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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ「反ワクチン本」は「言論の自由」なのか

ソーシャルメディアによる規制の動きも

 さて、このような反ワクチン活動は「言論の自由」「表現の自由」だ、と主張する人たちがいます。しかし、必ずしもそうではないとぼくは思います。

 まず、「思想の自由」は基本的な人権の一つで、どんな人でもいろんなことを自由に考えることができるべきです。ここはいいですね。

 しかし、「言論の自由」「表現の自由」は無制限に許されるのでしょうか。そんなことはありません。明らかに他者の生命や健康、人権を害するような「言論」「表現」は許されることではありません。

 例えば、特定の人種や性別、あるいは性的指向などに対する憎悪の意思を表明するのは「ヘイト」と言われて、認められるものではありません。日本では川崎市などが「ヘイトスピーチ」を禁ずる条例を制定しています。同様に、殺人や発砲、暴力行為を積極的に促す「言論の自由」「表現の自由」は無条件には認められないことでしょう。

 主要なソーシャルメディアも反ワクチン活動には対策をとっています。ツイッター社はCOVID-19のワクチンに対する間違った情報や露骨な陰謀論を述べたツイート、COVID-19は存在しないといったフェイクな内容のツイートなどは削除すると公表しています。

 フェイスブックも反ワクチンについては投稿を削除するというルールを作っています。

 もっとも、こうした対応には抜け穴があります。例えば、ワクチンを「惑チン」などと書き方を変えることで検閲にひっかからないようにしたり、「電凸」と呼ばれる自治体への予防接種への抗議電話を呼びかける行動が行われたりしています。

「わずか12の個人と団体が引き起こす」誤ったワクチン情報

 こうした反ワクチン運動は、一部の確信犯的なデマゴーグが組織的に行っています。河野太郎行政改革担当相が自身のウェブサイトで述べたところによると、「TwitterとFacebookにあるワクチン関連のそういった誤った情報の65%はわずか12の個人と団体が引き起こしている」のです。

 こんなわけで、ウェブ上では反ワクチンと、SNSのせめぎあいが起きています。おそらく、今後はSNS側の規制が厳しくなり、このフィールドで反ワクチン派が暴れまわる、というのは難しくなってくるだろうとぼくは予測しています。

 そんななか、書籍については、反ワクチンに対する規制がなく、放ったらかしになっているように見えます。科学的なデタラメを「フィクションである」と表明せずに平気で出版しますし、間違いを指摘しても知らん顔の出版社は少なくありません。

 そうした出版社の多くは確信犯的に「売れれば内容はどうだっていい」という態度を取り続けています。出版社が書籍の内容について厳しい自主規制を行うのは、いわゆる差別的表現やわいせつな表現に対する表現規制です。が、科学的事実に反するコンテンツに対する規制については、ほとんどの出版社は知らん顔、なのです。

 ツイッターやフェイスブックが課せられているような「事実に対する社会的責任」を、巨大企業GAFAの一員、アマゾン社は持つべきだとぼくは思います。いや、というか、巨大ではない書店にだって、販売する商品の中身の妥当性には責任がありますし、もちろん、出版社や著者だって内容の妥当性には責任を持つべきですよね。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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