠夫氏に交代したシリーズ後半より、妖魔帝国の新幹部として、豪雷巨烈と激怒巨烈の兄弟が登場。番組の冒頭で互いの巨烈獣を戦わせて、勝利した側がライディーンに勝負を挑むという展開が繰り広げられた。物語の終盤では兄弟の巨烈獣を合体させた、合体巨烈獣も登場する。
でも、自分は放送当時、初代『ガンダム』を見られなかったんですよ。子どもの頃はアニメを見せてもらえなかったので。なので、劇場で『機動戦士ガンダム III めぐりあい宇宙編』【※3】を見た時、現実感を失いました。映画が終わった後も、いつまでも劇場に残っていたい、と思ったほどに。でも、じつは『伝説巨神イデオン』【※4】は、『スパロボ』でしか知らないんです。
※3 機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編
1982年に公開された映画で、劇場版第3作に当たる。劇場版三部作は、テレビアニメの初代シリーズを再編集して制作されたもので、本作は31話から43話(最終話)を下敷きにしている。アニメ映画としては大ヒットを収め、同年の興行収入では、アニメ部門の一位を記録している。
※4 伝説巨神イデオン
『ガンダム』に続いて、富野喜幸(現・由悠季)氏が総監督を務めるロボットアニメ。『ガンダム』の放送終了直後である1980年にテレビアニメ版が放送された。放送当時は商業的な不興により半ば打ち切りを余儀なくされたが、アニメ業界にはその影響を公言する者も多く、現在に至るまで熱狂的なファンが多い。
寺田貴信氏(以下、寺田氏):
そうなんですか!?
奈須氏:
それを先輩のゲームクリエイターに言ったら、「お前はいちばんスゴい富野監督を見ていない」って怒られました(笑)。
結局16歳を過ぎてから、相棒の武内(崇)【※1】に「今度ガイナックスの人たちがNHKでアニメをやるんだ。これを見なければ絶交だ!」って言われて。それで『ふしぎの海のナディア』【※2】を見たら、「アニメ面白れ〜!」ってなったんです。
(画像はNHKアニメワールドより)
※1 武内崇
1973年生まれのイラストレーター、同人作家。中学時代からの友人である奈須きのこ氏らと共に、2000年に同人サークルである「TYPE-MOON」を立ち上げ、『月姫』のキャラクターデザインを担当。のちに大ヒットとなる『Fate/stay night』シリーズを始めとするキャラクターデザインも担当している。「TYPE-MOON」を法人化したゲーム制作会社「ノーツ」の代表を務めている。
もともと小説家を目指してはいたのですが、あの頃にガイナックス作品に出会わなければ、こっちの世界には入っていなかったかもしれないですね。その後、武内から「ゲームを作らないか」と誘われて、それは文字の世界からゲームの世界に浮気をするということだから、それならゲームの世界に骨を埋めるぐらいの気概じゃないと自分はやらないって。当時はカッコつけてたんですねぇ……結局、こっちに骨を埋める事になりましたが。今は毎日が楽しいです!
――なるほど。シリーズにハマったのは、どの作品からですか?
奈須氏:
自分がハマったのは、スーパーファミコンに移植されてからですね。『第4次スーパーロボット大戦』(以下、『第4次』)【※】が、ものすごく面白くて。
それまではクロスオーバーものは各々の世界のキャラクターを“ユニットとして使っているだけ”だと思っていたんですよ。ところが『第4次』をプレイしてみたら各々の『作品世界』を成立させながら、それらを統合して新しい「ロボット世界」を作っていた。それだけでなく、オリジナルの主人公が4人も用意されていて、この世界にあなたの分身がいるんですよという前提がしっかりと設定されていたんです。
寺田氏:
オリジナルの主人公が最初に登場したのが、『第4次』なんですよ。発売後のアンケートで、「アムロに自分の名前を呼ばれてすごく嬉しいです」といった感想をたくさん頂いて。
奈須氏:
あっ、そうなんですね。それでちょっと遊んでみたら、自分でも信じられないぐらい熱中してしまって。
そこからシリーズを追いかけ続けるようになりました。当時は『マジンガーZ』【※1】どころか、『機動戦士ガンダムZZ』【※2】すら古いという状況だったんですが、その古いフォーマットの作品を、今の技術で最新のものとして見せるんだという気概が、とても嬉しかったんです。
※1 マジンガーZ
漫画家・永井豪氏による漫画作品、及びロボットアニメ。テレビアニメ版は、1972年から74年にかけて放映された。悪の科学者 Dr.ヘルから地球を守るため、主人公の兜甲児は、祖父の遺したスーパーロボット・マジンガーZに乗り込み、悪と戦っていく。人型ロボットを人間が操縦するタイプの「巨大ロボットアニメ」の起源とされる作品であり、放映当時のヒットはもちろん、後世にも多大な影響を及ぼした。2018年1月には新作映画の公開が決定している。
※2 機動戦士ガンダムZZ
『ガンダム』シリーズの3作目。監督は富野由悠季氏で、1986年から87年にかけて放映された。前作の『機動戦士Zガンダム』の続編にあたり、第一次ネオ・ジオン抗争をめぐる物語にフォーカスが当てられた。
『スパロボ』は当初、メジャーなタイトルではないという自覚があった
――では、このままスパロボの誕生秘話に入っていきましょう。『スパロボ』が誕生した1991年の当時、『マジンガーZ』や『ゲッターロボ』【※】といった作品は、既に過去のものという雰囲気があったんですね。そういう中で、ロボットやキャラクターが共演する作品を開発することには、何か目算があったのですか?
