実力至上主義の教室と矮小な怪物   作:盈虚

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カメラ、貼り紙、電話

 櫛田による同調圧力事件および、不在着信事件の次の日の朝、昨日の夜に忙しく行えなかった龍園・坂柳・平田の通信内容を軽く確認する。

 

 龍園は計画が順調に推移していることから満足しているかと思いきや、決して油断しないように配下たちに命令していた。やっぱり、本質的にはかなり慎重な人なのかもしれない。まったく見た目と合わないが……

 

 坂柳の方はあまり変化はない。幸いな事に封鎖線の事はあまり会話になっていないようだ。まあ、大したことでもないか。坂柳は橋本に配下を増やすように指令を出しつつ、他のメンバーにも偶に連絡を入れているだけだ。

 坂柳は龍園とは違い配下を気にかけているというよりは、様子を見ているといった感じだ。あえて例外を挙げると、神室との通信は少しお遊びがあるように感じた。信頼している部下ということだろうか?

 個人的には龍園の方が配下の心を掴んでいるように思える。この辺りは、見た目的に美少女の坂柳に軍配が上がるかと思っていたので意外な点だ。

 

 最後に平田だが……あまり目新しい情報は無かった。これは平田用のシステムがちょっと弱いためメールと一部のメッセージアプリ以外の傍受ができていないからという技術的な理由もある。あるのだが、想像より通信量が少ない気がする。

 具体的に言うと、通信の中身はちょっとした小話程度で、重要な情報はあまり流れていない。これでは普段の俺との会話の方がまだ重要な事を言っている。平田にとっての参謀候補は俺と櫛田しかいない。その上、櫛田は思った以上に平田とは親しくはない。そして俺は意欲と能力が欠けている。

 つまり平田にとっての参謀などいないに等しかったのだ……監視カメラで見たAクラスの葛城もこんな感じだった。いや、まあ、あちらはDクラスよりも平均してレベルが高いのだが……1人の長が全部やっているという点は近い気がする。

 

 

 通信傍受の結果をまとめた後、日課となっている椎名のメールを適当に処理し、井の頭からのメールを見つけた。何だろう?

 タイトルは『昨日はごめんね』となっていた。本文の方は『あと、櫛田さんと王さんが赤石君を買い物に巻き込もうとしてるよ。気をつけてね』と書いてあった。ちなみに謝罪の理由は書いていなかった。ふむ?昨日、山菜定食でキラーパスを投げた件だろうか?うむ、よいぞ、友よ。許す。でも次はちゃんと櫛田に中指を立てて拒否するのじゃぞ。

 しかし流石は井の頭だ。なんとも恐ろしい情報を教えてくれた。あの2人は中間試験以降何かと絡んでくる。今回は……きっと俺を財布のように使う気だろう……若しくはショッピング会話の生贄か……どちらにしろ断った方がいいだろう。あ、でも櫛田に媚を売るには受けた方が良いのか……?うーん、どうしたものか。

 一応、井の頭に返信をしたところ、日曜日は王が忙しいので恐らく土曜日に買い物に行くと言う事が分かった。ふむ、この路線で行くか。

 

 

***

 

 

 登校後、教室に入る前に櫛田に捕まった。教室前の廊下でずっと準備していたようだ。

 

「赤石君。おはよ!」

 

 いつもの清く明るい櫛田だ。ちらりと周囲を見ると王も堀北もいなかった。やはりあの2人がいないと櫛田は安定している気がする。いや、まあ、不安定櫛田はまだ2回しか見てないから、法則性が正しい根拠などないのだが。

 

「おはようございます。櫛田さん」

 

 適当に挨拶をして、さりげなく教室を目指す。しかし、素早く腕を掴まれた。やめろ。

 

「赤石君。実は今度の休日、みーちゃんと心ちゃんとショッピングに行こうって話になったんだけど。男の子の意見も聞きたいから……赤石君も一緒に行かない?」

 

 やだ。

 

「楽しそうでいいですね。……ただ、休日ですか。すみません実は土曜日は先約があるので、俺が参加できるのは日曜日になると思いますが、どうでしょうか?」

 

 井の頭ナイスじゃ。これで櫛田はきっと「そっかー、日曜日はみーちゃんが忙しいから、無理そうだねー」となるはずだ。完璧だ。しかし、櫛田は何故か笑顔で俺の提案に答えた。

 

「うん!良かった。実は私たちも土曜日は忙しいから、日曜日にしようと思ってたんだー。じゃあ、赤石君、日曜日の10時に集合でいいかな?」

 

