無限の世界のプレイ日記   作:黒矢

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前回のあらすじ:決闘ランキングを狙う時点で廃人か廃人予備軍だってよく分かんだね

それでは本編をどうぞ!


第四十二話 【異気昇天 コーンヴァル】

□<修羅の奈落・第三十層> 【剣鬼】ジーニアス

 

 

 

 

 孤立した島国、天地の将都に存在する〈神造ダンジョン〉、<修羅の奈落>。

 個々の特徴を持ちながらも、間違いなく〈神造ダンジョン〉としての特異性を有するこのダンジョン。

 そして、今も五人の<マスター>が挑んでいる第三十層は当然の如く〈神造ダンジョン〉の特性としてボス(強敵)が配置されているボス階層となっている。

 

 ボス――そう、ボスである。

 近隣の階層には出現しない様な力を秘めた強敵。

 まるで挑戦者の実力を試すかの如く一定階層毎に出現し、試練(戦闘)を乗り越えた強者には祝福(報酬)を、乗り越えられなかった弱者には洗礼()を与える〈神造ダンジョン〉の門番だ。

 当然ながらこの階層(フロア)ボスを倒さない限りどう足掻いても先には進めない仕組みであり、実力のない者が〈神造ダンジョン〉の先に進む事を阻むセキュリティとしての側面も持ち合わせている。

 

 そして、この<修羅の奈落・第三十層>のボス階層の概要は……一部の<マスター>ならば、たったの一言で理解できるだろう。

 

 

 

 ――モンスターハウスだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、()()()()()()()石畳の敷き詰められた広大な部屋だった。

 実に広さにして軽く数百メテル――いや、一キロメテル四方はあるかもしれない。

 

 しかし、その部屋の只中に居る僕達には、そんな広さは全く感じられない。

 何故ならば――()()

 この()()()()部屋の中、壁を背にしている僕達の視線の先、左右の関隙なく奴ら――この階層の住人が僕達を殺意の篭もった目で睨みつけているからだ。

 数秒でも経つか、あるいは何らかの拍子に均衡が崩れるか――それだけで、眼前に居る無数の……()()()()()()()()()()()()()()()()一斉に襲ってくるからだ!

 

 それも、ただの【ゴブリン】ではない。

 いずれも、一体一体が最上位の【ハイエンド・ゴブリン】に連なる精兵達ばかり。

 

 確実に湧出(ポップ)される【ハイエンド・ゴブリンロード(君主)】が1体と、側近である【ハイエンド・ゴブリンコマンダー(司令官)】が2体。

 そして――更に追加で湧出される、ボス階層の攻略時に数も編成もランダムで変わる、()()()()100体のゴブリンすべてを駆逐する、それがこの階層へ来る目的――攻略(クリア)条件なのだ!

 

 言葉にすると簡単だが、実際に行うとなるとそれは非常に難易度が高い。

 少なくとも、ティアンであれば……天地の武芸者であろうとも、最低でも戦闘型超級職を一人、そして残りもカンストした武芸者で固めなければ安定して勝利は望めないだろう。

 何故なら、相手はただの【ゴブリン】ではない、【ハイエンド・ゴブリン】なのだ。

 最低でも亜竜級上位に属し、平均ステ―タスは補正込みで3000に達し、厄介でこそないが様々な種類のスキルを有する鬼族。

 それが……最低でも、100体。酷い時は500体を数えるのだから。

 

 湧出したばかり、生まれたばかりで経験も力を扱う能もない? まさか、〈神造ダンジョン〉を作成した者がそんな半端な仕事をする訳がない。

 与えられた力(センススキル)によって上級職で習得できるそれと同等の技術を、戦法を操り、指揮官たる【ロード】と【コマンダー】の指揮も当然ながら極大のアシストが入る。

 それぞれに与えられた、スキルとステータスという単純な暴力に抗えるのは如何程の実力が必要なのか、どれほどの相手が向かってくるのか――

 

