Q01 掛け算の順序を教えることは、学習指導要領で定められている?
Q02 算数で〈被乗数×乗数〉の順が正しいというのなら、外国でよく見られる〈乗数×被乗数〉の順は間違いなのですか?
Q03 問題文に書かれていないルールを児童に忖度させるべきではないのでは?
Q04 長方形は90度回転すれば、縦と横は入れ替わるので、順序を固定することは不可能では?
Q05 どちらが一つ分か曖昧な文章題もあるのでは?
Q06 〈かけ算の順序〉のような無意味なルールを教えられている最近の子どもたちはかわいそうでは?
Q07 トランプ配りをすれば、一つ分といくつ分が入れ替わるので、1つ分を一意で決めることは不可能では?
Q08 数学的に正しい式をなぜ不正解にするのか?
Q09 式逆でバツを付けられた児童は数学が嫌いになってしまうのでは?
Q10 単位を付ければ、〈かけ算の順序〉問題は解決では?
Q11 5×2×3で、どれが1つ分で、どれがいくつ分?
Q12 「かけ算に順序がある」など、日本の算数教育は、トンデモではないか?
Q13 〈かけ算の順序〉では質量×速度となる、それとも速度×質量?
Q14 中学受験でも〈かけ算の順序〉を守ったほうがよいのでしょうか?
Q15 〈かけ算の順序〉は交換法則を習うまでの一時的なものでは?
Q16 文章題にダミーの数や他の演算が必要な数を入れておけば順序は不要では?
Q17 長方形が斜めに傾いているとき、その面積を求める式の順序は、どうなるのでしょうか?
Q18 「かけられる数」「かける数」とは何でしょうか?
Q19 文章題では、式に、問題文に使われている数字しか使っていけない?
Q20 小学校での〈かけ算の順序〉指導は、大学で行列積などの非可換積を学ぶのを見越してのことでしょうか?
Q19 文章題では、式に、問題文に使われている数字しか使っていけない?
Q20 小学校での〈かけ算の順序〉指導は、大学で行列積などの非可換積を学ぶのを見越してのことでしょうか?
Q01 掛け算の順序を教えることは、学習指導要領で定められているのですか? 要領に書いてあるなら、それは教員ではなく文科省の責任です。逆に、書いていないなら、順序指導を行うのは、違法行為ではないでしょうか。
A01:学習指導要領には、書かれていません。学習指導要領(2019)において、2年のかけ算の学習について書かれているのは、次のことだけです。
(ア) 乗法の意味について理解し,それが用いられる場合について知る
こと。
(イ) 乗法が用いられる場面を式に表したり,式を読み取ったりするこ
と。
(ウ) 乗法に関して成り立つ簡単な性質について理解すること。
(エ) 乗法九九について知り,1位数と1位数との乗法の計算が確実に
できること。
(オ) 簡単な場合について,2位数と1位数との乗法の計算の仕方を知
ること。
学習指導要領は、文科省のサイトにあるPDF版を実際に読んでみるとわかりますが、どの学年でどんなことを学習するのかということの概要しか書かれていません。それはいわば骨格だけなので、それをどう肉付けするか、どう具体化するかは、学校や教科書会社、教師に委ねられています。
教室で算数の時間に行われていることで、要領に書いていないことはたくさんあります。たとえば、九九表とか、九九を覚えること、九九の学習を「五の段、二の段、三の段~九の段、一の段」の順に学習すること、などです。
順序指導もこの具体化のレベルに属しているので、順序指導をすべきかどうか、してよいかどうか、について、指導要領本体から引き出すことできません。指導要領は骨格にすぎないので、そこに順序指導について書いていなくても、順序指導が禁止されている、順序指導をしたら法令違反だ、ということにはなりません。
学習指導要領とは別に、その解説を文科省は出しています。2020年度施行の要領の解説には、「ここで述べた被乗数と乗数の順序は、「1つ分の大きさの幾つ分かに当たる大きさを求める」という日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである。」(2019 p.115)と書かれています。順序は大切なのです。
だが、その直後には「一方、乗法の計算の結果を求める場合には、交換法則を必要に応じて活用し、被乗数と乗数を逆にして計算してもよい。」と書かれています。これは、文章題の立式(最初に立てる式)では順序に従い、その後の計算では、とくに順序に従わなくてもよい、ということです。
文科省初等中等教育局教育課は,「掛け算の意味を理解させるように定めているが,順序については国が定めるものではない」(中日新聞 2012/11/05 p.6)としています。文科省は,〈掛け算の順序〉論争に対しては,中立的な立場のようです。
Q02 レゴの解説書には、使うブロックの数が、3×などと表記されていました。1人100m4人全員で400mを走る400メートルリレーは、英語では、"4x100 Metres Relay"で、この英語表現を日本語にそのまま移植した「4×100mリレー」という日本語表現を、報道でよく見かけます。このように、外国ではかけ算の式は、日本の算数とは逆の〈乗数×被乗数〉の順が標準になっていることが多く見られます。〈被乗数×乗数〉の順しか認めない日本の学校算数は世間知らずでは? なぜ、〈被乗数×乗数〉であって、〈乗数×被乗数〉ではないのでしょうか。
A02 日本国内でも、学校教育の外では、レシートなどが数量×単価の順になっている、といようなことがありますね。
〈かけ算の順序〉指導は、〈被乗数×乗数〉の順序がかけ算の性質だと主張するものではありません。ただ、日本の算数教育のなかで、〈被乗数×乗数〉の順に書く習慣がある、ということです。それは一種の書式です。会社によって、業界によって、伝票の書式が違うことは、普通にあります。
