無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:<マスター>達はいつもそうだ。僕達が善意で実装したシステムを違う方向に活用しようとする……

そんな訳でクライマックスフェイズその1です!
それでは本編をどうぞ!


第四十七話 修羅

□功刀領・街中 【剣鬼】ジーニアス

 

 

 

 

 遠目に、“それ”を見た時にまず僕が感じた事は――想像以上に()()なっている僕自身の感情だった。

 

 事前に複数の人達からその事について……そう、不動さんがまず間違いなく【魂捧】にやられて敵に回ると言う事を聞かされていた。

 故に、道中、数度に渡ってその事を覚悟して自分の内心に飲み込んでいた……つもりだった。

 作戦の時になったら、冷静に、確実に自身の役割を遂行するのだと、意気込んですらいた。

 この作戦でもヒースから役目を貰っているのだし、失敗はできないしする気はなかったから。

 

 

 

 だが。

 

 僕らを待ち構える様にしながらも、今は驚愕した表情している妖狐の〈UBM〉と。

 ……まるで生気を感じられず、従えられるがままの三人の武芸者を視界に入れた瞬間に――今まで感じた事のない激情が頭の中で弾けた様に感じたんだ。

 今までの短い人生でも、この世界でも感じた事のないその感情。

 ああ、そういえば娯楽書籍(漫画)とかだと()()()()()もあったね。

 思えば、あの時の娯楽書籍の登場人物達も――こういう感情だったのかもしれない。

 

 だから、僕は――

 

 

「ジーニアス」

 

 

 

 ――

 

 

 僕が一歩踏み出して、()()()()速度を早めようとした瞬間、横から声が掛かる。

 カシミヤだ。

 

 ……はっ。まさか、僕諫められている……!? 諫められていたよね!?

 

 

 ……ぎゃー!

 こうならない様にと、事前に覚悟を決めて来た筈なのにっ!!

 

 内心で猛省しつつも、横を走っていたカシミヤとアイコンタクトを始める事にする。

 

 えー何々?

 あいつら、絶対、███す……

 

 丁度、僕も、そう考えていた所だよ、と。

 

 

 

 二人して天誅の意思を再確認して若干の留飲を下げた所で――本題に入る事にする。

 そう――今作戦の本題。

 つまりは……僕の役割の事だ。

 

「ヒース、もう距離は十分? 作戦は!?」

 

「――だ。行けるか?」

 

「もっちろん。いつでもね!」

 

 隣を走るヒース――今回の作戦の前線指揮官役を買って出ている知り合い――の唇を読み取った。

 ……まぁ、別に読唇術なんてやる必要はそんなにないんだけども。

 ならば何故、()()()()()()()()()()そんな無駄な事をするのかと言うと――

 

 ――その方が楽しいし、テンションが上がるからね!

 

 

「――今だ、《フラッシュグレネード(最弱)》!!」

 

 極短の《詠唱》の後に紡がれたスキルの宣言。

 それは問題なく僕の意思通りに発動して、僕達の直上、数百メテル上空の場所でその効果を発揮した。

 

 

 ――――――ッ!!!! ッ!! ッ!! ッ!!

 

 連続する響き渡る爆音と立ち上る、滞空する黄色と赤色の4つの光の軌跡。

 

 更に――光の軌跡によって徐々に空中に数十メテルにも及ぶ巨大な魔法陣が描かれた!

 

 魔法陣は幾何学的な紋様を描き、更に輝きを増しながらも……非常に強い“威圧感”を放ち始める。

 

 

 

 

 

 

 

 まるで今にもあの魔法陣から大魔法が発動しそうな様子に見える様に――まぁ、ただのハッタリなんだけどね!

