無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:大体厄の連打

今回も遅れてしまい申し訳ないです
それでは本編をどうぞ!


第六十一話 決戦

□<天地・将都>冒険者ギルド 【求道者】ジーニアス

 

 

 

 ∞∞∞∞∞∞∞

 

 ジーニアスへ。

 

 こんにちは、元気にしていますでしょうか?

 私はまだ元気です。

 これもジーニアス達との鍛錬の成果のお陰ですね。

 その分先生方からの矛先も集中するのですが……

 

 冬も近くなり、近頃はとても寒さが増してきていますが、風邪などは引いていないでしょうか?

 不死身の<マスター>であっても、こういう時にはしゃぎ過ぎたら体調を壊す方も結構出るそうです。

 先月に南の方で流行った<流行病>の事もありますし、特にジーニアスは間違いなくこういった事を気にせずはしゃいでると思うので心配でした。

 

 さて、今回は何時もよりも早くこうして筆を取らせていただいたのですが、理由は勿論お分かりですよね?

 ええ、つい昨日布告された例の非人間範疇生物の集団の――いえ、〈UBM〉の集団との戦いの件です。

 

 ……まぁ、分かっています。ここで私が何を言おうとも、ジーニアスはあれに参戦するのでしょう?

 前回の手紙から暫く非人間範疇生物の討伐に専念すると書いていましたからね。

 先日の、【傾城九尾 ウォルヤファ】との戦いの顛末は私もお父様から聞いていました。

 相手の実力は想像以上の物で、ジーニアス達の、<マスター>の力であっても勝利は危うい物であった、と。

 そして、その元凶が今回の相手達だという事。

 ジーニアスはこう見えて――いえ、普通に負けず嫌いですから、今回の為に己を鍛えていたと思います。

 非人間範疇生物の討伐……経験値稼ぎの成果は如何だったでしょうか?

 風の噂で北玄院領に凄腕の少年武芸者の二人組を見たと聞きましたが、もしジーニアス達の成果が順調だったら私も嬉しいです。

 

 ――そして、勿論、この後の戦いでも、それは同じですよ。

 お父様に多少聞くだけでも、今回の相手は桁外れです。

 私達が戦った【ラスリルビウム】の時と比べても、あの時よりも格段と強くなり、そして他の<マスター>達と協力して尚、更に幾段と厳しい戦いになる事でしょう。

 

 ……それでも。

 それでも私は、ジーニアスが、<マスター>達が無事勝利する事を祈らせて貰います。

 結果を天に祈る、なんて全く私達らしくはないのですが、こういう時くらいは良いでしょう。

 

 勿論、一番はまた元気に、互いに成長した姿で相見える事を願っています。

 ……いくらこんな大掛かりな作戦だと言っても、あまり無理をしてはしゃがない様にしてくださいね。

 ジーニアスだとそれが少し心配です……

 

 それでは、少し短いですが、ジーニアス達も出立の時間があるでしょうし今日はここまでで筆を置きたいと思います。

 

 ――頑張ってください。 

 

 またのお手紙、お待ちしています。

 

 西白寺春香より。

 

 ∞∞∞∞∞∞∞

 

 

 

『うわぁ。ごしゅじんめっちゃみすかされてるー』

「うぐぅ……!」

 

 全く反論できない……!

 

 

 

 ――現在、僕達は天地の首都とも言える将都に来ていた。

 勿論、目的は先日の御触れにあった討伐作戦に参加する為だ。

 ……その事は春香は勿論、泰央さんにだって言う暇もないくらいに速攻でイグニスで飛んできた筈なのだけど――

 

『まさか、将都にピンポイントで手紙が届けられているとは……内容も、正に行動を読まれているみたいだったな、マスター?』

「ぐぬぅ……ま、まぁ偶にはそういう事もあるかなって」

 

 そう、所要で将都の冒険者ギルドに顔を出した所に【飛脚】ギルドの人から渡されたのが……春香からの手紙だったのだ。

 内容はこの通り。僕を激励する物。

 それについては嬉しい。とても嬉しい――

 

