無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:ゴブリン殺すべし。イヤーッ!

かなり久しぶりの日記形式なし回。ちゃんと書けてると思いたい。
それでは本編をどうぞ!


第四十三話 強襲

□■天地・霧影領 

 

 天地の中央、慶都からやや北西に進んだ所に霧影領……通称“忍者の里”はあった。

 森林と山岳、そして河川に囲まれて隠れる様にひっそりと息づく――【忍者】達の集落。

 他の大領と比較すれば小規模な領地ながらも、その自然の防壁を活かしてここ数百年は他所の領との防衛戦では負け知らずとも言われている、最近騒がれている有力領の一つだ。

 

 特に【忍者】【隠密】系統が統率されて行われるゲリラ戦は一時期大層に恐れられていたのだが……それはともかく。

 小規模ながらも領地として必要な物は凡そその里の中に揃っており、日々の生活も農業の他にも周囲で出没する動植物やモンスター(非人間範疇生物)の戦利品を宛がう事で路銀も十分稼げている。

 勿論、この霧影領では採れない多くの物もあるが……この領は【忍者】の、そして【隠密】のほぼ唯一にして最大の排出元でもある。

 各地に潜り込ませた多くの同胞()を通じて適正に取引を行ったり、時には手に入れた情報を売る事で様々な恩恵を甘受する事もできるのだ。

 更には、南方には同盟を組んだ【陰陽頭】【巫女姫】が納める領地が控えてもいる。

 戦力的にも、資源的にも、情報的にも、そして天地ではあまり意味のある物ではないが、勿論政治的にも彼らに隙は無い。

 

 

「ふっふっふ、皆よくやってくれているでござる。善き哉善き哉、でござるな」

 

 忍び装束に身を包んだ細身の壮年――この霧影領の大名、超級職である【超忍】の座を戴く霧影朧も、里の各所を散歩しながら回っていた。

 各所を回ってはその度にそこに居た者と二、三言言葉を交わしながらも……数年前よりも遥かに活気づいてきていたこの領を感慨深げに見つめるのだ。

 

 そう、この領は盤石な地位を築いていながらにして――未だに、特に最近の領全体での活気や景気は向上し続けているのだ。

 そして、その原因は――

 

「これも<マスター>達の動きの賜物でござるな!」

「然り。しかし父君よ、其れは我らの努力の成果という訳でもなく、只の幸運に因る物。努々慢心めされるな」

「それも分かっているでござるよ」

 

 いつの間にか隣を歩いていた側近――不肖の息子を侍らせながらも二人は足早に歩を進める。

 そして、歩いていく領の各所で良く見られる()()――時には霧影領の人間と殆ど変わらぬ様な、そして時には非常に奇異なる様相を見せる人達。

 特異な武具(アームズ)を持っていたり従属モンスター(ガードナー)を引き連れていたりする、一人として同じ力を持った物の居ない、左手に描かれた紋章のみを共通項とする()()()()

 

 <マスター>。

 そう、彼らこそが昨今この霧影領を盛り立てている一番の主役であるのだった。

 

 尤も、詳細は省くが父子の会話の通りに、霧影領の者が特別<マスター>に何らかの働き掛けをした訳ではない。

 当然ながら情報収集のスペシャリストでもある彼らは<マスター>の急増に際していち早く<マスター>の情報を手にし、そして何としてでも友好を築くべきだと思っていたし、時間があれば実際に……何らかの工作をしていただろうという事は間違いないが。

 

 だが、その霧影領の忍者達としても予想外だった事があった。

 

 <マスター>達は……特に何も工作などしなくとも速攻で霧影領にやってきたのだ!

 

 忍者、草、透破、乱破、奪口、隠密、そしてNINJA……

 

 半世紀近くもの長い間エンターテインメントに馴れ親しんで来た現代人にとって、それはもはや市民権を得た浪漫の塊!

 <マスター(ゲーマー)>にとって、これを逃す事などできるだろうか……? できる筈がないのである!

 忍者と触れ合う為に、そして自分自身が、このVRの世界で【忍者】となる為に、或いはその様な存在に近付く為に<Infinite Dendrogram>の世界に来た人々が何と多い事か!

