無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:マンチに魔法を与えた結果がこれだよ!

またしても遅れましたねぇ……
それでは本編をどうぞ!


第六十四話 そして、戦いの終わり

□■<【苦鍛窮宮 ダイダロス】> 第五隔離区画 【粉砕王】餓鬼道戯画丸

 

 

 

 ――――“手”は、ある。

 

 今までに類を見ない程の強敵である、三体の〈UBM〉を前にしても、天地の実力者の一人である餓鬼道戯画丸はそう考える。

 

 己自身が敵に、かの隕石すらも砕いたその一撃を警戒されていると理解しても尚――その為の“()()”があるのだと、そう戦闘中で更に回転が速くなる頭の中で考えていた。

 

 

 ――必要なのは、殲滅力だ。範囲と速度、そして勿論極大の威力を兼ね備えた殲滅力こそが必要だ。

 

 彼のエンブリオ、【印殺拳 バンテンイン】は対象に対する攻撃力という面だけで見れば、この場に居る何者よりも高い物だ。

 ただの爆破攻撃という訳でなく、攻撃が命中し印が刻まれた対象自体を爆弾に変える――それがどんな物であっても、どれほど強力な防御能力を持っている物であっても。

 例えそれが斥力の壁であろうとも、結界魔術による障壁であろうとも、形の無い液体であっても――有形無形を問わず、殴りつけた凡そ全てを粉砕爆砕しあらゆる防御を許さない力を持っている。

 対象自体が爆弾になる為、《ラスト・スタンド》等の一部の特殊なスキルを使わない限り生き残る事は不可能だし、例え仮に生き残ったとしても爆発四散し戦闘能力が残る筈がないのだ。

 

 

 所謂一つの“即死系エンブリオ”であり、その中でも通常攻撃の様にその爆殺の拳が放てる戯画丸と【バンテンイン】であるが――弱点は勿論ある。

 

 それは言うまでも無く、直接殴りつけた対象しか爆弾に変える事が出来ない事だ。

 当てられなければ何の効果も発揮し得ない白兵攻撃であり、【バンテンイン】自体は攻撃を命中させる事を何も補助しない為戯画丸が己の自力で何とかするしかないのだ。

 ……戯画丸のビルドは拳士系統砕拳士派生超級職【粉砕王】に就いている事以外は何の変哲もない格闘家ビルドである。

 種族としても勿論通常の人間である為、空中や水中の敵等の特殊条件下の他、純粋にAGIに十倍以上もの差がある様な相手では、幾ら戯画丸の格闘センスである程度補えるとは言っても無理があると言う物だった。

 尤も、ただ空を飛んでいる、水中を自在に泳げる()()の相手であればいくらでも対処のしようがあったのだが――

 

 この短時間の攻防で、戯画丸は敵の〈UBM〉を直接殴りつけて決着する事を諦める。

 ……あれほどの魔法の嵐や転移能力を持つ敵を前にそれに固執する程戯画丸は馬鹿ではなかった。

 

 斥力と重力による多重防御でカシミヤを抑え付けている【エドラ・リンデル】。

 数多の魔法を操り、更に魔法を掻き消す魔法でジーニアスや手下達の相手をする【アル・マグナス】。

 そして、戯画丸にとって最悪の相性である空間転移を、まるで下級魔法の様に連発する【エメル・リンデル】――

 

 

 【バンテンイン】の必殺スキル、《大破壊証明印(バンテンイン)》を使い、この区画全体を広域爆砕して勝利を決めるか?

 

 ――否だ。

 《大破壊証明印》は確かにこの区画全体を吹き飛ばす程の攻撃範囲を持つ非常に強力な必殺スキルであるが、それは通常の次撃爆砕の拳とは違い広範囲の爆砕に敵を巻き込み大破壊を齎す物だ。

 別に部下達や他の<マスター>に配慮しているとか、そういう問題ではなく――それでは威力が()()()()のだとそう結論付けているだけだ。

 確かに《大破壊証明印》によって齎される攻撃は生半可な代物ではないが――それはただの規模が大きい爆風と衝撃という()()の物なのだ。

 

 故に、それは防がれるし耐えられるのだ。防御スキルやENDの数値次第では。

 勿論、耐久に長けた純竜級程度であればそれだけでも殺せる程の威力であるが――相手には埒外の魔法使いでもある【アル・マグナス】が居る。

 彼自身の配下ですら使える耐衝撃、耐爆風に特化した魔法。

 自分の必殺スキルならばそれを使われても尚〈UBM〉を斃せる威力があると……そう考えられる程、彼は阿呆ではなかった。

 そもそも、接地面から基点に爆裂する彼の必殺スキルでは、いくらこの区画全体を攻撃できるとはいえ空中の相手には相応に威力が落ちるというのもあるのだから……

 

 ……しかし。

 必殺スキルでも不可能であれば、ならば彼には不可能であるのかと言えば――そんな事は無い。

 言動からは想像できないが――これでも餓鬼道戯画丸は天地の<マスター>において、TOP30には余裕で入る程度の実力者である。

 それほどの猛者が、自分の必殺が通用しない状況に対する対策を全く取っていないかと言えば――そんな訳が無いのだから!