※ゲッターロボ
漫画家・永井豪氏と石川賢氏による漫画作品、及びロボットアニメ。テレビアニメ版は、1974年から75年にかけて放映された。『マジンガーZ』と『仮面ライダー』のヒットを受け、「ロボット」と「変身」の混交を東映のプロデューサーが提案したことが企画の発端となり、史上初の「合体変形ロボット」が誕生した。
寺田氏:
それがぜんぜんなくて。スタートした時は「そんなもの売れないよ」と言われましたね。
――そうだったんですか。
寺田氏:
当時のバンプレストは、新しいキャラクターを追いかけるのが中心でしたから。なので、4作目ぐらいまでは常に、終了の危機がありました。『第4次』で終わる予定だったはずが「次もやれ」と言われて、そこから改めてシリーズが始まった感じですね。
だから、『第4次』には「これで最後だからやっちゃえ!」という勢いで入れちゃったものが多いんですよ。オリジナル主人公とか、カラオケモード【※】とか。
※カラオケモード
『スパロボ』シリーズのオプションのひとつ。ゲーム中の戦闘シーンの映像の上に歌詞が表示され、ゲームに収録された原作の楽曲の多くをカラオケで歌えるようになっていた。『第4次』で初めて採用されて人気を博し、『スーパーロボット大戦α外伝』まで収録されていたが、現在同モードは廃止されている。
奈須氏:
カラオケモード、好きでした(笑)。1ステージクリアしたらお茶を煎れるがてらカラオケモードを流して口ずさんでいましたとも。オリジナルの主人公機にも歌があるのが嬉しかった。
寺田氏:
僕は当時から、「カラオケボックスに行けばええやん」と言っていたんですけど(笑)。
そんな感じだったので最初の頃は、メジャーなタイトルではないという自覚がありました。「昔のロボットアニメを今扱ってどうするの?」と言われても、「だって好きだからしょうがない」みたいな感じで。要は自分たちのやりたいことをやると。わかってくれる人がきっといるはずだ、というスタンスでしたね。それで続けてきた結果が、今に至るわけです。
――「ロボットアニメ好き」の想いのままに、好きなものを詰め込んだ作品だったんですね。では、新旧のスーパーロボットが共演するという突き抜けた発想も、その延長線上にあったのですか?
寺田氏:
もともと「コンパチヒーローシリーズ」【※】という、仮面ライダーとガンダムとウルトラマンが共演するシリーズがありまして。それぞれのキャラクターがまわしを締めて相撲で対決するとか、そういうノリのゲームでした。
※コンパチヒーローシリーズ
ウルトラマン、ガンダム、仮面ライダーなど、さまざまなヒーローキャラクターが作品の枠を越えて共演するゲームシリーズ。1990年に発売されたファミコン用ソフト『SDバトル大相撲 平成ヒーロー場所』を第1作として、2003年にかけて多彩なゲームジャンルで展開された。また、2012年からは「新コンパチヒーローシリーズ」として、新たなタイトルがリリースされている。
仮面ライダーは1号、2号、V3と登場してきましたし、ウルトラマンはウルトラ兄弟じゃないですか。僕らはそういうものを当たり前に見て育ってきたので、偉大な先輩方を見習って、それをスーパーロボットに置き換えてみよう、という発想だったんです。
『Fate』シリーズ【※】もそうだし、『アベンジャーズ』もそうですけど、英雄たちが集結する物語というのは、それこそ『西遊記』や『水滸伝』の頃からあるものですよね。人類は昔からずっと好きなんですよ、この手のお話が。
(画像はTYPE-MOONオフィシャルウェブサイトより)
奈須氏:
『スパロボ』が本当にスゴいところは、マネージメント能力だと思うんです。
それぞれがスター級の作品なので、ゲームの中で版権キャラクターが死亡してしまったり、酷い目に遭わせたりすることは基本的にできない。でも50時間以上に及ぶ長い物語で、メインキャラクターを1人も脱落させずに最後まで持っていく。この縛りの中で面白いシナリオを構築するのは至難の技だと思います。それを1回きりで終わらせず、シリーズとして続いて、毎回「こうきたか!」と唸らせてくれるのは、本当にスゴい事なんです。
寺田氏:
ありがとうございます。
奈須氏:
『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』)【※1】で、自社作品のスピンオフではあるけれどもKADOKAWAさん扱いの『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』【※2】とコラボした時に、確認事項がすごくたくさんあって。自社作品でこれだけ大変だということは、他所様の版権を扱う時はとんでもないことになるぞ、と。
『Fate/stay night』に登場するイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、魔法少女になったという設定で展開されているスピンオフ作品。コミックからアニメ、ゲームなどへと広がっている。
(画像は「劇場版Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ公式サイト」より)