 そして、その者達はキャラクターメイクも凝りに凝り、天地の慶都に降りたち、先行<マスター>達の情報で“忍者の里”……霧影領の存在を知るや否や、自身の持てる全力を以て霧影領へ向かうのであった――!!

 

 

 そんな<Infinite Dendrogram>のスタート直後の騒動から早一年以上が経ち、霧影領では<マスター>が領内に多数屯しているというのが既に日常と貸してしまっているのだった。

 勿論、ただ屯しているというだけではなく、彼らも彼らのペースで、彼らの出来る事をこなして領に貢献してくれているのだから元の霧影領のティアンとしても全く問題はないのだが。

 そんな日常となるまでに“マスター拷問未遂事件”や“ござる言語講習事件”、“兵糧丸調理実習事件”、“俺が一番の火影だってばよ事件”等様々な事件があったのだが、それも乗り越えてティアンと<マスター>は手を結び、今の霧影領の隆盛があるのだった。

 

 

「まぁ、<マスター>達は制御なんて殆ど出来なかったから今思えばこのやり方が最善だったんじゃないかとも思ったりするのでござるが」

「それでも、この領に対する恩義を感じているのは間違いない。故、問題はないかと」

 

 それはそうなのだが、と思いつつも未だに<マスター>の言う忍者言葉も解さない不器用な我が子の様子にも内心で【超忍】は苦笑する。

 印象操作の一環で自分が表に出過ぎていたから、彼みたいな一部の上層部にはその分、領の事で負担を掛けてしまい、逆に彼らが<マスター>と関わる機会が減ってしまっていたのは最近の【超忍】の悩みの一つだったからだ。

 

 これからは講習や決闘といった手段を通してでも、彼らももっと<マスター>を関わらせた方が全体の為にもなるだろう。

 彼みたいに固い態度の者もそこそこ居るが、それはそれ。機会と状況次第で如何様にも転ぶだろうし<マスター>はああいう忍者も好みの者が多いらしいから多分問題ないだろう。

 だから――

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 ポン、ポンと近くの山上で鮮やかな橙色の花火が上がる。

 頃合いを悟り、子とも別れてやがて【超忍】は霧影領の中央に位置する最も大きな広場に辿り着く。

 定めていたこの散歩の、最終的な終着点。

 

 ()()()()()()()()だった。

 この霧影領の活気と広場の規模、そして日中である事を考えれば常であればありえない事だった。

 いや、この広場だけではない。

 

 この領――隆盛を誇っていた霧影領全体が、()はこうなってしまっているのだ。

 里の、領中の人間(ティアン)は即座に、速やかに他所へ避難し

 そして、戦う力のある忍者や有志の、多くの<マスター>達は一部の避難の護衛以外は――今、領の各地で()と戦っているのだ。

 

 

 事の始まりは数刻前。

 何の前触れもなく、前兆もなく――唐突な出来事だった。

 何が起こったのか、それを言葉にするならばたったの一言で十分だ。

 

 ――神話級(マイソロジー)に相当する〈UBM〉が、大量の手勢の武芸者を率いて領のすぐ近くの場所に()()してきた。

 そして、〈UBM〉……モンスターとして、当然の如く、彼奴等は最も近くにあった人里――霧影領に襲い掛かったのだ。

 

 これが、ただのモンスターの大暴走(スタンピード)であれば、逃げる必要は何処にもなかった。

 里の周囲は大量の罠で囲まれているから、足止めは容易であるし、領に居る<マスター>と天地の武芸者達が力を合わせれば亜竜級程度であれば数百匹どころか、千を越えていようが殲滅できただろう。

 

 だが、今回のそれはただの大暴走とは何もかもが違っていた。

 

 場所が、状況が悪い。流石の“忍者の里”も、転移して即座に攻められた様な経験はなく、相手も的確に防備の薄い場所を狙ってきた事で防衛線を構築するまでにも一手間掛かってしまった。

 しかも、その対応している間に相手も散らばって突撃してきた為、結局はパーティや個人単位で迎撃する羽目になってしまった。

 