 

 

「お前ら――()()をやるぞ! 気張って時間を稼げや!」

「「「「へい、(オーナー)!!」」」」

 

 

 その合図と共に――今までも、この戦闘の中でも幾度となく行われた防御系統スキルの多重展開がされる。

 勿論、それを予期していた【アル・マグナス】が《ディ・スペル(魔法消去魔法)》や防御を抜く為に多種多様な、それこそ超級職の魔法そのものを連発する。

 

 しかし――それを即座に崩す事は叶わない。

 カンストこそ多くない物の、餓鬼道戯画丸の下で動いて来ていただけあってか、練度は低くなく、また戦闘開始時から比べて半数程に減ってはいてもまだ20人は数は居り、その全ての防御スキルを打ち消すのは簡単ではない。

 また、魔法スキルに依らない防御スキルも多く、<マスター>としてエンブリオの補正により上級職とは思えない程にステータスが高い者も少なくない事もあった。

 

 ……それでも、【アル・マグナス】の魔法による猛攻を凌げるのは、防御に特化した構成をした彼らであっても10秒が限度であった。

 直接的な攻撃魔法だけではない。

 紛れる様に発動された意識を奪う昏睡の霧や毒の霧。呪詛に石化に麻痺に様々な病気の嵐。

 状態異常だけではなく、雷電の鎖や<マスター>達の魔力(MP)技力(SP)を意図的に暴走させスキルを阻害するのと同時に内から外から責め苛まれる――

 ……例え、防御に特化し、エンブリオを持つ<マスター>とは言え、相手は神話級の〈UBM〉から半歩踏み出した怪物なのだから。

 

 むしろ、かの【アル・マグナス】を相手に、10秒も持っただけで十分とも言える。

 それだけの時間があれば、彼らの(オーナー)の準備を整えるのに十分なのだから――

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 (まさか、こいつを使う事になるとはな――)

 

 そう考えながら、餓鬼道戯画丸が【アイテムボックス】から放出したのは……巨大な、とても巨大な金属塊だ。

 直径にして10メテルはあるかという、不思議な色合いが混ざった鋼鉄の塊。

 

 ……そう、これが、この金属塊こそが餓鬼道戯画丸の切り札。

 

 精錬された【高品質鋼鉄】の巨大な塊。

 ――それに、とある特殊な魔法鉱石である【マナタイト】とを、仲間の【芸術家】の設計の下で合金化させた物。それがこれであった。

 金属としての強度はさほどではなくとも、強い魔力を帯びており、更に魔力を溜め込む性質を持っている為術師系統の装備の素材としても用いられる【マナタイト】。

 それと、【ミスリル】以上の金属と比べたら質量と産出量により安価である事以外取り得のない【鋼鉄】。

 それの合金にして――スキルや加工の設計によって、“指向性”を付与された代物である。

 

 

 ……この巨大な金属塊を、果たしてその金属塊を叩いている戯画丸はどう使うのか。

 

「ここか? ……違うな、こっちか? ……よし、ここだな――」

 

 

 ――――“こう”使うのであった。

 

 

「――――《大破壊証明印(バンテンイン)》」

 

 両の手を、【バンテンイン】を装着した手でその金属塊に繊細に手を突き――己の最大最強のスキル、必殺スキルの発動を宣言する。

 途端、巨大な金属塊(作成費用:3500万リル)の総身を埋め尽くし、幾重にも重なる様に巨大な刻印が浮かび。

 

 

 ――溜め込んだ、数値にして数百万をも越える程の魔力(MP)が、その巨塊に相応しい質量の金属が、内部に仕込まれた幾つもの【ミスリル】の破片が――

 

 その全てが《大破壊証明印》により巨大にして超強力な爆弾となり……(〈UBM〉)に向かって炸裂した――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

□■<【苦鍛窮宮 ダイダロス】> 第五隔離区画 【抜刀神】カシミヤ

 

