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【日間入り!お礼とランキングのコツ書いてます】追放聖女は元婚約者の結婚式に招待されました

作者:大公望

日刊ランキングに入りました!ありがとうございます。

記念に、自分なりの小説家になろうのランキング攻略法をまとめました!


まず、ジャンルは異世界恋愛が圧倒的に有利です。ランキングのトップに表示されているからです。

小説の形式は短編の方が有利です。内容がまとまっているため、評価ポイントを入れてもらいやすいです。


ランキングに乗りたいなら異世界恋愛を書く。

異世界恋愛の短編バンザイ! これが小説家になろうの攻略法です。

そうしてランキングを稼ぎポイントを稼げば、書籍化も夢じゃないはずです。

現に現にこうして、なろうヒエラルキー底辺スレスレな自分がランキングに入れました!


ポイントさえあれば書籍化はできる。自分はこれが真理だと思っています。


たとえば、大手ゲーム会社のスクエアエニックスをご存じでしょうか?

スクエニはSQEXという書籍化レーベルを持っているのですが

なんとこのSQEXからは、高額RMTを行った作家の作品が書籍化しているのです。


RMTとはリアルマネートレードのことであり、ゲームのデータをお金で売り買いする行為です。

法律違反でこそないものの、

ゲーム会社の利益を損なうため、ほとんどのゲーム会社においては禁じられた行為です。


このRMTを何回も、しかも数十万円という高額、琴子さんという作家は行っていました。

作家アカウントに記載していたメールアドレスと同じものでRMTサイトでの取引完了記録が見つかったからです。


この琴子さんの作品をスクエニが書籍化しているということは。

それすなわち、なろうでポイントさえ取れていれば、

出版元の会社が禁じている行為を行っていても問題なく書籍化は可能という事です。

ポイント至上主義ですね。


また少しズレますがこんな例もあります。

カクヨム掲載作品、小野はるかの「後宮の検屍女官」は

第六回角川キャラクター小説大賞を受賞し角川文庫から書籍化しています。


しかしこの作品は、乱歩賞を受賞した作家が祥伝社で刊行している「宋の検屍官」との類似が指摘され、現在カクヨム上では非公開になっています。

「後宮の検屍女官」は4話から構成される短編連作形式ですが、

このうちの半分2話で使用されているトリックや細かな設定が

なぜだか「宋の検屍官」とそっくりなんです。不思議ですね。


このようにトラブル発生中の「後宮の検屍女官」ですが

角川は絶賛応援中で、現在進行形で宣伝をガンガン行っています。

つまり、過去の作品とそっくりさんな内容でも

角川は問題ないとジャッジしてプッシュしてイケイケにしてくれるんですよ。


これからわかることは

角川の作品は他社作品とそっくりでも問題なし。

むしろそっくりさんな作品を書くことを推奨しているのかもしれません。

ついでに言えば、角川の人気作品のそっくりさんを執筆しても

角川はにこにこと受け入れてくれるに違いないと推察できたり?


さて。それではそろそろ、なろう攻略法のむずびの言葉を書きますね。


人気作品は面白いから人気があるんです。ポイントも当然稼ぎやすいです。

つまり、人気作品のそっくりさんを書いて

異世界恋愛の短編で投稿すれば、書籍化までの早道抜け道王道なんですよ。


皆さんも頑張って、なろうのランキング上位を目指しましょう!

小説家に一緒になろうよ!

自分からは以上です!