 ――のだけど。

 

「……よしっ!」

『気合いが入ったみたいだな、マスターよ』

「――うん、それは勿論っ! 春香の期待には応えて上げないとね!」

 

 ――先日の戦いで僕達が戦った相手……〈UBM〉の【傾城九尾 ウォルヤファ】。

 あれ一体に対してすらも、僕らは天地の武芸者も大名も<マスター>も関係なく協力し、漸く打倒し得た強敵だった。

 であるならば、今回の相手の総力は――僕には未だ想像する事しかできない。

 

 だけど、それを最も理解している筈の人は知っている。

 ――【陰陽師】系統の超級職【陰陽頭】であり、占いの名手。そして、今回の相手の看破に一躍買った人――春香の父親である、泰央さんだ。

 ……多くの情報看破系統のエンブリオを持つ<マスター>を集めての仕儀だったけど、それでも泰央さんの占いはその中でも特に比重が高い物だった筈。

 その泰央さんが、相手の総戦力と、その脅威を理解していない筈がない。

 

 ……そう、先の城での説明にもあった通り。

 もし僕達の作戦が失敗し、敗北に終わる事があれば天地の存亡すら危ういとすら言える程の相手だという事も。

 意外にも親馬鹿な泰央さんなら、真っ先にそれを春香に伝えて……もしかしたら、避難の指示くらいはしているんじゃないかなって思っていたんだけど――そんな様子は微塵も書かれていない。

 さて、それは一体どういう事か――なんて、深く考えるまでもない、よね。

 

 

 ――さぁ、春香に吉報を届ける為にも、一丁全力で頑張るとしようか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

1月16日(土)

 【速報】今日、この後決戦!【電撃戦】

 予想外の展開に僕もビックリ。これは楽しみ……!

 

 さて、今日は昨日の一報もあった事から将都への道中は急いだ方が良いと思って、早朝も早朝から進化したイグニスに早速乗って将都まで移動する事にした。

 【爆炎純竜】に進化したイグニスの力を特と味わうのだ……【火炎亜竜】の時より全然はやーい! すごーい! やったー!

 ……まぁ、それでもちょっかい掛けて来るのが居たから、デンドロ内時間で半日弱は掛かるんだけども。

 空の旅はこれがあるから困るよねー、というのはともかく。

 

 そんな感じで到着した将都の様子は……うん、凄くピリピリしている感じ。

 僕もそれなりに将都に来た事はあるけど、いつも大体剣呑な雰囲気の人が多いけれど。

 ……それでも、何時にも増してすっごい空気感。

 普通の人だったらかーなーり近付き辛い感じの剣気と威圧感。

 あれ多分元功刀領の人だよね。こんな時期じゃなかったら僕も軽率に話しかけてたかもしれないねっ。

 他に外を出歩いている人も、帯刀して凄い歴戦っぽい風格を漂わせている商人さんとか、戦意を隠し切れていない武芸者の人ばっかり。

 中には野試合とか闘技場とかで知っている顔も居た程。まぁそりゃ、来るよね。

 圧が凄いし、釣られて僕の方も闘志を燃やしちゃいそうだったよ。危ない危ないー。

 ……周囲の会話を聞くに既に待ち切れない人達の間での将都内での乱闘とか野試合とかがそこそこ頻発しているみたいだし、ああいうのを反面教師にしないとね。

 まぁ、時勢は読んでいるのか互いに相応の実力者だからなのか死者は出てなかったみたいだから良いけど。

 ……だから野試合をしていた面子の中にも知った顔が混じっていたりしても問題ないのだ、多分ね!

 

 で、将都に着いた後はこの将都の行政機関も兼ねている【征夷大将軍】様のお城に向かった訳だけど――

 今回は前回の時と違って、手間暇を惜しんだのか作戦が書かれた紙片を数枚渡されたのみだった。

 どうやら、大名達も揃って戦いに向けて準備をしているらしい。

 何度かあの城には行った事があるけど、今回は飛び切りヤバい雰囲気を醸し出していたね……!

