The Focal Point/Flickr
By Sae Nagamatsu
先進国の中で唯一、「共同親権」が認められていない日本。離婚の件数は年間20万にも及ぶとされ、「子の引き渡し」を巡る法的な申立ての数だけでも、去年4,000件あったと公表されている。このため、数え切れない子供たちが両親の離別後、片方の親に会えないという悲惨な状況を招いている。今週、Voice Up Japanは、この「離婚後の共同親権問題」について着目する。
現在、日本では夫婦が不仲等で別離した際に、一方の親が子供を連れ去り、もう片方の親が子供に会えなくなるという事態が頻繁に起こっている。このいわゆる「離婚後の共同親権問題」は、日本人との国際結婚が破綻した夫婦にも影響する。数年前から多くの海外メディアで大幅に取り上げられるなど、その深刻さは増すばかりだ。日本人の元配偶者に子供を連れ去られた親と、もう片方の親に会いたくても会えない子の苦しみを生んでいる、れっきとした人権問題なのだ。
日本で起こっている実子誘拐は、「児童保護に係る国際規律に反する」(子供の権利を侵害する)として、欧州議会(EU)請願委員会が去年6月、日本政府に対し規律を遵守するよう求める動議を、全会一致で可決したほどだ。ただし、この問題は国際夫婦のみでなく、日本人夫婦間でもますます解決が急がれる問題となっている。
この背景としてまず挙げられるのは、離婚後の「片親親権」という考えのもとに成り立っている、日本の「伝統的家族構造」である。
では、何が具体的に共同親権への壁となっているのかを見て行こう。
「男は仕事、女は家庭」が生む悲劇
まず、日本人と外国人の国際結婚が破綻したカップルのケースを例に挙げよう。驚くべきは、例え外国人配偶者の母国の裁判所が、「離婚後も子供の共同親権を持っており、子供にも定期的に会う権利がある」と判決した場合でも、日本人配偶者側が面会を拒否さえすれば、直接話し合うことも、子供と自由に会って親子関係を保つことさえも不可能となることだ。
突然残された親の人権侵害のみならず、「子供がその親にこれからも会いたいか、会わないか」といった、離婚後の過程における児童の心理や希望を無視した人権侵害問題でもあるだろう。わが子を先に連れ去って家を出た配偶者のみが、自然と親権を持つことが出来るのが今の現状なのだ。しかも、これが日本国内では事実上容認されている。なぜだろうか?
児童の権利に詳しい上野晃弁護士は、日本外国特派員協会(FCCJ)が6月1日に主催した共同親権を巡る記者会見で、この問題は「日本の伝統的な、『男は仕事、女は家庭』という男女の固定的役割分担意識がずっと拭えないことから来ている」と指摘した。つまり、「父親は働いて家庭を回すための経済力をもたらし、母親は子育てに集中すべき」という従来の考え方に由来するのではないだろうか。ほかの先進国と違い、離婚後も両親が共に子育てをするという考え方が、日本の慣習にはそもそも欠如しているのである。
実際に、法務省が共同親権の導入状況について昨年4月に公表した独自の調査によると、先進国で単独親権のみ採用している国は、日本だけであった。全体を見渡しても、調査の対象となった米国や英国、オーストラリア、イタリア等を含めた24カ国中、実に22カ国が離婚後も共同親権を採用してる。日本と同じく片親親権のみを認めている国はトルコとインドだけであった。
上野弁護士は、多くの日本人が、そのような「伝統的意識・価値観」を根強く持っていることも無視できない問題点の一つであると指摘する。「これは日本で特殊な問題意識なのだが、『女性と子供を守るべき』という、女性と子供を並列して扱う人が世の中でかなりいると思う」と上野氏はFCCJ記者会見で語った。また、こうした日本人の意識に刷り込まれた価値観は、この実子誘拐問題が日本ではいまだに実質「犯罪」として認識されず、国内メディアでも報道されることが少ないことにも繋がっていると主張する。「このような意見を持つ人達が(日本にはまだ)いるから、世の中全体がこの問題に積極的に興味を持たないのではないだろうか。」
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国際社会からの批判