「アーウィン王太子殿下の結婚式への招待状、ですか?」

「はい。セレスティア様宛に届いております」


 侍女の差し出した招待状を、セレスティアは眉を寄せつつ受け取った。

 セレスティアはルーウェル公爵家の長女だ。

 優れた血筋と高い魔力を見込まれ、王太子であるアーウィンとの婚約が結ばれていた。


「元婚約者の私に、結婚式の招待状を送ってくるなんて、何を考えているのかしら?」


 セレスティアは一年半ほど前、アーウィンから一方的に婚約を破棄されている。

 招待状を眺めつつ、その時のことをセレスティアは脳内に思い出した。





「セレスティア! おまえとの婚約は破棄だっ!」


 背後からの叫び声に、セレスティアは足を止め振り返った。

 怒気を露にしたアーウィンと、寄り添うように立つ愛らしい顔立ちの少女。子爵令嬢のミミリアだ。

 ミミリアはセレスティアと目が合うと、わざとらしく体を震わせ怯えた表情を浮かべた。


「アーウィン殿下、いきなり何をおっしゃられるのですか?」

「とぼけるな! おまえはミミリアのことを、執拗に苛めていただろうが!」

「苛めてなどいませんわ。どこからそのような事実無根の話が出てきたのですか?」


 一年ほど前から、ミミリアがアーウィンに近づいているのは知っていた。

 婚約者のいる男性に近づきすぎない方が良いと、セレスティアはかつて忠告を行っている。

 あくまで常識的な範囲の忠告であり、苛めと呼ばれるような事柄は心当たりがないのである。


「私はここ数か月、聖女としての務めを果たすため神殿にこもりがちでした。とてもではありませんが、ミミリアに構っている時間はありませんわ」

「言い訳をするな! ミミリアを虐めるためだけに、神殿を抜け出していたんだろうが!」


 セレスティアの主張を、アーウィンはまともに取り合わず切り捨ててしまう。


「私が虐めを行っていたという証拠はあるのですか?」

「ミミリアの涙が、何よりの証拠に決まっている! 子爵令嬢であるミミリアが、公爵令嬢であるおまえに虐げられ、どれほど怖い思いをしたかわかっているのか⁉」


 ふるふると震えるミミリアの肩を、アーウィンがそっと抱き寄せる。

 仲睦まじい恋人同士のような姿に、セレスティアの胸の内が冷たくなっていく。

 ミミリアは瞳に涙を浮かべているが視線が合った一瞬、唇がにぃと笑みに歪んでいた。


「証拠もなく目撃者もいないのに、ミミリアの言葉のみを信じられるのですか?」

「ふん。おまえに動機ならあるだろう? ミミリアはとても強い光の魔力を持っている。おまえは聖女の肩書を、ミミリアに奪われると恐怖し嫉妬していたに違いない」


 アーウィンが鼻を鳴らしあざ笑った。


「だが残念だったな! おまえの悪事などお見通しだ!おまえとの婚約を破棄し、真の聖女であるミミリアを俺の婚約者に指名する!」

「殿下、いけません。この婚約は国王陛下が結ばれたもので――――」

「うるさい黙れ。これ以上ミミリアを怯えさせ罪を重ねるな。さっさと俺の目の前から消え、この国から出ていけ!」

「……」


 思いもよらない国外追放宣言に、セレスティアは言葉を失ってしまった。

 狼狽によるものではなく、呆れと驚きによるものだ。

 セレスティアは聖女として、何年もこの国を守っていた。

 百歩譲って婚約破棄はまだわかるとしても、国外追放などありえないことだ。


「……婚約破棄と国外追放について、国王陛下は承知されているのですか?」

「承知されたも同然だ。おまえは王族の命令に逆らうのか?」

「……わかりましたわ」


 セレスティアは一つため息をついた。

 国王の真意を探るよう配下に指示を出すためにも、一度家に帰る必要がある。

 これ以上この場に居座る意味は存在しなくなった。


「この場はお暇させていただきますね」

「去るのはこの場だけではない。さっさとこの国から出ていけ。明日には国外へと出発しろ」

「無茶をおっしゃらないでください」


 国外追放が避けられないにせよ、聖女の仕事の引継ぎを行う必要がある。

 聖女の主な役割は、神殿にある結界術式の要へと光属性の魔力を注ぐことだ。

 結界が維持されているおかげで、王都は魔物の侵入を免れていた。


「ミミリアが次の聖女になるなら、きちんと結界術式を扱えるようになるまで、修練を重ねなければいけません。その間の結界の維持はどうなさるおつもりですか?」

「魔石を使えばいいだろうが」

「それでは、魔石を購入するための予算が膨れあがってしまいます」


 魔力を秘めた石、魔石。

 加工を施せば、魔術の術式を起動する動力源とすることも可能だ。

 ただし、魔力を持つ人間が起動するよりずっと効率が悪いため、大量の魔石が必要だ。


 魔石の中でも、光属性の魔力を秘めたものは希少で高価になっている。

 王都全体を守る結界に魔石を使い続ければ、国庫も苦しくなってしまうはずだ。


「すぐにミミリアが結界を張れるようになるから問題ない。おまえだって1,2か月で結界を張れるようになったのだろう? ミミリアならもっと早く、結界を張れるようになるはずだ」

「そのような希望的観測では国庫が――――」

「くどい! 黙れと言ったのが聞こえないのか⁉」


 取り付く島もない態度のアーウィンに、セレスティアは嘆息してしまった。

 これ以上何を言っても、頭に血がのぼったアーウィンには逆効果になりそうだ。


(仕方ありません。幸い、しばらくは魔物の数も減っているでしょうし、結界を張り直す頻度は少なくて済むはずですものね)