 紙片を渡してくれている武芸者の方も各大名の懐刀なのか、誰も彼も間違いなく超一流で、眼光で威圧しながら品定めでもするかの様に渡された。

 人によってはあれで圧されてそのまま帰っちゃう人も居るんじゃないかなって――まぁ、それで圧される様な軟弱物は必要ない、とでも言いそうだったけど。

 

 だけど、それらも仕方のない事かもしれない。

 紙片の中身、つまり作戦の内容を見た所……それだけ余裕がない、という事だったのだから。

 時間を掛ける余裕も、手間を使って選別する余裕も。

 

 そう、何せ相手方は既にデンドロ内時間で特急で急いだ僕が将都に着く、その三日前には動き出す予兆を見せていたと言うのだから。

 三日――実力的には神話級の〈UBM〉相当が複数いる相手集団に、その時間的アドバンテージが示す意味は重い。

 僕だってAGIを使って全力で走れば天地の端から端まで行けるくらいなのだから当然だ。

 島国である天地でそんな相手が好き勝手に暴れられる時間等一分一秒であろうと許しては置けないというのも当然だと思う。

 ――だから、決戦の日付は今夜、デンドロ内時間にして1日半後に決定!

 これも戦力を集められるギリギリの時間として、結構シビアな時間割だと思う。

 純竜級に進化したイグニスに乗って空を飛んできた僕でも、1日半しか余裕がないって相当だよ!

 少なくとも前回に増してかなり時間がキツイのは間違いないね!

 

 そして、戦力的な余裕に関しても――紙片には限られた情報しか載ってなかったけど、看破の協力に参加していた友人(ヒース)に聞いてみた所、相手の首魁の固有スキルに関してはかなり判明してきているらしい。

 流石に超級職や上級エンブリオが束になって掛かればこんなものだよ! ……と言いたいのだけど。

 その首魁――【征討魔将 クオン】の固有スキル、能力特性は……謂わば、配下の〈UBM〉の強化と能力の共有、ただそれだけだと言えるらしい。

 ……ただそれだけ、って言ってもその強化・能力共有された〈UBM〉一体であの【ウォルヤファ】の様になるんだからたまらないけどね!

 尤も、今回僕らはそれを相手に全面戦争しに行く訳だけど――さて、【征夷大将軍】様の作戦が上手く行く事を祈る他にないね。

 

 

 紙片を、作戦を良く読んで――うん、まぁ僕には結局1日半の空き時間が出来た訳だけど。

 この時間を使って決戦の為の準備を――って、別にこの作戦だと特段特別な準備が必要な訳でもないし、大体僕は戦うのに必要な準備は既に済ませてるし、コテツやジェーンさんからの餞別もあって既に準備万端だったんだよね。

 レベル上げも完璧、とまでは行かないしもっと上げたい気がないではないけど、当座としては十分な程だし。

 【符】とかの備蓄をいつも通りに増やしていくくらい……なので、僕はこんな時勢でも平常運転(という程でもないけど)されている冒険者ギルドに行く事にしたよ!

 何をしに行くのかと言えばそれは勿論――今回の作戦に参加するのにあたって一緒に組む仲間を募る為に!

 今回の作戦はある意味軍団で行う超個人戦と言える物だけど、参加は可能な限りパーティ単位を推奨するとの事。

 ならばやはり気心の知れた(?)仲間と共に組んでやれるなら、或いは頼れる相手と組めるのならばそれに越した事はないよね!

 そして、その為の場と言うのが冒険者ギルドであるべき――と言うのは、娯楽書籍(マンガ)の読み過ぎかな?

 

 

 ……まぁ、結局丸一日使っても冒険者ギルドでは誰とも組めなかったんだけども。

 いや、だって組んだ事ある様な気心の知れた人は皆フレンド登録してるけど、まだ将都に着いていないか、もしくは漏れなく時間まで暇だからと乱痴気騒ぎに興じているかで誰も冒険者ギルドに来ていないんだもの……

 なんでさー! 僕の考え、きっと間違ってなかった筈なのにー!