 

 

 

 

 

 そう、あの魔法陣は光属性魔法や他のスキルを組み合わせてちょっと()()()()()見せているだけのハッタリだった。

 ちょっとの間、一秒以下の短い時間でも【ウォルヤファ】の意識をあの魔法陣に釘付けにできればそれで御の字の、ただの虚仮威し。

 ただの虚仮威しでも全く問題なかったから。

 

 

 何故なら、()()()()()も今の魔法に混ぜ込んで、参加者の皆に正確に、確実に伝える事。

 それが僕の役割だったからだ。

 だから、後は――

 

 

「そういう訳で、僕は不動さんとやらせて貰うね!」

「ならば、僕達はあの功刀さんを相手取りましょう」

「――では、残る一人はこちらにお任せください」

「あんまり時間掛けるなよ? じゃねぇと俺らがMVP頂いちまうからなぁ!」

「新鮮なょぅじょのレア顔SS(スクリーンショット)ゲットォッ!!」

「おっそろそろかな?」

 

 作戦の通達後、走りながらも呑気に残った皆で固まりながら()()()について告げる。

 その皮切りは作戦を通達した僕だったけど、うん、流石に反応が早い。

 口々に好き勝手な事を言い合い、互いの健闘を祈り合う。

 ……中にはちょっと違うのもある気がするけどそれはともかく。

 

「お前ら、無駄話はそこまでにしとけ。奴さんがこっちを睨んでる。まぁ想像以上に驚いてくれてた様だが」

 

 ヒースのその言葉と共に――一人残らず、気を引き締めた。

 

 残りの距離は、百メテル余り。

 AGIの低い者に合わせた僕らの行軍でももう五秒と掛からずに接敵する距離であり、既に互いの遠距離攻撃スキルの射程内でもあるこの距離。

 しかし、相手は警戒しているのか、此方を、僕らを睨み付け体勢を低くし戦闘態勢に移行するに留めていた。

 僕らがどの様に動いても即座に対応できる様に、三人の武芸者も扇状に配置して――その時を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 ――僕らに都合良く、待っていてくれた。

 

 そんな彼女達、地を走る僕らを注視していた彼女達に――()()()()()()()()()()()が着弾したのはその直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――合図だ、来たぞ!」

「皆、行けるな!?」

「「『「応!!!」』」」

 

 

 後方。

 功刀領の、二つの戦力がぶつかり合う戦場となる予定の位置よりも、数キロメテル離れた場所に、彼らは居た。

 

 <マスター>後続部隊。

 直接【ウォルヤファ】と相対する今までにない最も苛烈な戦闘を行うであろう<マスター>陣本隊を支援する役割を持った者達だ。

 つい数分前も後続部隊に所属する支援職達が全力を以て、魔力(MP)の大半を費やして持続時間や効果を拡張した補助魔法・支援魔法を行使して本隊のメンバー達を送り出してきた所だった。

 

 それ故に、残っている彼らは既に戦闘力も碌になく、後は本隊達の健闘を祈るのみ――

 

 

 ――という訳では、全くないのだった!

 

 そもそも、<マスター>の後続部隊と本隊の人数比は殆ど一緒なのであった。

 共に百余名を数える大所帯。

 その後続部隊の中で、前述した様に魔力切れで戦闘力を失ったものなど――実に三割程度しか居ないだろう。

 残りの支援や補助の術など持たないメンバーはむしろ力を有り余らせている程の有り様だ。

 何故か? そもそも<マスター>であろうと殆どの武芸者であれば本隊を希望するのではないか――

 

 否、否である。

 その直接の原因は――今回の討伐対象(ターゲット)である【傾城九尾 ウォルヤファ】である。

 更に言うならば、彼女の固有スキル、広域状態異常スキル《傾城魂抜》のせいである。

 

 エンブリオのステータス補正に、天地の武芸者のジョブでもそこそこの割合で存在する精神耐性を得られるスキル群、そして市場に出回っている精神系状態異常に耐性を得られるアクセサリーや消耗品、更に後続部隊が掛ける予定である補助・支援魔法等の合わせ技。

 ――()()()()であれば、ほぼ確実に【魂捧】に抗えない程に強力な、敵手の固有スキルの悪辣さのせいという事だ。

 