 魔物の発生数には、十数年ごとの周期があるというのが定説だ。

 現にここ数か月、魔物はとても数が多かった。

 頻繁に結界が破られかけ、そのたびにセレスティアが張り直していたため、神殿にこもりがちになっていたのだ。


(私が聖女として忙しくしている間に、アーウィン殿下の心も離れて行ってしまったのよね)


 元々、アーウィンとセレスティアの関係はそう悪いものではなかったのだ。

 聖女の任務で多忙になり交流が減り、その隙を狙うようにミミリアが接近してきた。


 アーウィンの裏切りは腹立たしいが、セレスティアの努力の甲斐あり、魔物発生のピークは無事すぎている。

 これから数年は比較的、魔物の数は少なくなるはず。

 セレスティアがいなくなっても、結界はなんとかなるのかもしれない。

 なによりセレスティア自身、自らを邪険にしてくるアーウィンのために、これ以上心を砕き忠告する気は無くなっていた。


 セレスティアが公爵家が王都に構えた屋敷に帰ると、母親が目を吊り上げ待っていた。

 耳の速い母親は、さっそく婚約破棄を聞きつけたようだ


「ちょっとあなた、どういうことよっ! 婚約破棄だなんて、わが家に恥をかかせるつもりなの⁉」

「お姉様酷い! 私達まで馬鹿にされちゃうじゃない!」


 ヒステリックに叫ぶ、セレスティアの母親と妹。

 母親は妹のみを可愛がり、セレスティアにはそっけなくしていた。

 セレスティアの容姿が父方の祖母、母親にとっての姑に似ているため、かわいいと思えないらしい。

 今日も妹を制止することもなく、一緒になってセレスティアを罵倒していた。


「おまえはわが公爵家の恥よ! 二度と顔を見せないでちょうだい!!」

「……わかりましたわ」


 感情的な母親と甘やかされた妹。

 二人に何を言っても無駄だと悟っているセレスティアは、無表情で頷いたのだった。




 それから一年半ほどが過ぎ。

 セレスティアは父親の伝手を辿って、隣国のビルフルツ帝国へと身を寄せていた。

 聖女の座を奪われ追放されたとはいえ、セレスティアの光の魔力は健在だ。

 帝国上層部にも好意的に受け入れられ、穏やかに日々を過ごしていた。


 そんなところに、元婚約者のアーウィンからの結婚招待状である。

 セレスティアとしては、寝耳に水としか言えない状況だった。


「『真実の愛の結実、私たちの愛の結晶を祝うため結婚式に参列しろ』ね……」


 招待状の文面を、セレスティアは苦笑しつつ読み上げた。

 どうすべきかと考えていると、思いがけない来客がやってくる。


「お姉さま、本当に申し訳ありませんでした」


 父をひきつれやってきた、頭を下げる妹。

 高慢な雰囲気は影を潜め、ひどく憔悴した様子だった。


「いきなりどういうこと? 何を謝罪しているの?」

「……お姉さまのありがたさに気が付いたんです」


 唇をかみ、妹が説明と懇願を始めた。


 妹はわがままな性格だが、容姿が美しいこともあり社交界では人気ものだった。

 しかしセレスティアの国外追放後は、潮が引くように周りの人間がいなくなっていったらしい。


 それは当然の帰結だ。

 妹に群がっていた人間のほとんどは、公爵家やセレスティアと縁を持つことが目的だった。

 なのに、妹はセレスティアの国外追放を庇うことなく、あっさりと見捨てセレスティアを罵っている。

 そんな妹の周りから、人が逃げていくのは当たり前のことだった。


「お姉さまお願いです。早く国に戻ってきて、私との関係は良好だと周りに言ってやってください!」

「私に嘘をつけというの?」

「かわいい妹のために、それくらいしてくれて――――きゃっ⁉」


 乾いた音が鳴った。

 妹の背後にいた父親が、頬を張り飛ばしていた。


「いい加減にしろ。セレスティアに謝りたいというから連れてきてやったのに、おまえは何を言っている?」

「うっ……」


 瞳に涙をため、えぐえぐと泣き出してしまう妹。

 父親はため息をつくと、セレスティアへと頭を下げた。


「私からも改めて謝らせてくれ。父親でありながら、おまえを守れなくてすまなかったな」


 父親は公爵家当主として多忙で家を空けていることが多く、婚約破棄の際も領地の屋敷に詰めていた。

 勤勉で善良な人間であり、セレスティアのことも可愛がっていたが、入り婿ということもあり母親の横暴を止めきれなかったのだ


「お父様、頭を上げてくださいませ。私、今の生活も嫌いじゃありませんわ。帝国への伝手を用意してくれたお父様には、感謝していますもの」