 【ハイエンド・ゴブリンシャーマン(霊術師)】が【ハイエンド・ゴブリンメイジ(魔術師)】が【ハイエンド・ゴブリンシスター(司祭)】が。

 【ハイエンド・ゴブリンウォリアー(戦士)】が【ハイエンド・ゴブリンスナイパー(狙撃手)】が【ハイエンド・ゴブリンガーディ(守護者)】が。

 【ハイエンド・ゴブリンアデプト(達人)】が【ハイエンド・ゴブリンレイダー(奇襲者)】が【ハイエンド・ゴブリンライダー(騎乗兵)】が。

 【ハイエンド・ゴブリンボマー(爆弾兵)】が【ハイエンド・ゴブリンファナティック(狂戦士)】が【ハイエンド・ゴブリンストライカー(格闘家)】が。

 【ハイエンド・ゴブリンエリート(上位者)】が【ハイエンド・ゴブリンエルダー(長老)】が【ハイエンド・ゴブリンブレイブ(英雄)】が!

 

 それぞれが、ステータスだけでもカンストしたティアンのそれに伍するか上回るそれらが、圧倒的な数の暴力を持ちながらも的確な指揮の下に襲い掛かってくるのだ!

 

 今回は()()()()約200体……正確には205体しかいないが、それでも相当の戦闘能力、殲滅力、耐久力、継戦能力、対応力を要求される、まさに門番に相応しい顔ぶれなのだけど――

 

 

 

 

「――【シャーマン】3後方、【シスター】5後方、【リチュアル(儀礼官)】なし、【ボマー】3前方、【ミュータント(異常種)】なし、【チャンピオン】2後方、【ブレイブ】1後方。新種も無し、()()()()()()!」

 

「「「応!!」」」

 

 数瞬で編成を看破した僕の言葉を聞くが早いか、パーティの皆は予定通り行動に移る。

 

 ――一番最初に前に出るのは、《鮫兎無歩》で姿勢を変えずに最前衛の【ハイエンド・ゴブリンウォリアー】達に接近するカシミヤ。

 そして、一拍遅れて強化魔法を行使し終えたカインが助走距離を取った【疾風槍士】のスキルで追撃を行う。

 

 それで前方に居たゴブリン達は一瞬動揺するが――それも前方に居る十数匹に留まる。

 僕らの左右から押し寄せるゴブリン達はこれ幸いと前衛が突出した隙を突いて僕達の方へ群がってくる。

 

「――これだから技は与えられても、状況判断できる脳もない弱卒はやりやすいのよな」

 

 そして、その言葉と共に傍にいるビッグマンさんが大鉈を振るい――同時に、左右から押し寄せて来たゴブリンの首が落ちる。

 二度、三度と振るう度にゴブリンが致命部位を断裂させられ、死に至る。

 

 十数秒が経過し、掛かった秒数以上のゴブリンの戦利品(ドロップアイテム)が左右に散乱し、前方もカシミヤの《剣速徹し》とカインのエンブリオにより蹂躙された姿ばかりが目に映る様になった頃――ようやく【コマンダー】が動く。

 

 ――GEGYUGYAAA!(守備兵を前に出せ!)GYUGYAA!(魔法を放て!)GYAGYUOOGYIAAAAA!!!(被害を考えず逃げ場残さず殲滅しろ!!!)

 

 

 その号令と共に――後方に待機していた重装鎧と盾を装備したゴブリンが全速力で前衛にぶつかりに行く。

 更に、弓が、槍が、斧が、石が、攻撃魔法が――後方から雨あられと発射された。

 

 確かに、【ガーディ】はENDだけで4000を越え、装備も含めた防御力は5000を優に超える……カシミヤの《剣速徹し》やビッグマンさんの攻撃で致命部位を狙っても即座には倒せない面倒な相手だ。

 ゴブリン側のセンススキルを以てしても、致命部位を狙える技量を皆は持っているけれど、それでも強力なアクティブスキルを使用しなければ手を煩わさせる――そんな相手。

 更に、精度を度外視して、数を増やし面制圧を狙った大多数の遠距離攻撃。

 少数のAGI型を相手にした軍の必勝戦法――――

 

 

 だけど。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「《大神の叡智》――生まれ、呑み込み、撃滅せよ、《明星(イヴニング・スター)》!」

「極光よ、集いて此処に。数多の光芒にて敵を貫かん、《レイ》!」

 

 

 相手の遠距離攻撃が着弾する前に、相手の方を向きながらも《鮫兎無歩》を使用したカシミヤと《ガスト・チャージ》をこちら側の壁に向かって発動したカインが傍に戻り。

 

 ――直後、相手の第二射が始まる前に放たれた、増幅強化された上で数十を越える()()()()と化した閃光が、極大の雷光が、幾重にも爆発する極光が、縦横無尽に部屋を駆け巡った――!

