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姉に手柄を横取りされていた天才錬金術師、「出来損ない」と言われ、実家から追放されてしまう〜今更、私の才能に気付いたと言ってももう遅い。隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送ります〜

『出来損ないは、レイベッカ伯爵家に必要ない』


 思い起こされる父から告げられたその一言。

 底冷えた声音で突き付けられた勘当の言葉を、頭の中で反芻しながら、私は十年以上暮らした屋敷へと一度振り返り、そして背を向けた。


「……私の努力って、一体なんだったんだろ」


 妾の子として生を受けた私————サーシャ・レイベッカは、その出自のせいで周囲から疎まれて育った。

 特に、現当主であり、私の父であるマルクス・レイベッカの正妻であった奥様や、お姉様からの嫌がらせは際限なく受けていた。


 けれど、私が錬金術師の一族であるレイベッカの人間として相応しいだけの能力を備えたならば、きっと、奥様やお姉様も認めてくれるはず。


 そう思って、錬金術の勉学に励んでいたが、私への風当たりが変わる事は終ぞなかった。

 それどころか、錬金術の技術を高めようとも、その全てがお姉様に横取りされ、挙句、父にそれを訴えても、一切取り合ってはくれなかった。

 ただ、恥知らずと侮蔑の視線を向けられるだけ。


 そして結局、こうして家から追い出される事になっていた。


 私の生母は数年前に流行病で他界しており、血の繋がりがある人間は、あの父だけだった。

 だから、他に私が頼れるような人間もおらず、これからどうしたものか。


 そんな事を考えながらあてもなく歩き————十数分ほどしてたどり着いた先は、私にとって馴染みのある場所であった。


「……王立図書館」


 レイベッカ伯爵家は、王家に仕える錬金術師の一族であり、それ故に領地を持たない御家。

 その為、レイベッカ伯爵家は王都に屋敷を構えており、それもあって王国内で一番の書庫である王立図書館が比較的すぐ近くに位置していた。


 家に居場所がない私だからこそ、レイベッカ伯爵家の人間として、錬金術を学ぶために。

 なんて言い訳染みた理由をつけて、暇さえあれば王立図書館にこもって閉館の時間ギリギリまで錬金術の文献を読み漁っていた。


 だから、なのだろう。

 気付けば、王立図書館にたどり着いていた。


「————よう」


 そんな折。

 声が掛かる。


 軽い挨拶のような掛け声。


「今日も錬金術の勉強か?」


 それは、こうして王立図書館に私が入り浸るようになってから、知り合ったナガレと名乗る少年であった。

 彼も錬金術師を目指している人間らしく、錬金術の資料を漁って勉強に励むうち、つい、二年ほど前くらいからであったか。

 度々よく顔を突き合わせるようになっていた彼とは、見掛けたら挨拶をする程度の仲にあった。


「……えと、その、」


 私が錬金術を学ぼうと思った理由は、一応とはいえ、己がレイベッカ伯爵家の人間であったから。

 けれど、もう錬金術を学ぶ理由は私の中にはなく、故に若干歯切れの悪い返事になってしまった。


「……?」

「……私ね、錬金術を学ぶのはもうやめようと思ってるんだ。今日、ここに来たのは偶々って感じ、かな」


 王立図書館には、もう殆ど出向く機会はないだろう。だから、少しばかり悩みはしたけれど、ナガレにそう私は告げていた。


「…………。立派な錬金術師に、なるんじゃなかったのか」

「そう、だったんだけどね」


 顔を突き合わせる機会がそれなりにあった事もあり、彼とは世間話も何度か交わしていた。

 その際に、錬金術を学んでいる理由だとか、色々と雑談程度に彼には話していた。


 だからだろう。

 あからさまに驚かれた。


 ただ、私の表情からそれなりの事情があってその結論を出したのだと察してくれたのか。

 ナガレの声は、比較的控え目であった。


「その理由が、なくなっちゃったから」


 無くなってしまった以上、これ以上錬金術を学ぶ理由もない。

 仮に錬金術でこの先生きていくにせよ、私の実績と呼べたであろうものは全て姉に横取りされてしまっていた。

 実績も何もない小娘を、錬金術師として雇ってくれるところは……まぁ、ないだろう。


 だから、錬金術を学ぶ事を辞めると結論を下した私の判断はきっと間違っていない。


