酒を伴う会食は感染リスク5倍? 感染研疫学センター長「酒提供停止政策の根拠とするのは飛躍がある」
4度目となる緊急事態宣言で、飲食店における酒提供の停止が要請されます。感染研などの調査で、酒を伴う会食に複数回参加した人は感染リスクが高いことがわかりましたが、感染研の疫学センター長は、「政策の根拠とするのは飛躍がある」と注意を促します
感染拡大に歯止めがかからない東京に、4度目の緊急事態宣言が出されることになった。
とはいえ、まん延防止等重点措置から宣言への切り替えで具体的に変わるのは、飲食店で酒を出せなくなる措置ぐらいだ。
そもそも酒を伴う会食で感染しやすくなるという科学的根拠はあるのだろうか?
BuzzFeed Japan Medicalは、酒を伴う会食の影響などについて調べた国立感染症研究所感染症疫学センター長の鈴木基(もとい)さんらの研究グループが最近行った研究についてインタビューした。
※インタビューは7月9日午後に行い、その時点の情報に基づいている。
「3密」「5つの場面」の感染リスクを検証する研究
ーー「3密」や「5つの場面」を控えるよう、専門家や政府は呼びかけてきましたが、これが感染に影響しているのか調査したのですね。
厚労省のアドバイザリーボードでパイロット調査の結果を出したのですが、ちょうど飲食店での酒提供を停止する方針が示されたので、その根拠にされるのには抵抗があります。
ーー酒提供は感染リスクを上げるという資料を感染研が出したという風に受け止められていますね。
そういうつもりはありません。我々専門家は「3密」とか「5つの場面」がコロナ感染のリスクになるので避けるように呼びかけてきたのですが、その根拠となるは陽性者の行動の分析やクラスター班の聞き取り調査でした。
それでは科学的根拠としては弱いと指摘され、その行動をとっていない人と比べてリスクを示すことが必要と言われてきたので、今回調査したわけです。
複数の医療機関との共同研究の形で、3月30日から6月8日に東京で発熱外来を受診した人たちを対象にアンケートを行いました。一連のリスク行動をとったかどうかを質問しています。
リスク行動としては、過去2週間に以下の行動を取ったかどうか聞いています。
「換気の悪い場所にいた」
「多くの人が集まる場所にいた」
「手の届く範囲で会話をする機会」
「マスクなしでの会話」
「大人数や長時間におよぶ飲食」
「狭い空間での共同生活」
そのアンケートの回答と、検査の結果を踏まえて、陽性者と陰性者でリスク行動をとっていたかどうかを比較しました。まだパイロット調査なので、2施設の284人しか解析していません。
「大人数や長時間におよぶ飲食」が3.92倍のリスク
ーーその結果、リスクが高い行動が見えてきたのですね。
「大人数や長時間におよぶ飲食」は3.92倍感染リスクが高いという結果になりました。
ただし、年齢や性別、基礎疾患の有無を調整すると3.3倍になりますが、調査の数が十分ではなかったこともあり、統計的に意味のある数字ではなくなります。しかし、リスクが高い傾向は示しています。
他に、年齢などを調整したデータでは、「換気の悪い場所にいた」も2.68倍、「手の届く範囲で会話をする機会」は2.13倍リスクが高まりました。確かにこういう行動が新型コロナ感染のリスクを高めるようだ、とは言えるでしょう。
ーー逆に「多くの人が集まる場所にいた」はリスクは高まっていないですね。満員電車で感染が起きないことを裏付けるような調査ですね。
アンケートによる調査なので、本人の認識や、正しく答えてくれたかにも左右されます。
ーー「マスクなしでの会話」が高まっていないのも不思議です。
これは研究デザインにも限界があって、そもそも新型コロナ陽性者と陰性者を比べている研究です。陰性者も発熱外来を受診しているわけですから、他の感染症にかかっている可能性がある人です。
コロナに対してマスクが感染予防効果があったとしても、他の感染症にもマスクの効果があったならば、両方を比べた時に、差が出なくなる可能性があります。この研究デザインの限界を補うために、別の比較対象となるデータを集めているところです。
お酒のある3人以上の会食のリスクは4.94倍
ーー次に、過去2週間で、3人以上での会食をしたかどうか、お酒のある会食だったかも聞いていますね。
3人以上の会食を2回以上した人の感染リスクは2.84倍で統計的に意味のある差が出ています。ただしこれも、年齢や性別などを調整すると2.49倍になり、有意差は出なくなります。
さらにこの「会食2回以上」をお酒があったかなかったかで分けると、お酒のない会食での感染はゼロでした。
一方、お酒のある会食に2回以上参加した人の感染リスクは5.89倍、年齢や性別などを調整しても4.94倍で、いずれも統計的に意味のある差が出ます。
ーーお酒のある会食だとどうしてリスクが高くなると考えられますか?
これまでの観察や聞き取りの知見から言えるのは、やはりお酒が入ることによって会食の場で声が大きくなったり、マスクもはずしがちになったりします。また酒を伴う会食では、密な環境に長時間滞在しがちになる。
クラスター対策の知見からも、そうなりがちなのは間違いないです。
ーーやはり酒の入る会食は危ないよ、ということになるのでしょうか?