 

 

 

 

 ――――“手”は、あります。

 

 己の天敵とも言える程に相性の悪い〈UBM〉――【双天翻弄 エドラ・リンデル】に粘着されていて、他に目を向ける余裕もない状態であっても……カシミヤはそう考えていた。

 

 区画全体に張り巡らされた重力とは別に、僅かでも隙があれば張り付くように己へ向けて重力と斥力の枷を飛ばして此方を斃さんとする【エドラ・リンデル】。

 ――それを、自身の《神域抜刀》と《剣速徹し》、そして《鮫兎無歩》による、ENDをほぼ完全に無視した超々音速斬撃を最大限に警戒しての事だというのも、当然の様に理解している。

 【エドラ・リンデル】の注視(マーク)が外れれば、即座に残る2体を斬り捨てに行くのだと――

 

 勿論、それは事実だ。

 カシミヤとて、戦況を楽にする為に《刹刃圏》も用いて隙あらば残る〈UBM〉達を討つ機会を狙っているが……今の所相手側にそれを叶えさせてくれる気配はない。

 それどころか、相手に掛けられている多重の重力によって身体は軋み、腕を上げるのも億劫になり、足も重くなっている。

 HPだってどんどん減っていて、このままなら何らかの傷痍系状態異常も併発するだろう。

 ……【イナバ】があるとはいえ、背が縮むのは勘弁したい所です、と若干場違いな事を考えながら――そんな状況であっても、彼はこの状況を覆す為の“()()”があるのだと、そう考えていた。

 

 

 

 

 ――必要なのは、当然威力――貫通力です、ね。あの斥力の壁を破れる威力を――

 

 

 そう思考しながらも――本来はそれが不可能であると言うという事は、彼も百も承知であった。

 

 抜刀動作中にAGIを百倍にする【抜刀神】の奥義、《神域抜刀》。

 刀剣類による攻撃を行った際、相手が防御できなかった時、相手のENDを自身のAGIに応じた値だけ減少させて攻撃を行う【剣武者】のジョブスキル、《剣速徹し》。

 そして、どんな姿勢だろうと、勿論抜刀の姿勢であっても変わらぬ速度(AGI)で移動できる【イナバ】の固有スキルである《鮫兎無歩》――

 

 その組み合わせ、即ち彼の技量から放たれる、百倍のAGIによる防御も許されぬ神速の居合い斬りはその凶悪さを以て彼、カシミヤの代名詞として謳われる“()()”だ。

 多くの偶然と、残りの必然により恐るべき相乗効果(シナジー)を持つそれらは相対した者達からは「もう敵なしなんじゃねーか!」と言われる程に完成された必殺剣であった。

 

 

 しかし、その必殺剣を振るう本人であるカシミヤはそうは思っていなかった。

 

 ――剣士としては良くても……<()()()()()()()()これではまだ不足ですね。

 

 と。

 超級職の奥義すら絡めた、傍から見れば無敵とすら思える程の技を以て尚そう考えていたのだった。

 何故なら……彼は、その必殺剣の()()を誰よりも、そう誰よりも熟知していたから。

 

 

 ――ENDしか軽減できないのだから、自身の低い総合攻撃力以上の防御力を持つ防具を装備している相手を斬れる程ではない。

 ――勿論、物理攻撃が通じない相手、傷痍系状態異常が通じない斬っただけではどうしようもない相手にもまともな効果は期待できない。

 ――まだ相対した事はないが、装備の強制解除やスキルの封印・無効化を行える特異な相手の前には何の意味も為さない。

 ――以前に遭遇した“防御”という概念がない相手にも通じない 

 ――今の速度では、1000メテル以上先からの超々音速による超長距離攻撃や、広域殲滅にも対応できない。 

 ――超々音速など意にも介さない速度、雷速や光速の自動迎撃で潰されるかもしれない。

 ――現状では一度に斬れるのは精々数人が限度である為、SPの問題もあり尽きぬ相手との戦いも得手とは言えない。

 

 ――そして、眼前の【エドラ・リンデル】の様に。

 ――――()()()()()()()()()()()()()()、全周を覆う結界、障壁等による防御――純粋な攻撃力が低い彼には突破できない()()

 

 

 無敵だ、最強だと言うには弱点が多過ぎる、まだまだ改善できる余地があると――そうカシミヤは考えていたものだった。

 

 ……まぁ、もっとも。

 そんな対策によって彼の抜刀術を防げる者等、実際には早々いない訳だが――()()()()()、彼に近しい相手に、強敵(ライバル)とでも言える相手に、それを行える者が居たのだ。

 ならば。

 ――研鑽を怠る理由がある訳もなし。

 そういう事であった。

 そして、実際に――カシミヤは、工夫や努力によって、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは勿論……眼前に居る目障りな〈UBM〉、【エドラ・リンデル】にも通じる物であり――――

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 (……アReは、一Tai……?)