「サーシャの家は……錬金術師の一族、だったか」

「うん。そうだね。ただ、もう『元』がつくかなあ。私、ちょっと前に追い出されちゃったから」


 私がナガレに、何気なくその事情を白状した理由は、誰でも良いからこの話を聞いて貰いたかった。という欲求故だったかもしれない。


 今更何を言っても、変わるわけもないのに、でも、それを愚痴る相手も私には目の前のナガレくらいしかいなかった。


「追い出されたって……サーシャが? 自分の家を?」


 信じられないものを見た。

 そう言わんばかりに瞠目するナガレに対して、どうにか苦笑いを作る事で肯定する。


「まぁ元々、私そんな好かれてなかったからね。寧ろ、嫌われまくってたというか。だからその、錬金術を頑張れば、見直してくれるんじゃないかなって、思ってたんだよね」


 私の腕が、足りなかったのであれば、まだ納得は出来たかもしれない。

 努力が及ばなかったって今よりはずっと、割り切れたと思う。


 でも、その腕すらも、まともに見てすら貰えなかった。挙句、私が精魂込めて作った完成品は、全て姉に横取りされ、私はずっと出来損ない扱いだった。

 だからそれが、どうしようもなく悔しくて。


「だけど……この通り。ダメだったんだ」


 今出来る精一杯の気力を使って、気丈に振る舞おうと、しゃらりと笑う。


「……あぁ、ごめんね。こんな変な事をナガレに愚痴っちゃって」


 だめだなぁ、私。

 そうひとりごちる私だったのだけれど、


「いや、気にしなくて良い。これまでサーシャには錬金術を学ぶ上で何度も世話になってた。どう恩を返したものかって悩んでもいたからな。これで少しでもサーシャの気が晴れるのなら、何時間だって付き合ってやるさ」

「…………ありがと」


 実家の方で、心ない言葉を向けられてきた直後だったからか。

 ナガレのその言葉は、もの凄く温かく感じずにはいられなくて。

 少しだけ、沈みきっていた自分の心が救われたような、そんな気がした。


「ぇ、と、図書館にいるって事は、ナガレはこれから錬金術の勉強だよね。ごめんね、邪魔しちゃって」


 もう既に邪魔をしちゃった後だったけど、これ以上は流石に。

 と、私がその場から退散しようとした瞬間、


「……なぁサーシャ。少し時間、あるか?」

「時間? は、まぁ、あるけど」


 何故か、ナガレから呼び止められた。


 家を追い出されたからには、これからの事を考えなくちゃいけない。

 ただ、やることと言えばそれだけで、時間は有り余ってるくらい。

 故に私はナガレのその言葉に、何か私に用でもあるのだろうか。


 若干の疑問を抱きつつも、私は応じる事にする。


「ちょっとで良いんだ。今から少しだけ、付き合ってくれないか」


* * * *


 そう言われてやって来たのは、図書館から少し離れた場所にある古びた小さな工房であった。

 王立図書館では、多くの書物を自由に読める他、場所の貸し出し等も行っており、この小さな工房もその一つである。


 つい先程までナガレは工房を使っていたのか。

 そこかしこに薬草と思しき残骸や、液体の入れ物。開きっぱなしの本が置かれ、転がっていた。


 ただ、いつもはもっと散らかっていた気がするのに、今日は何というか。

 何故だか、散らかり具合が大人しかった。


「よく一緒にやったよな。ポーション作り」


 錬金術には様々な用途があるが、代表的なものといえば、ポーションの生成だろう。

 家に認められる為。

 という理由があったとはいえ、ナガレと一緒にするポーション作りは確かに楽しかった。


 時折新しい事に挑戦して、入れ物ごと破裂したり。本当に、色々あったから。


「どうして俺が、錬金術を学んでいたのか。その理由、覚えてるか?」


 覚えてる。

 そのために、ナガレは錬金術を学んでいるのだとよく言っていたから。


「世界で一番のポーションを作るため、だったっけ」

「ああ、そうだ」


 どうしてそんな考えを抱くに至ったのか。

 それは聞かされていなかったけど、錬金術を学んでいる理由は世界で一番のポーションを作るためと、耳にタコが出来るほどナガレは口にしていた。


「ただ、サーシャみたいな理由じゃないんだが、その必要がなくなってな。だから、俺もあの図書館に通う理由はもうなかったんだ」

「え。じ、じゃあなんで、ナガレ図書館に、」

「サーシャに用があったんだ。きっと、図書館に来るだろうって思ってたから、待ってた」


 ————いたの?