 相手が悪い。何故なら、相手の手勢は武芸者――()()()()()()()()()()だったのだから。

 《看破》をすれば一人残らず【魅了】の上位の状態異常である【魂捧】に掛かっており、狂騒状態で一心不乱に襲い掛かってくるのみだ。

 そんな敵でも、相手は同じ天地のティアン。

 <マスター>の動きは鈍り、躊躇っている隙にやられる事も相次いだ。

 <マスター>の数は多くても、純戦闘型の上位<マスター>の数が少なかったのも悔やまれる。

 多彩なエンブリオのお陰で何とか非戦闘員の被害は少なくて済んだが……

 それでも、戦況は厳しいと言わざるを得ないだろう。

 それを覆せるとすれば――

 

「――高みの見物などしていないで、そろそろ姿を見せたらどうでござるか?」

 

 【超忍】が、最早誰も残っていない広場でそう呟いた、その刹那。

 

 

 ――銀光が走り、【超忍】の身体は上下に両断されていた。

 

 ……そして、直後に【超忍】の身体を爆炎と爆風が包み込む。

 その熱と衝撃で付近の家屋にも被害が出る程の威力と範囲を併せ持つ爆発。

 

 しかし――その爆発を間近で受けていてすら……()()は全くの無傷であった。

 

「超々音速でござるか。負の生命――アンデッドで早いというのは非常に珍しい筈でござるが……成る程、そういう事でござったか」

 

 そして、【超忍】もまた、何もない空間から五体満足で現れる。

 数十メテルの距離を取って対峙するその相手は……今回の騒動の首魁と見られる神話級の〈UBM〉。

 パッと見れば黒いローブとフードを着た人間にも見えるが……鋭敏な感覚を持つ武芸者ならばそれは違うと分かるだろう。

 生者を憎む憤怒の視線、その心魂から発せられる強い怨念、そして全身から漂わせる死臭――

 【ハイレブナント(上位屍人)】。生前の技能や能力を受け継ぎながらも妄執と怨念により歪みに歪み、生者を襲う怪物(モンスター)となったアンデッド、【レブナント】の上位個体。

 

 その〈UBM〉――名を、【無影隔絶 アンシィル】。

 『隔絶』の名の通り、【レブナント】やアンデッド特有の諸々を殆ど知覚させぬ隠蔽能力と、神話級モンスターを超越するステータスを有する、恐るべき〈UBM〉。

 隠蔽能力と戦闘能力、そのどちらであってもこの里では<マスター>を入れてすら【超忍】以外では全く対処もできない相手だ。

 そして――

 

「さて、戦いを始める前に……()()()()()()()()は何の用事でこの領にいらっしゃったのでござろうなぁ?」

 

 ――一閃、爆裂。

 

 再現出。

 

「ああ、やっぱり其方でござったか。【無影隔絶】――【()()】でござるからなぁ。それでも今の拙者らに当たるのは些か八つ当たりが過ぎるでござるが」

 

 【アンシィル】からの無言でありながら極大の殺気と攻撃を受けながらも、【超忍】は飄々と言葉を紡ぐ。

 得心がいったとばかりに。

 この“忍者の里”とも言われる霧影領でも多く輩出されている【忍者】【隠密】系統は浅からぬ関係があり、当然ながら【超忍】も【隠密】系統超級職である【絶影】の事については他の者以上に良く知っていたのだから。

 数百年も昔に……()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 全く、数百年も昔の事で今更こんな事になるとは、とは【超忍】の偽ざる内心だった。

 そもそも、天地であれば戦禍で超級職やその条件をロストする事なんて珍しくもなんともないのだから。

 (数十年から数百年もすればまた戦争や戦闘を繰り返している内に天地の武芸者がロストしていた超級職を再発見する所まで含めて)

 

 だが、彼がどう思おうとも過去からの復讐者は此処に、神話級の超常の力を持って舞い降りたのだ。

 どの様な選択を取るにしても――この敵をどうにかしなければ、未来はないのだ。

 

 

 (なのでござるが……これは正直、まともにやっても勝ち目はないでござるな?)