 フレンドに登録していない、前回の作戦で多少見知った程度の人は何人か居たりしたけど、あの時一緒に戦ったと言うだけで詳しい実力とかも知らないし、向こうからも話しかけたりする気配もなかったから多分駄目だったねあれは……

 冒険者ギルドで全くの無収穫だったという訳でもないし、寛いで精神的に休めたと言うのは良かったかもしれないけど、やっぱり天地の人達ってばティアンも<マスター>も血の気が多過ぎるよねっ。

 

 ……そんな訳で、最終的に剣気を迸らせて戦意十分に満足気にやってきたカシミヤと組む事になったとさ。

 うーんこの気心も知れてるし頼れる何度も見た顔。なんかいつも通りな気すらしてくる!

 まぁ、僕とカシミヤがいれば〈UBM〉の一体や二体、どうという事はないという事で。

 

 さて――では、いざ決戦へ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

■<天地・府軽山野>

 

 天地の北西に薄く広がる大地、<府軽山野>。

 そこは天地の北部にしては珍しく高レベルのモンスターが少ない緩衝地帯として有名であり、修行に武芸者が訪れる事は多くない。

 一般の動物や下級のモンスターが平和に屯するその光景にはまた別の需要があり、それを邪魔する程天地の武芸者は無粋ではなかった。

 <マスター>はまた別ではあるが……<マスター>であるならそれはそれで、最寄の都からも相応に距離のあるここに訪れるには何らかの目的を以て来る者が殆どであった為、この場所における治安は今も昔も変わらない。

 

 ……故にこそ、他所での生存競争に負けた異常個体、成り立ての〈UBM〉が獲物を求めてやってくる事も珍しくなかったのだが。

 尤も、生存競争に負ける程度の〈UBM〉であれば、多少の被害を出す程度が関の山ですぐに武芸者達に狩られる運命なのであるが。

 

 

 ――だが、今日、この時は違った。

 

 ひ弱な小動物が、下級モンスター達が、命を惜しみ姿を隠し。

 小鳥の囀りすらも、蟲のさざめきすらも聞こえない程に静まり返ったその原野。

 

 そこには、たまに見る様な敗北者である〈UBM〉の姿――では、なく。

 支援スキルによって一体一体が超級の、神話級の〈UBM〉に匹敵するかそれ以上の実力を持った〈UBM〉が、13体群れを成して進軍していたのだから――

 

 

 

 (――今の所は、順調ですね。謀られたという訳ではありませんでしたか)

 

 そう述懐するのは、〈UBM〉を束ね、その集団の先頭を歩む者……【征討魔将 クオン】である。

 かの信じられない程の力を持つ怪物……化身、ジャバウォックとの契約の期限が過ぎ、自由の身となった彼女は乗せられている事に気付いていながらも、彼女の恨みの対象である今の天地……即ち、【征夷大将軍】の居る将都へ向かっているのであった。

 その際、彼女が最も警戒していた事は――そもそもの、自分達をこの地に再び招き、力を与えてくれた筈の存在であるジャバウォックからの騙し討ちだった。

 ……本来であれば、恩義を感じこそすれ疑心を抱く必要すらない――と言えるのは、親切顔で近寄り、背後から騙し討ちをされた事がない者だけである。

 そして、その経験こそ彼女、【クオン】の最も心に残る記憶だったのだから。

 その記憶が未だ色濃く残る彼女だからこそ、()()を行った当時の天地の者達に恨みを募らせ、こうして〈UBM〉にまでなり復讐を果たそうとしているのだ。

 

 感謝の念が全くないという訳ではない。だが、彼も何らかの目的を以て彼女達を蘇らせているのは間違いないのだ。

 それが何かは、如何な彼女でも分かる筈がない。

 ……まぁ、己を、〈UBM〉を、圧倒的に強大な力を持った存在をただのカンフル剤として使っている等とは分かる筈がないのだが。

 それでも、此処までくれば、()()()()()は己が目的を邪魔するつもりはないのだろうと考える事くらいは出来る。

 ならば、相手の準備が整う前に、遥かな力を持った超常の存在の気が変わる前に、一気呵成に拙速を以てでも悲願を達するのが最善だと考える。

 

