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『十五年目の告白』
放課後。
俺は校門前でぼんやりと由実を待っていた。いつもの事なので対して不満はない。
秋も半ば。日の落ちるのもすっかり早くなり、太陽は西の空へとすでに沈みかけていた。
少し肌寒さを感じつつその様を眺めていると、ちょんちょんと誰かが背中をつついてくる。
振り返ると、そこにいたのは白いテニスウェアを着た小柄な少女だった。
「おまたせ」
と、茶色がかったショートヘアを木枯らしにそよがせ、陽気に声をかけてくる少女の背丈は、俺より頭一つくらい低い。
「お、由実か。今日もお疲れさん」
そう俺が労いの言葉をかけ、
「じゃあ、帰ろうか」
と言うと、由実は、うん、と頷いて、俺の左手を右手で握ってきた。
そのまま俺たちは帰宅の途につく。
俺と由実は幼馴染みだ。ちょうど家が隣同士で、同じ頃に同じ病院で生まれたらしい。アルバムを開けば、それぞれの母親に抱かれた俺たちが一緒に写っていたりするほどだ。小学校も今通う中学校でもクラスはずっと同じである。
通い慣れた道を歩き始めると、由実が背筋を伸ばしながら口を開いた。
「ん~。今日の練習はちょっときつかったなぁ」
そうこぼす由実は、服装の通りテニス部に所属している。リーチこそは短いものの、そのしなやかな体躯を生かした俊敏な動きでボールを捌くのが、由実のプレースタイルだった。が、反面、運動量は人一倍多くなるのが弱点でもある。
「今日は何したんだ?」
そんなことを考えつつ、由実にそう訊くと、
「それがね……。レギュラーは大会前の強化だって言って、いつもよりメニューが多かったの」
と、疲れた表情で、由実は答える。確かにそろそろ新人戦の時期である。三年生が引退した今、主力となるのは由実たち二年生だ。
「そうか……。それは大変だったな」
「うん。おかげでお腹ぺこぺこだよ」
由実はそう言って、空いた方の手でお腹をさする。
と、ちょうどそのお腹がくぅと鳴った。えへへ、と由実は誤魔化す。
「どこか寄ってくか?」
と、俺が訊くと、
「お金持ってないから、別にいいよ」
と、由実は遠慮する。
「そうか――」
と、俺が頷きかけたところで、行きつけのラーメン屋の前を通りかかった。軒先にはちょうちんがかかり、ラーメン特有の食欲をそそる臭いが広がっている。
それに堪えかねたのか、由実のお腹が先ほどよりも大きく、ぐぅと鳴った。あうぅ、と由実は頬を赤らめる。
「俺が出してやるから、入るぞ」
「え?」
と、声を上げる由実の腕を引いて、俺はラーメン屋に入った。店内はあまり広くはない。むしろ、やや狭いくらいだったが、逆にそれがアットホームな印象を与えていた。狭いながらも、テーブル席とカウンター席があるが、テーブル席は既に客で埋まっている。
とりあえず、カウンター席に座り、横に由実を座らせると、
「でも、いいの?」
と、気の毒そうに由実が訊いてきた。
「あぁ、別に気にするな」
そう俺が言っても、由実の表情は曇ったままだ。
……全く、遠慮深い奴なんだから……。
と、内心でため息をついて、
「じゃあこうしよう。ラーメンを十玉食べれたら、奢ってやるよ」
と、条件をつけた。
実は由実は日頃からよく食べる。部活での消費量がかなり大きいのだろう、これだけ背が違う俺と同じくらいの量は毎食食べていた。
そんな由実に遠慮させないために、俺は敢えてこう言ったのだった。もとより食べれるなんて思ってはいなかったし、食べた分だけ払ってやるつもりだった。
それを聞いた由実は、一度驚いた顔をしたが、
「う、うん。頑張ってみる」
と、頷いて、その目に力が戻る。ぎゅっと拳を握って、気合いを入れているようだった。
「じゃあ、頼むぞ。――じいさん。カタ麺二つ」