※1 Fate/Grand Order
2015年よりサービスを開始した、iOS/Android用RPG。主人公が3騎のサーヴァントを率いて戦うターン制コマンドバトルの戦略性と、100万字を超える圧倒的ボリュームのメインストーリーを堪能できる。2017年5月時点で累計900万ダウンロードを突破し、中国や台湾でもサービスが行われているほか、北米での英語版の配信も予定されている。
それを考えると、『スパロボ』に登場するヒーローたちはそれぞれの世界の看板を背負っているスター級です。本当に制約が多いでしょう。それら綺羅星(きらぼし)の如き主人公を一つの作品にまとめ上げるというのは、並外れたマネージメント能力がないとできない。ゲーム制作はもとより、並外れた外交力がないと成立しない作品です。
――スパロボは、「どうやって権利者に交渉しているんだ?」というのを謎に思っている人は多いと思います。
寺田氏:
でも僕らは、原作者の方々が心血を注いで作られたものを、互いの接点を見つけて接着しているだけなので。『Fate』みたいに膨大な世界観を、イチから構築しているわけではないですから。
もちろん原作ものなので制限は多いですが、産みの苦しみというのは、完全オリジナルのゲームとは比べものにならないですね。マジンガーZもガンダムも、僕らが考えたものではないので。既に存在しているキャラクターの力をお借りして、盛り上がっていく話を作るだけなので、どちらかというと接着剤でプラモデルをどうくっつけるか、みたいな感じですね。
原作ものでアレンジが効かないというのは、長所でもあり短所でもあります。自分がもし『Fate』のような作品を作れと言われたら、英霊の元になった人たちの、歴史上の設定に縛られてしまう可能性があると思うんです。でも『FGO』だと、「なんでこの人は頭がライオン【※】なの?」っていうのがあるじゃないですか(笑)。
奈須氏:
そこは自由ですから(笑)。
寺田氏:
それだけ自由な発想で作られているオリジナル作品の『Fate』を、『スパロボ』と並べて語るなんて、おこがましすぎて何も言えないですよ。
奈須氏:
各作品のスターを預かる『スパロボ』と、自社ラインが許す限りで好きにできる『Fate』シリーズでは、近いようでいて、やっていることは違うでしょうね。
自分は『第4次』からハマって、特にハマったのが『スパロボα』シリーズ【※1】なんです。『FGO』が始まってからはなかなか時間が取れなくなって、最新作の『スーパーロボット大戦V』【※2】はまだプレイできていないんですけど。
※2 スーパーロボット大戦V(画像右)……2017年2月に発売されたゲームソフト。対応ハードはPS4・PS Vita。「スパロボ」シリーズの生誕25周年プロジェクトの第2弾に当たる。7作品の新規参戦作品を加えた、全26作品からなる。
『α』シリーズ完結編の『第3次スーパーロボット大戦α 終焉の銀河へ』では、スター級のキャラクターを揃えた上で、彼らが全員で倒すに値する強敵、倒すに値するステージをどんどん用意していって、ここまでやったらこの先はないな、これで完全に『スパロボ』は終わるんだろうなと、誰もが思ったはずなんです。でもその後、しっかりと『スパロボZ』シリーズ【※3】などに続いていくんですけど。あの「今やることを全力でやればいいんだ、その後のことはなんとかなるさ」という心意気は、今、『FGO』にも引き継がれております(笑)。
謎めいた『スパロボ』の制作過程に迫る!
――では、そろそろ『スパロボ』の制作過程に迫っていきたいと思います。新作を作る際は、まず何から始めるのでしょうか?
寺田氏:
参戦作品を決めることです。「こういう作品が出ます」というのが決まらないと、シナリオが書けないんですよ。
――参戦作品が決まったら、その次は?
寺田氏:
『スパロボ』の場合、味方側にものすごいメンバーが揃っているので、それと戦うオリジナルのラスボスをどうするかが問題なんです。
だからまず、今回の参戦作品の中でいちばんスケールの大きな物語はどれか? という話をするんです。たとえば超銀河帝国と戦った後に、そこらへんのオッサンと戦えますか、ってことですよ(笑)。まぁ、それもアリかもしれないですけど、その場合はそこに至る流れが納得できるだけの伏線を、張り巡らさないといけないですから。
奈須氏:
最初にボスを決めて、着地点を決めてからシナリオに取りかかるわけですね。
寺田氏:
「あとでラスボスを考えよう」は基本、ないですね。ゲームなので、ボスをどうするかは大事なので。
奈須氏:
自分はもう、霊帝というかケイサル・エフェス【※】が出てきた時点で参りました。
※ケイサル・エフェス
『スパロボ』シリーズに登場する星間国家、ゼ・バルマリィ帝国の真の支配者で、霊帝と呼ばれる。『第3次スーパーロボット大戦α 終焉の銀河へ』のラスボスとして登場する。その声はアニメシンガーの草分けで、『スパロボ』シリーズにも縁の深い水木一郎氏が担当している。
寺田氏:
えっ!? そうなんですか?