 

 ……そんな、ある意味自暴自棄とも言える行動を起こしている彼女ではあったが、配下の〈UBM〉達は特にそれに文句も言わず付き従っている。 

 勿論、彼ら、各々の〈UBM〉にもそれぞれの目的は、ある。

 しかし、元より彼女の目的、行動と言うのは凡その〈UBM〉であれば否を唱える様な事ではないのだ。

 ただ闘争本能により強者との戦いを求める者、悪戯心が悪意が萌芽し人に害為す事を是とする者、獲物として人間を殺し喰らう事を望む者、己が生存を求める者。

 彼女の固有スキルを以てすれば、そして彼女の目的からすれば、それらの凡そは達成できるのだから。

 人里をモンスターを動物と好き勝手戦い食い散らかし、己が力を圧倒的なまでに高め、更に行動を共にする仲間が作られる事で互いの生存性も格段と高くなるのだから……元のモンスターと比べても知能が高い傾向にある〈UBM〉ならば、これに乗らない手はないだろう。

 ……最も、勿論合わない例外も極稀に居るし、それら以外の理由で彼女に付き従っている〈UBM〉も居るのだが、それはさておき。

 

 結果として、今の彼女達は【クオン】を含む、〈UBM〉が計13体という今までにない規模での()()となりながら<府軽山野>を闊歩していたのであった。

 道中で出くわした相手は動物であろうとモンスター(非人間範疇生物)であろうと人間であろうと――それぞれの我欲を満たす為の贄として殺し喰らいながら、後に血を残しながらも将都へ向かって進んでいた。

 

 そんな行動を始めてから、およそ四日であるが――いくらかの犠牲を出しつつも、彼女達は未だ目的(将都)には達していない。

 総じて超音速移動(AGI1万)が出来るかの集団であれば、真っ直ぐ向かえばこの半分も時間があれば将都に辿り着けていたであろうに、だ。

 ……それにはいくつもの理由がある。

 最も、その殆どは生前【征夷大将軍】であった彼女が経験し、想定していた事であるが。

 種族差、能力差による足並みの乱れ。

 粗暴な性格の(〈UBM〉)は律しても尚喧嘩を始め。

 幼稚な性格の(〈UBM〉)はふらふらと輪から外れ。

 野生味が強い(〈UBM〉)は予定していた行路を外れ獲物を狩りに行く――

 

 ……まぁ、このくらいは。

 我の強い〈UBM〉でなくとも、それこそティアンの行軍風景であろうともいくらでもありえる訳で。

 むしろ、理論上の数倍時間が掛かっても、この行軍の中未だ一体たりとも脱落していないのは、【クオン】の手腕に依る所も――

 

 

『――【クオン】』

『――分かっています』

 

 そうして彼女達は時間を掛けた上で<府軽山野>の終端にまで辿り着く。

 次第に瘴気と怨念が――彼女の慣れ親しんだそれが湧き出る地である<不浄の虚>にまで。

 

 且つての幾度にも渡る大戦によって 怨念とアンデッドの温床と化した此処であっても、彼女達〈UBM〉であれば何の痛痒もなく渡る事が出来る。

 むしろ、その瘴気や怨念は彼女達に力を分け与える恵みの風とも言えるが……

 

 

 

 ――()()

 

 薄靄の様に視界を遮る瘴気に紛れて、幾人――いや、幾百を越える人数の気配がこの<不浄の虚>に隠れ潜んでいる事を、彼女と付き人を自任している【無影隔絶 アンシィル】は気付いていた。

 元【絶影】であったが故の感知能力、そして戦の経験と生来の直感、更には()()()()()()()()という考えによって、それは看破されていた。

 

 ――これは、《陰の陣》ですね。私も良く使った物ですが……だからこそ、私には通じません。

 