アメリカ・欧州の国際法基準では、片方の親による「連れ去り」は違法と見なされる中、国内においてこの問題は法整備が遅れている点が焦点となっている。しかし、日本の法制はこの問題への解決にむけて尽力するどころか、その問題の存在すら否定しているのが現状なのである。国際連合が2019年、この問題について国際法を順守していない、いわゆる「ブラックリスト」に日本を登録したにもかかわらずだ。
先述のFCCJ記者会見で、被害者の一人であるフランス出身のヴァンセント・フィショ氏は、欧州議会が昨年7月、日本政府に対して、国際連合憲章「子どもの権利条約」を遵守するよう求めた際も、外務省・茂木敏充外務大臣がこの決議に真っ向から反対したことについて触れた。茂木外相によると、こうした欧州議会からの批判・決議は理解しかねるものであり、この件に関しては「適切に対応しており、そのような人権侵害問題など存在しない」という。
家族法とジェンダーを専門とする立命館大学・二宮周平教授によれば、「子どもの権利条約は、日本も1994年に批准しており、子の権利の保障を最優先に考えるなら、原則、共同親権が望ましい」と、先月、NHKからの取材で意見を述べた。「共同親権を選択できれば、今のように父母が親権を激しく争って勝ち負けを決める場がなくなり、離婚後の子どもの生活をどう支えるか話し合う場に発想を転換できる。国際化に対応した基準を尊重して法制を作り上げるべきだ」と二宮教授は指摘した。
国際社会の視点からすると、この問題について日本の現在の司法が順守していないのは、子供の権利条約だけではない。日本が加盟国として名を連ねる国際法「ハーグ条約」の第28条によれば、「国際結婚が破綻したとき、子供をもし相手に返還した場合、子の利益が害されると認められた場合のみ、その相手からの子供の返還要求を拒否していい」という供述がある。つまり、子供を相手の親に返した場合、「DVや戦争などにより子供の心身に害悪が及ぶ」特例でのみ、これを拒むことが認められるはずなのだ。
もちろん、家族に身体的および精神的苦しみを与えるDVが家庭内で実際にあった場合、加害者は、相応に法の下において罰せられるべきである。家庭内暴力等があったケースに関しては、辛い思いをした配偶者の方・及び子がみずからの安全確保を図ろうとするのは当然であり、行政や公的機関による適切なサポートが欠かせない。共同親権が仮に合法化されていたとしても、子供本人の希望と安全を第一に考えたうえで、どう対応するかを行政は慎重に決めるべきだろう。
しかしながら、単独親権しか認められない現状が続く限り、国内外からの批判がさらに高まっていくのは容易に予想できる。
今年4月、電撃引退で日本中を驚かせた有名棋士・橋本崇載氏も、国内での実子誘拐問題の被害者の一人である。妻に、生後4カ月の子を連れ去られて以降、彼は2年の間、子供に会えていない。橋本氏も、先述の記者会見に出席した際、実子誘拐は「きわめて野蛮な行為」と表現した。
子に会いたい親、親に会いたい子も声を上げやすい社会を
日本政府は現在、子供の利益を第一に考える「こども庁」の設立を検討している。このこども庁がトップとなり、共同親権や自由な面会制度について、国民の了解をきちんと得たうえで導入を検討することが、実子誘拐問題解決に向けた第一歩となるであろう。子供の利益を真に考慮するならば、現場で活動する児童心理の専門家などから、離婚に伴う子供の心理について、きちんとヒアリングしたうえで、制度を整えていくべきである。
共同親権に好意的な上野弁護士が述べているように、現在の司法制度については、ヒアリングの仕方にも偏りがある。世界からの批判が集まる中で、外国人の当事者へも、平等に耳を傾けるべきではないか。世界のメディアがこの人権侵害を広く報道しているのと同じように、これは日本でももっと幅広く報道され、問題意識を高めるべき重大な問題なのである。
もし共同親権が国内で正式に認められれば、子供の権利がきちんと尊重されるだけでなく、そもそも誘拐自体も減るはずだ。なぜか?共同親権が法制化された暁には、単独親権を前提とした実子誘拐行為をおかす意味そのものがなくなるからである