奈須氏:
あそこでまさか、水木一郎さん【※】を持ってくるとは! と驚きました。ヤツの攻撃やセリフがまた、本当に格好良かったんですよ。『α』シリーズの最後にふさわしい、すごいクライマックスを見せてもらって。ラスト前の展開と敵が、その作品にふさわしい壮大さを持っていると、永遠に心に残るんです。
※水木一郎
1948年生まれの歌手。「アニキ」の通称で親しまれ、「アニソンの帝王」の異名をもつ。代表曲の『マジンガーZ』の主題歌をはじめとして、数多くの楽曲の歌唱をこなす。声優やナレーター、作詞作曲業を務めることもある。
ラスボスには毎回悩んでいる
寺田氏:
ありがとうございます。でもラスボスに関しては、全部が成功したとは思っていないし、むしろ個人的には失敗したほうが多いと思っているぐらいなんです。
「根源の悪とは何だ?」というのを僕らも考えているんですけど、「全てを作った神です」というのは、『勇者特急マイトガイン』【※】という先達に、究極の手を使われてしまって。アレは本当にスゴいですから。あの時代にアレを見てしまったがゆえに、僕らはあそこまでの境地にはたどり着けないですね。
今はシナリオを書くことはあまりないんですが、思いついたラスボス案を書き留めたりはしています。いいボスを思いつくことができれば、「この作品は上手くいきそうだ」と思いますし、オチをどうしようかなぁと迷っている作品は、やっぱり迷走しますね。
※勇者特急マイトガイン
1993〜1994年に放送されたTVアニメで、『勇者』シリーズの1作。主人公の旋風寺舞人(せんぷうじまいと)が勇者ロボ・マイトガインに乗り込み、悪と戦う。本作の最終回で、旋風寺舞人と対峙した悪の黒幕ブラックノワールは、自らを「三次元人」と称し、舞人たちは「二次元世界」のゲームのコマでしかないと語るという、メタフィクション的な展開を迎える。劇中ではその意味を深く掘り下げることはないが、最終回のエンディングでは、結婚式を挙げた舞人とヒロインの姿を描いた「セル画」が登場する。
奈須氏:
そうですね、テーマとボスは表裏一体ですから。自分の場合は、ボスがキッチリとテーマを生かし切って、物語の結論を出せるものじゃないと、そもそも書き始められない。「このボスならこのテーマが書ける」と固まった時点で、自分の中でようやくゴーサインが出るというところでしょうか。
寺田氏:
「いいラスボスの作り方」って本が出たら、ほしいですよね(笑)。
奈須氏:
それをマニュアル化しちゃうのは良くないですよ。我々のおまんまの食い上げになりますから(笑)。でも『スパロボ』はシリーズを重ねていますから、ボスのレパートリーを考えるのは大変でしょうね。
寺田氏:
1回考えてポシャったのは、オリジナル主人公がラスボスだ、というものなんです。「プレイヤーが育てた主人公のレベルが、ラスボスの強さに直結するんだ!」と言ったら、スタッフに「それ、プレイヤーさんが怒りますよ」と返されて。映像作品や小説ならアリでしょうけど、ゲームでそれをやると、まぁ『スパロボ』なら怒られますよね。
奈須氏:
プレイ時間が30時間を超えちゃうと、変化球は許されないでしょうね……。今のゲーム環境だと20時間でも厳しいかなぁ。ゲームに使える時間がどんどんと減ってきているので。
寺田氏:
ロボットアニメの場合、ラスボスをどう倒すか、倒す前にどんなやり取りをするか、みたいなところで十分に成立しますけど、ゲームはそれを自分でやっちゃうので、難しいですよね。アクションゲームなら、自分で操作して倒すという部分もあるとは思いますけど。
かといって、原作キャラクターを喰ってしまうような、強すぎるラスボスを出すのもやり方によっては不評になりますし……。
奈須氏:
『スパロボ』はそこが難しいですよね。個人的には、版権キャラ40ユニット全てを向こうに回しても全滅させるような超チートボスでいいじゃん、と思うんですけど。作り手としてはここまでやりたいんだけど、それをやるとユーザーさんが怒るから抑えておく、という絶妙なバランス感覚が、『スパロボ』の大切なところなんだと思います。
『スパロボ』とは、ユーザーの「夢」の具現化である
――敵側の制作プロセスについては見えてきた気がするのですが、逆に「味方側」はどうなのでしょうか。大変そうに見えるのですが。
寺田氏:
敵と違って味方側の顔ぶれは、自分たちだけで調整できないんです。今この作品が人気なので参戦させましょう、という意向もありますし。
奈須氏:
「次の『スパロボ』では、ユーザーさんはきっとこの作品を求めている」というのをチョイスする枠は、だいたい何枠ぐらいあるんですか?