「あいよ!」
注文すると、威勢のいいじいさんの掛け声が返ってくる。
俺はこのときまだ、これから起こることを、予想だにしなかった。
五分ほどすると、注文したラーメンがやって来た。
ラーメンはやはり早食いに限る。自分の好みの固さにあるのはほんの数十秒程しかない。その間にどれだけラーメンを味わえるかが勝負だ。
俺たちは器が来ると同時に箸を割り、いただきます、といって食べ始めた。
……上手い。
食べ慣れたせいなのか知らないが、この店のラーメンこそが一番だと俺は思っていた。
豚骨ベースのこってりとしたスープと、細く固い麺が絡み合って、絶妙な味わいを繰り広げる。
ずるずる、と食べていくと、瞬く間に麺がなくなってしまった。由実もほぼ同時だ。
「じいさん。替え玉二つ」
「あいよ」
すぐさま追加を頼み、水で喉を潤す。だいたい一玉でコップ一杯程がなくなるのが普通である。
しばらくすると、替え玉が届いた。スープに絡めて、再び食べ始める。
何故だか知らないが、ラーメンを食べると、体が熱くなって来るものだ。俺は第一ボタンを緩めて風を通してやる。
見れば、由実も同じようにテニスウェアの上着のジッパーを少し下まで下げていた。
そうして食べていくと、また同じタイミングで食べ終わる。
こんな感じで、二人できたときは、だいたい三杯食べるのが常だ。小腹が空いているときは四五杯くらい食べるときもある。
俺としては、今日は三杯のつもりで食べていた。
三杯目を俺が食べ終わると、由実もちょうど食べ終わったところだった。
「まだ食べるか?」
と、俺が訊くと、
「もちろんだよ」
と、由実は力強く頷く。その目はどこか真剣な色を映していた。
そんな由実に若干違和感を覚えつつも、
「じいさん。替え玉一つ」
と、声を掛けた。
俺はもう満足したので、後はひたすら由実が食べるのを見るに徹する。
由実は四杯目をいつも通りのペースで食べていた。いつも一緒に食べるから、ある意味そこも似てしまったのかもしれない。
そんなことを俺が考えているうちに由実は四杯目を食べ終えた。
流石に暑くなったのか、由実はテニスウェアの上着を脱いで、その下の淡い水色のウェアだけになった。
薄手の生地のウェアにほっそりとした体のラインが現れる。何処にも無駄な肉の付いていないそれは、由実としてはもっと凹凸が欲しいらしいが、俺としては十分に可愛かった。
が、今ラーメンを四玉収めたそのお腹は、にわかに膨らみ始めていて、少しいつもとは印象が異なっている。
俺がじいっと由実を見ていると、なにを思ったのか、
「大丈夫だよ。まだ全然余裕だから」
と、言って、そのお腹をポンと叩いた。それから、
「おじさーん。もう一杯」
と、替え玉を頼む。
この段階では、まぁ、あり得ることだし、俺はさして何を考えると言うこともなかった。
ずるずる、と由実がラーメンをすする。そのペースははじめと変わらない。
それが五杯目だと分かるのは、お腹の膨らみが増しているからだった。ややふっくらとしてきた印象を受けながらも見ていると、由実がいつもと変わらぬタイミングで食べ終えた。
水を一口飲むと、
「おじさーん。もう一杯」
と、追加する。
少し気になった俺は、
「飽きないのか?」
と、訊ねる。
「ううん。おいしいよ」
そういう由実の顔には、全く翳りはない。
「ん、ならいいんだ。好きなだけ食べてくれ」
「うん」
と、頷く由実は笑顔だった。
すると、ちょうどそこでおじさんが替え玉を持ってきて、
「おや、もう汁がすくなってるじゃねぇか」
と、器にスープを足してくれた。
「ありがとう」
といって、由実が食べ始める。
そのペースは微かに遅くなったようにも思えるが、まだまだ余裕そうだ。
俺はそんな由実を見ながら、心中では驚いていた。いつも良く食べるなとは思っていたが、こんなに食べれるものだとは知らなかったのだ。