 故に、本陣に参加できるのは()()()で更に強力な精神系状態異常耐性を得ている者だけ。

 ジョブスキルによる精神耐性のスキルを複数個重ね掛けするか、あるいは専用の特注品(オーダーメイド)による非常に強力な耐性を付けて来た者、そして……エンブリオの固有スキルとして強力な耐性を有している者。

 ……或いは、超級職によるエンブリオのステータス補正と比較してすら埒外なステータスを得ている者も対象に入るが、それはともかく。

 

 直接【ウォルヤファ】と相対する事が許されたのはそういった極々限られた<マスター>だけであった。

 

 では、基準に満たない<マスター>はもう何も仕事がないのか? というのも否である。

 

 ()()()()()()というのは……何も補助魔法や支援魔法による強化(バフ)だけに限る事ではないのだから。

 

 

 後続部隊に居る陣地に残された、既に魔力を使い果たした支援職の者を除く――百余名。

 <マスター>の後続部隊の残りのメンバーだけではなく――()()()に集まって貰った、ティアンの【()()()()】の方々数十名も加わった大人数。

 戦場から遥か離れたその場所であれば――《傾城魂抜》は、流石に届かない。

 ならば――――

 

 

「――《恐怖に歪む目(視覚拡張)》、《狂い侵された視拐(クトゥルフ)》」

 

「《カリキュレイト(超速計算)》、《コントロールソート(精密補助)》」

 

「――《青の散弾(ブルー・スプレッド)》、《黒の追跡(ブラックホーミング)》」

 

 そう、ならば。

 最前線には行けなくとも、此処に集った数多の<マスター>が……()()()()()()()()()、火を噴けるのだ!

 義眼のTYPE:アームズによる遠隔視と視覚共有により目標地点をくっきり視界に収め、TYPE:カリキュレーターによる弾道計算に弾道精密補助が施行される。

 更に、TYPE:レギオンの弾丸型モンスター達が()()()に向けて味方を導き先導する。

 TYPE:テリトリー系統のエンブリオは多重に重なり合いこの付近一帯の者達の遠距離攻撃の威力を、射程を、精度を嵩増し――

 

 それらの数多くのエンブリオ達の合わせ技により特大の威力と、射程と、精度を持った遠距離攻撃達が――解き放たれた。

 

 

 TYPE:ウェポンの遠隔兵器が、遠距離攻撃型必殺スキルが、射程距離が延長された攻撃魔法スキルが、【強弓武者】達による数多の太矢(クォレル)が。

 或いは巨大な石礫を投擲した者や、自身のエンブリオを射出・自爆させた者も居た。

 

 そして、数十人を越える規模で撃ち放たれた支援射撃は、複数のエンブリオの補助もあり――狙い違わず、【ウォルヤファ】()()()()()()に次々と土煙を上げながら着弾する。

 攻撃による、先程の合図とは比較にならない程の衝撃と爆音が炸裂する。

 

 

 ――最も、それで有効打を与えられると思う程、彼らは慢心してはいないが。

 まだ接敵すらしておらず、注意を他に逸らしていたとしても、距離が離れ威力も減衰している事もあり、一部の必殺スキルによる高威力長射程攻撃を除く攻撃では、増幅されていたとは言え【ウォルヤファ】の防御・結界魔法を打ち破る事はできない。

 辛うじて一時的な目潰しと攻撃が続いている間は防御に専念させる程度が関の山だ。

 防御を突破できたとしても、それまでの減衰により威力は大幅に殺されている為、重傷などとても負わせられない。

 

 ……だが、それはあくまで()()()()()()()()()()の事だ。

 周りの【魂捧】で操られている者達は……そうではない。

 複数のエンブリオにより強化された高火力兵器に質量武器、遠距離魔法に矢弾の長距離射撃、それも数十人以上で行われたそれを完全に防ぎ切るのは……流石の天地の武芸者の頂点に立つ超級職達でも容易ではない。

