ようこそ人間讃歌の楽園へ   作:夏葉真冬

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彼はAクラスの女王と出会う。

 

 

 

「隣、よろしいでしょうか?」

 

「んっ?」

 

 5月初日から1週間経ったある日の昼休み。

 食堂で昼食を摂っていた柚椰はふと声をかけられた。

 顔を上げると、そこには片手に杖を持ち、もう片方の手でトレーを持っている銀髪の女子がいた。

 

「あぁ、いいよ。どうぞ」

 

 隣の席は空いており、別段断る理由もなかったため柚椰は快諾した。

 両手が塞がっているその女子に配慮して彼女が座れるように椅子を引いた。

 

「ありがとうございます」

 

 柚椰の紳士な行いに気を良くしたのか、少女は微笑んで礼を述べた。

 

「いつも昼食はここで召し上がっているのですか?」

 

「基本的にね。ここは学校の学食とは思えないほどレベル高いし」

 

「確かにそうですね。とても一学校の食堂とは思えません」

 

 少女はそう言うと、自身が頼んだ料理に手をつけ始めた。

 

「制服の綺麗さから察するに、同じ1年生かな?」

 

「はい。私、Aクラス所属の坂柳有栖と申します。以後お見知りおきを」

 

 少女は一旦箸を置くと、しっかりと柚椰の目を見て自己紹介をした。

 彼女に習い、柚椰も箸を置いてしっかりと目を合わせた。

 

「Dクラスの黛柚椰だ。どうぞ末永くよろしく」

 

「はい、よろしくおねがいします。黛君」

 

 互いに名前を名乗り終え、二人は再び食事を再開する。

 

「黛君はDクラスだったんですね」

 

「あぁ、たった1ヵ月で1000ポイント吐き出したイカれたクラスの所属だよ」

 

 そう言って柚椰は自虐するように笑った。

 彼の自虐に坂柳も可笑しそうに笑う。

 

「そのわりには随分と余裕そうだと見えますね。

 貴方は今、この食堂のメニューでも高い部類のスペシャル定食を食べている。

 よろしければ参考までに現在のプライベートポイントを教えていただけますか?」

 

「いいよ、はい」

 

 あっさり快諾した柚椰は、以前堀北にしたのと同じように端末を差し出した。

 躊躇い無く承諾されたことに少し驚きながらも坂柳は端末の画面を覗き込んだ。

 そこに表示されている柚椰のプライベートポイントの額に彼女は目を見開いた。

 

「驚きましたね...まさかこれほど多いとは思いませんでした。

 どのように増やしたのか教えていただいても?」

 

「賭け勝負やってる部活を手当たり次第荒らしていった。OK?」

 

「黛君は賭けにお強いのですね。それにしても...

 4月の段階でポイントを増やすなんて、まるでこれから減ることを知っていたようですね」

 

 坂柳はそう言って微笑んだ。

 その笑みは、暗に柚椰がそうであると確信しているぞと言っているようだ。

 そして柚椰もまた、彼女のその笑みを見て()()()()を確信した。

 

 

 

「なるほど...坂柳、君が()()()()()()()()ってことか」

 

「! ...驚きましたね、まさかそこまで見抜いてしまうとは」

 

「ポイントの減少具合で各クラスの体系は導き出せるだろう? 

 Aクラスはあまりにも消費量が少なかった。

 早々にシステムに気づいた人間が情報を武器に統率していると考えるのが妥当だ」

 

 淡々と説明をする柚椰に坂柳は一層楽しそうに笑みを深める。

 

「その口ぶりから察するに、黛君も早い段階から気づいていたということですか。

 けれど、残念ながら私はAクラスの完全な支配者ではありませんよ。

 Aクラスは少々込み入った事情がありまして」

 

「...派閥争いかな?」

 

「えぇ、その通り。

 Aクラスには私を筆頭とする派閥のほかにもう一つ、葛城という男子が持つ勢力が存在します。

 現在Aクラスは坂柳派と葛城派の勢力で二分されているというわけです」

 

「でも、ポイントの仕組みに気づいたのは君だけだったんだろう? 