寺田氏:
それも時代によって違いますね。昔はわりとシンプルに決められたんですけど、今はアンケートを採った結果、人気が高いので参戦させましょうという作品や、今度新作の展開があるので参戦させましょうという作品もあるので、そういった意向を全部調整して、初めて参戦作品が決まります。
――外部の意向も大きいのですね。そこはプロデューサーの腕の見せ所かもしれないですが、参戦作品を好きに選べないのは、クリエイターとして大変な部分も多いのではないでしょうか。
寺田氏:
基本、ロボットアニメで自分が嫌いな作品というのはないんです。ただ、僕も一応シナリオを書くので、一回でいいからライターの都合だけで参戦作品を決めてみたいですね。シナリオを書くのが比較的ラクになりますし。
奈須氏:
確かに、趣味全開でいけますからね。怖いけど、きっと楽しい(笑)。
寺田氏:
『超時空世紀オーガス』【※】という作品があるんですけど、これは究極の世界混在型のアニメなんです。物語の舞台にいろんな世界が転移してきて、パッチワークになっているので。
※超時空世紀オーガス
1983〜1984年に放送されたTVアニメで、『超時空要塞マクロス』に続く『超時空』シリーズ第2作。主人公・桂木桂(かつらぎけい)が作動させた時空振動弾によって、地球は多元世界が混在する「混乱時空」となってしまう。20年後の地球に飛ばされた桂は、時空修復の鍵を握る「特異点」として、各陣営が彼を奪い合う争奪戦に巻き込まれていく。
放送当時も衝撃的で、これはいつか『スパロボ』で使いたいと思っていたんですけど、究極の手法の一つでもあるので。というわけで『Z』シリーズでは、『オーガス』の設定を使わせていただいて多元世界の話をやりました【※1】。銀河の彼方にいる人たちを地球圏に呼び込むとか、『コードギアス 反逆のルルーシュ』【※2】のシンジュクゲットーで『装甲騎兵ボトムズ』【※3】のAT乗りがバトリングしているとか、そういった話をまとめるのにすごく悩んで「『オーガス』の設定を借りよう」って。
※1
『スパロボZ』シリーズ1作目の『スーパーロボット大戦Z』より、『超時空世紀オーガス』が参戦。時空振動弾によって生じた多元世界は、『スパロボZ』シリーズの世界観の根幹になっている。
※2 コードギアス 反逆のルルーシュ
2006〜2007年に放送されたTVアニメ。神聖ブリタニア帝国に占領された日本は「エリア11」と呼ばれ日本人は「イレヴン」と蔑まされてゲットーに押し込められている、という世界設定で、謎の少女C.C.から絶対遵守の力「ギアス」を与えられたルルーシュ・ランペルージが、母の死の真相を探りブリタニア皇帝である父への復讐を遂げるため、神聖ブリタニア帝国への反逆を開始する物語。
※3 装甲騎兵ボトムズ
1983〜1984に放送されたTVアニメ。そのハードボイルドな語り口とミリタリー描写によって、「リアルロボットアニメの最高峰」との呼び声も高い。ちなみに「バトリング」とは、AT同士で行われる賭けバトルのこと。
奈須きのこが、『スパロボ』に参戦して欲しいと思う作品は?
――ちなみに、ぜひ『スパロボ』に参戦してほしい、と奈須さんが思っているロボットアニメはありますか?
寺田氏:
それを僕に言われても、先ほどお話ししたとおり、どうなるものでもないですが(笑)。
奈須氏:
うーん、僕らの業界で唯一の希望の『デモンベイン』【※1】も、もう出ちゃってるしなぁ。
コミック版の『真マジンガーZERO』【※2】が大好きで、『スパロボV』に出ると聞いて「マジか!」と思ったら、機体のみ参戦だったので。なので、いつかあのお話の最終回っぽいことを、『スパロボ』でやってくれたら嬉しいなと思いますけど。
(画像は秋田書店公式サイトより)
※1 デモンベイン
2003年にニトロプラスより発売された18禁アドベンチャーゲーム『斬魔大聖デモンベイン』がオリジナル。私立探偵の大十字九郎(だいじゅうじくろう)が、少女の姿をした魔道書「アル・アジフ」と契約し、巨大ロボット・デモンベインを操縦して秘密結社ブラックロッジと戦う。2004年に全年齢向けソフト『機神咆吼デモンベイン』としてプレイステーション2に移植され、2006年にTVアニメ化された。『スーパーロボット大戦UX』(2013年・3DS)に、『機神咆吼デモンベイン』の名義で参戦している。
寺田氏:
たしかにあれも、『スパロボ』のストーリーが目指す1つの帰結点だな、とは思います。『真マジンガーZERO』のコミックは、すごくシンパシーを感じるんですよ。今回の『スパロボV』で、「マジンガーZEROって兜甲児クンが乗る味方の機体なんだ」と勘違いしている方がいらっしゃるかもしれませんが、コミックのマジンガーZEROはそうじゃないですから。
奈須氏:
じつはラスボス級の存在ですからね(笑)。
こうしてお話を聞いていて思ったのは、『スパロボ』とは何かというと、「夢」なんです。多くのユーザーさんが、自分の好きだったキャラクターの活躍をもっと見たいと思っているけれど、物語というのは消費されるものなので、見終わったら過去になってしまう。でもそこで、物語は消費されるけれど、キャラクターは残るんです。好きなキャラクターの活躍をもっと見たいという、多くのユーザーの「夢」を具現化したものが、『スパロボ』だと思うんです。
ユーザーの求める夢、制作陣の作りたいキャラクター、もっと偉い人たちからのお願い(笑)。この3つの組み合わせで毎回、『スパロボ』はできていると思うんです。
寺田氏:
「こういう話をやりたいんです」というアイデアは、ライターのほうから毎回けっこう出るんですけど、それがそのまま最後までいくことはあまりないですね。過去の『スパロボ』で、これはベストクロスオーバーです、すべて上手くいきました、というものは1本もないです。必ずどこかで、あれは上手くいかなかった、本当はこの作品を出したかった、というところが出てきますね。
――先ほど奈須さんが言われた「物語は消費されるけれどキャラクターは残る」というのは、すごく印象的な言葉だと思いました。その意味では、『Fate』はまさにキャラクターが残っていて、キャラクターを使った派生作品が、ゲームに限らずたくさん登場していますよね。それは意識してやられているのでしょうか?