 

 

 【アル・マグナス】に与えられた通りに、この場において最も危険視されている<マスター>――カシミヤの妨害をしていた【エドラ・リンデル】は、今まで動き続け、的を絞らせない様にしていたカシミヤが唐突に停止し――()()をした事に気付く。

 

 それは、不思議な構えであった。

 右手で通常通り鞘に収まったままの長刀を構え――左手では、抜き放たれたもう一本の長刀で相手の目を射抜く様に真正面に突き出している、正に剣道で言う“突き”の構えだ。

 二本の刀は片手ずつだけでなく、自在に動く二本の鎖が支えとして、補助腕として添えられており、既に彼のSTR(筋力)では立っているのも難しい程の重力が掛かっている筈だが――二本の長刀を構えるその二本の腕だけは小動もしない。

 

 しかし――剣を構えたからと言って何になるのか。

 なるほど、確かに彼は【双剣士】のジョブ……二刀流を扱うジョブも習熟しており、それにより攻撃力を上げる事ができるし、その系統の上級職の奥義であれば左右の武器の攻撃力を合算する、等と言った真似が出来た筈だ。

 

 ……だが。

 それでも、それですらも、彼のSTRと武器攻撃力、そして剣士系統のアクティブスキルを加えた威力であっても――この防御に特化した〈UBM〉、【双天翻弄 エドラ・リンデル】の斥力の守りを貫くには、威力が足りない。

 歴代の【抜刀神】がそうであった様に――絶望的なまでにステータスが足りないのだ。

 斥力の壁と、更に【アル・マグナス】が掛けた障壁の魔法の二重のENDに依らない防御壁。

 片方だけであっても、カシミヤのステータスとジョブ構成(ビルド)であれば突破はほぼ不可能となるほどなのだから――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――()()()()()()()()()()結果はその通りであったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 【エドラ・リンデル】が斥力の鉄槌によって追撃しようとしたその瞬間に――カシミヤは動いた。

 

 

 ――ただ、その体勢のまま、《鮫兎無歩》によって、前へと。

 

 勿論、構えていた長刀を抜刀しながら、《神域抜刀》によりまさしく神速(超々音速)の域にまで加速して、一瞬で【エドラ・リンデル】に向かって接敵したのだ。

 

 

 ――その突きの姿勢のままの長刀の先端に、ありえない程の威圧感を発せさせたままに。

 

 

 

『A――――』

 

 

 

 …………一瞬だけ、重い物を貫いたような音が鈍く響き渡り、次の瞬間、勝負は決していた。

 

 一瞬後に――【エドラ・リンデル】のその障壁毎心の臓が長刀に完全に貫かれていたからだ。

 更に、次の瞬間……居合いにより抜き放たれたもう一本の刀により、首を刎ねられ――絶命するに至った。

 

 

「《我流魔剣・磐裂根裂》――出来は上々、ですね。

 まずは、できればジーニアスに使いたかったんですが……」

 

 

 

 《我流魔剣・磐裂根裂》。それはカシミヤが【神】として、()()()()()()()()()編み出したオリジナルスキルであった。

 それは、彼が己の技の持つ弱点を克服せんと

 【双剣士】系統のジョブスキルである《双剣撃》、剣を扱うジョブの突き系の基本的なスキルである《スティング》。

 そして《神域抜刀》、《鮫兎無歩》、を組み合わせ、更に【剣武者】の《剣速徹し》を変則的に使う。

 ――速度(AGI)を威力に変える、という、本来の《剣速徹し》の効果とは似て若干異なる様に。

 

 求めるのは、ただ一点を突破する為の技。

 それには線を攻撃する居合いによる“斬り”よりも、点を狙う“突き”の方が圧倒的に向いていると、彼は知っていたから。

 

 本来の剣道の構えなんてあった物ではない、ただその目的の為だけに【イナバ】の補助を用いてまで苦労して完成させた我流魔剣(オリジナルスキル)

 ENDだけではない。あらゆる防御を貫き穿つ、“()()()”がここに開陳された――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

□■<【苦鍛窮宮 ダイダロス】> 第五隔離区画 【求道者】ジーニアス

 

 

 

 

 ――“手”は、ある。その為に()()を張っておいたんだからね――!