そんな驚きを胸に、ラーメンを口へ運ぶ由実の姿を眺める。
だいぶ膨らみを増したお腹は、ぽっこりという形容がもっともふさわしい様子だった。そのお腹はぴっちりとしたテニスウェアを少しずつめくり上げていっている。
いつもより少しだけ時間が掛かって、由実は六杯目を食べ終えた。
「おじさーん。おかわり」
水を飲んでからそう頼む由実に、
「由実。お腹大丈夫か?」
と、俺は心配になって訊いた。
が、由実は膨らんだお腹に手を当てて少しさすると、
「ん、まだたぶん大丈夫」
と、答える。
「まぁ、無理はしないでくれよ」
「うん」
そう答える由実の目には、やはり何か妙な色が混じってような気がした。
七杯目に取り掛かる由実を俺は見ていた。
箸の運びは、いつもよりも少し遅くなってはいたが、大して遅いというわけでもない。
お腹のほうはといえば、ついにテニスウェアをめくりあげて、その形の良い臍をあらわにしていた。健康的な白さを持った肌が引き伸ばされて、余計に白く見える。
由実はそれが気になるらしく、時折ウェアを下に引き伸ばして隠していたが、徐々に膨らみを増すお腹の前では、全く効果がなかった。
そうやって七杯目を食べ終えた由実だが、水を飲んだところで、けぷっと小さくげっぷをした。
俺が見ているのは分かっているので、その頬が一気に赤く染まる。
「もう十分か?」
と俺が言うと、由実は首を振った。
「だって、約束したもん」
どうやら初めに出した条件を鵜呑みにしていたらしかった。
「まぁ、確かにそうだが……」
と、俺が語尾を濁すと、
「ひょっとして、お金足りないの?」
と、不安そうに由実が聞いてくる。
「いや、それは大丈夫だが……」
「良かった。じゃあ、頼むね。――おじさん、おかわり」
と、次の替え玉を由実は頼んだ。
八杯目ともなると、だいぶ由実もきつくなってきたようだ。
ラーメンをすする速度は落ちてはいたが、それでも初めの半分くらいの速度である。額の汗をぬぐいながら、着実に食べ、それを腹に収めてゆく由実の表情は、それでも全く苦しそうではなかった。単に顎が疲れてきただけなのかもしれない。
そんな由実を見ていると、ちらりとこちらに目を向けてきた。
「ん? どうかしたのか?」
俺がそう聞くと、由実は赤くなって目を逸らし、
「スコートがきつくなっちゃったの。はずしてくれる? たぶん自分だとはずせないから……」
と、頼む。
「あぁ、別に良いけど」
そう言って、俺はスコートのホックをはずすため由実に近づいた。
見ると、膨らんだお腹の下のほうにやや食い込んだスコートがある。俺はそれに手を伸ばし、はずそうとした。
が、そうすると、その膨らんだお腹に否が応にも手が触れてしまう。
俺はそっと手を伸ばしてそのホックをはずした。と、同時にびっとチャックが音を立てて下がり、お腹がぐっと下に下がってくる。開いたチャックの下からアンスコのフリルがちらりと覗いていた。
俺は手に伝わった由実のお腹の感触に驚いていた。まるで厚めの水風船に触れているような感触だったのだ。
が、そんな俺の驚きは由実に伝わるはずもなく、
「ありがとう」
と、由実は礼を言って、食事に戻った。その口へ運ぶテンポは先ほどまでよりやや上がっている。
俺も席に座りなおして、それを見守った。
「おじさん。もう一杯」
八杯目を食べ終えて、由実はまた替え玉を頼んだ。
「本当に食べれるのか?」
俺がそう心配すると、
また由実はお腹をゆっくりと撫でて、
「ん、まだ行けるよ」
と、答える。
横から見る俺からは、大きく膨らんだお腹がカウンタの端にもう少しで触れそうな感じに見える。
が、本人が食べれるといっているので、俺は止めようとは思えなかった。
そうこうしていると、九杯目の替え玉が届いた。