 

 

 

 

 ……数秒に満たない超級魔法の炸裂の後に、部屋に残っていたゴブリンは後方に居たままの無傷だった【ガーディ】【エリート】【チャンピオン】【エルダー】【ブレイブ】【ロード】【シスター】【シャーマン】――攻撃魔法への耐性や元より高い耐久力を持っていた極一部、総数にして20にも満たない数だけであった。

 

 誘爆連鎖はなし、大規模防御魔法もなし、異常個体も居ないのであれば……エンブリオで強化された<マスター>を相手にすればこうなるという良いお手本だと思う。

 と、まぁここまで来れば僕らに負けはないだろうから後は好きに――

 

「これは【アデプト】が残らないのがやっぱり欠点です……兎も角、せめて歯応えがあるのは戦らせて貰いましょう」

「あっ、僕も僕も! 【チャンピオン】は僕獲物だよひゃっはー!」

「ファハハハ! 童共のはしゃぐ様はまっこと良い物よ。どれ、俺は後衛をやらせて貰うぞ」

「はっはっは。では私は【ロード】を抑えておくとしようか」

「本当にレジェンダリアンに負けないくらい自由だなこいつら……戦利品を壊さない様に注意しろよー」

 

 

 うん、そんな訳で。

 今回も<修羅の奈落・第三十層>のボス階層の攻略は上手く行きました、と!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

12月5日(土)

 やーらーれーたー!

 ……いや、僕はデスペナしていないんだけど、〈UBM〉逃したー!

 〈UBM〉に遭遇する頻度は結構多いのに、こういう事って良くあるよね……!

 

 今日は(主にイーズが)待ちに待った、一日中狩りが出来る土曜日というのもあり、午前中から<修羅の奈落>での狩りを続けていた。

 明日の日曜日も僕とかは空いているんだけど、カインとかカシミヤのリアルの都合で平日と同じ様な時間しかパーティでは集まって狩りが出来ないという事情もあって、今日こそはと皆気合いを入れて心血を注いで狩りを続けていたんだよね。

 イーズの場合エンブリオの【神秘極槍 オーディン】の効果からして心血注ぐというのが文字通りの意味なのが少し笑い所……かな?

 それはそれとしても、やっぱりこうして組んでいると【大魔術師】にして【賢者】のジョブを持つイーズの後衛としての万能性、今更特筆する事でもないけどやっぱり羨ましいし有難いよね。

 エンブリオもあって更に魔法の出力も種類も格段と増している。僕の場合は特典武具を使って威力だけだからなー。

 それに、専門の魔法職が居るというだけでダンジョン攻略もすっごい、すっごい楽になるんだよね……

 天地の皆脳筋多すぎか……っ

 やっぱりもっと魔法職の人と一緒に狩る機会があると参考になるし嬉しいんだけどなぁ。イーズとかレインとかエリーシアとか、後は【陰陽師】ギルドの人達とか。

 

 と、ちょっと余談になっちゃったけどそんな感じで<修羅の奈落>での狩りは皆の尽力もあって非常に順調に進んでいた。

 ――今日の狩りも後数時間で終えるというそんな時間帯に唐突に現れた()()に遭遇しなければ。

 

 【異気昇天 コーンヴァル】。

 

 不思議な魔力と冷気を纏う……暗黒色の巨大なスライムの〈UBM〉の不意の遭遇(ランダムエンカウント)がなければ。

 

 

 その方向の専門の上級職を持っていない僕達では把握できるのはレベル程度で、ステータスすら《看破》では見破れず、伝説級(レジェンダリー)の〈UBM〉という事以外は何もかもが不透明な遭遇戦。

 それでも僕達は遭遇して即座に立ち直る事は出来た。

 〈神造ダンジョン〉ならそういう事もあるというのは情報では知っていたからね!