 

 

 戦場を、区画全体を見渡しながらも、今の戦闘では碌に有効打も与えられていない有り様であっても……天才(ハイエンド)たるジーニアスはそう考えていた。

 

 そもそも、彼が碌に行動できていないのも――あの〈UBM〉の集団の中でも頭抜けた怪物である【アル・マグナス】、その《ディ・スペル》のせいだ。

 魔法を消去する魔法――ただそれ自体はそう厳しい物ではない筈だったのだ。

 ……相手があらゆる魔法に精通している、魔法の権化とでも言える魔導書の〈UBM〉、【アル・マグナス】でなければ、だが。

 

 それでも、戯画丸やカシミヤの様に完全に物理に偏重していれば支援が受け辛いというだけの被害で済んだかもしれない。

 あるいは、戯画丸の部下達の様に魔法に偏重していれば、魔法の連発に専念して【アル・マグナス】の処理能力を奪うのに専念していたかもしれない。

 ……いや、現時点であってもジーニアス一人で並のカンストマスター数人分の魔法処理を強いる事はできるのだが――彼はそれを選ばなかった。

 

 ――己は天才で、己の力は万能なのだから……()()()()の妨害に負ける訳がない、と。どうとでも対処できるのだと確信して。

 

 

 

 さて、本来、効率面だけで見れば、己のジョブの半数である魔法を封じられた時点で、残りの半分である物理で攻めるというのが定石という物だろう。

 実際に、先程は《影分身の術》を用いて惜しい所まで行っていたのだ――が、()()()()()()()と直感している。

 

 確かに、習熟しているジョブの半数は物理系に寄ってはいるが――それでも、現状のジーニアスの本領は魔法なのである。

 【ラスリルビウム】の存在を考慮せずとも、物理戦闘も魔法戦闘も同等に好んでいる彼ではあるが――()()()()()のはこちら(魔法)なのだ。

 

 

 ――必要なのは、当然あの《ディ・スペル》を掻い潜る方策だけど、()()()()()()()()()()

 

 

 ……そうして、幾枚もの【符】を手に再度【アル・マグナス】に挑む事となる。

 その結果は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

■<【苦鍛窮宮 ダイダロス】> 第五隔離区画 【禁忌魔本 アル・マグナス】

 

  

 

 

 

 ――来る。

 

 予感、などという大それた物ではない。

 《託宣》《予見》等のある種特異な感知系統の魔法によって、【アル・マグナス】は()()を予期した。

 即ち――<マスター>達の切り札、“必殺”が来る、と。

 

 しかし、如何な【アル・マグナス】であってもその方法までは読める筈がなく。

 彼に出来るのは今までと変わらず、敵の魔法を妨害を続け、そして広域に攻撃魔法を妨害魔法を張り巡らす事によって――<マスター>達の真価を見定める事だけだ。

 

 基より、その為に彼は此処に残っているのだ。

 僅かな物であろうと見逃さぬと、多くの魔法を用いて仲間である兄妹の〈UBM〉以上に<マスター>達を注視して――気付く。

 

 

 

 ――あの少年(ジーニアス)は何をしている?

 

 

 《全知目録》によって看破した数少ない強者の一人が――全く動きを見せていない事に。

 幾らか牽制の《ディバインレーザー(光線の魔法)》を撃ち放ってはいても、それ以上の動きがないという事が……やけに気になった。

 

 何かある――――しかし、【アル・マグナス】の持つ感知結界を用いても、他に何らかの魔法を行使している気配はない。

 

 ――一体何を企んでいる――?

 

 今までの行動を思えば、【アル・マグナス】がそう思うのも無理はない事であったし。

 

 ――――その懸念は全く当たっていたのだから。

 

 

 

 (――何ッ!?)

 

 

 唐突に――唐突に()がジーニアスから溢れた。

 幾千幾万幾百万もの()()()が区画内に逃げ場なく、正しく光速で解き放たれた――

 

 【光輝術師】の奥義、《プリズム・プラズマ》。

 広範囲に光の線による乱舞で敵を攻撃する攻撃魔法だった。 

 攻撃力は同じ天属性の上級職の奥義である《クリムゾン・スフィア》と比べて遥かに劣り、消費魔力(MP)も大きい。

 しかし、その範囲と光速による速度こそが長所であるその魔法。

 

 だが、本来の《プリズム・プラズマ》はここまでの範囲にも、規模にもなりはしない。

 上級職の奥義と言えど――上級職程度の奥義では、そこまでの出力にはならない筈なのだ。

 