奈須氏:
意識した事はなかったんですよ。『Fate』はもともと、『魔界転生』【※】のオマージュですし。学生時代に自分が『魔界転生』をやりたくて書いた恥ずかしい小説を、相棒の武内が覚えていて、「あれをゲームにしよう」と言って出来上がったのが『Fate/stay night』なんです。
(画像は角川書店公式サイトより)
小説だった頃は学生だったのでキャラクターを暴れさせたかっただけでしたが、『Fate/stay night』【※】を作った時は、それなりに作品を作ってきた後だったので、きちんと物語を作ろうと。物語が終わればキャラクターも本来は役割を終えて、語るべきことはないのですが、ユーザーのみなさんが思いのほかキャラクターを愛してくれたし、自分たちもすごく思い入れのあるキャラになったんですよね。幸い、他の作品と共通の世界観で書いていたので、この街の事件は終わったけど、次の事件の時にこのキャラがいたら面白いよねとか、そんな軽い気持ちで続いたらいいなぁと思っていたんですが、気がつくと……。
(画像はFate/stay night公式ページより)
自分たちが生み出したキャラクターというのは、やっぱり子どもなんです。子どもが成長していくのを嬉しく思わない親はいないですから。本来は1つの物語が終わったら、その子とはお別れしなくてはいけない。でもチャンスがあったので、小学生から中学生、高校生、大学生と成長していって、もうオレの手を離れて結婚しているのに、まだ面倒を見ているぞっていう、そんな感覚でしょうかね、『Fate』に関しては。
ただ、完全にキャラクターとしてゴールを迎えてしまったアルトリア【※1】やエミヤ【※2】は、これ以上彼らを主役にした物語を書く意欲はないんです。でも、新しく生まれたサーヴァントたちは、まだ彼らをメインにした物語を語っていないので、それについてはチャンスがあれば……というか、誰かに命令されたら書くよ、というスタンスでしょうか。
(画像はFate/stay night公式ページより)
(画像はFate/stay night公式ページより)
ロボットの強さをどう決めるかに、正解は存在しない
――でも、『スパロボ』の苦労譚は、もっと聞いてみたいですね。参戦作品やラスボス以外で、苦労されているのはどんな点ですか?
寺田氏:
ロボットの性能と武器のパラメータを決めるのが、なかなか難しいですね。ガンダムとZガンダムとZZガンダムとνガンダムを並べて、どれがいちばん強いかという、原作のスタッフの方々でも明確な答えを出していないものを、おこがましくも我々が決めなきゃいけないので。超電磁スピン【※1】と天空剣・Vの字斬り【※2】はどっちが強いとか、そんなのホントはわかりようがないですよ(笑)。
※1 超電磁スピン
1976〜1977年に放送されたTVアニメ、『超電磁ロボ コン・バトラーV』に登場するスーパーロボット、コン・バトラーVの必殺技。
※2 天空剣・Vの字斬り
1977〜1978年に放送されたTVアニメ『超電磁マシーン ボルテスⅤ(ファイブ)』に登場するスーパーロボット、ボルテスⅤの必殺技。『ボルテスV』は『コン・バトラーV』の後番組として放送されており、『スパロボ』シリーズでもクロスオーバーによる共演や合体技が多いが、原作では具体的なストーリーのつながりはない。
奈須氏:
本来ならイーブンにしたいところですよね。
寺田氏:
そうですよね。でもボルテスⅤ(ファイブ)のほうが後発なのでちょっと強くするとか、攻撃の数値は高いんだけどエネルギーの消費も大きいとか、そういう調整を加えていくんです。その調整にも正解はないですね。原作キャラだけじゃなくて、オリジナルのキャラだけが集まっていても正解はないんです。主役級が勢揃いする作品だと、どれも大変なので。
その点、イデオンはラクですよ。イデオンの波動ガンは、射程:MAX、攻撃力:MAXですからね!(笑) 波動ガンを使うとマップ画面の大部分が射程範囲になって、赤く表示されますから。それでもまだ弱いと言われたりしますね。
物語としての整合性をどうするかというのも、なかなか上手くまとまらないですよね。シナリオで見せたい気持ちもあるなかで、シミュレーションRPGとして、そのバランスをどうするかは、いつも悩みますね。
なので迷うと、昔の『仮面ライダー』や『ウルトラマン』を見直して、クロスオーバーのなんたるかを再確認するんです。昔のクロスオーバーは、すごくシンプルなんですよね。『帰ってきたウルトラマン』【※】だと、特に詳しい説明もなくウルトラセブンがやってきて、ウルトラブレスレットを渡して帰っていきますから(笑)。