 

 まぁ、情報で知っていて、立ち直れたからと言って勝てるかどうかというのはまた別の話だったんだけど!

 

 まず、何をするでもなく基本的に純粋な物理攻撃しかできないビッグマンさんとカシミヤが戦力外になった。

 手持ちやアイテムボックス内に持ってきている武器ではどう足掻いてもスライムは無理らしい。

 でも、それも仕方のない事。天地全体を見てもスライム種なんて殆ど居ないし、<修羅の奈落>でだって一度も遭遇した事も聞いた事もないのだから。

 それなのに純物理型のビルドでもスライムと戦える様にする為の武器を調達、となるとかなり値が張るし、スライムの種類によっては用意した対策の武器でも通じないという事だってあるからね。理不尽……っ!

 

 次に、【魔法槍士】系統のスキル《魔力撃》等は使えるけど――結局は魔力で強化した物理攻撃だから意味がないし、攻撃魔法は基本的に土属性魔法(超物理魔法)しか使えないカインも戦力外になった。

 【陰陽師】系統も【符術師】取った上で【符】を使用したバフが主だったしね……

 

 この時点で既に僕とイーズ以外は囮くらいしかできなくなっていたと……

 でも、僕の《極光剣》で強化した光魔法も、皆に断って出したイグニスの全力の集束ブレスも――イーズが必殺スキルを使った最期の一撃の渾身の《恒星》もすべて“吸収”されちゃったんだよね……

 もう途方にくれるしかないよね!?

 自身を中心に広範囲に冷気を吹き付け、進んだ道が凍り付くようないかにも氷属性でございっていうスライムに鉄板の炎系統の全く攻撃が効いてなかったんだから……

 

 でも、今こうして結果だけ書いてみればその努力も無駄ではなかったと分かる。

 いや、あの後ピンチになったし結局相手の体積(HP)は全く削れてなかったのは事実なのだけど。

 

 それは、イグニスの集束ブレスとイーズの最期の《恒星》を【コーンヴァル】が吸収した直後、つまりイーズが死んだ(デスペナになった)直後の事だった。

 ――【コーンヴァル】の体色が黒色から僅かに()()を帯びていた。

 それに気付かなかったら、あの直後に全滅していたかもしれない。

 まるで――いや、まさに()()()()()()全方位にとんでもない熱量の爆炎を吐き出していたから。

 

 何とかカインと共に土壁と結界術、符術の合わせ技で辛うじて防いでドロップだけ回収して直ぐに離脱したけど、それでも皆少しだけ【火傷】を負う程だったんだよね……

 この恨みはらさでおくべきか!

 と、言いたい所だけどあれ僕達のパーティだと十中八九イーズが居ないと勝ち目なさそう。

 結局イーズのデスペナがあるからある意味予定通りに明日の夜までフリーという事になった!

 ……まぁ、デスペナになった時間からして明日は狩りできなさそうだけどね?

 

 今日の邂逅で能力特性は多分割れたし、是非リベンジしたんだけど――隠し玉がないとも言い切れないし、〈神造ダンジョン〉だからもう一度遭遇できるかも分からない。

 本当に〈神造ダンジョン〉は難しい……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月7日(月)

 ようやく今日から気力十分に狩りを再開!

 デスペナで所持金失ってたら暫く再起不能になっていたかもしれないねあれは……ナイスカシミヤ。

 

 そして、運が良いのか悪いのか分からないけど【異気昇天 コーンヴァル】遭遇&撃破! やったー!