 よくないよ。というより、待って、え、何で?もしかして井の頭が俺を売った……?いや、そんなはずが……なぜだ……

 

「ええ、大丈夫です、はい」

 

 まさかの展開だ。いや、まあ櫛田に媚を売ったと考えれば……ありか……?まあ、櫛田もクラスメイトを財布扱いはしないでしょ。うん。というより、俺は軽井沢が櫛田にポイントを借りているのを見た事がある。たぶん櫛田は奢らせたりはしないだろう。問題は王だが……あいつはドヤ顔させてれば満足するだろう。よし、頑張ってドヤ顔に耐える練習をしておこう。

 

 

――この展開が思わぬ事態を招くのだが……それは明日の夜になるまで分からない事であった。

 

 

 

***

 

 

 

 午前の授業を消化してお昼休みとなる。これまでの事態から教室で留まるのは危険だと予想される。よって、俺は授業終了と共に素早く離脱し、校内の休憩スポットへと向かう。中庭ほど広くは無いが飲食が許されているエリアが校内にはいくつか存在する。そこで昼飯を食べるというのが新たな生存戦略だ。

 

 スタスタと歩いていき、休憩スポットに到着する。ここはかなり穴場のスポットのようで、上級生と思われる生徒が1人いる程度であった。まあ、監視カメラで前もって人がいないエリアを調べただけなんだけどね……

 

 上級生を避けるように適当な所に座る。そして、家で作ってきたおにぎりを頬張る。うむ。静かで良い空間だ。ここを新たな安住の地と定めよう。今まで、永住の地は椎名・佐倉・櫛田・王といった数々の侵略者たちにより灰燼と化してしまった。ここだけでも平和であってほしいものだ。

 ここにいた上級生も俺の事を一度は視界に収めたが、それ以降気にしている所作は見えなかった。うん。風流を分かっている人だ。きっと静かで穏やかな人なのだろう。声はかけたりはしないが、気が合うだろうな。そうやって、2人で安住の時間を過ごしていく。うーむ、良い日だ。

 

 そんなことを考えていたのだが……軽薄そうな男の声が響いたとき、俺は、まただよ、と思った。

 

「あれ、石倉先輩じゃないですか。こんな所で何をやってるですか?」

 

 どうやら、誰かがここにいた俺の相棒、じゃなくて上級生に声をかけたようだ。声は比較的大きく、おにぎりを食べることに集中している俺の鼓膜まで響いてくる。うるさいぞ、平穏の地で大きな声を出すんじゃないパツキン。

 

「……南雲か」

 

 石倉は詰まらなそうに答えた。

 

「どうも、お久しぶりです。最近はどうですか」

 

 丁寧な口調だが、なんだか、変な感じだ。

 

「さっきまでは普通だった。お前が来てから不調だな。だから早くクラスに戻れ」

 

 ん……なんか、この石倉先輩にシンパシーを感じる。なぜだろう。

 

「はは、厳しいですね。俺は先輩とまた会えて嬉しいですよ」

 

 媚びた笑みというよりも、挑発するようなニヤニヤとした笑い方だ。やはり、この南雲は丁寧な喋り方だが、根本的に人を舐めてる気がする。

 

「心にもない事は言わない方がいい。……で、何か用か?」

 

「いえ、偶々見かけたので、ご挨拶に、と思いまして」

 

 そう言って南雲と呼ばれた男は軽く頭を下げた。なぜだか、その仕草は敬意よりも悪意を感じた。なんだろうか?あえて言うと龍園に似ているが、それとも少し、いや根本的に違う気がする……なんとも変わった人だ。どこかで見た気がするのだが思い出せない。たぶん1年生ではない。おそらく、この南雲も上級生なのだろう。ということは南雲が2年で、石倉が3年か?

 

「そうか、じゃあな」

 

 そう言って石倉は会話を終わらせようとした。うん。俺のリスペクトする先輩に石倉先輩を入れよう。しかし南雲はさらに食いついた。

 

「いえ、それとあと1つ、堀――」

「待て、その話は今はいい」

 

 石倉は南雲が何か話そうとするのを途中で抑えた。なぜかこちらの方に2つの視線を感じた。ふむ。あとで監視カメラチェックじゃ。あと石倉と南雲も調べとこーっと。

 

 話を遮られた南雲は最後に石倉に挨拶すると去っていた。石倉も南雲が去るとこちらを一度鋭く睨み去っていった。ちなみに俺は石倉が睨んできた時も呑気におにぎりを食べていた。俺の知らない揉め事は俺の知らない所でやってくれと言いたい。

