自伝的作品「豆腐屋の四季」や、反権力を貫く人々を描いたノンフィクション、ミニコミ誌「草の根通信」の発行などで知られる作家の松下竜一(まつした・りゅういち)さんが17日午前4時25分、肺出血の出血性ショックのため死去した。67歳だった。葬儀は近親者のみで行い、後日「偲(しの)ぶつどい」を開く予定。自宅は大分県中津市船場町561の1。
中津市生まれ。家業の豆腐屋を継ぎ、厳しく貧しい青春の日々を、短歌とともにつづった「豆腐屋の四季」(69年)でデビュー。テレビドラマにもなり、話題を呼んだ。
70年から作家に専念。一方で地域の社会問題にも積極的にかかわった。73年、「環境権」を掲げて豊前火力発電所の建設差し止めを求め、市民らと計7人で提訴。代理人なしの本人訴訟としても注目された。85年には最高裁で敗訴が確定したが、運動の機関誌「草の根通信」は発行し続け、市民団体の交流の場となった。そのつながりで人権問題にも取り組んだ。
大正期の無政府主義者大杉栄と伊藤野枝の四女・伊藤ルイさんの半生を追った「ルイズ-父に貰いし名は」(82年)で第4回講談社ノンフィクション賞。ほかに、ダム建設に反対した「蜂の巣城主」室原知幸さんを描いた「砦に拠る」(77年)や、甲山事件を題材にした「記憶の闇」(85年)、清貧な生き方を軽妙につづったエッセー「底ぬけビンボー暮らし」(96年)などがある。
昨年6月8日、福岡市で脳内出血のため倒れ、手術を受けた。その後リハビリ治療を続け、今月1日に地元・中津市の病院に移った。だが、この間目立った回復はなく、支援者らが発行し続けていた「草の根通信」も、通算380号となる7月号で休刊する予定だった。
(06/17)
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