由実はまたそれを口へ運んでゆく。その様を見つつ、俺はそれを飽きずに見ている俺自身について考えていた。
ただ由実が食べているだけの単調な流れの中で、どうして俺は飽きることがないのか。
そんなことを考えつつも眺める由実の箸は、だいぶ遅くなってしまっていた。が、それでもその表情に苦しさは見て取れない。
かなりの時間をかけて、由実は九つ目を食べ終えた。
由実は水を飲みながら、膨らんだお腹を確認するように手をやって、しばらく黙っていたが、
「おじさん。おかわりー」
と、声を上げた。
「これで十杯目だな」
「うん」
そう笑顔で答える由美の目は、真剣そのものだった。
程なくして、十杯目がやってくる。
由美はそれを食べ始めるが、そのペースはとても遅くなっていた。時折大きなげっぷをして顔を赤らめるが、それでも箸は止めない。
形の良かった臍は、引き伸ばされてしまって、やや出臍のような感じになってしまっていた。
「大丈夫か?」
と、俺が声をかけると、
「うん……。大丈夫」
と、笑顔を見せる。が、ここに来て由実の顔に苦しさが浮かんでいた。
俺としては、やめさせたい気持ちで一杯だったが、それでもやめようとしない由実を前に、俺は何も言うことができない。
随分と時間が掛かって、由実は替え玉を食べ終わった。
そのお腹は、もうカウンターに届くぎりぎりのところだ。
「これで食べ終わったな」
と、俺が安堵の声を上げると、由実は首を振った。
「まだスープが残ってるよ」
そういう器には麺に吸われてだいぶ減ってはいたものの、半分ほどのスープが残っていた。
確かにスープもラーメンのうちだ。
由実は器を持ち上げ、ふちに口をつけて一気にスープを飲み始めた。
くっくっ、っと音を立てて、その細い喉を濃厚なスープが通り抜ける。
器が持ち上がっていき、最高点に達したとき、
「ごちそうさまでした~」
と、由実は食事の終了を告げた。
結局、由実はラーメンを十玉と水差し一杯分の水をそのお腹に収めてしまったことになる。
そのお腹はついにカウンターの端にくっついてしまっていた。
「ん、よく食べたな」
「うん」
そう由実は少し苦しげながらも笑顔をみせ、大きくげっぷをした。
俺は苦笑いしつつ、金をおじさんに渡す。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん」
俺が立ち上がると、由実も立ち上がろうとした。
が、お腹があまりに重く、カウンターにもつかえているため、なかなか立ち上がれない。
「仕方がないなぁ」
と、俺は由実の脇に手を入れて、上に持ち上げてやった。
それでどうにか立ち上がった由実は、
「うぅ……、流石に食べ過ぎちゃった。お腹が重いし、苦しい……」
と、お腹をさすっている。
「歩けそうか?」
「がんばる」
由実はそう言って気合を入れたようだった。
二人して店を出て、再び帰宅の途につく。
あたりはすっかり暗くなってはいたが、そこまであわてることはない。ここから家までは二百メートルほどもないからだ。
由実の歩調に合わせて俺は歩く。
が、由実の足の速さは、そこら辺の老人よりも遅いくらいだった。時折小さなげっぷを洩らしながら、それでものろのろと進んでゆく。
正直、見ているこちらとしては危なっかしい限りだ、転けでもしたら大惨事になりかねない。
が、とうとうそれも限界が来たらしかった。
「あぅ~……。もう歩けない」
そういうと由実は道に座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
と、俺が訊くと、
「お腹の中で麺が膨らんじゃったみたい……」
と、その大きく膨らんだお腹をさする。
なるほど、確かに先ほど店を出るときよりもそのお腹は膨らみを増していた。
まさに臨月もかくやというほどに膨らんだそのお腹は、テニスウェアをみぞおちのところまでめくりあげてしまっている。