 間抜けなボスを担ぎ上げてる勢力なんて潰そうと思えば潰せるはずだけど」

 

 オブラートに包まない柚椰の発言に坂柳は笑う。

 

「ふふっ、歯に衣着せぬ物言いは好きですよ。

 確かに仰る通り、葛城派を潰すことは容易です。

 きっかけさえあれば、いつでも彼を引き摺り下ろすことは可能です。

 ですが残念ながら今のところ、そのきっかけが存在しないことも事実。

 だからこそ今は静観するときと判断しています」

 

「なるほど...君、結構攻撃的な性格してるだろ?」

 

「おや、分かりますか?」

 

「要は好機さえあればいつでも首刎ねようとしてるってことじゃない。

 君が武闘派ということは、葛城は穏健派ってところか」

 

「本当に黛君は優秀ですね...

 もし貴方がAクラスだったら是非右腕として腕を振るっていただきたかった」

 

 坂柳は冗談めかしてそう言ったが、その目は至って本気だった。

 もし仮に同じクラスであったなら、迷うことなく柚椰を引き入れていた。

 この短い会話の中だけでも、彼が強力な武器になりうるということは十分理解したからだ。

 

「Dクラスの俺としては、Aクラスに坂柳みたいな奴がいることが心底恐ろしいね」

 

「どうしてですか?」

 

「君は学力は勿論、洞察力、そして支配するカリスマも備えている。

 杖を突いていることから察するに、君は激しい運動が出来ない。

 にも関わらずAクラスにいるということは、他のステータスが恐ろしく高いってことだ。

 遠くない内に、必ず君はAクラスを束ねる女王になる。

 そうなった場合、どのクラスよりも強いクラスになることは疑いようも無い。

 君が束ねたAクラスを蹴落とすことは一筋縄じゃいかなそうだ」

 

「ふふっ、不可能とは言わないのですね」

 

「生憎、こっちにはどうしてもAクラスに上がりたいって聞かないお姫様がいるからね」

 

「では、黛君はその人に付くと?」

 

「今のところは、ね」

 

 二人は互いに笑みを浮かべて見合う。

 相手の腹を探り合っているのだろうか。

 或いは互いに認め合っているのだろうか。

 

 

 

「では、私はそろそろ失礼します。よければ連絡先を交換していただいても?」

 

「いいよ」

 

 無事に連絡先を交換し終えると、坂柳は食堂を後にした。

 柚椰もまた、さっさと片づけを済ませると自分の教室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、皆が帰ろうとしていると平田が教卓の前に立った。

 

「皆、中間テストまで残り2週間を切った。

 そこで今日から放課後は参加者を募って勉強会を開こうと思うんだ」

 

 この一週間でクラスの意識は変わり、授業態度は大分改善された。

 しかしテストに向けた勉強に関しては未だ踏ん切りがついていない生徒も中にはいた。

 

「もし勉強を疎かにして赤点を取れば退学。それはどうしても避けたい。

 前に黛君が言ったように、テストの成績はクラスポイントにも良い影響を齎すはずだ。

 この前の小テストで点数が良かった人数人で対策を用意してみたんだ。

 不安がある人は参加して欲しい。

 今日の5時からこの教室で、テストまでの間は毎日2時間程度やるつもりだ。

 途中抜けても構わないよ。僕からは以上だ」

 

 平田が話し終えると、数人の赤点組がすぐに彼の元に向かった。

 他にもテストに不安を感じている生徒がゾロゾロと、とりわけ女子が多く参加の旨を表明した。

 しかし目下の不安要素である須藤、池、山内の三人は机から動こうとしない。

 池と山内に関しては迷っているようだが、須藤に関しては是が非でも行かないと言わんばかりにふんぞり返っている。

 勉強が嫌なのか、或いは単純に平田が気に食わないのか。

 とにかく3人は平田の勉強会に参加しようとはしない。

 柚椰はその様子にため息をつくと、スッと立ち上がり平田の元へ行った。

 

「ねぇ平田」

 

「なんだい? 黛君」

 

「気づいてるでしょ? あの3人、君の勉強会に参加する気ゼロだよ」

 

「そうだね...目下の不安要素である彼らには参加してほしいんだけど」

 

 柚椰の言うことは平田も分かっているのか眉を下げて困っている。

 