 それは、【征夷大将軍】が持つ固有スキルの一つ。

 範囲内の己の“配下”全員の気配を薄くし、《隠蔽》状態にするスキルだ。

 状況に応じて使えば待ち伏せに良し、奇襲に良し、包囲に良しと言う良いスキルである。

 

 ……相手が元【征夷大将軍】である【クオン】と、元【絶影】である【アンシィル】を含む怪物達でなければ、の話だが。

 

 

 

 しかし。

 

 

 (……これだけ、という事はないでしょうね)

 

 かの集団の長である【クオン】は、元【征夷大将軍】であるからこそ……それは“罠”であると悟っていた。

 先の【ウォルヤファ】との戦いと、更にあれから経った時間を考えれば、天地の側が既にこちらの戦力の大まかな絡繰りには気付いているだろう、という事を彼女も気付いていた。

 ならばこそ、数多の〈UBM〉とそれを指揮する己を前にして、()()()()()()()()()でどうにかなると、そう思われているとは思えなかったのだ。

 ……勿論、今代の【征夷大将軍】が底抜けに無能の能天気であれば話は別だが、そんな者が【征夷大将軍】に就ける筈もなく。

 

 (つまり、これは見せ札。こちらの行動を誘い、対応して“本命”に嵌める為の一手)

 

 そこまでは、経験の薄い彼女であっても容易く看破出来る。

 問題は――その“本命”とは、一体何か。

 

 それは、この集団に有効打を与えられると考えられる物に他ならないのだが……

 超高火力による諸共にした広域殲滅?

 “将”である私自身を暗殺し集団の瓦解を狙う?

 あるいは――――

 

 

 

 

 

 ――そう、思考し始めた刹那。

 

 彼らの野生の直感にも、超級の感知結界にも、感知系のセンススキルにも引っかからない何かが――背後に突然現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (――そちら(暗殺)ですか! 甘く見られましたね――)

 

 出現の、攻撃の直前まで全く気配がなかった――そんなの、当然だが元【絶影】である【アンシィル】が居る時点で()()()()()()

 その為に知恵袋であり卓越した術師でもある【アル・マグナス】と【ホロゥラストル】には防御魔法を絶やさぬ様に頼んでおいたから。

 対物理防御、対魔法防御、対状態異常防御まで含めた非常に高い強度の多重防御障壁魔法。

 それを貫いて、更に〈UBM〉の生命力(HP)を削り切るか、あるいは元々高い耐性を抜いて致命の状態異常に掛けるか、傷痍系の状態異常で殺すかとなるが――

 

 身近であったからこそ、彼女達はそれは()()()であると知っている。

 そもそも、それらは極限まで鍛え上げられた攻撃に特化した超級職にしか不可能な領域の攻撃。

 しかし、そもそも【アンシィル】の感知系スキルや【アル・マグナス】の感知結界から逃れるには【絶影】等の隠密・隠蔽に特化した超級職でなければならないのだから――その二つが、両立できる訳がないのだと。

 

 

 (返す刃で、今代の【絶影】を葬り去って見せてくださいッ!!)

 

 念話で配下達に指示を出しながら、叶わないまでも防御の体勢を取ろうとする――

 

 

 

 

 

 しかし、【クオン】は、二つ、致命的な思い違いをしていた。

 

 

 一つ目は……彼ら、天地のその者が感知系のスキルや感知結界をすり抜けたのは【絶影】等の超級職に依る物ではないという事。

 それは、奇しくも【傾城九尾 ウォルヤファ】を斃した時と同じ物。

 自分のみならず、少人数であれば他者をも同時に覆い包み隠し気配を姿を完全に闇に紛れ隠れる【夜隠外套 ニュクス】の必殺スキルによる物だったという事。

 

 それによって防御態勢をしていた彼女達の前に現れたのは――三人。

 闇色の外套を広げ静かに降り立った小柄の少女。

 地に両手を着いた鍛え上げられた身体をした軽装の壮年。 

 そして――

 