 平時であればそれでも【武士王】【大剣豪】【鬼神武者】が連携してどうにでもできたかもしれないが……今は【魂捧】に囚われている身ではその様な判断などできる筈もなく。

 

 故に、その数多の遠距離攻撃の弾幕に対して、【魂捧】により操られた彼らが出来る事、それは――可能な限り自身が受けるダメージを少なくする為に()()という選択肢しか残されていない。

 その三人の中では最もAGI(敏捷性)の低い【鬼神武者】ですらも、補正を含めたAGIは15000を優に超える超音速の域にあるのだから、()()()()()()()()何の問題も、ない。

 

 

 それこそが、合図で伝えられた作戦――()()()B()における重要な点なのだから。

 

 弾幕の着弾は【ウォルヤファ】を中心に広がる様に、広範囲に精密に着弾し続ける。

 それを回避していけば――【ウォルヤファ】から確実に引き離される様に精確に計算された軌道で、着弾し続ける。

 

 彼ら、三人の超級職に多少でも判断力があれば……経験が、戦闘の勘という物が残っていれば、相手の作戦を察して自らのダメージを覚悟してでも主を守るべく動いていたかもしれないが……それはあり得ないもしもの話だった。

 

 

 

 ―― ・ ・ ・

 

 そうして、プランB(バラけさせろ!)は此処に結実する。

 

 彼らの作戦通りに、【ウォルヤファ】は孤立し、残る三人の超級職も――それぞれ極小人数の<マスター>が当たって()()()される事になる。

 その隙に、残りの全ての本隊の<マスター>達で、最早守ってくれる者も居ない【ウォルヤファ】を、狩る。

 

 プランBについては……ほぼそれで全て。

 この後、どの様にして【ウォルヤファ】を狩るかは、どれだけ残るのかも、誰が残れるのかもまだ分かっていなかった為、完全にアドリブ(即興)なのだ。

 

 残った……後続部隊に残る事しか出来なかった彼らに出来る事は、戦いの趨勢を見守り、かの凶悪な〈UBM〉と対峙している本隊のメンバー達が、見事【ウォルヤファ】を討伐する事を祈る事しかなかった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――もっとも。

 

 【ウォルヤファ】ではなく、超級職三人の()()()に入った極少数の<マスター>達。

 

 彼らも、()()()()()で終えるつもりは無かったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□■功刀領・街中 【剣鬼】ジーニアス

 

 

 

 そうして。

 

 【ウォルヤファ】から遥かに離れ、幾つもの家屋を挟んだ通りで――(ジーニアス)と【鬼神武者(不動さん)】は対峙する事に相成った。

 【ウォルヤファ】が居た広間から、数百メテルは離れただろうか。あるいはもっと離れたかもしれない。

 脅威の〈UBM〉との戦闘音ですら遠くに聞こえる程度まで距離を取ったこの場所に――漸く、望んだ場所に立つ事が出来た。

 

 支援射撃の着弾に合わせて、風属性魔法や、少しだけリンにも協力して貰って、当初の予定以上に【ウォルヤファ】から引き離したのは――邪魔を入れない様にする為。

 【ウォルヤファ】からの支援も――仲間の<マスター>からの支援も、邪魔も入らないこの場を選んだその理由は簡単。

 ()()()()()()()()

 

 それも、敵に操られた不動さんを助けたかったから――――などという、娯楽書籍(漫画)等の主人公の様な何となく高尚な物でもない。

 そもそもそんな理由であるならば素直に仲間の支援を受けて戦うだろう。

 

 

「まぁ、僕としてもこういう形での物になるとは思っていなかったんだけどね……っと!」

 

 僕がそう呟いた刹那――魔力(神通力)を纏った剣圧の衝撃波が、寸前まで僕が居た場所を切り裂いていた。

 開始の合図まで待ってくれたりすると嬉しいんだけど、当然そんな悠長にしてくれる訳がない。

 