 ()()()()()()()()。 

 

 

 

 

 (……そういう事、か)

 

 

 その光が開陳された直後に――《全知目録》によってその答えは出た。

 辺りに散らばる幾百枚もの【符】、そして――ジーニアスの周囲で乱舞する光の線に紛れる様に、無数の光の塵が舞っていた。

 

 即ち――

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジーニアス。彼のエンブリオである【至光天 アダムカドモン】の本領とは――一時に法外なまでの相乗効果(シナジー)を見せる、スキルの組み合わせである。

 特に、必殺スキルである《天上の意を叶える者(アダムカドモン)》と《全主権限(オールド・オーダー)》の組み合わせは――本来なら在り得ぬ程の複数の上級職の奥義の同時行使を可能としていた。

 

 ――それも、ハイエンドたる彼の才と頭脳を以て。

 

 彼が【アル・マグナス】から己の魔法を隠した方法は至極単純だ。

 それこそ純粋に、相手の感知、識別能力を上回る隠蔽能力を行使すれば良いのだから。

 

 《隠蔽》《隠行の術》《気配操作》《シャドウストーク》《隠蔽結界》《魔法隠蔽》《魔法発動隠蔽》《空蝉》《鬼門封じ》《インビジビリティ》――

 

 姿を隠す隠形の(スキル)は、それこそ無数にあり、《全主権限》によってそれを無数に使いこなせるのだから。

 本来であれば、正式にそれに使用できるのは《魔法発動隠蔽》くらいな物である。

 しかし《全主権限》があれば、その無法は通る。

 かつて【黒竜王】との戦いでも使っていた己の魔法に対する隠蔽スキルの使用。

 それを幾重にも重ねれば――こうなるという物だ。

 

 そして、それだけではない。

 

 【退魔師】系統上級職、【祓魔師(エクソシスト)】の奥義――《降魔》。

 上級職の奥義なだけあり、強力なそのスキルの効果の一端は――MPやSPの消費をHP(生命力)で代替する事が出来る様になるという物。

 命を削ってでも魔を討つ、その為の奥義であるが……ジーニアスに使わせると、その意味は全く変わってくる。

 

 

 ――そう、無数に生み出せる影分身のHPを以て最大まで威力を高めた魔法を発射する事が出来る様になる、という事なのだから。

 

 《プリズム・プラズマ》が籠められた【符】が数百枚。

 《隠蔽》された状態で作り出され、第二陣を《影分身の術》で生み出した後《降魔》からの全HPを用いた《プリズム・プラズマ》によって弾丸にされる影分身達。

 そして、ステータスは低いながらもHPとMPを合わせれば《プリズム・プラズマ》が使える程度の残る影分身達――――

 

 

 ――――それら、全ての《プリズム・プラズマ》、上級職の奥義が、500を越える数だけ用意

     その光の軌跡全てを()()し、()()して――解き放つ。

 

 名付けるのであれば――

 

 

 

「――《星屑雨(スターダスト・レイン)》!」

 

 そうして、《極光剣》をも乗った広域殲滅魔法がこの狭い区画内を蹂躙した――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!? On――――』

 

 ――尤も対処が難しいと思われた、自在に空間転移を行う【双天奔放 エメル・リンデル】を主に蹂躙する方向で。

 

 展開されていた障壁も貫き、光速の攻撃に逃げる間もなく光の洪水に【エメル・リンデル】は呑み込まれ。

 

 

 

 そして。

 

 

「――てめぇはこいつだぁ!!!!」

 

 炸裂する巨金属塊が――魔法に特化した【禁忌魔本 アル・マグナス】に迫る。

 

 

 役割分担――得手不得手を鑑みて、()()が最も効率が良いだろうと言うのは、戯画丸とジーニアスの共通認識だったのだ。

 いくら威力と密度を増そうと、魔法攻撃であり、《ディ・スペル》を潜り抜けても【アル・マグナス】に対して致命打になるかは怪しい《星屑雨》と。

 超高威力の魔力の奔流と爆裂の威力、そして金属片の嵐による物理的魔法的双方の威力を持ちながらも、本命である爆裂と金属片は結局は物理的である為、空間転移で回避される可能性があった《大破壊証明印》。

 

 ……互いの“必殺”を知っていた訳でも、好き好んで協力する間柄でもない。

 しかし、それでも二人は天地でも有力な、しかも基本的にはパーティ戦闘を主とする<マスター>共。

 この程度の意思疎通は、簡単なアイコンタクトとサインのみで完遂するのだった――

 

