……「マイク・ホンダ語る」と新聞に載っていたので胸を躍らせ不安半分*1で録画したら……たまたまイベントで見かけて参向したインタビューを番組最後近くに五分間だけって……落胆を通りこして笑ってしまった。検索してみるとネットの番組表でも「マイク・ホンダ語る」という内容紹介がされている様子。半分本気でJAROに電話したくなった。準備したものではなかったためか、質問や回答に目新しい視点がない。
幸いにも、番組全体は興味深い内容だったが。
番組の主要な視点は、境界線上にいたがため、日本人米国人の双方から敵視され、距離を取られてきた日系人の歴史。
登場する日系人の多くが米国への忠誠を口にする。世代を経たことはもちろん、移民国家の米国には他民族を受け入れやすい社会機構があったのだろうし、米国社会に溶け込むための同調圧力もあっただろう。ホンダ議員は日本文化への愛と米国への忠誠を語り、両方が自己を形成しており片方でも欠けてはならないという。あくまで日系人は米国人なのだ。
現在の日系人は仲間内で固まるのではなく、より大きなアジア系米国人としての集団を目指しつつある。番組によると、韓国や中国の経済発展にともない移民が多く米国へ来て、アジア系米国人の比率で日系人は6位にまで下がっているという。これも、日系人の意識があくまで米国人の少数派であり、他の似通った少数派と連携しようとしていると考えれば理解しやすい。
なお、日系人の意識が日本から離れた理由は、日本側にも大いにあることは注意しておかなければならない。
米国進出時の日本企業に日系人が就職差別された歴史があり、現在では他のアジア諸国の成長に対抗するため日系人を取り込もうと日本経済界が動いている姿を見せられると、失望され距離を取られることもしかたないと思える。日本に招かれた日系人が、会合において日本企業側に女性や他民族が見当たらないことを指摘する場面は辛辣だ。
最もひどい事例として、ダニエル・イノウエ上院議員*2の経験談が胸に刺さった。
イノウエ議員は、1959年に連邦議会初の日系人議員となって来日。アメリカ大使として日系人を東京派遣するよう日系人が希望していると、岸信介首相に告げたという。すると、「とても真剣な面持ち」で見つめながら「残念ながら現状ではそれは上手くいくとは思いません」と、すげなく断られたそうだ。
理由を説明する岸首相についてイノウエ議員が行った証言は、驚くべきものだった。
将軍の時代そして明治時代から、外務担当者は伝統的に貴族の出の人達です。現在でも閣僚になるような人達の家系をたどってみると、その多くが裕福な家族だったり、侍だったりなど、名士の出であることがわかります。しかし日本からアメリカ本土やハワイなどに移民した人達のほとんどは、日本では経済的脱落者でした。
イノウエ議員は「もし日本で成功をおさめ、家族を養うことができている人だったならどうでしょう」とたずねたらしい。
対する岸首相の返答はこうだ。
よほどの冒険家で外へ飛び出したかったという人でないかぎり、日本を離れることはなかったはずです
どのような顔をすればいいのかわからない。ただ無闇と恥ずかしい。そして岸首相の家系に生まれ育った人間が少しばかり哀れと思う。
ちなみにイノウエ議員は、ホンダ議員が出した従軍慰安婦謝罪決議案に対し、採択を阻止しようと声明を出したことで一部に知られている。しかしイノウエ議員は過去の謝罪で充分という主張をしていたのであって、従軍慰安婦制度自体は「決して正当化できない」と同時に指摘していた*3。結局、従軍慰安婦制度を正当化する歴史修正主義者達によって過去の謝罪は無効化されてしまい、決議案が採択された。
1959年と同じように、イノウエ議員は日本の政治へ期待して、裏切られたのだ。くしくも、同じ「名士」の家系から首相になった祖父と孫、二度にわたって……
そうして日本の内閣は今日もまた、「名士」の家系で占められている。