 当然の様に、【ウォルヤファ】が戦っている広間までの道は……僕に、そして僕が作り出した結界魔法によって塞がれているから。

 僕を無視して結界を破壊しに掛かれば、流石の不動さんであろうとも被弾は免れない。

 僕と不動さんのステータス差は……僕とカシミヤが、不動さんに為すすべもなく取り押さえられたあの時と比べて遥かに縮まっているから。

 先程まで此処に誘導する為にも使っていた《極光剣》による高威力の魔法も含めれば――その隙に、決して軽傷とは言えないダメージを与える事はできると確信しているから。

 

 だから、不動さんは僕と全力で戦う――全力で殺し合う以外に道はない。

 

 【魂捧】に操られた不動さんは、仮初の主である【ウォルヤファ】の下へ駆け付ける為に。

 

 そして、僕は――()()()()をする為に。

 

 

 

 ――――

 

 

 ――――

 

 

 そう、そりゃリベンジしたいよね!?

 僕に勝った、僕よりも強い敵手。

 その後の説教や指導がどうだというのは全く関係なく――ずっと前から、リベンジマッチをしたいのだと、そう思っていたのだから!

 

 恩を感じているし、感謝もしている。尊敬しているし、共に戦うのが楽しいとも感じていた。

 別に以前負けた事が恥だとか、カシミヤとの戦いを中断させられた事に対して恨んでいるだとか、そんな見当違いな八つ当たりがしたいという訳では全くない。

 

 が。

 そ れ は そ れ !

 

 

 不動さんは僕に――この()()()()()に勝ったのだから。

 勝ち逃げなんて認めないし――それ以上に、()()()()()様は見ていられない。

 

 だから――

 

 

「本当はきちんと野試合を申し込むか、ランキング戦で戦いたかったんだけども――」

 

 状況は予定とは全然違い、向こうは全く万全ではなく、この戦いももっと大きな作戦行動の一環だ。

 一定以上の足止めを為せれば()()()()僕の勝利。そして今この状況にある限り作戦上の戦略的勝利は当確とすら言える。

 

 だが。

 

 それでは僕が満足しない。全く満足できない。

 故に――()()()()()()やらせて貰うよ。

 

「こと此処に来ては致し方なし! さぁ、不動さん。いざ尋常に――勝負!」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

□■功刀領・街中 【剣鬼】ジーニアス

 

 

 

『――――――――ッッ!!!』

「うん。やっぱり、意気込んでいても一筋縄では行かないよねっ!」

 

 

 

 斬撃と斬撃が交差する。

 神通力と魔法がぶつかり合う。

 距離を詰めては離れ、離れてはまた遠距離での攻撃の応酬。

 

 高速機動による幾度かの交錯を経て、始まった戦闘の序盤を制しているのは……当然ながら【鬼神武者】である不動さんだ。

 

 【魂捧】。【魅了】の上位互換であるその状態異常を受けている者は術者に操られる事となる。

 術者を自身の存在の最上位に置き、何があっても術者の為になる行動をするのだ。

 

 ……というのは大抵のティアンの話ではあるが、武芸者等の精神的に強靭であるティアンや<マスター>が掛かった時は微妙に違う挙動となる。

 と言っても違いは本当に微妙で、根本的な行動には全く違いはない。

 その微妙な違いとは、後者である場合は例え精神面で抵抗を続けていたとしても身体が勝手に動く事になる、というだけの事。

 前者の場合は本当に心の底から精神が書き換えられてしまっているのと、実際に行われる行動は全く同じなのだけど。

 だが、それはこういった時には大きく響く事になる。

 

 何故なら、相手が身体が勝手に動くだけで――その思考や戦闘技術までは模倣できないから。

 所持しているセンススキルに従ってちゃんと問題なく戦闘をしてきていても、やはりそれは本人の戦い方とはまるで別物。

 そのお陰もあり、苦戦はしていても未だに決定的な敗北は迎えていない。

 ……まぁ、超級職なだけあってセンススキルだけでも他の武芸者の人の技術と遜色ない動きをしてくるのだけど。

 