 その結果、〈UBM〉達の命運は

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

『――《タイム・ストップ(時流停止)》』

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

■<【苦鍛窮宮 ダイダロス】> 第五隔離区画 【禁忌魔本 アル・マグナス】

 

 

 

 ――ここらが潮時、か。

 

 

 【時王(キング・オブ・クロック)】の最終奥義。自身の主観時間(発揮速度)を1秒間だけ数百倍以上に加速する魔法を行使し、爆裂の衝撃と金属片の奔流の直撃を数瞬先に先送りにした【アル・マグナス】は、欠片も危機感を抱く事なく思案していた。

 

 ――なるほど。平均的な技量こそティアンに劣れど……これほどか。

 

 必殺スキルにより、内外の出入りを封じられた逃げ場のない隔離区画。

 ……それであって尚、彼は最後の瞬間まで<マスター>に対する考察を止めない。

 

 ――エンブリオ(劣化“化身”)による固有スキルや、ステータス補正……だけでは、ない。むしろ一番の違いは意識の違いだ。

   ティアンであれば強敵を前に死の恐怖で震え、動けなくなる者も少なくない。勿論個人の精神性による例外はあるものだが。

   しかし、この<マスター>達は、強者ではない雑兵であっても――その様になる者は一人も居ない。

   “遊戯”感覚、というのだったか。危うくはあるが、間違いなく驚異的だ。

   その上で、各々の個性(パーソナリティ)に依る種々様々なエンブリオがあり――それは例え雑兵の物であっても、先程の巨龍の様なモノすら存在し得る。

 

 

 ――――実に、面白い存在だ。少なくとも、元主が目の敵にしている“化身”よりも、私は此方の方が好みだな。

 

 ――いや、そうではないか。――此方の方が、かの少年(ジーニアス)の様に、()()()を感じさせて貰えるからだろうな。

 

 【アル・マグナス】は己の思索をそう締め括り――ここで再び眼前に超スローで迫る金属片と衝撃波に意識をやる。

 既に《星屑雨》の光撃は自前の魔法防御力と自信を中心に自動展開されている防御魔法で防いでおり――そして、彼はその気になればこの巨片であっても完全に防ぎ切る事が可能なのである。

 それを可能にする魔法はそこまで多くないが――この世界に在るほぼすべての魔法スキルを行使できる【アル・マグナス】にとって、不可能な事という物はそう多くはない。

 

 ……それでも、一応は仲間である〈UBM〉の【エドラ・リンデル】と【エメル・リンデル】を救うのは、不可能であった。

 既に心臓と頸部の損傷という、致命傷の傷痍系状態異常を受けている【エドラ・リンデル】と、全身に幾千万の光線を受け、HPを全損している【エメル・リンデル】。

 当然の様に蘇生魔法すらも使う事が出来る彼であるが、今の状況ではもう遅い。

 仮に蘇生に成功したとしても、一瞬でHPを回復し、傷痍系状態異常まで全て全快させるのは不可能だ。

 

 ――だから、躊躇いも無く見捨てる事が出来る。

 

 その決断をして、【アル・マグナス】は止まったかの如く遅い時の中で――漸く一つの魔法を行使する。

 

 

 

 彼が規格外になり、優先して蒐集した魔法の一つを。

 ――いつでも行使できた、たった一手でこの場から逃れられる術を。

 

 【禁忌魔本 アル・マグナス】――彼の最も特異なる固有スキル、《禁忌目録(インデックス)》。

 規格外に達したその効果は<アーキタイプ・システム>にすら接続し、そこに登録されている――即ち、この世界に在る全ての魔法を蒐集し行使する事が出来る様になるという物。

 

 で、あれば――例えば、元主が解析を完了し、模倣に成功した()()も行使できるのも当然である――

 

 

 

『《模倣魔法(エミュレートマジック):鳥籠》――《空間転移》』

 

 

 

 

 ――――――――

 

 

 そうして、重力も、隔離の理からも逃れ出でて――【アル・マグナス】の姿はその場より完全に消え失せた。

 後に残るのは――――

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 【〈UBM〉【双天翻弄 エドラ・リンデル】が討伐されました】

 

 【MVPを選出します】 

 

 【【カシミヤ】がMVPに選出されました】 

 

 【【カシミヤ】にMVP特典【双星手甲 エドラ・リンデル】を贈与します】

 

 

 【〈UBM〉【双天奔放 エメル・リンデル】が討伐されました】

 