「平田君も黛君もいいよ、あんな人たち放っておこうよ!」

 

「そうだよ、あいつら退学してもいいってことでしょ?」

 

「むしろ退学してもらったほうが清々するっていうか」

 

 既に参加を表明している女子たちからは須藤ら3人を見捨てろと意見が出ている。

 しかし、彼女たちがそう言っても平田は諦めたくないのか、須藤たちをチラチラと伺っている。

 

「少し、提案がある」

 

「なにか良い案があるのかい?」

 

「堀北、綾小路、そして俺で別に勉強会を用意する。

 あいつらはそっちに参加させるってことでどうだろう?」

 

「堀北さんと綾小路君が? それに黛君もかい?」

 

「あぁ、あと櫛田も入れたい。櫛田が誘えば3人も動く可能性はある」

 

「確かに可能性はあるね。けど大丈夫かな...?」

 

 須藤たちを見ながら平田は不安そうにつぶやく。

 

「平田のとこに参加する女子は須藤たちと一緒に居たくなさそうだしね。

 下手に参加させたら須藤たちは勿論、女子たちからも不満が出そうだ」

 

 柚椰は平田の耳元でそう囁いた。

 

「! ...そうだね、じゃあ任せるよ」

 

「オッケー」

 

 平田から了承をもぎ取ると柚椰は踵を返して席に戻っていった。

 そして隣の席に座っている櫛田に今しがた平田と話し合った内容を伝えた。

 

「というわけだから櫛田から誘ってみてくれないかな? 

 女子に誘われれば嫌な気はしないと思うし」

 

「うんっ! 任せて! じゃあ誘ってくるねっ」

 

 櫛田は二つ返事で了承すると、さっそく須藤たちに声をかけに行った。

 次に柚椰は堀北と綾小路のところに行き、同じようなことを伝えた。

 

「随分と勝手に話を進めてくれたわね...」

 

 堀北は心底不機嫌そうだ。

 勝手に自分が勉強会を開くことになっていることにもそうだが、それ以上に櫛田が参加することに納得がいっていないようだ。

 

「苦肉の策だから許してよ。あいつらを説得する上で櫛田は最適解だ。

 堀北が誘ってあいつらが首を縦に振るっていう確証があるなら止めるけど?」

 

「......」

 

 痛いところを突かれたのか堀北は黙り込んだ。

 

「綾小路も、よく話してる池たちがこっちに来るなら平田のほうより参加しやすいだろ?」

 

「確かにそうだな。感謝する」

 

 綾小路は柚椰の提案に好意的のようだ。

 

「分かったわ、認めましょう。

 ただし、今度からは私にも相談すること。いいわね?」

 

「はいよ、じゃあ俺たちは先に図書室行ってようか」

 

 堀北からも何とか了承を得たことで、3人は図書室へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書室でしばらく待っていると櫛田が3人と、沖谷という男子を連れてやってきた。

 

「黛君、連れてきたよ~!」

 

「サンキュー、良くやってくれたぞ櫛田隊員!」

 

「ありがとうございます黛隊長!」

 

 柚椰のボケに櫛田は乗ってくれたようだ。

 その仲の良いやり取りに池と山内は歯軋りしている。

 堀北に関しては呆れているのか白い目を向けていた。

 

「そういや、沖谷も連れてきたんだな」

 

 柚椰は当初誘う予定の無かったはずの沖谷がここにいることに触れた。

 

「小テスト赤点ギリギリだったから心配で...

 平田君のグループはちょっと入りにくくて...」

 

 沖谷はおどおどしながらここに来た経緯を説明した。

 

「分かるッ! 分かるぞ沖谷ぃ~」

 

「いけ好かねぇ平田の勉強会になんて参加したくねぇよな~」

 

 池と山内は何を勘違いしているのか沖谷に仲間意識を感じているようだ。

 

「まぁ一緒にやるのは全然構わないぜ。堀北もいいよな?」

 

「そうね、ただしやるからには真面目にやってもらうわよ」

 

「う、うんっ」

 

 堀北に若干ビクビクしながらも沖谷は空いている席に座った。

 彼が座った席の隣に櫛田が座り、他の3人は別の席に座った。

 

