金正恩氏の体重減、北朝鮮国民が「心配」=国営メディア報道
アリステア・コールマン、BBCモニタリング
北朝鮮の国営主要テレビ局が、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が急激にやせたとして心配する国民の姿を伝えた。こうした放送は前例がない。
金氏の健康状態は通常、機密事項だ。指導者としてのイメージは国営メディアが厳しく管理している。
朝鮮中央テレビは25日のニュース番組で、国民の嘆きとともに、ここ数年でやせたように見える金氏の映像も放送した。
金氏の健康をめぐっては、実権を握ってからの10年間にさまざまなうわさが出ている。ただ、秘密主義で知られる北朝鮮政府がそれに言及することは、ほとんどない。
「みんな泣き出した」
朝鮮中央テレビが放送した映像の1つは、コンサート会場を訪れた金氏の体重が劇的に減ったと紹介している。
別の映像では、氏名不詳の平壌市民が「(金氏の)あんなにやつれた姿を見て、私たちはみんなとても悲しくなった」、「みんな泣き出した」と話した。
<関連記事>
自分自身を利用か
今月開かれた党中央委員会総会に出席した際の映像や写真からは、金氏の体重が落ちていることがうかがえた。
北朝鮮の情報を発信するウェブサイト「NKニュース」は、金氏が高級デザイナー腕時計を以前よりきつくしめて着けていたと分析。金氏はやせているようだと伝えた。
今回、平壌市民の映像が放送された理由は定かではない。
北朝鮮情勢を伝えるウェブサイト「ワン・コリア・センター」の郭吉燮(クァク・キルソプ)代表はBBCに、「(北朝鮮政権は)金正恩にとってマイナスとなるニュースを報じることを決して認めない」と説明。「金正恩自身が体重の減少を示すために」今回の放送となったのではないかと話した。
郭氏はまた、「(映像は)彼が国民のために尽くしていることを示している」、「金正恩は自らをプロパガンダの舞台として活用し、国民のために日夜働く指導者としての姿を強調している」と分析した。
なぜ重大事なのか
金正恩氏は父の金正日(キム・ジョンイル)氏の死去により、2011年12月に最高指導者に就任した。以降10年間、体重は着実に増えていったとみられている。
金正恩氏は、共産主義の北朝鮮で権力を握る金家の3代目だ。金家は「白頭山血統」と呼ばれ、親から子へと権力を引き継いでいる。白頭山は北朝鮮北部の神聖化されている山で、同国を建国した金日成(キム・イルソン)氏が日本軍に対してゲリラ戦を展開した際に拠点にしたと言われている。
金正恩氏には明確な後継者が存在しない。そのため死去や長期の職務遂行不能に陥った場合には、権力の空白が生じる可能性がある。北朝鮮は核保有国とされており、そうした空白は東アジアの不安定化につながる。
金氏には妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長がいる。だが、彼女が最高指導者に適任ではないと判断された場合には、同国史上初めて、金家以外の人物に権力が移るとみられている。
過去の健康問題
金正恩氏は2014年に40日間消息不明となり、重体説や死亡説が流れた。やがて、つえをついて歩いている姿が報じられ、足首の手術を受けて回復中だとされた。
それ以外にもたびたび、姿が見られなくなることがある。韓国政府は、医療面の理由によるものだと結論づけている。
2020年には、手首に治療の痕とみられるものがあるのが確認された。
金氏は現在37歳とみられている。ヘビースモーカーで、飲酒量も多いと考えられている。
これまでの体重が増加した姿からは、金氏が糖尿病や痛風を患っているとの憶測が出ていた。ただ国営メディアで健康状態が話題とされたことはなく、確認は不可能だ。