 【MVPを選出します】 

 

 【【ジーニアス】がMVPに選出されました】 

 

 【【ジーニアス】にMVP特典【双星脚甲 エメル・リンデル】を贈与します】

 

 

 

 

「やったあ、大・勝・利! ……ところで、もしかしてなんだけど一体討ち漏らしてなーい?」

 

「ええ、どうやらその様ですね。……餓鬼道さん?」

 

「ぐっ!? お、おい。そもそもこれを展開した時点で転移は封じられる筈だって話だろうが!? むしろなんで逃げられてんだよ!」

 

「いやー、それは僕らに言われても困ると言うか……ぶっちゃけ、これって作戦的に大問題じゃない?」

 

「分かってんだよそんな事ぁ! ――通信魔法急げ!」

 

 

 喧々諤々とした喧噪が【苦鍛窮宮 ダイダロス】の第五隔離区画に響くが……その若干弛緩した雰囲気を見れば殆どの者が感じ取れるであろう。

 そこにおける戦いはもう、終わったのだと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、天地における一大決戦の中の一幕が幕を閉じる。

 

 結果だけ見れば、被害は少なく、一体は取り逃したものの重要視されていた空間転移を操る〈UBM〉の撃破に成功。

 〈UBM〉達を束ねる、率いていた将であった【征討魔将 クオン】も無事討滅するに至る。

 それにより、今後の〈UBM〉の組織的な行動はないものとして考えられ……後に唯一取り逃した一体も、多くの者の占術で既に天地の島内には居なくなっているという事が判明した。

 

 その報を受け、天地の上層部は一連の騒動の終息を宣言。

 

 一時は天地の存続も危ぶまれた程の危険度の〈UBM〉との戦いも、やはり天地の益荒男には敵わなかったのだ、と――――

 

 

 

To Be Continued…………

 




ステータスが更新されました――――

《降魔》:アクティブスキル
 【祓魔師】の奥義。発動時にHPの2割を消費し、更に発動し続ける限り毎秒1%のHPを消費し続けていくデメリットを持つ。
 しかし、デメリットが大きいだけメリットが大きいのもまた自明の理であり、本編中で説明されたHP→SPMP変換の効果以外にも攻撃力・魔法攻撃力をを強化したり自身の物理攻撃が《物理攻撃無効》相手にも通じる様になったり、一部の状態異常に耐性を得たりと様々な特典がある。
 でも一番インパクトが大きいのがHP→SPMP変換なので多分今後も他の要素について触れられる事はない。
 ジーニアスがやった様なやり方以外でも回復魔法を使えるジョブが仲間に居ればかなり魔法を使える量が増える良スキル。

《我流魔剣・磐裂根裂》:アクティブスキル。
 カシミヤが自身で編み出したオリジナルスキル。どちらかと言うと《パラドックス・スティンガー》に近い。
 【双剣士】と【イナバ】の合わせ技で《神域抜刀》を乗せた突きにより敵を貫いたのちに居合い斬りを行う二連撃。
 カシミヤの通常の抜刀撃と違う所はシステム的に初撃の突きに《剣速徹し》が乗らない代わりに攻撃力にAGIの50%を加算するという所。
 これで硬い相手も貫けるよ! やったね!
 ただし刀への反動も大きく損耗しやすい為、生半可な技量でやると刀が折れるし、カシミヤであっても連発は出来ない諸刃の剣。

星屑雨(スターダスト・レイン)》:アクティブ(魔法)スキル
 ジーニアスが編み出したオリジナル魔法スキル。
 と言っても、その内訳は割と力業。
 【光輝術師】の奥義である《プリズム・プラズマ》。それを【符】と影分身を用いて数百も用意し。
 その上で各々の影分身達と本隊とで【符】も分担し、そして影分身と本隊とでセルフ《ユニゾン・マジック》によって上級職の奥義の規模の桁を二つくらい跳ね上げた物。
 ジーニアスの【ラスリルビウム】も含めたその範囲と殲滅力を併せれば紛う事なき広域殲滅魔法となる。




 ……はい、今話も最後までご覧いただきありがとうございました!
 書いてから気付いたガバの悩みとかボックスとかで少し遅れましたごめんなさい。
 そんな訳で決着編です! 長かった……
 二つ目の特典武具の詳細とエピローグは次話にて!
 もし良ければ次話もよろしくお願いします!


 ……某氏の“サイレンの魔女”を見ていつかこれを絶対やるんだという心持ちで待ち望んでいたという事実は、ありまぁす!

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