 

「――《天華賦分》」

「さぁ、いざいざ汝らの真価を見せてみよ――《無完の試練(ダイダロス)》」

 

 

 二つ目の思い違い。

 それは、〈UBM〉となってしまっていた彼女達には予想できなかった事であるが、彼らの目的が暗殺でも攻撃による致命打を与える事でもなく――ただ、【()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるという事。

 

 TYPE:キャッスル――否、TYPE:ラビリンス、【苦鍛窮宮 ダイダロス】。

 その能力特性は、試練と苦難。内部に入った者に様々な試練を与える事のできるエンブリオであり……

 今回使用するのはその中の機能の一つを特化させた物。

 

 即ち――()()()()

 敵が【将軍】によって指揮・強化されているならば……【将軍】と配下を、配下それぞれを分断し各個撃破すべし。

 【征夷大将軍】による強化(バフ)も乗ったその必殺スキルは、彼らの目論見を外れずに防御と迎撃の態勢を取っていた〈UBM〉達は呑み込まれる事となる。

 

 ……内部には、分断された各部屋毎に既に事前に【ダイダロス】内に入れられていた各部屋で何十人もの<マスター>や実力者達が待ち受けているとも知らずに――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

■<【苦鍛窮宮 ダイダロス】> 第一隔離区画 【征討魔将 クオン】

 

 

 

『……なるほど。これはやられましたね』

 

 強固な石壁に囲まれた、それ以外に何もない寂寥な広い空間。

 そんな場所に彼女――【クオン】はたった一体で飛ばされ、そう呟いた。

 

 ――“繋がり”も殆ど切れている。これでは、他の方はもうダメかもしれませんね。

 

 己の、仲間(配下)達の、そして周辺の状況を確認し……物憂げに溜息を吐く。

 

 仲間達との固有スキルによる“繋がり”は辛うじて残っているが、仲間たちの強化も、能力の共有も、念話すらもできそうにない。

 恐らくは、この突然出現した石壁にそういった効果が付属しているのだろうと予想が着く。

 ……最も、それは受けた後だからこそそう予想できるのであって、既に手遅れになってしまっているのだが。

 

 勿論、配下達も彼女の強化が無くても強力な〈UBM〉だと言うのは理解している。

 しかし……相手は多少の〈UBM〉なら確実に勝てるであろう、という数をぶつけてくるに違いない。

 

 

 

 今、【クオン】の眼前に居る二桁を優に越える超級職の武芸者達と同じ様に。

 

 

 

「ほぅ、これは良い鍛錬相手になりそうですね……」

「嗚呼、この恨み晴らさでおくべきか――で、ござるな?」

「お前ら、全員真剣にやれよ? ――あいつは、予想以上にヤバそうだ」

「左様…………来るぞ」

 

 

 

 全く。

 一人残らず戦闘系の超級職がこの数集まって、狙うとは……流石に思っていなかったのだ。

 そう。

 

 

 

 ――まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()とは、悲しい事ですね――

 

 

 

 思考を其処で止め、〈U()B()M()()()()()()()()である【クオン】は戦意を漲らせ、戦闘態勢を取る。

 

 そも、当然の話だ。

 【将軍】である以上、己の存在こそがこの集団の最大の弱点となるのは、最早生前から分かっていた事なのだ。

 だから、経緯はどうあれ間違いなく相手は自分を狙ってくると、そう確信していた。

 

 

 ……ならば。

 それに対抗する手段があるのならば――使わない手はないというのも当然の話だったのだ。

 

 彼女……【征討魔将 クオン】の持つ能力特性は、【将軍】らしく、配下強化と能力共有に特化されている。

 しかし、それは彼女自身が戦えないと言う事を意味する物ではない。

 彼女は既に己が持つ固有スキルのちょっとした応用をする事で――その対象を()()()()にまで及ぼす事が出来るようになっているのだから。

 そして……他者ではなく、自分自身に使うそのスキルの強度は、配下達に使う物とは比べ物にならない。

 【ウォルヤファ】の固有スキルを回収・継承した時の様に、既に相手との“繋がり”が無くともその能力を共有できる程に…………

 