 強がりではなく、セレスティアは帝国での暮らしに満足していた。

 親しい友人や大切な相手もでき、楽しく毎日を過ごしていたところだ。


「そうか。おまえが楽しくやれていたならよかったが……。アーウィン殿下の結婚式はどうする?」


 結婚式にセレスティアが招待されていることを、父親も知っているようだ。

 気遣うように、娘のセレスティアを見つめている。


「アーウィン殿下はあれでも王太子だ。断ると角が立つと思い躊躇しているなら、私も協力しようか?」

「いえ、大丈夫ですわ。私、結婚式には参加しようと思いますの」

「……なんだって?」


 父親の戸惑いも当然だ。

 セレスティアは考えを説明していった。


「一度王国へ向かおうと考えていたところです。ちょうどいいですから、結婚式にも出席しようと思いますわ」





 王国の結婚式は、二つの部で構成されている。

 まず最初に、新郎新婦が両親に見守られながら、教会で結婚の誓いを交わすことになる。

 アーウィンの母親は既に亡く、国王も病で臥せっているため、参加するのは主役二人とミミリアの両親だけだ。


 誓いが終わった後は、親族や国内外よりの賓客が参加する披露宴が開催される。

 セレスティアはテーブルに座り、周りの様子を観察していた。

 出席者たちはどこか白けた様子で、あまり機嫌が良くなさそうだ。

 ひそひそと暗い顔で、知人と囁きかわす人間も多いようだった。


「今日はみんな、私と殿下の結婚式に参列してくれてありがとうございます!」


 入場してきたミミリアは、満面の笑顔を浮かべていた。

 身にまとっているのは、これでもかとレースと装飾が盛られた、極上の白絹で作られたドレスだ。

 代々の王太子妃がまとうドレスを拒否し、新たに仕立てたものらしい。

 用いられている素材こそ極上だが、あまりにも飾りが多いため、やかましく下品に見えてしまっていた。


 新婦のドレスを見、招待客たちが眉をひそめていた。

 問題はデザインの品の無さだけではないのだ。


 ミミリアはいまだ結界を張れていない。

 魔力量こそセレスティアより高かったが、魔力を操作する技術は、比べるまでもなく大きく劣っていた。


 セレスティアの魔力操作のセンスは、天才といっていい領域にあった。

 そんなセレスティアでさえ、結界を満足に張れるようになるまで一月以上かかったのだ。

 ミミリアでは一年たった今でも、結界を張ることが不可能だった。


 魔物が少なくなったとはいえ、数か月に一度は結界の張り直しが必要だ。

 そのたびに魔石を大量に購入し、国庫には大きな負担がかかっている。

 にもかかわらず、新しく聖女となったミミリアが贅をこらしたウエディングドレスを着ていたため、招待客の貴族たちの視線が冷たくなっていた。


 冷え込む会場に、花婿のアーウィンも焦りを浮かべている。

 幸せなのは花嫁一人という、寒々しい披露宴が進んでいった。


 王国の披露宴は、主役二人がグラスを持ち会場を回り、招待客たちと乾杯し祝いの言葉を受け取る形だ。

 セレスティアの座るテーブルにも、やがて二人がやってきた。


「アーウィン殿下、ご結婚おめでとうございます」


 セレスティアは礼を失さないよう笑顔で、しかし抑揚のない声を紡いだ。

 乾いた祝福の言葉に、アーウィンが頬をひきつらせる。


「あ、あぁ。礼を言おうセレスティア。……おまえ、綺麗になっていないか?」

「ありがとうございます。そうかもしれませんね」


 誉め言葉を、セレスティアは否定しなかった。

 王国にいた頃は聖女としての務めに王太子妃になるための勉学と、毎日とても忙しかったのだ。

 見苦しくないよう、常に身だしなみは整えていたが、派手に着飾る時間的余裕はなかった。

 どうしても肌や髪は痛んでしまっていたし、容姿がくすんでしまっていたのは否定できない。


「帝国の方は、私にとてもよくしてくれていますわ。彼女らと一緒におしゃれも楽しんでいます」


 にっこりと笑うセレスティアに、周囲の男性の目が惹きつけられている。

 艶やかに流れ落ちる黒髪。仄かに香る甘い香水。肌は染み一つなく透き通る程に白かった。

 ドレスはシンプルだが上品なデザインで、セレスティアの美貌を引き立てている。

 ごてごてと装飾品をまとったミミリアと違い、センスの良い着こなしだった。

 新郎であるアーウィンもつかの間、セレスティアに見とれてしまっていた。


「殿下? どこを見てるんですか?」


 ミミリアは苛立ちを隠せないようだ。

 アーウィンを睨みつけている。


(猫を被るのはやめたのかしら?)