 

 ……うん、色々省き過ぎだから詳しく書こう。

 まず、狩りを再開する前に皆でミーティングで先日不意に遭遇した【コーンヴァル】についての情報を確認し合ったんだけど、まぁ大体皆の予想は同じだったみたい。

 【コーンヴァル】の能力特性、それはエネルギーの吸収。

 最低でも光エネルギー、熱エネルギー、雷エネルギーは吸収・蓄積・変換・放出できるだろうというのが予想だった。

 自然に存在する熱エネルギーを吸収する事で普段は冷気を撒き散らし、こちらの光・雷・炎等の攻撃魔法も吸収して自らのエネルギーとして蓄積、放出も思いのままとなる、多分条件特化型と言われる〈UBM〉だ。

 更にその上スライムだから当然の如く物理攻撃は全く意味を成さず、前述の通り天属性攻撃魔法も通じないとなると――できる事というのは本当に限られてくるよね。

 

 正道の倒し方としてはそう、イーズが実際に今日実践してして見せた、氷属性魔法と闇属性魔法の合わせ技だと思う。

 

 元より、相手は僕達と遭遇する前から周囲に冷気を撒き散らしていた――それが必要な行為である様に。

 でも、実際に行っていたのは冷気を撒き散らす事ではなく、周囲の熱エネルギーの吸収。

 まるで酸素や栄養を体内に取り込むかの様に。

 ……そう、どういう原理でそうなっているのかは分からないけど、多分それが【コーンヴァル】の生存に必要な事だったんだと直感したんだよね。

 だから、エネルギーの吸収・減退を司る海属性魔法、その中でも熱エネルギー吸収に特化した氷属性魔法で仕留めるのが多分正しいやり方。

 更にそこにそういう一切を無視して相手の生命(HP)を削る【コーンヴァル】も吸収できない闇属性魔法で追撃……これだ!

 

 ……まぁ、イーズ以外だと本当誤差程度にしかならない闇属性が一応付いている【陰陽師】の魔法しかなかったんだけどね。

 ちなみにもしかしたら【十六夜】が効いたかもしれないと気付いたのは倒した後だった。とほほー。

 それにしてもあの攻撃手段に巨体を考えたら討伐できるのなんて本当に限られていたと思うけどね。

 意地が悪いー!

 だからこそと言うべきか、そんな相手にも対処手段を有していた僕達が再び遭遇する事になったのも多分仕方のない事だよね。

 事前のミーティングでは普通に狩りをするだけで特に〈UBM〉を探したりはしないって皆で決めてたのにね!

 そもそもイーズ以外殆ど戦力外だったのにイーズが今一番欲している金銭に代わる事はないからね、特典武具って。

 物欲センサー……

 

 実際の【コーンヴァル】との戦闘では僕とカインも微力ながら手伝ったし、ビッグマンさんとカシミヤもヘイトを稼いで囮を務めてくれたけど、まぁ当然の如くMVPはイーズだった。

 特典武具は【纏昇衣 コーンヴァル】。薄らと魔力を纏った綺麗な上着の特典武具だった。

 防御力とかステータス補正とかの装備補正は全くと言って良い程無かったけど、その分装備スキルに特化された特典武具の様で、全身に薄く結界を展開して光・熱・雷エネルギーの吸収・蓄積・放出が可能なヤバい防具なんだとか!

 発動すると光を吸収したせいか全身真っ黒の影絵みたいになるのが微妙にホラー!

 まぁ、他属性への変換機能は無かったり蓄積限界がそんなに高くなかったりするらしいけどそこはほら、伝説級だから仕方ないよね。

 というかそもそもイーズは自前で《レジスト》系統のスキル高出力で使えた様な……

 

 【コーンヴァル】討伐後は激戦で生じた狩りのペースの遅れを取り戻す為にも、再びの遭遇戦に備える為にも安全を期して続けて数回の周回で今日の狩りは終了!

 

 ……僕が特典武具を羨んだら流石にカシミヤとかに怒られるかなー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月8日(火)

 

 今日の所は流石に〈UBM〉との不意の遭遇戦も起きずに安定して狩りを続けられた。

 ……まぁ、ビッグマンさんとカシミヤ辺りがすっごく張り切ってたのがあれだけど。

 物足りないという雰囲気をビンビン感じさせる……!

