[4a-47] END:A 脱出
キャサリンはずっと持っていた銀鞭を、そっとベッドの上、二人の間に置いた。
「ルネ、これは貴女が持っていたもの、よね?」
「うん。
ずっと、こっそり持ち歩いていたのだけど、この銀鞭には神秘の力が残っていたの。
わたしの作り出した異界に反発して、触れなくなってしまった……
きっと、あなたを外に出してくれると思ったわ」
「それで私を導いたのね」
ルネは手を伸ばさず、ただそれを見ていた。
ウィルフレッドは『感情察知』の力など持たないが、それでも、彼女が複雑な気持ちを抱いているとは分かる。悲しくて、愛おしいのだと。
「ディアナの声を聞いたわ、私」
「えっ……」
キャサリンの言葉に、ルネは弾かれたように顔を上げてキャサリンをまじまじと見る。
「これを手にしたら彼女と話すことができたわ。声はすぐに遠ざかってしまったけど」
ディアナ、なる人物の声はウィルフレッドも聞いた。
これはルネも全く把握していなかったし、予想もついていなかったようだ。
ルネの視線がキャサリンと銀鞭の間を彷徨った。
「教えて、ルネ。ディアナは……死んだの?」
「…………うん」
ルネは言い淀んだ。
しかし、キャサリンから目を逸らすことはしなかった。
それが自分の背負うべき業なのだとでも言うように。
「わたしが殺した。ベネディクトも、ヒューも……本当のイリスも」
キャサリンは末期の一息のように、長く細く息を吸った。
『どうして』とキャサリンは聞かなかった。
問うたからにはキャサリンもこの答えを予想していたのだろう。
「じゃあ、あの声はやっぱり……」
キャサリンは天を仰ぐ。
奇妙な異界に再現された、彼女の部屋の天井を。その先にあるだろう空を。
「きっと、みんな天国に居るのよ。
だからわたしには声が聞こえなかったんだわ。
わたしは邪神の徒になってしまったのだもの」
「ルネ」
それが救いであるかのように微笑んでルネは言う。
キャサリンはルネの肩をそっと掴んで向き合った。
「辛いなら辛そうな顔をなさい」
「そんなことをわたしに言うのは、あなたくらいね」
「ねえ、ルネ。今のあなたは本当に孤独なの?
自ら周囲を遠ざけているだけではないの?」
ルネは反射的に何か言おうとして、やめたようだった。
少し、気まずげだった。思い当たる節が山ほどあったということだろうか。
「……意地を、張っちゃったかな」
「でしょう」
「素直でいられるうちに、ちゃんと反省しとかなきゃ」
そして二人とも、ちょっと笑った。
「銀鞭はあなたが持っていて、キャサリン」
「これを?」
「今のわたしに、彼女を弔うことは許されないわ」
「……分かったわ。大切に預かっておく」
キャサリンは銀鞭をそっと取り上げて、折りたたみ、仕舞い込んだ。
その様をルネはずっと見ていた。銀鞭が見えなくなるまで。
ふと、窓の外が明るくなったような気がしてウィルフレッドはそちらを見た。
窓の外は相変わらずの夜空だけれど、その空に亀裂が入って、明かりが漏れている。
銀鞭の力で破られた世界をルネは修復したようだが、既に壊れかけているのか何なのか、その場しのぎでしかなかったようだ。
「そろそろお別れね。
わたしは、素直じゃないから……きっと次はこんな風にお話なんてできない。
気をつけて。次に遭ったときこそ、わたしはあなたを殺してしまうかも知れないから」
「させないわ」
キャサリンは胸に手を当てて決然と言った。
「させません。そんな悲しいことは、絶対に」
ルネは言葉を返さず、ただ頷く。
そしてそれから急に立ち上がって振り返り、ウィルフレッドの方を見たものだから、自分の席が無いような若干の居心地悪さを感じながらじっとしていたウィルフレッドは、びくりと竦み上がった。
「ウィルフレッド・ブライス。
……わたし、実はあなたに会ったことがあるのよ」
「うぇっ!?」
「あなたのお父さんのことも知ってる。尊敬に値する人だったと思うわ」
「や、その。なんて言えば良いか、うん。
父さんは……俺の誇りだ」
蚊帳の外だと思っていたウィルフレッドは、頭の中で思考が渋滞してしどろもどろになってしまった。
師匠には『敵からも味方からも称えられる武人こそ真のサムライである』と教わったが、こうなると驚くやら照れるやらだ。しかし、相手が国を落とした恐るべき魔物という立場では良いのか悪いのか。
だいたいノアキュリオ相手に一騒動起こした父をルネが知っていても不思議は無いが、何処でルネに会っていたのかウィルフレッド自信は見当がつかない。
「わたしが言う事でもないけど、キャサリンをよろしく。
……この子、てんで弱いのに昔から勢いと勇気だけは英雄級だから、目を離したら死ぬと思ってて」
「ルネ。あんまりな言い方じゃないの?」
「それは…………分かった」
ウィルフレッドは反論できなかった。
「じゃあね、また会いましょう」
ルネは部屋の扉を開けて、そこから二人に手を振る。
「……ルネ。あなたが次に何をしようとしているか、聞いても良いかしら?」
「あなたが思ってる通りのことを、あなたの予想より酷いやり方で。
今はそのための準備中」
そしてルネが部屋から一歩出ると、その姿は掻き消え、二人が居たはずの部屋すら消えた。
突然、眩い南国の陽光が照りつけて、温かな暖炉の光に慣れていたウィルフレッドは目が眩みそうになる。
出来損ないのサウナみたいに、湿気を帯びた生ぬるい空気が辺りを満たしていた。
二人は無人の市街の大通りに立っていた。
命の気配が消え去った街のど真ん中に立っていた。
そこは懐かしき山間の北国の街並みでなく、涼しげな木造建築が立ち並ぶファライーヤ共和国のもの。
辺りは荒らされていた。暴動の跡みたいな有様だった。
商店の店先などは商品が散乱し、通りに面した建物は扉が蹴破られたり窓硝子が割られている。そして明らかに数人分ごときでは足りない血痕が、そこかしこに。野外のものは雨で流れてしまったようだが、雨が降らなければ辺りはもっと赤かっただろう。豪雨で鎮火したようだが、焼け落ちた建物もあった。
これだけ酷い状況になっていて一つも死体が転がっていないのは逆に不気味だ。
耳が痛いほどに静かだったが、やがて、風を切る羽音が近づいてくる。
天を見ればヒポグリフに乗った共和国軍空行機兵の姿があった。
END:B 二人の世界
特定条件下でウィルフレッドが死亡する
END:C デッドエンド
『ルネ』を助け出さずに脱出する
END:D 正義執行
“怨獄の薔薇姫”を倒す(超ムリゲー)
END:E 彼方の客人
『男』に関わるサブイベントを全てこなす
※与太話です
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