 冷静に観察するセレスティア。

 以前のミミリアは、いつもアーウィンへと笑顔を向けていた。

 はちみつをまぶした砂糖のような声で、アーウィンへと甘えていたのだ。


 それが今や、結婚し王太子妃の座が盤石になったためか、本性を表しているようだ。

 セレスティアへと、嗜虐心の滲む歪んだ笑みを向けてきた。


「婚約者もいないのに、ずいぶん着飾っているのね。空しくならないのかしら?」

「自分の好きな服で着飾るのは楽しいですわ」

「惨めなお一人様ね」


 一向にへこむ様子のないセレスティアに、ミミリアは苛立ちを募らせていく。


「寂しいあなたに、私たちの幸せをおすそ分けしてあげるわ。乾杯よ」


 差し出されたグラスに、セレスティアは自らのグラスを近づけたが。


「あっ、手が滑ったわ」


 空々しい言葉と共に、グラスの中身がセレスティアへとぶちまけられた。

 ドレスへとワインが飛び散り、赤い染みが広がっていく。


「偶然です。わざとなんかじぁないわ」


 笑みを浮かべセレスティアを見るミミリア。

 ドレスを台無しにし、満足できたようだ。

 セレスティアは染みに軽くハンカチを当てふくと、そのまま立ち上がった。


「こちらへの扱い、よくわかりましたわ。歓迎されざる客人は帰らせていただきますね。すぐに王国を出て帝国へ戻りたいと思います」


 言い切り出口へと歩き出したセレスティアを、アーウィンが咄嗟に呼び止めた。


「ま、待て! おまえにはまだ話がある!!」

「今更謝罪の言葉はいりませんわ」

「違うそんなことじゃない! なんでおまえに謝らなければいけないんだ?」


 セレスティアは目を細めた。

 婚約破棄の件も、ドレスを汚した件も、アーウィンは悪いとは思っていないようだ。


「おまえも国外追放の罰を受け、少しは反省しただろう? 俺は寛大だからな。おまえが謝るのならば、再びこの国に住むことを許してやっていい」

「お断りいたしますわ」


 上から目線の提案を、セレスティアはばっさりと切り捨てた。

 断られるとは思っていなかったのか、アーウィンが顔を歪めた。


「なぜだ? この俺が許してやると言っているんだぞ? おまえは聖女の仕事に熱中していただろう? またこの国の神殿で、働かせてやってもいいんだぞ」

「その必要はありませんわ。私、帝国の神殿で職を得ていますもの」


 希少な光属性の魔力の持ち主、しかも魔力操作の腕前は天才的だ。

 セレスティアは帝国の人々の歓迎を受け、いきいきと自らの才能を生かしていた。


(アーウィン殿下はどうせ、私の魔術が目当てでしょうからね)


 追放して初めて、セレスティアの担っていた事柄の大きさに気が付いたのだ。

 セレスティアの抜けた穴を埋めるため魔石を大量に購入し、王国の財政は悪化の一途を辿っている。

 アーウィンはなんとかしてセレスティアを王国に留め置き、再び利用しようといているのだ。


「それでは、帝国に戻らせていただきますね。失礼いたします」

「待て! 待ってくれ! 待遇が不満なら、俺の側妃にしてやってもいいぞ!」

「殿下ッ!?」


 アーウィンの提案に、ミミリアが怒声をあげた。

 愛らしい顔を歪め、アーウィンへと鬼の形相で迫っている。


「殿下何を言っているんですか⁉ 王妃は私だけにするって、そう約束してくれましたよね?」

「だ、だが……。セレスティアはこの国に必要だ」

「セレスティアセレスティアうるさいです!! 大切なのは私でしょう⁉ 私は殿下の子供を、未来の王太子を身ごもっているんですよ⁉」


 ミミリアの暴露に、会場が凍り付いた。

 出席者たち、特に高位貴族の既婚者たちは呆然と、妊娠を告げたミミリアを見つめている。


(……やっぱり、身ごもっていたのね)