※帰ってきたウルトラマン
「ウルトラマン」シリーズ第4作目。1971年〜72年に放映された特撮テレビ番組。企画当初は初代のウルトラマンが地球に帰ってくるという設定だったが、スポンサーの意向により変更を余儀なくされ、のちに「ウルトラマンジャック」という正式名称が与えられた。
奈須氏:
彼らは兄弟ですからね(笑)。
寺田氏:
特に『ウルトラマンタロウ』【※】は、すごく刺激になりますね。子ども向けというのもあるんでしょうけど、それまでのウルトラ作品の概念を大きく変えているので。僕は大好きですよ。子ども向け番組は、いい意味でお話の整合性よりもインパクト重視ですし、子どもたちもそれを喜んで見ていますから。
なので、煮詰まったら『タロウ』を見る(笑)。『タロウ』みたいにはっちゃけた原作がいっぱい集まっていると、そういうノリになりますね。
※ウルトラマンタロウ
『ウルトラマン』シリーズ第6作目。1973年〜74年に放映された特撮テレビ番組。前作でわずかに仄めかされているにすぎなかった「ウルトラファミリー」の構想がはじめて全面的に描かれた。また、前作までとは異なり、作風はホームドラマ調で、コミカルな要素が色濃くなっている。
奈須氏:
こっちもハチャメチャにやっていいんだって。
寺田氏:
そうなんですよ。『スパロボ』に『天元突破グレンラガン』【※1】が参戦した際に、天元突破の問題をどうしようかと。かなり困って、脚本の中島かずきさんに相談したら、「みんなで天元突破ですよ」【※2】というお答えをいただきました。
※1 天元突破グレンラガン
2007年に放送されたTVアニメ。またTV版のストーリーを再構成する形で、劇場アニメ2作品も制作されている。顔型のメカ「ガンメン」に乗り込んで獣人たちと戦った少年シモンは、兄貴分のカミナが率いるグレン団の一員として、さまざまな出来事を経て成長を遂げていく。全4部で構成された物語は、その進行につれて希有壮大なスケールへと拡大する。
※2 「みんなで天元突破ですよ」
『天元突破グレンラガン』の最終決戦で、シモンたち大グレン団は時空を超越した存在であるアンチスパイラルと対峙する。認識が実体化する超螺旋宇宙において、シモンの乗るグレンラガンは大グレン団メンバーたちの思念を取り込んで「天元突破」を果たし、銀河をも凌駕する超巨大サイズとなって、アンチスパイラルに立ち向かう。この場面が『第3次スーパーロボット大戦Z 時獄篇』で再現された際には、他の版権ロボットたちも全て「天元突破」するという驚愕の展開によって、天元突破グレンラガンと肩を並べて同じマップ上で戦うことが可能になった。
奈須氏:
それは原作の脚本家である中島さんだから言える言葉であって、我々には言えませんよね。だってあの天元突破は、『グレンラガン』の物語全編を通して最後にたどり着いた、主人公たちだけの特権なので。それをみんなに分け与えてもいいよというのは、原作に携わった方にしか言えないですよ。
寺田氏:
でもその一方で、中島さんから「こことここは原作から絶対に変えないでほしい」という要望もあったんです。それが何なのか、あえて言いませんけど。IF展開がオッケーなところもあるけれども、絶対に守らなければいけないところも、キャラクターを扱う以上は当然ありますから。
そういった、いい意味での荒唐無稽さというのは、『Fate』にもあると思うんですよ。真名【※】の設定が、僕は大好きなんです。真の名前を隠して出てくるなんて、ロマンですよね。
※真名(しんめい)
『Fate』シリーズでマスターに召喚されるサーヴァントたちは、セイバーやアーチャーといった「クラス」名で呼ばれ、英霊としての真の名前=真名は秘匿される。歴史・伝説上の名前、すなわち正体を知られることにより、その能力や弱点が露見してしまうためである。
奈須氏:
パッと見のカッコ良さの後にもう一度、そのキャラクターの真実に迫るっていう。推理小説の犯人当てのようなものですから、つまらないはずがないですよね。
寺田氏:
「本当の名前はなんだろう?」というのが、物語の大きなフックになるじゃないですか。『スパロボ』はこれができないんですよ。予定していなかった参戦作品が登場します、というわけにはいかないので。
奈須氏:
それは見たいですよ! 『スパロボ』で「謎の参戦枠」なんてサプライズが実現したら、最高に面白いんですけど!