 そう言い終わる前に、言葉が被せられる。


「礼を言いたかったんだ。俺に付き合って一緒に作ってくれた、あのポーションのお礼を」


 暇さえあれば、錬金術の本を読み漁ってはポーションを作る事を繰り返すナガレに、私も何度か付き合った事があった。

 直近でいえば、一週間前くらいに出来上がったポーションだろうか。


 ……あれは、何回か調合を間違えて爆発しかけたり。一緒に作ったポーションの中でも、かなり苦労したよなあ。

 なんて感想を抱き、懐古する私をよそに、


「実は俺、サーシャに嘘をついてたんだ」

「……うそ?」


 ナガレがそんな事を言うものだから、つい、素っ頓狂な声で返事をしてしまう。


「次に作るポーションの材料費にする為に、出来たポーションは売ってるって言っただろ?」

「それは、うん。そう聞いてたけど」


 ナガレが作るポーションの量はかなり多い。

 だから、材料費も馬鹿にならないし、何より一緒に作ったといってもその全ての材料はナガレが用意したものだ。

 だから、出来たものは売って次のポーションを作る際の材料費に。


 と言っていたナガレに全部渡してたんだけれど、どうにもそれは違うらしく。


「実は、作ったポーションは全部売ってないんだ」


 ポーションの完成品を売らずによくあれだけの材料費をいつも揃えられたな。

 なんて感想を抱きはするけど、別に嘘といってもその程度の嘘なら別にあえて言わなくても良かったのに。


「元々俺が、錬金術を学び始めた理由は、母の病気(、、)を治す為だったんだ」


 だから、そんな事なら構わなかったのに。

 そう言おうとする私だったけど、続けられたナガレのその言葉に、閉口する。

 そしてその一言が、すぐに世界一のポーションを作ると言っていたナガレの言葉に結びついた。


 私の心境を、表情から読み取ったのだろう。


「ま、ここまで言えば分かるよな。俺は、母の病気を治す為にポーションを作ろうとしてたんだ。本当は、腕のいい錬金術師を見つける予定だったんだが、ちっとも見つからなくてな。だから、自分で作ってしまおうって考えたんだ」


 それはまた、考えがぶっ飛んでるなあ。

 なんて思いつつも、それなりに一緒に過ごしたからか。

 ナガレらしい。

 という感想がすぐに頭の中に浮かび上がった。


「……あれ? じゃあ、図書館に通う必要がなくなったって」


 恐らくは、お母さんの病気を治す必要がなくなった、という事なのだろう。

 しかし、結果がどう転んだのか。

 聞いて良いものか分からず、発言の途中で言い詰まってしまう。


 けれど。


「一週間くらい前に作った俺達の最高傑作。うちの国(、、、、)の錬金術師に見せたら、これ程のポーションは見た事がないって狂喜乱舞してたよ。で、それのお陰で、今は快方に向かってるらしい」