 もしかしたら、とセレスティアも思っていたのだ。

 結婚式の招待状、わざわざミミリア本人が書いたと思わしき、幸せを自慢し見せつけるような文面。

 その中には、『真実の愛の結実、私たちの愛の結晶を祝うため結婚式に参列しろ』とあったのだ。


 『愛の結晶』とは、愛し合う二人の間に子供が出来た際多く用いられる表現だ。

 もしかしたら、と思っていたが当たっていたらしい。

 ミミリアのやたらごたごたとしたドレスには、膨らんできた腹を隠す意図もあったのかもしれない。


 王太子の子供を孕んだと告げるミミリアへと、高位貴族の既婚者たちは氷のような目を向けていた。


「ちょっと何よ⁉ 何よその目はっ⁉ ちょっと順番が逆になっちゃったけど、私のお腹にいるのは王族の血を引く子供よ⁉ 偉いのよ⁉ あなたたち敬いなさいよ!」


 喚き散らすミミリアへと、セレスティアは問いを向けた。


「お腹の子は、確かに殿下の子だと言うのですね?」

「疑うって言うの⁉ 不敬罪で訴えるわよ⁉」

「不敬なのはあなたの方よ」

「ひっ⁉」


 視線を鋭くし、セレスティアはミミリアを睨みつけた。

 笑みを消し氷のごとき無表情になったセレスティアに、ミミリアは圧倒されていた。


「あなたのお腹の子供が、アーウィン殿下の血を引いているわけがないわ」

「殿下の子よ! 愛し合ってから子供を授かったわ!!」

「愛し合ったのは、殿下とだけではないでしょう? でなければおかしいもの」

「何がおかしいっていうのよ?」

「今のアーウィン殿下には、子供を作る能力がないからですわ」

「……え?」


 動きを止め、体を強張らせるミミリア。

 隣ではアーウィンもまた、呆然と目を見開き固まっていた。


「俺に、子を作る能力がない、だと……?」

「アーウィン殿下もご存じなかったのですね。王族や高位の貴族の子女には、無暗に子を作り厄介ごとを起こさないよう、子を作る能力を封じる魔術がかけられているのですわ」


 とても高度な魔術であり、他国に真似されたりしないよう、詳しい術式は秘伝になっている。

 魔術による封印が解かれない限り、いくら体を重ねても、子供はできないようになっていた。


「魔術、だと……? そんなこと、聞いていないぞ……?」

「仕方がないことですわ。この魔術は結婚した後に両親から教えられることも多いのです。子供がしっかりとしていて、過ちを犯す心配がない場合は、もっと前に教えられることもありますが……」


 自制が出来ない者に、もしこの魔術の存在を教えてしまったら。

 子供が出来ないからと何人も恋人を作り体を重ね、恋愛がらみの厄介ごとを起こす可能性が高かった。

 婚約者であるセレスティアを蔑ろにしミミリアに入れ込んでいたアーウィンが、魔術について教えられているわけがなかった。


「私の言葉を疑うのでしたら、他の方にも聞いてみると良いですわ。高位貴族の既婚の方でしたら、魔術についてご存じのはずですもの」


 セレスティアの言葉に、既婚者の高位貴族達が頷いている。

 彼らはこの魔術の存在を知っていたからこそ、アーウィンの子供を孕んだとのたまうミミリアに、冷ややかな目を向けていたのだ。


「ミミリアっ!! どういうことだ⁉ 子ができたからとおまえに結婚をせかされたのに、全部嘘だったのか⁉」

「殿下待ってください誤解です!!」

「何が誤解だ⁉ 言え‼ その子供の父親は誰だっ⁉」

「……っ‼」


 言い逃れ出来ないと悟ったのか、ミミリアが踵を返し走り出した。


「無駄です。逃げられませんわ」

「ぎゃあっ⁉」


 飛び出してきた兵隊たちに、ミミリアが組み伏せられている。

 この場には国内外の貴人が揃っている。

 当然警備は厳重で、大量の守備兵が会場には控えていたのだ。


「離してっ‼ 離しなさいよ‼ 私は王妃なのよ⁉」


 抵抗を諦めないミミリア。

 ざわつく結婚式会場へと、一人の人間がやってきた。


「余がいない間に、ずいぶんと好き勝手にやっていたようだな?」

「父上っ⁉」


 アーウィンが驚愕と共に叫んだ。

 この国の頂点、国王のお出ましだった。


「父上は寝込まれていたはずでは⁉」

「仮病だ。もっとも、つい最近までは本当に臥せっていたがな」 


 国王は言うと、懐から小さな瓶を取り出した。


「毒だ。余に毒を盛っていた人間がいる。そのせいでここ二年ほどは意識が混濁し、寝台から起き上がれなかったようだ」


 ぎろりと、国王がミミリアを睥睨した。


「犯人は、そこな小娘を王妃へと押し上げ、外戚として権力を振るおうとしたものどもだ。余が健在な限り、セレスティアをアーウィンの婚約者から下ろすなどありえないからな」