 どうやら対【コーンヴァル】戦で殆ど何もできなかったのでフラストレーションが溜まっていたみたい。

 スライムどころか、<修羅の奈落>では物理攻撃無効なエレメンタルやゴースト的なモンスターすら殆ど出ないんだからそこは我慢して貰いたい。

 そもそも僕やイーズ、カインみたいな魔法職(もしくは両刀型)は割と全力を発揮するのに物資が必要だったりするから、ボス戦でもない普通の階層ではすっごく頼りにしているんだけどなー。

 最も、そういうジョブ構成(ビルド)の違いを上げるまでもなく二人は強いから普通に頼りにしていたのだけど。

 

 今日は折角だからという事で30層のボス階層を越えた31層にチャレンジ!

 

 ……してみたのだけど、ちょっとイーズが居たのに殲滅力というか魔力(MP)が追いつかなくなって撤退する羽目に。

 あの蟻地獄は多分人によっては凄いトラウマになりそうだったね。

 まぁ、このパーティには特段蟲を怖がるような人は居なかったのは幸い。

 蟲の体液も直ぐに消えて無くなるしね? こびり付いたままだったら流石の僕もイヤだった。

 

 だからそう。群れる、凄く凄く群れるだけのカモだったからね。

 倒せる内はね!

 後一人くらい有効な範囲攻撃ができる人が加わればかなり効率良さそうだったけど――

 

 ……うん、ともかく狩りはそんな感じで今日も順調だった。

 その甲斐あって僕もカシミヤに数日遅れて【剣鬼】のジョブレベルをカンストする事が出来たしね。

 ついに念願の合計レベル500越えだよ。やったね!

 

 ――それは良い。良かったんだけど、問題は今日の狩りを終えて解散してログアウトした後の事。

 眠る前に日課のデンドロの某掲示板やニュースサイトを巡ってたら、とんでもない事が載っていた。

 

 

 『本日夕方、天地の領地の一つ、通称“忍者の里”とも呼ばれる霧影領が――正体不明の勢力の奇襲を受け、壊滅!』

 

 

 ――風雲急を告げる、戦の足音がすぐそこまで迫ってきているのだと、直感せざるを得ない物だった。

 

 

 

 

To Be Continued…………

 




ステータスが更新されました――――

【異気昇天 コーンヴァル】
種族:スライム
主な能力:エネルギー吸収
最終到達レベル:48
発生:デザイン型
作成者:ジャバウォック
備考:<修羅の奈落>に放されていた伝説級のスライムの〈UBM〉。
 唐突に仲間の能力を〈UBM〉で再現してみるテスト。
 ……というのは半分は冗談であるらしい。
 流石にドーマウスレベルの代物にするにはリソース的にもコンセプト的にも色々と問題があった為、今の様な形になったんだとか。

 ジーニアスが推測した様に呼吸と同じ様に熱エネルギーを吸収して生きている生物である為、氷属性スライムの様に見えるが氷属性魔法で周囲の熱エネルギー毎【コーンヴァル】の持つ熱エネルギーを奪われるのが致命傷となる。
 他にも闇属性魔法や、相応の実力(MP)があれば風属性魔法で真空空間を作り続けたりしても一応討伐は出来ていた。
 逆に言えばそれらの攻撃手段を持っていなければほぼほぼ討伐不可能という理不尽の極みとも言えたのだが。
 ちなみに、その生態通りに特性がエネルギー吸収とは言え、基本は熱エネルギーを吸収する為であり雷・光エネルギーの吸収は副次的な物となっている為吸収効率は実は段違いとなっていた。

 スライムだからか、〈UBM〉なのに知性は非常に低い。
 実はジーニアスが撤退する羽目になったあの爆炎噴出も【コーンヴァル】にとっては良い炎を貰ったから深呼吸した程度の事……だったのかもしれない。


《魔力撃》:アクティブスキル
 【魔法剣士】【魔法槍士】等のジョブで習得できる攻撃スキル。
 自身の武器に魔力を纏わせて攻撃力を上昇させる。
 最大魔力(MP)と消費する魔力(MP)を増やす事により攻撃力を上げる事ができる。



 ……はい、今回も最後までご覧いただきありがとうございます!
 次話からようやくと言うべきか物語が進行していきます!(背水の陣
 長かった……!
 それでは、どうか次話もよろしくお願いします!
 

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