 

 それもその筈だ。何せ相手はまさしくスキルも、ステータスも、真実桁が違うのだから。

 ステータスだけでも、AGIは最低でも10万、ENDを含めた魔法防御だって、さっきの二度に渡る爆炎――実は【超忍】の切り札の一つだった――を受けてもまるで無傷な様子を見れば、彼単体ではもはや勝機はないと言っても良いだろう。

 スキルに至っても【絶影】らしい隠密能力以外にも幾つも隠し持っている様子だが、その判別をする余裕もない程の実力差だ。

 【超忍】以外の者ではまるで勝負にもならないが……【超忍】であっても、これでは常であれば勝ち目は零であろう。

 

 

 ――そう、まともに戦って、常であればだが。

 

 僅かに【超忍】が戦意を発する。今までの飄々とした態度を捨て去り――本気で【アンシィル】と対峙する体勢を見せたのだ。

 そして、その瞬間闘気を察知した【アンシィル】も動く。

 実にAGI(発揮速度)にして三倍近くもの差がある二人。

 【超忍】が数歩下がり、術を発動させる数瞬前に【アンシィル】の刃がその胴体を断ち切る。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アンデッドに対して大きな補正を持つ、退魔の力を宿した聖光。それも――超級職の攻撃魔法に等しい出力の物が雨あられと降り注いだのだ。

 堪らず【アンシィル】が大きくバックステップし、聖光から距離を取る。

 降り注ぐ光は人間には殆ど無害な様で、【超忍】が平気な顔でこちらを嘲っているのも気に入ら

 

 ()()()()()()()()()()

 

 一秒も立ち止まっていなかった筈なのに、いつの間にか自身の影を起点として、足元が()としか形容ができない物に飲み込まれていた。

 結界術の亜種らしく、何らかの効果が作用しているのか呑み込まれた先の足は力を入れてもピクリとも動かない。

 自身のSTRによって力づくで引き抜く事は出来そうだが、そうすれば恐らく呑み込まれた先の足も無事では――

 

 そう逡巡する〈UBM〉に一瞬の意識の空白が生まれ。

 

 その瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――!

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 【超忍】には、単体で神話級の〈UBM〉に勝てる力は何処にも持っていない。

 様々な忍術の才や超級職による高いステータスや老練なる経験があっても、圧倒的なステータスをスキルを有する〈UBM〉を相手に出来る程の切り札という物は持ち合わせていない。

 

 だが、そんな彼にも腹案が、勝機は持っていたのだ。

 それが、この領の中央の大広場。

 そこに仕掛けられた……領でも己しか知らぬ、大結界ならぬ()()()

 

 その効力は見ての通りある程度の自在性を持ちながらも超級職の奥義を遥かに凌駕する出力を誇る埒外の代物。

 事前に用意してあった物だとは言え、本来であれば多大に過ぎるコストを払ってなお足りぬであろうその鬼札を、彼は通常のスキルを使うかの如く気楽に使用できる。

 

 何故そんな事が出来るのか……超級職()()でできる事の幅を大きく越えている。

 ならば、それは必然そういう事なのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 【超忍】……だけではなく。

 今の天地が誇る数少ない術師の大名の同盟、【超忍】【陰陽頭】【巫女姫】と共に作成したからに他ならない。

 技術を、力を、知識を、経験を持った魔法職の超級職、それが三人。

 素材を持ち寄り、魔力を集め、技を駆使し、術式を改造し合いスキルを累合わせ、自分達の持つ全力を賭して作成した、各領一つずつ、三つの超結界。その一つが、この霧影領大広間に在るこれであった。

 外敵への最終防衛手段や牽制として想定して作られた同盟の証たるそれは――今まさに期待通りの働きをしてくれたのだ。

 

 (――良し。付け入る隙はある、でござるな)

 

 だが、彼がその戦いを決意した理由は他にあった。

 いくら投入できる超戦力があったとしても、それを発動するリスクはあったし、上位の〈UBM〉であればそれで勝てるという保証も無かったから。

 しかし――その隙は、相手が晒してくれた。

 

 何故そうなっているのかは【超忍】には分からない。

 〈UBM〉……モンスターとなった事か、或いはアンデッド(レブナント)となった事がその近因だとは予想していたが、どちらにしろ彼は【学者】でも【研究者】でもないので、必要なのは結果だけであった。

 そして、その結果は今までのやり取りで十分に判明していたから。

 

 ――そう、どうやら相手は()()()()()()()()なっているな、という事実が。

 

 当然だがこれはステータス的な意味で良い意味ではなく……間違いなく悪い意味での事だ。

 

 【レブナント】として、生前の記憶や経験、技量、スキル等を継承していても……それは生前の、【絶影】の物に遠く及ばなかったのだ。

 【超忍】でなければ感知できない程の隠密能力?

