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むかーし昔、その昔。銀河英雄伝説ⅦというMMOがあったとさ。
完成度20%未満で有料販売し、ユーザーの不満を爆発させたまま空中分解したそうな。
「銀河英雄伝説VII」,突然のサービス停止(2005/04/14)
銀河英雄伝説VII カスタマーレビュー
↑100%で完成していれば神ゲーだったんだけどねぇ……
今からはじめるのは、その銀英伝Ⅶのクローズドβテストの昔話。
銀河英雄伝説Ⅶ世界の文字通り全てを巻き込んで、やりたい放題に暴れた物語。
***
さて、親友Mという男がいると思って欲しい。一言で彼を説明するなら、根本的な思想や理論立てが、限りなく俺に近い人間だ。俺がもう1人いるような感じ。俺もMも銀英伝が大好きで、MMOのクローズドβテストが始まるというニュースに喜び勇んで申し込んだものだ。
銀河英雄伝説Ⅶは、少数の原作キャラと多数のオリジナルキャラが混合するMMOだ。
原作キャラを引き当てるには、商店街のガラガラくじで1等を引き当てるかのような運の良さが必要だった。原作付きのMMOだから、その辺は仕方ない。
クローズドβ開始初日、俺は当選垢でログインして思いっきり仰け反った。
モニタ画面には、自キャラとして「ダスティ・アッテンボロー」が映っていた。
ダスティ・アッテンボロー
Mの方は、アンスバッハ。得意技は上司の死体に隠した銃による不意打ちアタック。
原作キャラとはいえマイナーなキャラだったことにMは不満そうではあったが、それでも帝国軍に配属されたことは幸運だった。なにしろ、その時点では軍の配属は完全なランダムで、選択の余地が無かったからだ。
俺は心底同盟軍が好きで。Mは帝国軍に魂を捧げていた。
そんな2人が、同盟軍と帝国軍、しかも2人とも原作キャラ当選。
これが一体、何を意味するのか?
銀河英雄伝説Ⅶの別名は、「永田町MMO」だった。
賄賂、ごますり、派閥、下克上……その他あらゆる手練手管が要求される、ドス黒い人間模様が階級制や命令系統と共に組み込まれている恐ろしいシステム。
俺とMは原作キャラの知名度を利用して、率先して両軍の連絡網を作りあげた。
IRCとゲームチャットを活用して、軍全体を牽引する発言力を得ることに繋げていく。
銀英伝Ⅶでは、基本的に艦隊はごく限られたメンバーにしか与えられない。艦隊メンバーに選ばれなければ、戦場では戦艦1隻を駆るだけという惨めな話だ。しかし、俺の自キャラはアッテンボロー。常駐している事もあって、最優先で艦隊を受領することができた。
艦隊を扱う機会すら滅多に無い初期の頃から、俺は艦隊戦に熟練していく。
戦場で罵詈雑言を敵に浴びせるロールプレイも忘れない。
やがていつしか、俺とMは同盟と帝国を仕切る存在となっていた。
俺が同盟のトップ、Mが帝国のトップ。
笑いが止まらない俺とM
ある時、奇妙なことに気がついた。銀英伝Ⅶの開発スタッフが、巧妙に偽装して潜入している。例えば、同盟軍にはプログラマー。帝国には、運営サイド……多分、ゲームマスター。
そこで俺達は一計を案じた。内部スタッフが巧妙に潜入しているのなら。
……そっと近づき、巧みに話しかけ、仲間として取り込めばいい。
「クローズドβをより盛り上げるために、エンターティナーに徹したい。そうすれば、より多くの人がテスターとして参加し、銀英伝Ⅶは盛り上がることだろう。……だから、次回のキャラリセットの際に、『誰がどのキャラになるのか』を決めさせては貰えないだろうか?」
裏事情はあった。原作キャラに当選したテスターがアクセスせず、どうにも盛り上がりに欠けていた。常連に限ってオリジナルの弱キャラばかりで、Mのアンスバッハすら貴重な原作キャラだった。だから、常連プレイヤーに艦隊司令級の原作キャラを割り当てる事で、「いつログインしても原作キャラがいる」のなら、自然とログイン数向上に繋がるだろうという戦略だ。
しかも、それを陳情しているのは実質的に両軍を指揮している2人である。
クローズドβということもあってか、運営はあっさり折れて、俺とMに「原作キャラクターを常連プレイヤーに分配する権利」が与えられた。俺とMはそれを受け、慎重に常連をリストアップし、それぞれの個性に相応しい原作キャラクターを分配していく。
M「俺はビッテンフェルトになるよ。Rapは?」
俺「……ヤン・ウェンリー!」
それから数日後のキャラリセットを経て。
俺は、本当にヤン・ウェンリーになった。
――さて。本番と行こうじゃないか、ユリアン。
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