 即ち、此処に居るのは配下が居なければ戦う手段を持たないひ弱な【将軍】では、決してない。

 己の能力値(ステータス)すらも強化し、そして……能力共有と言う一番の武器を失った配下達とは違い、配下達全員から齎された数多の固有スキルを操る――かの集団の中でも()()()()()存在なのだ。

 あるいは、その力を全力で使えば、この強固な石壁も破壊できると思わせられる程に

 

 

 ――さぁ。

 

 ――私が斃れれば配下達は寄る辺を全て喪い、確実に勝利できるでしょう。

 

 ――貴方達が斃れれば、最早私を邪魔する者は居なくなり、この国の者を殺し尽くします。

 

 ――――事此処に至り最早尋常にとは参りません。いざ、死合いましょう――!!

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして。

 天地の興廃が掛かった決戦が始まる――が、()()()()()のメインでは、ない。

 ならば、その役者は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

□<【苦鍛窮宮 ダイダロス】> 第五隔離区画

 

 

 

「――ひゃっはー! ()()()()だよ!」

 

「「「「「ヒィヒャッハァァーッ!!」」」」」

 

「てめぇら、気張って行けよ。こいつぁ()()になるぜぇ!」

 

「皆さんのテンションには流石に付いていけません……」

 

 

 決戦の中の、ほんの一幕。

 

 テンション高く対峙するのは、数十人からなる<マスター>の集団。

 

 相対するは、狼狽える二体の小鬼の〈UBM〉。【双天翻弄 エドラ・リンデル】と【双天奔放 エメル・リンデル】。

 

 そして――その後ろで何を思うのか、睥睨する様に浮かぶ魔導書の〈UBM〉。

 【禁忌魔本 アル・マグナス】――――

 

 

 ()()()()()()()()()()()U()B()M()〉であるそれとの決戦が、今始まろうとしていた――

 

 

To Be Continued…………

 




ステータスが更新されました――――

《天華賦分》:アクティブスキル
 【征夷大将軍】の固有スキル。
 配下一人のスキル一つの効果を強化する。
 強化する倍率は自身の配下の実力(リソース)の総計に応じて向上していく。

 今回は【ダイダロス】の必殺スキルを強化する事で【クオン】の配下強化共有スキルを絶てる程に【ダイダロス】の隔離機能を強化する形となった。
 尤も、それで尚【クオン】の強化スキルを絶ち、強度も〈UBM〉を閉じ込めるのには十分な程にする為に【ダイダロス】の隔離区画は合計で6つまでとなる。
 単体で閉じ込められる【クオン】を除き、一部屋で〈UBM〉が2~3体。
 ……<マスター>や武芸者達なら、それでもなんとかしてくれると信じたい。

【死鳥挽歌 レフェイネス】
種族:怪鳥
主な能力:鎮魂
現在到達レベル:45
発生:デザイン型
作成者:ジャバウォック
備考:逸話級〈UBM〉。
 前章エピローグ後の時間から【クオン】達が勧誘に成功した唯一の〈UBM〉。
 正月イベントで登場した【告死凶鳥】の正統進化系?の〈UBM〉。大体ジャバウォックの思い付き。
 綺麗な呪われた歌声で生ある者を死者と化し、そして死者の怨念を浄化し鎮める能力を持っている。
 そして最終的には世界に怨念を生み出す者は居なくなるだろう……生者も生きていれば怨念を吐き出すからね、仕方ないね。
 身体的ステータスは〈UBM〉としてはかなり低い部類。
 出番はないです。




 ……はい、今話も最後までご覧いただきありがとうございました!
 やっと、クライマックスフェイズです……
 次話以降のクライマックスは今章クライマックスというだけでなく、第一部天地編クライマックスとも言える物なので、頑張りたいと思います。
 また不定期にならない様にしなければ。

 それでは、次話以降もよろしくお願いします! 

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