「そう、なんだ。そうなんだ! 良かったじゃん、ナガレ!!」

「サーシャがいなかったら、あれが出来上がる事はなかった。だから、礼を言いたくて」

「ううん。あれは、ナガレの努力の成果だよ。だから、私の事は気にしなくても良かったのに」


 ナガレの頑張りは私がよく知ってる。

 私の方は、実を結ぶ事はなかったけど、ナガレはちゃんと報われてくれたらしい。


 私も関わっていた事だからか、自分の事のように嬉しくなって、つい、ナガレの両手を掴んでぶんぶん上下に振ってしまっていた。


 ナガレも念願が叶ったのだ。

 きっと、嬉しくて仕方がない事だろう。

 そう、思っていたのに、何故か私に向けてくるナガレの表情は、何処か曇っているようにも思えてしまって。


「……? ナガレ、どうかした?」


 尋ねてしまう。


「なぁ、サーシャ」

「?」

「これから行くあてがないのなら、俺の国(、、、)に来ないか」


 一瞬、ナガレが何を言っているのかが分からなかった。でも、ゆっくりと理解してゆく。


 そして、私はそれが先の恩から来るものだと判断して、首を横に振った。


「ううん。気持ちは有難いけど、それはやめとく。これは私の問題だから、ナガレに迷惑は掛けられないよ」

「————それは違う」


 ナガレのその一言は、先程までとは全く異なって、強い口調だった。


「ナガ、レ?」


 だから、私は驚いてしまった。


「確かに、恩はあるし、返せるものならそれを返したいとも思ってる。でも、この誘いはそれだけじゃないんだ」


 どこまでも真剣な眼差しが向けられる。

 その瞳が、それが取り繕いでもなく本気で言っているのだと教えてくれる。


 だけど、そう言われる理由に私自身、心当たりがなくて、困惑してしまう。


「俺は、錬金術師のサーシャとして、誘ってるんだ。それに、サーシャが家を追い出されていようがいまいが、ダメ元でも元々誘うつもりでいた」


 ナガレの発言に、どう返事をしていいものか、言葉を探しあぐねる。

 ただ、ナガレはそんな私を待つ気がないのか。


「今更の自己紹介にはなるが、改めて名乗らせてくれ。俺の名前は、ナガレ・アストレア」


 あすとれあ。


 その家名は、私でさえよく知っているものだった。どうしてあれだけの錬金術の材料を当たり前のように用意出来ていたのか。

 そんな疑問は一瞬にして霧散した。


 当然だ。

 だって、アストレアといえば


「ここでは隣国にあたるアストレア王国の、第二王子をしてる。その上で、改めてサーシャ。貴女の錬金術の才を見込んで、頼みがある。うちの国で、錬金術師として仕える気はないだろうか」


 王家の、人間。

 一緒にポーションを作るようになってからあまり気にはしなくなっていたけれど、そういえば、彼の所作には常に、不思議と高貴さが滲んでいた。


 ……現実感のない申し出に、私の頭の中は真っ白になる。


 そして、どう答えたものかと黙考する。

 それは過分な評価だと言って断るか。

 はたまた、誰かに仕える程の技量を持った錬金術師ではないとストレートに言ってしまうか。


 そんなこんなで悩んでいるうち、


「勿論、無理にとは言わない。恩人に、無理強いをする気はないからな。……ただ、サーシャの実家がサーシャを認めてなかろうが、少なくとも俺は、その実力が優れたものであると知ってるし、認めてる。何より、その腕に、俺は母を助けられた」