 それに、幾ら不動さんの動きが何時もよりも拙くとも――埋めがたい、圧倒的な()()が厳然と存在しているのだから。

 

 

 

 

 

 不動藤十郎

 職業:【鬼神武者】

 レベル:697(合計レベル:1197)

 

 HP:263209(+1056636)

 MP:248810(+3800)

 SP:19855(+3800)

 STR:19043(+22843)

 AGI:12571(+3800)

 END:21942(+25742)

 DEX:7254(+3800)

 LUC:100(+3800)

 

 

 

 

 

 ジーニアス

 職業:【剣鬼】

 レベル:100(合計レベル:600)

 

 HP:20580(+6174)

 MP:41255(+12376)

 SP:7482(+2343)

 STR:4540(+1362)

 AGI:6377(+1913)

 END:2211(+663)

 DEX:2598(+779)

 LUC:90

 

 

 

 

 《看破》で見るだけで一目で分かる程の――圧倒的なステータス差。

 HPやMP、SPは良い。仕方ない。

 削り切れるかどうかも分からないけども、まぁ傷痍系状態異常を狙うつもりだから目安にしか出来ない。

 AGIも良い。

 二倍も離れておらず、実際の発揮速度で見れば差は更に縮まる。

 今の不動さんの剣筋ならば……ギリギリで避けられるだろう。

 

 ……今の所は、だけども。

 問題は、STRとENDだ。

 一撃でも直撃を貰えばアクティブスキルも使わない撫で斬りの様にされるだけで即死する程のSTR。

 万が一にも、少なくとも剣による一撃だけは喰らわない様に警戒し続けないといけない。

 そして、それ以上に厄介なのが、ENDである。

 

 ――補正込みで、47000越えってどういう事さっ!?

 まともに攻撃をしたのでは、仮にAGIの差を覆して直撃したとしても薄皮一枚を斬るのがやっとという所だ。

 《極光剣》で強化された《ライトボール》……は当たらないだろうし、《レイ》なら一応は徹るけども……多分、【ラスリルビウム】に貯蓄してある魔力(MP)を全て費やして削り切れるかどうか。

 その前に【火傷】になって倒せるかもしれないけど……うーん。行けるかな?

 凄い時間掛かりそう。やっぱりあの手で――ッ!

 

 

「ッ――っとぉ!?」

 

 

 距離が少し開いた途端に、全身の関節がまるで固まったように動かせなくなる。

 ――金縛りの神通力!

 手首足首どころか、指の一本すらも自分の意思で動かせなくなる。

 【拘束】にも似た、でも何処か違う束縛系の魔法。

 

 ――でも。

 

「――たぁっ!」

 

 衝撃。

 直後に、発動を遅延していた《ウインドハンマー》で自分自身を勢い良く吹き飛ばし――身体の自由を取り戻す。

 

 ――そのスキルは視線を介して対象に発動する物で、()()()()()()効果を切る事が出来るんだよね? 勉強したんだから!

 

 二回転横に転がりつつも手に持った得物は離さずに。

 

 その間にもこちらに向けて走ってくる不動さん――ではなく、僕自身の前方の地面に向けて。

 その得物を――鋼の戦棍、【スティールロッド・改】を勢い良く振り下ろした!

 

 【スティールロッド・改】が地面にぶつかるのと同時に――地面が凄まじい勢いで炸裂し、大小様々な石礫が不動さんに向けて飛翔する。

 

 これぞ僕式《偽グランドインパクト》! ……ただの《衝撃強化》なのだけども!

 《全主権限》を使って()()()()斥力に指向性を与えて攻撃にも転用するのだ!