 企みを暴かれ、ミミリアの顔が青を通り越し白へと変わっていく。

 招待客の何人かの顔色も、紙のように白くなっている。


「セレスティアとその父親の協力もあり、黒幕どもの絞り込みも終わっておる。容赦はせぬ。ひっとらえよ」

「はっ!!」


 国王が順に黒幕の名前を読み上げ指さし、兵隊たちが拘束していく。

 捕らえられた人間の中には侯爵家当主など、何人もの高位貴族がいた。

 抵抗する人間もいたが、逃げ出すことは叶わないようだ。


(決して逃がさないよう、計画を進めていたものね)


 セレスティアも、この捕り物劇には協力し一枚噛んでいた。


 婚約破棄を受けた直後から、国王との謁見が叶わないのを不自然に思っていたのだ。

 調べてみたところ、国王が臥せりきりになっていることが発覚。

 更に調査を進めたところ、国王の病は人為的なものであると判明したのだ。


 国王を思い政治を憂うセレスティアの父親は、ひそかに調査を継続していた。

 おかげで毒を盛っていた下手人を排除し、国王の健康を取り戻すことに成功。

 その後、国王には仮病で臥せってもらい、黒幕を一網打尽にする機会をうかがっていたのだ。


「これは一体、どういうことなんだ……?」


 王族でありながら、蚊帳の外だったアーウィンが呆然とした顔を晒していた。

 状況の変化についていけないのか、すがるようにセレスティアを見つめた。


「どうしてだ? なんでよりにもよって、俺の結婚式で悪事を暴き立てたんだ?」

「黒幕を全て捕らえきるには、今日をおいて他に無かったからですわ」


 厳重に守られた国王に毒を盛るため、何人もの高位貴族が関わっていた。

 一人を捕らえれば、その間に他の人間が逃げ出してしまうことになり。

 だからといって、同時に捕らえようとすれば兵力が分散され、逃亡を許してしまうかもしれない。


「結婚式、しかも王族のものともなれば、高位貴族の多くが参列することになります。結婚式を利用し捕り物を一度に行えば、逃げられる可能性は低くなりますわ」


 淡々と、セレスティアは説明を加えていった。


(もっとも、本当は結婚式の終了後、出入り口にて黒幕の方たちを留め、拘束するつもりでしたが……)