……どうしようか。
もう家は目と鼻の先、どうにかして運ぶしかなさそうだ。
俺はいろいろと考えて、一つ試してみることにする。
「よし、じゃあ、俺がおんぶしてやる」
そう言って、座り込んだ由実の目の前に俺は背中を差し出した。
由実はそれに覆いかぶさろうとして、
「ちょっとまって、これだとお腹が……」
「ぁ、そうか」
これでは思い切りお腹を圧迫してしまう。吐けというようなものだった。しかも後頭部に。
「そうだなぁ……」
俺は再び解決策を考える。
由実のほうはと言えば、膨らんだお腹をさすって苦しさを紛らわすのに精一杯な様子だ。
しばらく思案していると、俺の頭に名案が浮かんだ。
すぐさま俺は実行に移す。
「由実。すまないが、立ってくれないか」
「ん? いいよ?」
そう言って重たいお腹をかばいつつゆっくりと由実が立ち上がる。
こちらをきょとんとした顔で見つめる由実の横のほうに俺は回った。
「ん? なにするの?」
「あぁ、持ち上げるから、力を抜いてくれ」
そういうと俺は由実の肩と腰の辺りに手を回した。
由実が力を抜いてきたところで、ぐいっと力を入れて持ち上げる。
「ん……、重いな」
小柄な由実だが、今は大量の食べ物をお腹に収めているので、その重さは結構なものがあった。
持ち上げられた由実は、何故か恥ずかしそうにしている。
「重くてごめん。でも、これって、お姫様だっこ……」
「そうだな」
確かに、これは恥ずかしいかもしれない。
まさかこんなところで使うとは思わなかった。
誰かに見られる前にさっさと家に帰ろう。腕も長く持つわけではない。
俺は由実をなるべく揺らさないようにしながら、できるだけ早く歩き始めた。
自分の家を素通りし、隣りに由実の家に行く。
とりあえず、玄関のところまで行くと、由実がインターホンを押してくれた。
「は~い」
と、おばさんが玄関に出てくる。
おばさんはドアを開けて俺たちを見ると、
「あらまぁ」
と、典型的な言葉で驚いてくれた。
「あげてもらえます?」
と、俺が言うと、どうぞどうぞ、と迎え入れられる。
「こんな感じなんで、部屋まで運んできますね」
「ええ」
そう答えるおばさんはにこにこしている。
俺は靴を適当に脱ぎ捨てて、由実の靴をおばさんに脱がせてもらった。
流石は親、ということなのか、お腹の大きく膨れた娘を見てもいささかも驚いていない。どうやら家族には知られていたことであるようだ。
俺は二階にある由実の部屋まで由実を運んでゆく。
やっとのことで階段を上りきると、由実の部屋は目の前だ。
俺は中に入ると、ゆっくりとした動きで由実をベッドに横たえた。
電気をつけると、部屋の様子が良く分かる。
久しぶりに訪れた由実の部屋は、前と大して変わっていなかった。大きな鏡とフリルのついた真っ白なカーテン。ところどころにはテディべアがいて、いかにも女の子らしい部屋だ。
そうして部屋を見回していると、
「今日はありがとう……」
と、ベッドに横になった由実が言ってきた。かぶった布団で口元を隠しているが、その顔は羞恥のせいか赤くなっている。
「あぁ、でも、お腹は大丈夫か?」
そう俺が言うと、
「うん。横になったら少し楽になった」
と、由実は恥ずかしそうに頷いた。
俺は由実の前髪をさらさらと撫でつつ、
「でも、あんなに食べるとは思いもしなかったよ」
と、呆れたように言う。
すると、由実はばつの悪そうな顔をして、
「ごめんなさい。たくさん食べるの好きだけど、もし知られちゃったら嫌われるかと思って……」
と、眉尻を下げる。
そして、弱々しい声でこう続けた。
「わたしのこと嫌いになった……?」
そう訊く由実の目尻には涙が浮かんでいる。今にでも泣き出しそうなそんな危うさがあった。
「そんなことはないよ」