 

 

 

 

 しかし、それでも。

 亜竜級未満のモンスターであれば致命傷を与えられる石礫の嵐を前にしても――【魂捧】の不動さんに対しては足止めにすらならない。

 視界を遮る、僅かな目潰し程度にしかならず、ダメージなど最低ダメージも良い所だろう。

 それも当然。彼のステータス――高レベルの超級職を持つ者のステータスを相手にしては、それも耐久に秀でた【鬼神武者】を相手にしてはこうなるのも目に見える程だ。

 この程度の小細工などまるで意に介さず、真っ直ぐに僕の首を取りに来ているのがまるでスローモーションの様に良く見えた。

 

 

 

 

 ――ああ。

 

 

 

 ――そんなだから、()()()()()というんだよ。

 

 

「――《ハイブリッド・バレット》」

 

 

 だから、僕は袖口に隠しておいた拳銃(【ヘビィデリンジャー】)を、真っ直ぐに発砲した。

 

 ――BANG!!

 

 

 弾丸は、思惑通りに加速し、避ける暇もないままに不動さんの右肩に命中し。

 

 

 ――肩で弾丸が……徹甲榴弾が炸裂して周囲の肉を吹き飛ばした。

 

 

 

『――ガァッ!!???!!?』

 

 堪らず、という様に飛び退き、警戒する様に僕を睨み付ける。

 いったい、どうやってこれ程のダメージになったのか、まるで訳が分からないとでも言いたげだね。

 

 僕的には、その疑問と警戒は、幾らなんでも遅すぎると思うんだけどね?

 

 なるほど、確かに。

 不動さんのENDを持ってすれば、人間を相手にすれば殆どの物理攻撃を無力化できる。

 常人や下級のモンスターであれば肉裂き骨砕く石礫の乱打も、通常の銃器による銃撃も、間違いなく無傷で突破できるだろう。

 だから一刻も早く【ウォルヤファ】の下へ馳せ参じる為に足を止めずに受けて、最短で僕を斬り伏せる心算だったんだろう。

 

 

 

 ――やっぱり、思った通りだ。

 

 この相手は、【魂捧】の不動さんは――不動さんの()()()()()()()()が全く反映されていない。

 だからこんなにもやりやすい。あれほどのステータス差があって尚、全く負ける気がしない程に。

 

 不動さんが確かな状態であれば、僕に、【アダムカドモン】に――エンブリオという超常の力持つ<マスター>に対して、この様な無様を晒す事はないだろう。

 

 

 

 僕が思うに、不動さんにリベンジをするに際して、最も厄介だと思っていた物。

 それは――不動さん自身の、警戒心と用心深さ、そして堅実さだった。

 

 天地に居る全超級職の中でも、トップクラスの耐久力(HPとEND)を持っていながら、あの人は常の戦闘時は防御力を活かした防御ではなく、ENDよりも遥かに低いAGIを用いた回避を優先していた。

 膨大なHPとENDなど、ただの保険だとでも言うかの様に。

 攻撃だって、確実な、安全な隙が出来なければ殆どしてこず、それですらも、直接攻撃よりも幾分も威力が劣る剣圧の衝撃波や神通力による中距離攻撃を好んでいた程。

 明らかな魅せ試合でもなければ攻めっ気も派手さも全く無い、安全を期す事を第一に考えていた戦術、戦法だった。

 

 ……そして、そんな派手さのまるでない戦術が、僕達挑戦者にとっては何よりも高く厚過ぎる壁だった。

 中途半端なステータスで、同じ事をしても全く脅威にはならないかもしれない。

 しかし、不動さんは超級職であるステータスの非常に高い【鬼神武者】なのだ。

 堅実な安全策を講じる、耐久型の超級職を突破できる者など……居る筈がない。

 奇策や小技は見切り潰され避けられ、かと言ってならば早さで上回れば、と速度に特化したエンブリオで挑戦した<マスター>も居たけど、その時は相手の軽い攻撃を高過ぎるENDで受け止めてクロスカウンターで一撃で倒していた。

 魔法は比較的効きはしても、殆どが高過ぎるHPの壁を一割も削れずに接近されて斬り捨てられるか、中距離攻撃で仕留められる。

 ならばその超耐久力すらも葬り去れる程の超大技をもって突破しようとした者は――即座に《荒魂》を発動し超火力のスキルを発動する前に潰されていた。

 暫く試行錯誤を繰り返せば、皆気付いていく。

 ――この相手には、同等以上の地力がなければ勝ち目がないぞ、と。

 

 

 だが――今の不動さんはどうだ?

