Prologue
(私は一体…)
頭でも打ったのだろうか、私の意識は朦朧としていた。
先刻の宝具同士のぶつかり合い。火力では我が聖剣が騎英の手綱を上回っていたはずだ。
…ならばなぜ、今こうして私は倒れている?なぜ士郎が、私の目の前でアゾット剣を振りかざしている?
…そう、たしかにライダーの宝具だけではセイバーは倒されなかっただろう。いやむしろ、倒されるべきはライダーのはずだ。しかし、その運命は士郎の投影によりセイバーのエクスカリバーの威力を弱めることで覆された。
(あぁ、そうか…。私は負けたのか。)
刹那、胸に衝撃が走る。
目の前には涙を流す元私のマスター、胸に刺さるはアゾット剣。
(強くなりましたね、士郎)
ただ一言、言葉に出そうとするがそれは今消えようとしていく意識の中で掻き消された。
(それすらも…もう叶わないのですね…あぁ…私は…)
「あ__と__セイ__お前____度も__」
士郎が何を言っているのか、もはや今の私には聞き取れなかった。
…こうして私の第5次聖杯戦争は、幕を閉じる。
衛宮切嗣は今まさに、此度の聖杯戦争で己の使い魔にして勝利への最大の鍵となるサーヴァントの召喚の準備に取り掛かっていた。
「ねぇ切嗣、本当にこんな単純な儀式でサーヴァントを召喚できるの?」
「あぁ、サーヴァントそのものを召喚するのは術者じゃなくて聖杯だからね。マスターとなる僕たち魔術師は、サーヴァントを維持できるだけの魔力があればいいんだ。…それにしても」
切嗣は祭壇の上に設置した聖遺物に目を向けた。
「まさか本当に、こんな規格外な物をアハト翁は見つけてくるとはね。」
「これほどの聖遺物があるんだもの。これなら間違い無く彼の"騎士王"を召喚できるわ」
そうだ、これで騎士王さえ召喚すれば、此度の聖杯戦争、アインツベルンの勝利は揺るがないものとなるだろう。
(問題は僕のやり方に騎士王が口出しする可能性があるということだが、大丈夫だろう、策も練っているしね。)
そして切嗣は、水銀で描いた魔法陣に間違いがないか入念にチェックを終え、いよいよサーヴァントの召喚のための詠唱を始める。
「___告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この理にに従うならば答えよ」
描かれた魔法陣に神秘がやどり、光を放つ。
「___誓いをここに。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者___」
側でアイリスフィールに見守られながら、最後の言葉を紡ぐ。
「___汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ_!」
目映い光に包まれ、視界を一時的に失う。
(召喚は…成功したのか?…いや)
間違い無く、そこにいる。通常ではかんがえられないほどの神秘と魔力を纏った存在が、そこに。
「__問おう」
ソレがゆっくりと目を開きながら言葉を放つと同時に、切嗣とアイリスフィールはソレの姿を確認した。だが二人はどこかその者の姿に違和感を覚えた。なぜなら____
「__君が私の」
なぜならソレは、想像していたような騎士や王の格好をしてるわけでもなければ、西洋人独特の顔付きをしているわけでもなく_
__
「__マスターかね?」
それは誰もが考えるような騎士王の容姿には程遠い、紅い外套を身に纏い、白髪で褐色の肌をしていたからだ。
いかがだったでしょうか、Fate/last night の記念すべき第一話兼プロローグ。
私としては「え、これが(いろんな意味で)プロローグ?」としか言いようがありません。
不定期更新になると思いますが第二話を見かけたときは優しい気持ちで見てあげてください。