 ……初めて、認められた気がした。

 自分の努力というものを、己以外に初めて、認められた気がした。


 望んでいた結果にはならなかったけれど、それでもナガレが言ってくれるその言葉が、私にはどうしようもなく嬉しく感じてしまって。


「錬金術が嫌いになったわけじゃないのなら……その腕を、アストレアで活かしてみる気はないか?」


 そして、手を差し伸ばされる。

 応じてくれるならば、この手をとってくれ。

 という事なのだろう。


「……私は、錬金術師の一族レイベッカ伯爵家から追い出された人間だよ?」


 それが正当な評価であるとは思ってない。

 でも、この国で随一とも呼べるであろう錬金術師の一族、レイベッカ伯爵家から追い出された人間を、錬金術師として迎えてもいいのか。


 そう問うと、私がレイベッカの人間である事に驚いたのか。

 一瞬、目を大きく見開いてはいたけれど。


「それは、レイベッカ伯爵家の人間に、見る目がなかったんだろう」


 さも、当たり前のようにナガレは言う。


「……そっ、か」


 贔屓は入ってるだろうけど、私のこれまでの努力を肯定してくれるその一言に顔を綻ばせてしまう。そして不意に、私の中で昔の記憶が思い返された。



 それは、まだ生母が生きていた頃の記憶。

 レイベッカ伯爵家の中で、居場所がなかった私が、どうにか認められたくて、レイベッカの人間らしく、錬金術を学ぶと母に言った時の会話。


 ……母は当初より、私が錬金術を学ぶ事に賛成はしていなかった。

 寧ろ反対していた。

 きっと、私が望んでいた結果を得られないであろう事を、母は予想出来ていたのだと思う。


 でも、それでも私が錬金術を学ぼうとする事を諦めなかったからか。

 最終的に、母は認めてくれた。



 ————サーシャが積み重ねるその努力はきっと、いつか何処かで必ず、報われる筈よ。それだけは、忘れないで。



 でも、この事だけは覚えておいてと、言い聞かせられた。

 今思えば、こうなる事をまるで予見していたかのような言葉である。




 そして気付けば、私は差し伸ばされていたナガレの手を取っていた。

 こんな私でも、必要としてくれる人がいるのなら————。


「こんな私で、良ければだけど」


 新天地で、ほんの少しでも、父や姉達を見返せられればいいな。

 そんな事を思いながらはにかむと、ナガレは何もかも吹き飛ばさんと言わんばかりに、歯を見せて屈託のない笑みを向けてきた。


「卑下しなくていい。俺は、サーシャだから誘ったんだ。たとえ恩人であっても、俺はサーシャじゃなかったら誘ってない」


 言葉と共に、握った手に力が込められた。


「……なら、その期待を裏切らないようにしないとだね」

「気負わずとも、サーシャは今のままで十分凄いさ」


 ————なにせサーシャは、名の知れた錬金術師がこぞって匙を投げた病を治すほどのポーションを作ってみせた錬金術師なのだから。



* * * *


 錬金術師の一族であるレイベッカ伯爵家。

 そのご令嬢であるミルカ様は、類稀なる才能をお持ちであるらしい。

 特に、ミルカ様が作成するポーションは物凄い効力があるらしい。流石はレイベッカ伯爵家のご令嬢であられる。


 そんな噂が最近、彼方此方で聞こえていた。


 そして、現在。

 サーシャが勘当された後、レイベッカ伯爵家の本邸に位置する一室にて。


 サーシャが過ごしていた部屋で、家探しでもするかのように机に置かれていたメモ用紙を漁る人影が一つ。

 亜麻色髪のその少女の名を、ミルカ・レイベッカ。


「……妾の子のくせに、生意気なのよ。ほんっと、いいザマだわ」


 彼女の怒りの矛先がサーシャに向いていた理由は、最近王都で流れている噂が一因していた。


 当初、ただの嫌がらせでサーシャのポーションを奪い、その不出来さを吹聴するつもりが、何故かサーシャのポーションの方がミルカが作るポーションより評判が良かったのだ。


 それも、一度にならず、複数回。


 しかし、サーシャが高名な錬金術師に師事したという話はなく、日々、ずっと図書館に篭りきりな人間であっただけ。


 だからタネがあるとすれば、ポーションの作り方に違いがあるのだろう。そう睨んだミルカであったが、サーシャは常に図書館に向かうたび、メモ用紙等、その全てを持ち歩いていた。


 故に、そのタネを暴くタイミングが無かったのだが、今回の勘当にて、その機会がミルカに巡って来ていた。


「でもこれで、目障りだったサーシャが消えた上、あのポーションの作り方も手に入った」


 それなりの路銀を渡しはしたが、その代わりと言わんばかりに、荷物を持ち出す事を認めなかった。

 その理由は、こうして評判の良かったポーションの作り方をミルカが手に入れる為。


「あのサーシャが評価されていた事は業腹であったけど、それも今日まで。これさえあれば、レイベッカ伯爵家の才女として、王宮に招かれる日も近いわね」


 己に、由緒正しいレイベッカ伯爵家の人間として相応しい才能が備わっていると信じて疑っていないミルカは、理想とする未来を夢想する。


 しかし、ミルカは知らなかった。


 サーシャの錬金術の腕は、単に図書館で毎日のように文献を読み耽り、培ったものだけでない事を。

 そして何より、錬金術師として特にその技量が卓越していた事を。


 アストレア王国が第二王子であるナガレが、己の母の病を治すため、隣国を訪れたものの、ミルカの父でさえ匙を投げた病を、サーシャが快方に向かわせた事を、彼女は知らなかった。


 サーシャ・レイベッカが、天才と称すべき錬金術師であった事を、まだ。

読了ありがとうございました!

連載版を始めたので、もしよければそちらでもお付き合いいただけると幸いですー!!


以下にリンク貼ってますー!!

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