「32点未満は赤っつったよな。ってことは32点じゃアウトだってことか?」

 

「未満だったらセーフだって。大丈夫かよ須藤」

 

 池でさえ須藤の学力が心配になったようだ。

 

「私が教える以上、ここに居る皆には最低50点は取ってもらうわ」

 

「げぇ、それってその分大変ってことだよな?」

 

「赤点さえ回避すればいいと考えて挑むのは危険よ。

 デッドラインを楽に越えることを目指してやらなければ困るのは貴方たちなのだから」

 

 赤点組の弱気な態度に対して堀北はそう戒めた。

 

「今度のテストで出る範囲はこちらでまとめてあるわ。

 残り2週間、徹底して取り組んでもらう。

 分からないことがあったら聞いてちょうだい」

 

「おい、最初の問題から分からねぇんだが...」

 

 須藤が堀北を睨みつけながらそう言った。

 彼が見ている問題を一同は覗き込んだ。

 そこには連立方程式の問題が載っており、所謂中学レベルの問題だった。

 

「少しは頭を使って考えてみろ。最初から諦めてたら前に進めないぞ」

 

 呆れながら綾小路がそう嗜めた。

 

「っていってもよ、俺は勉強はからっきしなんだ」

 

「うげ、俺も分かんね...」

 

「右に同じく」

 

「あはは...皆よく受かったよね」

 

 須藤たち3人のあまりに悲惨な現状に櫛田が苦笑いを浮かべている。

 沖谷に関しては遅いながらも無事に解いていた。

 

「つーか連立方程式ってなんだよ...」

 

「おっ! 須藤、それって哲学的だね!」

 

 須藤のボヤキに柚椰がカラカラと笑った。

 

「ダメだ、やめる。こんなことやってられっか」

 

 始めてまだ10分も経っていない中、須藤たちがリタイアを表明した。

 あまりに情けない姿に堀北の顔がみるみる厳しい顔になる。

 空気が悪くなったことを感じ取った櫛田がなんとかフォローすべく、須藤たちに噛み砕いて説明をした。

 しかし彼女の解説も、3人はまるで理解できないと言わんばかりに首を傾げていた。

 そしてその醜態についに堀北が限界を向かえた。

 

「貴方たちを否定するつもりはないけれど、あまりに無知、無能すぎるわ。

 こんな問題も解けなくて将来どうしていくのか、想像するだけでゾッとするわね」

 

「っせえな、お前には関係ねぇだろ」

 

 堀北の言い方が癪に障ったのか、須藤が机を叩いた。

 

「確かに私には関係ないことよ。貴方たちがどれだけ苦しもうと影響は無いから。

 ただ憐れんでいるだけ。今までずっとつらいことから逃げてきたんでしょうね」

 

「言いたいこと言いやがって。勉強なんざ将来何の役にも立たねぇんだよ」

 

「それは興味深い話だわ。根拠を知りたいわね」

 

「こんな問題解けなくても、俺は苦労したことなんざねぇ。

 教科書に噛り付いてるくらいならバスケでプロ目指したほうがよっぽど役に立つ」

 

「それは違うわね。こういった問題を解けることが生活にも変化を及ぼす。

 勉強していればもっと苦労しなかった可能性がある。

 バスケットにしても同じ道理ね。

 貴方は自分の都合の良いルールでバスケットに取り組んできたんじゃないかしら。

 本当に苦しい部分には勉強同様背を向けて逃げてきたんじゃない? 

 練習にも真摯に取り組んでいるようには思えない。

 何より、周囲の和を乱すような性格の貴方を私ならレギュラーにはしないわ」

 

「──っ!」

 

 我慢ならなかったのか須藤は堀北に詰め寄り胸倉を掴んだ。

 

「須藤君っ!」

 

 必死な声を上げ、櫛田が須藤の腕を掴んだ。

 堀北は須藤に対して眉一つ動かさず、冷たい目を向けていた。

 

「バスケットでプロを目指す? そんな幼稚な夢が簡単に叶うとでも思ってるのかしら。

 貴方のようにすぐ投げ出す人間は、絶対にプロになんてなれない。

 尤も、仮にプロになれたとしても納得のいく年収がもらえるとは思えない。

 そんな現実味の無い職業を志す時点で、貴方は愚か者よ」

 

「テメェ......!」

 

「今すぐ学校を辞めてもらえないかしら? 