 

 

 

***

 

 

 

 教室に戻り、午後の授業を受けた。そして放課後となったところで事件が発生した。

 

――櫛田が佐倉のカメラを破壊したのだ。

 

 よく見ていなかったため状況は分かりにくかったが、なんか周囲の状況を見ると櫛田が佐倉に声をかけて、佐倉が逃げ出して、本堂と衝突して、カメラが壊れたらしい。櫛田がやったか微妙な所だが、近くにいた綾小路が櫛田と佐倉をじっと見ていた。綾小路の謎の策略か?綾小路が佐倉のカメラを破壊したくなって櫛田を使った……とか?いや、佐倉のカメラを破壊したいという前提が色々と成り立っていない気がする。

 しばらく3人の動きを目で追っていたが、なんか今度は須藤が少し不機嫌そうなオーラを出して、高円寺が唐突に須藤に語り出した。あ、これ、危険な流れだと思い、俺は素早く教室を離脱した。俺が離脱した後、現場はどうなったか分からない。けど、須藤と高円寺のガチムチ殴り合いが発生してそうな気がする。

 

 

 そんなこんなで事件に事件が重なりそうなDクラスから逃げ出し、真の安寧の地である寮の自室に戻る。

 そして、お昼に出会った2人について調べる。まずは休憩スポットを捉えていたカメラにハッキングして様子を見る。どうやら、予想通り南雲と石倉は俺を見ていたみたいだ。ただ、俺個人を見ているというよりも部外者を見ているといった感じだ。現に、南雲が現れるまで石倉は俺の事を意識しているような素振りは監視カメラからは確認されなかった。

 せっかくなので、昨日から今日にかけて考えた、新型の個人追跡システムを使う。これは従来の画像認証に頼らない画期的なタイプだ。……というより、昨日人工衛星にアクセスして思ったのだ。GPS追尾した方が、画像認証より楽じゃん、と。俺はどうやらかなりアホだったようだ。あんな重い機能を作らなくても個人の端末を追えばいいじゃないか……いや、まあ、端末を携帯していない相手には画像認証が有用だし、人工衛星アクセスは少しコツがいるから無意味では無かったのだが……一応、一般生徒向けに番号の知っている相手の現在位置を知る機能もあるのだが、あれはサーバーに履歴が残りやすいので使いたくない。

 まあ、いいや。とにかく追跡システムで2人の、正確には2人の端末の移動の履歴を追っていく。あ!石倉、お前、GPSをOFFにしてるじゃねーか。仕方ないので石倉は従来の画像認証を使用し居場所を追尾する。やはり画像認証システムは重要だったようだ。

 2人のこれまでの行動履歴を見ての予想だが……どうやら、2人は何か怪しい事をする仲間のようだ。公的な場所では滅多に会わないが、人が少ない場所では何度か会い、そして数分程度何かの密談をしているようだ。また、南雲に関しては、現生徒会副会長のようだ。どっかで見たと思ったら生徒会だったか。あれは堀北兄が目立ちすぎてて他を覚えられないのだ。石倉の方は3年Bクラス在席のようだ。うーん、ちょっと陰謀の香りがするが、あんまり興味がない。というより俺は無人島試験で忙しいから、この人たちに関しては適当でいいや。

 一応、陰謀の相談をしていると思われるタイミングでカメラの録音データにギリギリ引っかかったものをコピーしておく。2人ともカメラの向きは気にしているようだが、集音半径についての勉強は少しだけ甘かったようだ。まあ、俺が作った専用のソフトを通さないとあそこまで音を聞き分けられないから本来は2人の行動は間違ってはいないのだが……

 

 

 最後に南雲の方の端末にはおまけとして、スパイウェアを入れることにする。隠密性重視の実験的なもので、初投入だ。まあ、別にたいして重要な事ではないので練習程度のつもりだ。色々と不備もあると思うので、南雲相手に使って、不備を直したら、坂柳や龍園といった面々に使っていきたいところだ。

 ちなみに最大の不備は感染方法だ。現在の方法では個人の端末に直接感染させるのは少し面倒くさい。いっそのこと、学内のポイント供給装置を感染させて学内の生徒全員にスパイウェアを散布するか……?いや、さすがに学内のシステムそのものにスパイウェアを発覚せずに仕込むのは骨が折れそうな気がする。それにまだこのスパイウェアは未完成だ。とりあえず、今は対個人用の新兵器として考えておこう。

 