寺田氏:
僕も一回やってみたいとは思いますけど、プロモーションできないですよね(笑)。
そういったストーリー上のサプライズとしては、オリジナルキャラだけで構成している『スーパーロボット大戦OG』【※】というシリーズがあって、そちらは参戦作品の縛りがないので、ものすごく古いゲームの敵が出てきたりしてるんです。
奈須氏:
「XN-L(ザンエル)【※】出たー!」みたいな。
※XN-L(ザンエル)
2016年にPS3/PS4で発売された『スーパーロボット大戦OG ムーン・デュエラーズ』のラスボス。その初出は、1992年に発売されたスーパーファミコン用ソフトで、コンパチヒーローシリーズの1作『ザ・グレイトバトルII ラストファイターツイン』にラスボスとして登場したザンエルであり、20年以上を経てのサプライズ復活となった。
寺田氏:
えっ!? よくご存じですね! 今ちょっと動揺しました(笑)。でもさすがに、通常の『スパロボ』ではまったく予告していない他の原作キャラクターを出すというサプライズはできないので。『Fate』はその点、物語の仕掛けがものすごく良くできていますよね。
――おお、では今度は寺田さんが、奈須きのこさんに『Fate』の話を聞くターンに入りましょうか!(続く)
寺田氏と奈須氏の対談もいよいよ佳境に差し掛かってきたところだが、残念ながら今回はここまで。この続きは、近日更新の後編でお楽しみいただきたい。
奈須きのこ氏がかなりのゲーム好きだというのは、いろいろなところで目にしていたし、『スパロボ』シリーズをプレイしていることも知ってはいた。とはいえ、この対談を読まれた方はおわかりのとおり、ここまで熱心な『スパロボ』ファンだというのは、失礼ながら予想していなかった。
なかでも興味深かったのは、奈須氏がロボットアニメのクロスオーバーという要素を超えて、『スパロボ』オリジナルのキャラクターやストーリーに対して、強く惹かれているという点だ。それゆえに今回の対談では、寺田氏と奈須氏がお互いに物語の語り手として、意見を交換する形となった。異なる世界観をいかに結びつけていくかの苦労や、敵となるボスキャラクターの設定といった話題は、双方の作品のファンにとって非常に興味深いものだったはずだ。
さて、シミュレーションRPGよろしく攻守のターンが交代した後編では、寺田氏から奈須氏に向けて、『Fate』シリーズのより深い部分に対する質問が飛び出すことになる。『スパロボ』の有名版権キャラクターとはまた異なる、歴史や神話の英雄をクロスオーバーさせていく際の苦労とは。また『Fate』が『スパロボ』から、意外な影響を受けていることも明らかになる。
さらに話題は、今この時代にスマートフォンでゲームを作る意味にまで及んでいく。奈須氏は『FGO』のストーリーを執筆するにあたって、どのようなモチベーションで挑んでいたのか? それは次回更新の後編で、ぜひ確認してもらいたい。
後編はこちら:
【寺田P×奈須きのこ:対談】庵野「シャアをエヴァに乗せて」→スパロボPはなぜ断ったのか!? Pが語る原作とゲームの狭間の葛藤。そしてFGOがスパロボから継承したもの
『Fate/Grand Order』
©TYPE-MOON / FGO PROJECT
『スーパーロボット大戦V』
©賀東招二・四季童子/ミスリル
©賀東招二・四季童子/陣代高校生徒会
©賀東招二・四季童子/Full Metal Panic! Film Partners
©カラー
©Go Nagai・Yoshiaki Tabata・Yuuki Yogo/Dynamic Planning
©サンライズ
©SUNRISE/PROJECT ANGE
©ジーベック/1998 NADESICO製作委員会
©創通・サンライズ
©永井豪/ダイナミック企画
©1998 賀東招二・四季童子/KADOKAWA 富士見書房・刊
©1998 永井豪・石川賢/ダイナミック企画・「真ゲッターロボ」製作委員会
©2009 永井豪/ダイナミック企画・くろがね屋
©2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会
『第4次スーパーロボット大戦』
©創通・サンライズ
©ダイナミック企画
©東映
©東北新社
©PRODUCTION REED 1981
©PRODUCTION REED 1985
『スーパーロボット大戦α』
©GAINAX・カラー/EVA製作委員会
©GAINAX・カラー/Project Eva.
©創通・サンライズ
©ダイナミック企画
©東映
©東北新社
©BANDAIVISUAL・FlyingDog・GAINAX
©光プロ/東芝エンタテイメント/アトランティス
©ビックウエスト
©PRODUCTION REED 1985
『スーパーロボット大戦Z』
©サンライズ ©SUNRISE・BV・WOWOW
©創通・サンライズ
©ダイナミック企画
©東映
©PRODUCTION REED 1980
©1983 ビックウエスト・TMS
©2002 大張正己・赤松和光・GONZO/グラヴィオン製作委員会
©2004 大張正己・赤松和光・GONZO/グラヴィオンツヴァイ製作委員会
©2004 河森正治・サテライト/Project AQUARION
©2005 BONES/Project EUREKA
『スーパーロボット大戦OGムーン・デュエラーズ』
©SRWOG PROJECT