俺はそういうと、由実の額にキスをする。
「それに、たくさん食べる由実も可愛かったし」
「ほんと?」
「うん」
俺がそう頷くと、由実の目から涙がこぼれた。
「なに泣いてるんだよ」
俺がそう苦笑いすると、
「だって、うれしかったから」
と、しゃくりあげながら由実が答えた。
そんな由実の頭を俺は撫でてやる。
しばらくそうしていると、由実も落ち着いてきたようだった。
そこで俺は改めて口を開く。
「それでな、由実」
「なに?」
「ひとつ頼みたいことがあるんだが……」
「いいよ?」
と、由実は上目遣いにこちらを見る。
少し躊躇う気持ちがあったが、俺は思い切って言った。
「できれば、お腹。触らせてくれないか?」
「え」
由実は一瞬何を言われたのか分からなかったらしく、呆然としていたが、
「う、うん。いいよ」
と、頬を朱に染めながらも、身体を覆っていた布団をはらりと捲った。
相変わらず膨らんだままのお腹が、目の前に晒される。
俺がお腹に手を伸ばそうとすると、由実は触りやすいようにするためか、仰向けになった。
その大きく膨らんだお腹に俺は手を乗せる。
その手に広がる感触は、柔らかいというものではなかった。目一杯に膨らんだお腹は、ぱんぱんにはり詰めていて、むしろ固ささえ感じられる。俺はその真っ白なお腹をゆっくりとさすり始めた。手の動きにあわせて腹はわずかながらも歪み、程よい力で反発してくる。
由実もそれが気持ちいいのか、うれしそうに目を細めていた。
「それでさ」
「なに?」
「俺も、なんか、この膨らんだお腹が好きみたいだ」
俺がそういうと、
「ほんと?」
と、少しうれしそうに由実が訊いた。
「あぁ」
俺はそういうと、そのお腹に頭を乗せる。
「ひゃ」
といって、由実は一瞬身を固くしたが、すぐに力を抜いてくれた。
俺はあまり押し付けすぎないように注意しつつ、その感触を味わう。
耳を当ててみれば、きゅるきゅると音を立てて、胃が大忙しに食事をこなしているのが分かった。
「でも、この中にあれだけの量が入ってるんだな」
「うん。満タンだよ」
そう言って、由実はおどけてみせる。
「これだけ食べたら、胸も大きくなるってもんだろ」
俺がそういうと、
「うぅ、そのはずなんだけど、ぜんぜん大きくなってくれないんだよね」
と、由実は悲しそうにこぼした。
「そうか……。でも、そのうち大きくなるよ」
俺がそう慰めると、
「うそ、そんなこと分からないくせに」
と、不機嫌な声が返ってくる。
「まぁ、それはそうだけど……」
そういいながら、俺はいったん顔を離し、両手をお腹に乗せ、
「このお腹なら、そのうちきっと大きくなるさ」
といって、柔らかくさすってやった。
「そうかな?」
「……たぶんな」
「あ、ずるーい。きっとじゃなかったの?」
そんなことを言い合いながら、ひとしきり、由実のお腹を堪能した後、
「じゃあ、そろそろ帰るかな」
そう言って、俺は立ち上がった。
「うん。今日はありがとう」
と、由実が礼を言う。
「いいや、俺だって、ありがとうだよ」
「どうして?」
「秘密を教えてくれたし、そのおかげでもっと仲良くなれただろう?」
俺がそう言うと、由実は真っ赤な顔で、うん、と頷いた。
「まぁ、たまには一緒に食べに行こうぜ、ラーメンだけじゃなくてさ」
「うん!」
そう、うれしそうに頷いた由実の姿を目に焼き付けて、俺は由実の部屋を出る。
……全く、お腹ぱんぱんになるまで食べたくせして、あんなにうれしそうな顔をするなんて……。どこまで食い意地が張ってるんだか。
そんな風に呆れつつも俺の口は笑みに歪んでいた。
……また今度、どこかに連れて行ってやろう。
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最終更新:2008年11月08日 12:10