 不貞と托卵を暴露したミミリアに国王が激怒し、計画を早め騒動が大きくなってしまったのだ。

 アーウィンは愚かだが、それでも国王は息子を可愛がっていた。

 息子を騙し王家の血を乗っ取ろうとしたミミリアに、我慢することができなくなったようだ。


「……それでは、私は失礼いたしますね」


 結婚式はこれで中止だ。

 騒然とする会場を、セレスティアが後にしようとしたところで。


「待て! セレスティア待ってくれっ‼」

「アーウィン殿下……」


 顔を青くしたアーウィンが、セレスティアの前に立ちふさがっていた。


「おどきください。これ以上、私がこの場に留まる意味も義務もありませんわ」

「義務ならある‼ おまえは俺の婚約者だっ‼」

「っ⁉」


 信じられない言葉に、セレスティアは目まいを覚えてしまった。


「元・婚約者ですわ。今の私とアーウィン殿下は、ただの知人でしかありません」

「婚約破棄はなかったことにしてやる! 俺はミミリアに騙されていたんだ‼」

「だからといって私によりを戻す気持ちは、全くございませんわ」


 はっきりと拒絶し、背中を向け歩き出すセレスティア。

 諦めきれなかったのかアーウィンが手を伸ばし、肩を掴もうとした。


「そこまでにしておけ」

「っ⁉」


 アーウィンの腕を掴んだのは、背の高い青年だった。

 整えられた銀の髪に、とびぬけて美しい顔立ち。

 凛々しくも壮麗な衣装を、見事に着こなし佇んでいた。


「この、何をす、……。ナイトハルト殿下……?」


 怒鳴りつけようとしたアーウィンだったが、相手が誰であるか悟り固まってしまった。

 ナイトハルト・ビィ・ルクセリア。

 強大な版図を誇る帝国の、次代の皇帝と目される青年だった。


「セレスティアが嫌がっている。これ以上彼女に追いすがるのなら、婚約者である私が、相応の対応をさせてもらおう」

「なっ……⁉」


 まるで金魚のように、アーウィンが口を開閉させている。

 信じられないと言った様子で、セレスティアとナイトハルトを見ていた。


「セレスティアがナイトハルト殿下の婚約者に……?」

「そうですわ。まだ広く公表してはいませんでしたが、来年にでも式を挙げ、正式に結婚する予定ですわ」

「……」


 そんなの聞いていない。認めたくない、とばかりにアーウィンが歯ぎしりをした。

 しかしそんな彼も、それ以上ナイトハルトと対立することはできないようだ。


 帝国と王国の国力の差は優に数倍。

 ナイトハルトの不興を買えば自分や王国がどうなるか、嫌でも理解できているのだ。


「……セレスティア。お願いだ。戻って来てくれ」


 それでも、最後の希望とばかりにすがってくるアーウィンへ。


「お断りいたします」


 セレスティアは否と突き付けると、ナイトハルトと共に会場を後にしたのだった。



 結婚式の会場を出て、帰りの馬車に乗り込んだところで。

 セレスティアはナイトハルトへと口を開いた。


「先ほどは、故国の醜聞に巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」

「気にするな。これで本格的に、君との婚約を進めることができるからな」


 ナイトハルトは上機嫌そうにしている。

 セレスティアとの婚約が公になっていなかった理由。

 その一つに、セレスティアの婚約破棄の件があった。


 婚約破棄をされた女性は言われない非難を受け、次の婚約を結びにくくなるものだ。

 だからこそ、先の婚約破棄においてセレスティアの非は一切ないと証明する必要があった。


 結果的に、国王が毒を盛られた事件の調査にも発展し大事になってしまったが、これでセレスティアが、婚約破棄の件で非難を受けることは無いはずだ。


「嬉しいよ。ようやく君を、婚約者として紹介できるようになるんだ。知り合ってから、一年近くかかってしまったからな」


 セレスティアが帝国に来てしばらくして、知り合ったのがナイトハルトだった。

 優れた光属性の魔術の使い手であるセレスティアのことを、婚約し帝国に囲い込みたいらしかった。


「帝国にまだ知り合いの少ない頃から、ナイトハルト殿下にはよくしてもらいましたわ。受けたご恩を返せるよう、努力させていただきますね」

「そんな堅くならないでくれ。君を婚約者にと望んだのは魔術についてもあるが、一番は君自身を、私が欲しいと思ったからだよ」

「……」


 ナイトハルトの告白に、セレスティアの心臓が騒ぎだした。

 ときめきと、そしてそれと同じくらいの不安が、鼓動と共にこみあがってきた。


 こちらを好いてくれるナイトハルトの言葉は嬉しい。

 しかしセレスティアは長年婚約者だったアーウィンから裏切りを受けている。

 そのせいでまだ素直に、ナイトハルトの愛を信じきれないでいた。


「セレスティア、焦らないでくれ。婚約者になったのだから、これからゆっくりと、私の思いを感じて受け取ってほしいんだ」

「……はい」


 セレスティアは小さく答えた。


 ナイトハルトにも、皇太子としての打診計算はもちろんあるはずだが。

 それだけではないと、セレスティアへの思いも確かにあるのだと、そう信じてもいいのかもしれない。


 ようやく今日、かつての婚約破棄について一段落したのだ。

 これからは前を向いて、自分の幸せを求められるはずだ、と。

 ナイトハルトのぬくもりを感じながら、セレスティアは微笑んだのだった。




 ――――――その後。


 アーウィンは廃太子となり、離宮をあてがわれることになる。

 セレスティアへの未練を引きずっていたため、万が一にも彼女を害さないよう、軟禁同然の扱いになった。


 囚われたミミリアの腹の中の子は、国王に毒を盛っていた黒幕の高位貴族の一人が父親だと判明。

 王家乗っ取りを企てた重罪人だが、腹の子供に罪はないため、出産までは手厚く扱われることになる。

 子供は平民の孤児として育てられ、生涯実の両親にあうことは無かったと言う。



 そして一方。

 セレスティアはナイトハルトと結婚し、仲睦まじい夫婦として知られるようになる。

 英明な皇帝と希代の聖女として、優れた治世を敷くことになるのだった。

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