 そしてバスケットのプロなんてくだらない夢は捨てて、バイトでもしながら惨めに暮らすことね」

 

「ハッ...上等だよ。やめてやるこんなもん。

 わざわざ部活を休んで来てやったのに、完全に時間の無駄だったぜ」

 

 須藤は堀北から手を離すと、さっさと鞄に教科書を詰め始めた。

 

「止めないのか?」

 

「んー、ありゃもうダメだろうな。完全に火点いちゃってるし」

 

 綾小路が隣でずっと黙っている柚椰に尋ねたが、彼は須藤の顔から最早説得は無理だと判断したようだ。

 そして須藤に次いで、池や山内もやる気をなくしたのか勉強道具を片付けて出て行こうとした。

 

「み、皆、本当にいいの...?」

 

「行こうぜ沖谷」

 

 迷っていた沖谷もまた、池につられて出て行った。

 図書室に残っているのは堀北、綾小路、柚椰、そして櫛田だけだった。

 その櫛田ももう限界のようだった。

 

 

 

 

「堀北さん、こんなんじゃ誰も一緒に勉強なんてしてくれないよ...」

 

「私が間違ってたわ。もし今回上手くいったとしても、あの人たちはすぐに同じような窮地に追い込まれる。

 そうなればこれの繰り返しよ。実に不毛で余計なことだと痛感したわ」

 

「どういうこと...?」

 

「足手まといは今のうちに切り捨てるべき、ということよ」

 

 堀北はもう須藤たちを救おうとは思っていないようだ。

 

「そんなのって...ねぇ、黛君も何か言ってよ」

 

「そうさな...こればっかりは須藤たちの気持ちの問題だからね。

 あいつらが本気でこの学校で生き抜いていくと決めない限りはなんとも」

 

「そんな...」

 

 櫛田は表情に影を落とし、鞄を持って立ち上がった。

 

「私はなんとかしてみる。こんなに早くお別れなんて嫌だよ」

 

「櫛田さん、本気でそう思っているの?」

 

 そう尋ねたのは堀北だった。

 

「いけないかな? 友達を見捨てたくないって思っちゃ」

 

「本心からそう言っているのなら構わないわ。

 でも、私には貴女が本気で彼らを救いたいと思っているようには見えない」

 

「何それ。意味分かんないよ...

 どうして堀北さんはそんなこと平気で言えちゃうの?」

 

 櫛田は悲しげに顔を伏せたが、すぐに顔を上げた。

 

「じゃあね、また明日」

 

 短く言葉を残し、櫛田も図書室を出て行った。

 

「二人ともご苦労だったわね。勉強会はこれで終了よ」

 

「そうみたいだな」

 

「あっという間だったね。まぁ、実際そうなんだけど」

 

 堀北からの言葉に綾小路と柚椰は答える。

 

「んじゃお先に俺は帰るね」

 

 柚椰は腰を上げると、勉強道具を鞄に仕舞った。

 

「帰るの?」

 

「ちょっと今回の功労者を労いにね。結果的に巻き込んじゃったの俺だから」

 

 柚椰は暗に櫛田のところに行くと言っているようだ。

 

「そう...好きにしたらいいわ」

 

 堀北は柚椰が櫛田のところに行くのが気に食わないのか若干不満気だ。

 

「じゃあ二人とも、また明日ね」

 

 片づけを済ませ、鞄を持つと柚椰は二人に別れを告げた。

 しかしドアの前で彼は一旦立ち止まった。

 

「あぁ、それと堀北」

 

「何かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

「人の夢に貴賎はないよ。

 Aクラスになるっていう君の夢だって、須藤たちにとっちゃ不可能な夢でしかない。

 人の夢を嗤う権利は誰にもない。それだけは覚えておくといい」

 

 

 

 

 

 

 

 そういい残し、柚椰は図書室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。
堀北の夢に、覚悟に敬意を持っているからこそ、
彼女が誰かの夢を嗤うことが許せなかった黛君でした。

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