 馬鹿を言え。【絶影】の技術やスキル、経験を如何なく発揮し、それが特性に表れている神話級〈UBM〉であれば――()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 他もそうだ。

 天地の武芸者は喧嘩っ早いのが多いとはいえ、超級職を取る程の超越者ともなれば、多少の挑発に載せられて無様に先と同じ様な結果を晒す訳がないから。

 隠密行動と暗殺を得手とする【絶影】が、頭部や頸部といった致命部位ではなく大雑把に狙い易い胴部を何度も狙う訳がないのだから!

 

 勿論、それらだってまともな上級職であれば<マスター>であろうとも瞬殺される程度の驚嘆すべき実力であったのだが……()()()()

 この天地で、領を納める大名を、超越の技振るう超級職を仕留めるには、全く物足りないのだ!

 

 

 (さて、次はどう来る? 固有スキルを開帳するでござるか? 愚直に突っ込んでくるでござるか? それとも――)

 

 再度アンデッド特攻の聖光を放たんと煙の中に心の中で狙いを定める。

 そして、煙が――突如吹き荒れた暴風に吹き飛ばされた。

 

「ぬっ!?」

 

 【超忍】に追撃は――来ない。

 しかし……信じられない物は見た。見てしまった。

 それは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()

 そしてその傷すらも……数秒と経たずに完全に塞がってしまう光景。

 

 

 (いやいやいやそれはありえねーでござろう!? いくら何でもその魔法防御力はおかしいでござろう!?)

 

 だが、現実として既に相手は完全に回復している。

 防御能力、回復能力、そして先程の不自然な暴風――間違いなく、これらの内どれかは、あるいは全てが――固有スキルの仕業!

 

 直後、再度の一閃と再現出の後に……【超忍】は、遅まきながらも理解する。

 

 これは……勝ち目がない戦いでござるな?

 

 天地で武芸者をしていれば……否、天地でなくとも、この世界で戦闘職として動いていれば、そういう事は往々にしてあり得る。

 どれほどの実力を、どれほどの手札を用意していようとも……勝てぬ敵が、勝てぬ戦があるのだと。

 

 (なれば、やる事は一つ……でござるな)

 

 領の最大戦力である【超忍】が、使える手札を出し尽くして尚、勝てない敵。

 首魁の撃破も撃退も望めないのであれば――彼に残された選択肢は一つだけ。

 

 避難民を逃す為に……首魁にして敵の最大戦力であるこの【無影隔絶 アンシィル】を、一秒でも長く足止めする事!

 

 

「ふふ、こうなると流石の拙者も血が滾るという物でござるな?」

 

 再び冗談めかして一笑、その隙にまたもや分身が両断される。

 これだから地力で押してくる輩は苦手なのだ。何故なら忍者だから。

 ふざけるのもこれが最後だろうと覚悟し――【超忍】は、【アンシィル】を真っ直ぐ見つめて言う。

 

「さぁ、拙者は逃げも隠れもしないでござる。では……いざ、いざ、尋常に。勝負でござる――!」

 

『――――――――!!!』

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 【超忍】と【無影隔絶 アンシィル】の衝突の数刻後……残されていたのは、操られた武芸者以外、誰一人として残っていない霧影領。

 すべてのまともな人間は逃げるか……操られた武芸者と戦い、殺された後だ。

 中央大広場の周囲の建物は一つとしてまともに形を保っている物はなく、戦いの激しさを物語っていた。

 風が、炎が、水が、氷が……隠し持っていた暗器が、符が、装備品が乱雑に散らばっており…… 

 そして、四肢と首を断裂させ、達磨になった【超忍】の死体と、無傷の【アンシィル】だけが残されていた。

 

『――――ッ!』

 