 監視カメラを使い現在の南雲の動向を追う。――いた!ちょうど喫茶店で女子生徒と談笑しているところだ。うん、結構良いタイミングだ。

 ハッキングを敢行して、喫茶店の会計システムにアクセスする。各レジに干渉を行い、いつでも単発式のスパイウェアを放てるようにする。これで準備は整った。後は南雲がレジで会計を行うときに学生証端末にスパイウェアを送るだけだ。……南雲が女子生徒に奢って貰ったらどうしようと思ったが、南雲は腐っても生徒会副会長だ。まさかヒモではあるまい。

 

 ……それから数十分後。いや、長いよ。お前らいつまでイチャイチャ雑談してるんだよ。見てるこっちが退屈だ。自動化システムがほしいな。……画像認識を使って南雲がレジ前に来たら通知音でも出す方が良かったか。そう考えているようやく南雲と女子生徒が立ち上がり会計へと向かった。

 南雲!ここまで俺を待たせたのだから、絶対にお前が払えよ。……俺の祈りはなんとか通じ、南雲が会計を払った。払う瞬間、レジからスパイウェアを流し、無事ウイルスは南雲の端末へと潜んだ。ふー、ようやく終わった。なかなか面倒であった。うーん、監視カメラを見ながら手作業でやるのは面倒だな。なんとか短縮化できないだろうか……理想はこちらがクリックしたら相手の端末が爆発するぐらい単純だといい。ただし、俺がやったことがバレない前提だ。つまり隠密重視だ。うーん。なんか閃きそうなんだが……

 

 

 その日は新しい対個人用の情報入手方法について悩みながら眠りについた。

 

 

 

***

 

 

 

 翌日の金曜日は平穏な日であった。これまでの混沌とした4日間が嘘のようである。この日は朝も昼も夕方も事件なく終えることができた。あえて問題点を挙げるとすると2つの不思議な出来事を見た程度だ。

 

 1つ目は朝から綾小路が一之瀬とイチャイチャしながら登校してきた点だ。流石は綾小路だ。手が速い。堀北に櫛田に一之瀬と見事に学年の美少女を狙い撃ちだ。

 

 2つ目は放課後、下駄箱の近くの掲示板に神崎とBクラスの何人かが工作を行っていた点だ。

 気になったので神崎達が去った後、掲示板の中身を1つずつ自然な動作で覗き見ていく。適当に部活動の紹介文などを流し読みした後、本命の神崎達が貼ったと思われる貼り紙を見た。どうも須藤事件についての情報提供を呼び掛けていた。また情報提供料も払うとあった。

 

 はて?なぜBクラスの神崎達がこんな事をやっているのだろうか……?

 

 

 寮に戻った後、怪しい神崎達を調べるためBクラスの監視カメラの精査を行った。最近は忙しくてあまり一之瀬と葛城へのチェックを行っていなかった。

 Bクラスは明け透けなクラスであるため、調べた所、すぐに事情が判明した。午前のホームルーム前に一之瀬がDクラスへの協力を呼び掛けていた。一之瀬が言うには昨日(木曜日)の放課後に堀北と綾小路と遭遇したらしい。そして、一之瀬は2人に協力したい事、学校側が想定していない不正な行為を見逃せない事、もし協力してもいいと思う人がいたら協力してほしいという事を伝えた。一之瀬のスピーチは皆拍手をもって迎えた。

 

 ちょっと、いや、かなり龍園に似ていると思ってしまった。見た目や雰囲気、喋り方は全然違うのだが、根本的に龍園と一之瀬は似ているような気がした。全然似てないけど。でも似ているように感じた。

 一方、龍園と違い強制力が無い為か、協力者はそこそこといったところだ。Bクラスのメンバーは一之瀬は好きだけどDクラスに対して頑張るのは違うといった感じだ。意外だったのは協調性Dと散々な事を書かれ続けている神崎が積極的に参加した点だ。もうこいつ協調性Bでいいよ。普通のスペックが高いよ。平田級だよ。

 そして最後に、素晴らしい事に一之瀬の方はネットワーク上の掲示板を使って情報を集めていた。匿名可かつ報酬有りという信じられない程豪華な宣伝だ。櫛田から資金回収をしようと思っていたが、一之瀬でも良さそうだ……後日、彼女に暴力事件のデータを送っておこう。

 

 

