それでは第二話、どうぞ
___暖かくね
「__問おう。君が私のマスターかね?」
皮肉気な笑みを浮かべながら、紅き武人は問う。
「ぁ…あぁそうだ、僕が君のマスターの衛宮切嗣だ。」
「衛宮…切嗣…」
「早速ですまないが幾つか質問がある。君はブリテンの騎士王、アーサー・ペンドラゴンで間違いはないね?該当するクラスは、セイバーだと思うんだが…」
するとそのサーヴァントは、ふむ、と呟き少しだけ困ったような顔をした。
「あー、マスターそれなんだがね。」
「なんだ?」
「察するに、君たちはアーサー王を召喚するつもりだったらしいが、残念だが私は私が生前アーサー王であったと記憶していない。ついでに言わせてもらうならばセイバーですらない。」
「なっ…!」
こいつは今、なんと言った!?召喚に失敗したのか!?だが召喚に使用したのはあの聖剣がの鞘だ。彼の騎士王を召喚するのにこれ以上の聖遺物があるだろうか。
「…じゃあ君の真名とクラスを聞かせてくれないか?」
戸惑いを隠しつつ、落ち着いた声で再び切嗣は問う。
するとサーヴァントは再び、ふむ、と呟き同じように少しだけ困ったような顔をした。
「度々申し訳ないのだがねマスター。どうやら召喚に不備があったらしい。生前の記憶が霧がかかったように思い出せない。従って真名すら思い出せない。クラスはどうやら今回はキャスターとして召喚されたようだ。」
切嗣は顔をしかめた。真名が思い出せないだと?そんな馬鹿な話があるわけ…
ふと、切嗣は己の手の甲にある令呪を見つめる。
(ダメだ…こいつはこんな下らないことに使うべきではない…)
キャスターの方を見てステータスの確認をする。
(どれも平均かそれ以下…それにこいつ、キャスターのくせに魔術のランクも特別高くもない。だが…)
「まぁ真名に関しては思い出したら聞かせてもらうとしよう。キャスター、ならば君の宝具について聞かせてもらおう。」
そう、宝具だ。どんなにステータスが恵まれてなくても宝具さえ強力ならば大きな問題にはならない。いやむしろ、宝具さえ強力ならば聖杯戦争においては大きなアドバンテージになる。
「その件なんだがねマスター。残念なことに私は宝具すらも思い出せないんだ。」
すまないがね、と言うと再び皮肉気な笑みを浮かべた。
「貴様…!!」
ふざけるな、と怒鳴ろうとするとアイリが後ろから手を握る。
「落ち着いて切嗣。確かに私たちは本来召喚する予定だったアーサー王は召喚できなかったわ。でもキャスターだって、聖杯を掴むために召喚に応じたサーヴァントじゃない。きっと力になってくれるはずよ。そうよねキャスター?」
「そちらの貴婦人のほうがどうやら話がわかるようだ。勿論だとも。君たちが聖杯を望む限り、君たちの邪魔をする敵は私が蹴散らそう。それに…」
キャスターはアイリから切嗣へと視線を移す。
「見たところ我がマスターは正面から敵を打つようなタイプではないと見た。生憎私もそちらの戦い方の方が好ましくてね。その点に関してはどこぞの騎士王よりも君には私の方が相応しいと思うが。」
どうかね?と言わんばかりにこちらを見る。
「ふん、まぁいい。そういうことならば僕もそのほうが助かる。だがキャスター、君が僕たちに何か隠し事をしている限り、僕は君のことを信用するつもりはない。いざとなったら令呪だって惜しむつもりはない。わかったか?」
やれやれとキャスターは溜め息をつく。
「了解した。」
地獄へ落ちろマスターと言いそうになったが、これ以上の揉め事はごめんだ。
(私は一体…)
頭でも打ったのだろうか、私の意識は朦朧としていた。
(ここは…柳洞寺か?)
「____!!!」
__なぜ、まだ生きている?
ふと胸部を確認する。
「傷が…消えている?」
(私がまだ生きているということは、桜はまだ生きているのか…)
取り敢えず自身の状態の確認をする。
(魔力_問題なし。宝具_解放可能。外傷_特になし。だが)
ふと、自分の肌を見る。生気はなく、鎧もまた黒く悪の象徴かと言わんばかりに染まっている。
「聖杯とまだ繋がっている…」
やはり桜はまだ生きているということか。だが妙だ。ここは柳洞寺。あれほどにまで溢れていた聖杯の気配が今はしない。
__ここは、私が最後に記憶した柳洞寺ではない。
「ならば一体ここは…いや、それよりなぜ私はまだ生きている…?」
ひとまず、黒き騎士王は柳洞寺を後にした。
ふと、キャスターは城の窓から外を見る。
一面を雪で真っ白にした景色の中には、我がマスターの姿が。
そしてその横には…
「イリヤ…」
「どうかしたの?キャスター」
突然声をかけられ思わず肩をピク、と動かす。
「今何か言わなかった?」
聞かれていなかったか、と思わず息をつく。
「アイリスフィール、あまりサーヴァントを驚かさないでくれたまえ。」
「あら、英霊ともあろう御方が、ただ声を掛けられただけで驚くなんてなんだか可笑しいわ。」
ふとキャスターの視線の先にアイリスフィールも目を向ける。
そこには森のとば口でじゃれ合う父娘の姿が。
「切嗣のああいう側面が、意外だったのね?」
「いや、意外というわけでもないがね。あぁやって見ると、どうやら私は心底マスターに嫌われているらしい。」
満更でもない様子でキャスターが答えると、アイリスフィールは苦笑した。
「えぇ、でもそれって私、あの人があなたに似ているからだと思うわ。なんでも日本ではそういうのを同族嫌悪って言うらしいじゃない?」
ふふ、とアイリスフィールは楽しげに言った。
「ふん、ならば聞くがねアイリスフィール。私とあの男の、一体どこが似ていると言うのかね?」
「そうね、もちろん見た目とかそういうのじゃないんだけど、私はやっぱり目が似ていると思うの。二人とも遠慮なく言わせてもらうと、冷酷っていうか、常に物事の奥を見つめているような感じがするんだけど」
「___その瞳の奥には、常に誰かを思っていて、優しいんだけど、それでいて少し寂しいような___」
「………!!」
「気を悪くさせるつもりなんてないのよ。でもやっぱり私はそう思うかな。初めて私が切嗣と会った時なんて、もっと凄かったのよ?もう本当に、幽霊にでもなりかけてるんじゃないかしらって思うくらい。」
キャスターはなにも言わず、ただ窓の外を眺めている。
「あなたには、あの人はどう見えるの?」
「…そうだな。少なくとも私と似ているとは思えないし、思いたくもないな。」
するとアイリスフィールはそう、と少し嬉しそうにうなずいた。
「__キャスター、お願い。あの人の理想を、願いを叶えてあげて。いえ、あの人の願いは私やイリヤの願いでもある。貴方だけが頼りよ。どうか、お願い__」
なにを考えていたのか、数秒の沈黙のあとキャスターは口を開いた。
「あぁ、全力を尽くそう。」
ただ一言、そう呟き、紅きサーヴァントは再び外を眺め始めた。
__その瞳は、どこか遠くを見つめている。
まさかの本日再び投稿です。
来週はないのかな?うん?
お気に入り登録してくださったかた、本当にありがとうございます。
まだまだ未熟ですが、どうかこれからもお楽しみください。