ただ、ここは慎重に言いたいのですが、あくまで質問調査なので、正確に答えてくれたかを割り引いて考えなければいけないことが注意点として一つあります。
もう一つ、この調査対象期間には、東京ではまん延防止等重点措置や緊急事態宣言も出ていました。そのような時期に、お酒のある会食に2回以上行くような人たちは、その前後に、カラオケに行ったり、ライブに行ったり、スポーツ観戦に行ったり、様々なリスクのある行動をとっている可能性があります。
確かにデータとしてみると、お酒のある会食に2週間で2回以上参加していると感染リスクが高いのは事実です。しかしそれをもって、「お酒のある会食が原因でコロナに感染した」と言うには飛躍があります。
正確に言えば、「お酒のある会食に2回以上参加し、それに伴うハイリスクな一連の行動をとると、コロナにかかりやすい」とは言えると思います。
酒のある会食は飲食店だけではない 一人飲み・サシ飲みのリスクは不明
ーーこの調査を根拠に、飲食店で酒を出さない方がいいと言えますか?
酒のある会食は飲食店だけではありません。自宅での会食もありますね。場所がお店であるかどうかは関係ないです。
ーー今回は3人以上の会食について聞いており、サシ飲みや一人で飲む行動については聞いていませんね。
そうです。
ーー酒の有無は聞いていないですが、一人での外食2回以上はほとんどリスクが上がっていません。私のような酒飲みは、会話もしないしリスクも低いだろうから一人飲みまで禁止することはないじゃないかと思うのですが、科学的にはどう思われますか?
「一人飲みなら安全ですよ」、とは言い切れませんが、間違いなく複数で飲むより相対的なリスクは低いでしょうね。一人で食事をする時のお酒の影響は今回調べていないのでわからないですが、例えば一人でラーメンを食べて帰ること自体はどう考えてもリスクは少ない。
ーーサシ飲みや一人飲みについても質問していただきたいですね。
今回のパイロットスタディでは聞いていませんが、確かに将来的に重要でしょうからぜひ。
テレワーク、徹底すればリスクは下がるが、中途半端は意味なし
ーーテレワークの感染リスク低減についても調べていますね。
仕事をしている人だけでなく、学生も対象にし、学生の場合はオンライン授業ですね。
テレワークを全くやっていない人に比べて、75%程度から100%程度行っている人は、統計学的な差はないものの感染リスクは0.47倍、年齢・性別、基礎疾患を調整すると、0.33倍になりました。
テレワークを徹底すれば、感染リスクは下がることが示唆されました。
ーーしかし、半分以下ぐらいの中途半端なテレワークだと逆にリスクが上がる傾向が見られます。たまに会社や学校に行くと、ご飯でも食べながらたくさんしゃべってしまうなどの影響ですかね。
このデータからみるとそんな傾向が見えますね。なぜ中途半端なテレワークでリスクが上がってしまうのかはよくわかりません。
会食だけ、お酒だけが感染リスクを高めるのではない
ーーこの研究結果から、一般の人に注意喚起できることは何でしょう。飲食店に酒を出させないことを正当化するために使われそうな気がします。
繰り返しますが、店に限らず、自宅でも3人以上で会食し、しかも酒があればリスクは上がる可能性があるのです。
いずれにせよ、普段会わないような人3人以上で会食すると、感染のリスクは高くなりがちです。さらにお酒が入るような席に参加していると感染リスクは高まる傾向にある。
一方で、特に緊急事態宣言でこのような行動をとっていた人は、その前後でリスクの高い行動をとっていて、そこで感染している可能性があります。
会食だけ、お酒だけがリスクだと言い切るには、時期尚早です。
いずれにせよ、こうしたハイリスクな行動を取ればとるほど間違いなくコロナに感染する危険性は高まります。
私たち研究チームとしては、個々人はそのような行動をとるのはできるだけ控えましょうとお伝えしたいところです。
「だからお店を閉めろ」「だから酒を出すな」とこの研究から主張するのは、明らかに飛躍しています。
その行動を止めたことによって感染リスクが下がる、ということを確認したわけではないからです。
我々がやった観察研究ではそこまでの結論を導くことはできません。
そこは研究者として強調しておきたいところです。対策の効果についてものをいうためには、因果関係を確認するための別の研究デザインが必要です。
酒類を飲食店で出さない 科学的に妥当な措置か?
ーー東京ではまん延防止等重点措置から緊急事態宣言に切り替わりますが、変化する対策は飲食店で酒を出すかどうかぐらいです。西村康稔経済再生相は、酒販店に飲食店に酒類を販売しないように要請するだけでなく、金融機関にも飲食店に酒を出さないよう働きかけをしてもらうと会見で方針を示しました(※その後、方針を撤回)。感染対策として科学的に妥当な対策でしょうか?
ものすごく強い対策ですよね。少なくとも今回の結果だけからその妥当性や期待される効果について言うことはできません。
私たちがまだパイロット調査の段階にもかかわらず、このタイミングで研究結果を出したのは、市民の皆さんにこうしたリスク行動を避けてくださいというメッセージになることを期待しているからです。
東京の感染者数が急増しているときに、調査が完了するまで結果の公表を待っていると、適切なタイミングを逸してしまうかもしれません。
一方で、政策決定をする人が、店の休業やお酒を出すことを止める根拠として使うことには戸惑いがあるのが正直なところです。なぜならば、そこには大きな飛躍があるからです。
私たちのメッセージとしてはこれまで言ってきた「3密や5つの場面を避けましょう」からなんら変わりはないのです。追加の科学的根拠として活用していただきたいです。
(続く)
【鈴木基(すずき・もとい)】国立感染症研究所感染症疫学センター長
1996年、東北大学医学部卒業。国境なき医師団、長崎大学ベトナム拠点プロジェクト、長崎大学熱帯医学研究所准教授などを経て、2019年4月から現職。
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