 【アンシィル】が苛立った表情を浮かべながら舌打ちをする。

 それは一体何に対しての苛立ちだったのかは……モンスターならぬ身では分からない事だ。

 しかし、直後に幾つかの合図と共にこの領に現れた時と同じ様に空間転移を発動させ――――

 

 

 …………【アンシィル】も、操られた武芸者も、霧影領から完全に姿を消したのだった。

 

 残されたのは、人っ子一人居ない、壊滅した霧影領。

 “忍者の里”の、完全敗北だった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

 

 

□■<犀合山岳地帯> 

 

 

 

 

 

 霧影領の領地の南に位置する<犀合山岳地帯>。

 その山影に一人の壮年が歩いていた。

 貧相な装備に、片腕を失くした満身創痍の有り様。

 普通の人が見れば避難民の一人か思う所であったが……それは違った。

 

「流石に死ぬかと思ったでござるなー。これはそろそろ拙者も引退時という奴を考えないといけない時期でござるか?」

 

 そう、その人物は――【超忍】、霧影朧。

 【アンシィル】との戦いで死体を晒していた筈だが……結局はこうして生き延びていたのであった。

 その絡繰りは、彼が開発したオリジナルスキル《裏影法師の術》による物。

 超級職である彼が開発したその術法は……完全なる実体を持ち受肉せしめた、能力の減衰も制限もない完全体の《影分身の術》を作り出す代物であった。

 それによって自身を、戦闘を、死体を偽装した彼はこうして時間稼ぎと自身の生存という二大目標を達成する事に成功する。

 

 しかし……その代償は決して小さくない。

 《裏影法師の術》はコストとして、そして影分身を受肉させる為に自身の肉体――それも、最低でも四肢を対価にせねば発動できない程の大禁呪。

 こうして生き延びる事が出来たとは言え、治療するまでは非常に不便を被るし、治療とリハビリにも多大な手間が必要となろう。

 そして何より――敗北したのだ。

 言い訳が出来ない程に、完膚なきまでに……敗北したのだ。

 領が、仲間が、超級職である自身が、同盟の仲間で作ったあの超結界までもが!

 

 領の皆は……無事に逃げ切れるだろうか?

 領に愛着を持ってくれた<マスター>は多かった。彼らに後を任せ、戦闘型の者達もちゃんと逃げてくれただろうか?

 そして、反撃と再起は――――

 

 

「……ふ、それはまだ気が早い……で、ござるな」

 

 自嘲気味に笑い、目的地に向かい歩を進めながらも……彼は霧影領の、そして天地の今後を憂えざるを得なかった。

 

 ――これは、荒れるでござろうな……

 

 彼の、霧影領の、そして天地の道行きは

 未だ誰にも分からない――――

 

 

 

 

 

To Be Continued…………

 




ステータスが更新されました――――

超結界:魔法スキル
 【超忍】【陰陽頭】【巫女姫】の超級職三人による数多のスキルの複合により作り出された結界。
 隠蔽性能、効果の多様性、出力、どれを取っても超一級品で自慢の出来だ、とは【超忍】の言葉だった。実際スゴイ。
 単一機能特化型である事やスキル特化型の【神】の作品である事から出来は三段も四段も落ちるが、例の三神の覇王封印結界とやり方は同じなのだから然もありなん。

《裏影法師の術》:アクティブスキル
 【超忍】が開発したオリジナルスキル。
 自身の肉体と最大HPをコストにして完全なる“影分身”を作り出す。
 自分は四肢を損傷するレベルで失うのに出来上がる影分身は五体満足なのは自分でも納得いっていない。
 肉体損傷ほどではないが最大HPも減り続けるので治療の宛てがあってもあまり連発はできない。

《シャドウストーク》:アクティブスキル
 【影】の奥義。
 短時間自身の気配を完全に消し、視覚・聴覚的にも完全に知覚されない状態で行動する。
 つまりは廉価版《消ノ術》。
 消えながらでも相手に攻撃出来たり(勿論相手の攻撃も食らう)、時間辺りの消費SP効率は《消ノ術》よりも優秀(しかし効果時間は長くない。最大でも数十秒)と差異もそこそこある。


 今話もご覧いただきありがとうございます!
 物語が進行していく(大嘘
 書きたかったんです、許して……
 それでは、どうか次話もよろしくお願いします!

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