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太陽光パネルが国土を覆う日、脱炭素達成に向けた厳しい道のり

更新日時
  • カーボンニュートラルには住宅屋根や農地の太陽光発電「必須」の声
  • 政府は成長戦略で営農型の太陽光を推進、適した土地の減少で

日本中の住宅の屋根や農地を太陽光パネルが埋め尽くす。菅義偉政権が掲げる2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする目標の達成に向け、そうしたシナリオも荒唐無稽ではなくなりつつある。  

Ghost Towns of Fukushima Remain Empty After Decade-Long Rebuild

福島県浪江町のメガソーラー発電所(3月7日)

Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

  中長期のエネルギー政策の方針「エネルギー基本計画」の見直しを進める経済産業省は、50年時点の発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を約5-6割とすることを議論の参考値として示してきた。19年度の日本の再エネ比率は18%だった。

  12年に始まった再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度により、特に太陽光発電が急拡大した。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、太陽光発電能力は20年時点で中国と米国に続き世界3位。国土面積1平方キロメートル当たりの導入量で比べた場合には、日本は主要国の中で最大だ。  

1平方キロメートル当たりの太陽光導入容量で日本は主要国で最大

出典:経済産業省

  それでも、カーボンニュートラルを達成するためには再エネの追加導入が不可欠だ。コンサルティング会社ライスタッド・エナジーは電子メールで、達成には太陽光発電の「屋根向け拡大と農地活用は必須」と指摘。また、「貯水池上などに設置する浮体式ソーラーももっと活用できるかもしれない」としている。

  国内では、20年までに累計で原発67基に相当する約67ギガワット(GW)の太陽光発電設備が導入された。これに対し経産省は5月、「参考値」を達成するためには50年までに260-370GW規模の太陽光が必要との見方を示した。

  同省が電力中央研究所の分析などを基に示した試算によると、約370GWの太陽光発電導入を実現させるためには下記のような取り組みが必要となる。

屋根置き型(107GW規模)
  • 既存住宅への導入が進みつつ、31年以降は新築の戸建て住宅と集合住宅への導入が飛躍的に進み、40年以降は100%に導入
  • 工場・物流施設・商業施設など大型施設の全ての追加設備費のかからない屋根に導入
地上設置型(152GW規模)
  • 全ての農業経営体に100キロワット規模の営農型太陽光発電などを導入
  • 農地転用されるものを除く荒廃農地などへの導入
メガソーラー発電所(110GW規模)
  • 全国約1700の市町村全てがそれぞれ平均65カ所のメガソーラーを導入

  屋根置き型の太陽光発電では、米カリフォルニア州が20年から新築住宅に設置を義務付けており、小泉進次郎環境相は折に触れて設置義務化に意欲を示してきた。3月の記者会見では、住宅への太陽光パネル設置の義務化などがなければ、「カーボンニュートラルは実現できない」と発言。4月の日本経済新聞とのインタビューでも、住宅やビルへの太陽光パネルの設置義務化を考えるべきだと語った。

  次期エネルギー基本計画を議論する経産省の有識者会議のメンバーでもある国際大学国際経営学研究科の橘川武郎教授(エネルギー産業論)は、新築住宅への太陽光導入は将来的に「100%近くになる可能性はあるが、既存住宅はそう簡単にはいかない」との見方だ。経産省によると、国内の戸建て住宅約2900万戸のうち約35%が耐震強度の問題で太陽光パネルの設置が困難とされている。

農業と太陽光の両立

  住宅の屋根にパネルを設置するだけでは十分ではない。6月に見直された政府の「グリーン成長戦略」には農地を活用する方針も盛り込まれた。安価に太陽光発電を実施できる土地が不足する一方、有望な適地の一つである農地の利用拡大が進んでいないとし、荒廃農地を再生利用する場合の要件緩和などにより営農型の導入を拡大する計画だ。

  営農型太陽光は農地に間隔を空けてパネルを設置し、発電した電力を販売すると同時にパネルの下では農業を継続するというもので、ソーラーシェアリングとも呼ばれる。国土の狭い日本で農業と発電を両立できる取り組みとして期待されている。

  橘川教授は、脱炭素に向けて「土地利用の在り方が変わってくる」と予測。これまで日本では、産業などで利用できない場所を除いた全ての土地を農業用に使ってきたが、今後は「基本はソーラーのために使うというぐらいに基本価値を変える」ことになると語った。

  今後、日本が営農型太陽光を推進していく際に課題となるのが農業と太陽光発電の両立だと、早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科の野津喬准教授は指摘する。優良農地は原則、転用が許可されない中で「消去法として営農型太陽光をやっている事例が少なくない」という。

  そうした事例では神棚に飾るサカキなど別の作物に切り替えられることが多いとし、「仮に全ての農業従事者が営農型太陽光を導入して栽培品目をサカキに変えたとしたら、それは望ましいことなのか」と疑問を呈した。

農業経営の安定化に

  農林水産省再生可能エネルギー室の西尾利哉室長は、「政府として再エネを推進しているが、優良農地を野放図につぶしていいとは誰も思っていない」と話す。営農型太陽光では、売電による副収入で農業経営がより安定する点は評価できる半面、そうした事業展開をするかどうかは個々の経営者の判断次第との見解を示した。

  営農型太陽光が大規模に展開されれば、地域の景観が大きく変わる。千葉大学大学院社会科学研究院の倉阪秀史教授(環境政策論)は、地元住民から「抵抗感が示されることも十分考えられる」と予想する。

  そのため、農家による主体的な運営や地域活性化につながるプロジェクトなどが必要になるとみている。「利益のために都会の業者がパネルを置きにくるだけでは理解は得られない」と強調した。

  太陽光発電を巡っては、景観への影響や土砂災害への懸念から特に大規模太陽光発電所(メガソーラー)への反対運動が各地で起こっている。また、地方自治研究機構によると、4月1日時点で太陽光発電設備などの設置を規制する条例が146市町村で設けられ、都道府県でも兵庫や和歌山、岡山県で制定されている。

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