 相手が自身よりも圧倒的にステータスが低い相手だからか、思考能力が薄れているからか、センススキルとステータスに頼った愚直な攻撃ばかり。

 相手の罠も、エンブリオや特典武具による強力無比な固有スキルがあるかもしれない事も、全く考えもせずに、だ。

 

 これが【魂捧】に掛かっていない……いや、掛かっていたとしても、本来の不動さんであれば絶対にこうはなっていない。

 銃弾どころか、その前の《偽グランドインパクト》による目潰しの時点で回避してこちらを()ていただろう。

 いや、それどころか、目標達成――【ウォルヤファ】の下へ最短で駆け付ける為に、初手で躊躇いもなく一日に一度しか使えない《荒魂》を使って僕を瞬殺してきたかもしれない。

 最初だけそれを警戒していたんだけど……今になっても使ってこないと言うのは、ちょっと想像以上だった。

 ……いっそ度し難い程に。

 

 

 

 ――ならばいいさ。

 僕としては残念だけど、これは一応大きな作戦の一部でもあるから。

 満足できなかったら、後でまた不動さんと決闘でも野試合でも戦るとしよう。

 

 

 だから、そろそろ勝負を決めに行こう。

 

 僕の、【アダムカドモン】の力を――決闘でも、カシミヤ相手でも、勿論不動さん相手でも一度も使った事のない――()()()()()()力で勝たせて貰うよ!!

 

 

 

 

 

To Be Continued…………

 




ステータスが更新されました――――

名称:【覚知魔眼 クトゥルフ】
<マスター>:sealer
TYPE:アームズ
能力特性:視覚異常
到達形態:Ⅴ
スキル:《真実を映す瞳》《恐怖に歪む目》《狂い侵された視拐(クトゥルフ)
モチーフ:架空神話“クトゥルフ神話”そのもの
紋章:固く閉じられた瞳
備考:玉虫色の義眼型のTYPE:アームズのエンブリオ。
 ちなみに本人的に玉虫色は嫌なのでカラーコンタクトを作れる職人を募集中。目力強し(色んな意味で)。
 有する固有スキルは視覚系効果の展覧会とでも言うべき物で、遠視・透視や鑑定看破識別、偽装等を見破る能力も有する万能眼。
 だが何故かそんな自身の視覚にのみ影響を与えていた義眼のエンブリオの必殺スキルは“他者との視覚共有”であった。

《ハイブリッド・バレット》:アクティブスキル
 ジーニアスが作成したオリジナルスキル。
 火薬式銃器で使用する異種混合銃撃。
 火薬式銃器による通常の銃撃に《斬魔剣》を噛み合わせて魔力式銃器としてのメリットを、威力や弾速、射程を()()()する。
 更に幾つかのスキルを組み合わせれば弾速向上や弾道隠蔽も可能。
 ちなみに今回は貫通力と破壊力を持つ徹甲榴弾に着弾の瞬間に保持していた【スティールロッド・改】の《衝撃強化》を乗せて破壊力を数倍に増していた。
 火薬式にも魔力式にもないデメリットとして、銃身に掛かる負荷がその二択と比べて非常に大きくなってしまう。
 銃にそれ専用のカスタマイズをしないと数発撃つのが限度だろう。



 娯楽書籍で良くある「お前は俺が倒す」的なアレ。……主人公とは一体なんなのか。
 そんなクライマックスフェイズの第一ラウンドでした。
 次話は……また視点が変わると思いますがご了承をば。
 それでは、次話もよろしくお願いします!

 ……本当は今話も二回に分けても良かったかもしれませんが、まぁ一万字とちょっとなら分けなくてもいいか……と思ってしまいました。
 感覚がどんどん麻痺してきている!
 

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