 Bクラスへの諜報活動を終えた後、無人島試験用の3Dマップを改良していると、櫛田からメールが届いた。なんだ?今度は誰と仲が良いと勘違いしたんだ、と思い見ると……なんか、日曜日に買い物に行けなくなったというメールだ。どうやら、佐倉と綾小路と一緒にカメラを修理するらしい。なるほど、綾小路の両手に花作戦だな。キャットファイトのピンチをハーレムのチャンスに持っていくとは、なんとも凄まじい男のようだ。でもナイスだ。これで櫛田との約束はチャラだ。

 そう思っていたが、なぜか櫛田からの文はまだ続いていた。スクロールさせていくと……何を思ったのか櫛田から王は任せた(意訳)という怪文が添えられていた。ちなみに井の頭も忙しくていけないという情報が添えられていた。いやいや、井の頭の事前予想と真逆の展開になってるんだが……

 困ったので、井の頭に電話する。友よ。ちょっと疑ってるぞ。

 

『もしもし、赤石君?』

 

「友よ、裏切りじゃぞ」

 

『じゃぞ……?』

 

 じゃぞは駄目か……

 

「井の頭さん、なんか、櫛田さんから王さんと2人で買い物に行くように指令が来たんだけど……なんでこうなってるの?」

 

 仕方ないので普通に聞く。

 

『じゃぞ…………?』

 

 じゃぞは井の頭的には許されないようだ。次は気をつけよう。

 

「いや、それは忘れて」

 

『うーん、なんか昼休みと放課後に色々あってね。まず昼休みに櫛田さんが王さんを説得して無理やり日曜日に都合を合わせたみたい。それから放課後に佐倉さんのカメラが壊れちゃって、櫛田さんが行けなくなったから、中止って話になったんだけど……王さんと2人で行くの?それは私も聞いてない』

 

 櫛田の奴が謎の陰謀を仕掛けてきたようだ。やっぱり櫛田もよく分からん奴だ。Dクラスは綾小路といい櫛田といい変な奴が多すぎるだろ。

 

「それ本当?というより、なんか王さんが日曜日行けないって聞いて日曜日に暇アピールしたんだけど、なんで櫛田さんは日曜日にしたの……?」

 

『櫛田さんは赤石君が参加したくなさそうにしてるのに気づいてるみたいだがら、赤石君の予定に合わせたんだと思うよ。それより本当に王さんと2人で行くの?』

 

 井の頭は少し不満そうだ。まあ、井の頭からすると櫛田に嘘を吐かれたことになる。櫛田を肉盾としている井の頭としては信頼されていない事は不安であり、不満だろう。俺も同じ立場なら、おいー平田ー、ってなる。

 

「行きたくない」

 

 正直に告白する。

 

『……行くの?』

 

 行きたくない。

 

「す、すっぽかしたら怒るかな……?」

 

『誰が?』

 

「櫛田さん」

 

 それ以外ないよ。

 

『その答え方の時点できっと王さんは怒るよ。あと櫛田さんは結構、約束事を大事にするタイプだと思うから怒ると思うよ』

 

 王は怒るかなー?あ、でもアイツ中間試験の打ち上げの時も睨んできたからな……あと櫛田も普通に怒るのか。やだなー。

 

「ぐぬぬ、行きたくない。というよりなんで井の頭さんには中止って伝えたの?もしかして、俺と井の頭さんが繋がってるってバレてる?」

 

 結構重要な点だ。バレてないと思ったが、俺の仕草が駄目だったかも。ごめん。

 

『それはないと思うよ。……櫛田さんは、――ううん。やっぱりいいや』

 

 良かったセーフだ。でもなんか言い淀むと気になるんだけど……

 

「待って、待って、それすごく気になるやつ。教えて教えて」

 

『いいけど……たぶん、王さんと赤石君を2人きりにしかったんだと思うよ』

 

 櫛田はただの鬼畜だった……?

 

「櫛田さんの新手の嫌がらせ?」

 

『そういうわけじゃないと思うけど……』

 

 自覚が無いという事はナチュラル畜生か……まあ櫛田の人格論議は置いて、話を進めよう。

 

「でも、井の頭さんだって王さんと2人きりなんて嫌でしょ」

 

『……確かに、…………私も一緒に行こうか?』

 

 来て!

 

「来て、来て。一緒に王のドヤ顔への怒りを分かち合って」

 

『あ、私はあの顔そんなに嫌いじゃないけど……』

 

 ……なん、だと

 

 

 それから、軽く小話を挟み、井の頭との通信は終わった。この後、井の頭が王に電話をして、上手くやっておいてくれるらしい。うむ、井の頭も来てくれるなら、結果として考えると悪くない買い物時間になりそうだ。

 

 

***

 

 


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