〈かけ算の順序〉指導は、また、教え方でもあります。〈1つ分×いくつ分〉の順に固定してかけ算を教える手法です。一つ分といくつ分とでは意味が違うので、それが理解し意識できるように、順序を固定して教えるです。教え方は国によって違っても、おかしくありません。一方が正しく、他方が間違いだということではありません。
A01:学習指導要領には、書かれていません。学習指導要領(2019)において、2年のかけ算の学習について書かれているのは、次のことだけです。
(ア) 乗法の意味について理解し,それが用いられる場合について知る
こと。
(イ) 乗法が用いられる場面を式に表したり,式を読み取ったりするこ
と。
(ウ) 乗法に関して成り立つ簡単な性質について理解すること。
(エ) 乗法九九について知り,1位数と1位数との乗法の計算が確実に
できること。
(オ) 簡単な場合について,2位数と1位数との乗法の計算の仕方を知
ること。
学習指導要領は、文科省のサイトにあるPDF版を実際に読んでみるとわかりますが、どの学年でどんなことを学習するのかということの概要しか書かれていません。それはいわば骨格だけなので、それをどう肉付けするか、どう具体化するかは、学校や教科書会社、教師に委ねられています。
教室で算数の時間に行われていることで、要領に書いていないことはたくさんあります。たとえば、九九表とか、九九を覚えること、九九の学習を「五の段、二の段、三の段~九の段、一の段」の順に学習すること、などです。
順序指導もこの具体化のレベルに属しているので、順序指導をすべきかどうか、してよいかどうか、について、指導要領本体から引き出すことできません。指導要領は骨格にすぎないので、そこに順序指導について書いていなくても、順序指導が禁止されている、順序指導をしたら法令違反だ、ということにはなりません。
学習指導要領とは別に、その解説を文科省は出しています。2020年度施行の要領の解説には、「ここで述べた被乗数と乗数の順序は、「1つ分の大きさの幾つ分かに当たる大きさを求める」という日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである。」(2019 p.115)と書かれています。順序は大切なのです。
だが、その直後には「一方、乗法の計算の結果を求める場合には、交換法則を必要に応じて活用し、被乗数と乗数を逆にして計算してもよい。」と書かれています。これは、文章題の立式(最初に立てる式)では順序に従い、その後の計算では、とくに順序に従わなくてもよい、ということです。
文科省初等中等教育局教育課は,「掛け算の意味を理解させるように定めているが,順序については国が定めるものではない」(中日新聞 2012/11/05 p.6)としています。文科省は,〈掛け算の順序〉論争に対しては,中立的な立場のようです。
Q02 レゴの解説書には、使うブロックの数が、3×などと表記されていました。1人100m4人全員で400mを走る400メートルリレーは、英語では、"4x100 Metres Relay"で、この英語表現を日本語にそのまま移植した「4×100mリレー」という日本語表現を、報道でよく見かけます。このように、外国ではかけ算の式は、日本の算数とは逆の〈乗数×被乗数〉の順が標準になっていることが多く見られます。〈被乗数×乗数〉の順しか認めない日本の学校算数は世間知らずでは? なぜ、〈被乗数×乗数〉であって、〈乗数×被乗数〉ではないのでしょうか。
A02 日本国内でも、学校教育の外では、レシートなどが数量×単価の順になっている、といようなことがありますね。
〈かけ算の順序〉指導は、〈被乗数×乗数〉の順序がかけ算の性質だと主張するものではありません。ただ、日本の算数教育のなかで、〈被乗数×乗数〉の順に書く習慣がある、ということです。それは一種の書式です。会社によって、業界によって、伝票の書式が違うことは、普通にあります。
〈かけ算の順序〉指導は、また、教え方でもあります。〈1つ分×いくつ分〉の順に固定してかけ算を教える手法です。一つ分といくつ分とでは意味が違うので、それが理解し意識できるように、順序を固定して教えるです。教え方は国によって違っても、おかしくありません。一方が正しく、他方が間違いだということではありません。
なぜ、日本の学校算数では、〈1つ分×いくつ分〉であって、〈いくつ分×1つ分〉でないか? これは道路の左側通行・右側通行と同じで、〈1つ分×いくつ分〉でなければならない必然的な理由はありません。しかし、だからといって、道路の場合、左側通行か右側通行のどちらかで統一しないと、交通が混乱してしまいます。
かけ算の指導も似ています。かけ算は、一つ分といくつ分から全部の数を求める演算として定義され導入されます。〈1つ分×いくつ分〉か〈いくつ分×1つ分〉のどちらか一方で統一したほうが、学習上も指導上も、教育的設定としては、都合がいいのです。そのように固定することは、初学者に一つ分(被乗数)がどれで、いくつ分(乗数)がどれかが、一目でわかるという利点があります。逆に、この状況で、順序を不規則に入れ替えながら教えるのは、学習者を混乱させるだけです。
日本の算数教育で、〈いくつ分×1つ分〉ではなく、〈1つ分×いくつ分〉で統一されているのは、日本が明治期に近代的な学制・カリキュラムを確立する際に参照した欧米の算術書が、〈被乗数×乗数〉の順を採用していたからです。ここからまた、〈被乗数×乗数〉の順が、日本語の文法や語順とは関係がないことがわかります。
Q03 かけ算文章題の式を〈1つ分×いくつ分〉の順に書く、小数筆算で小数以下のゼロを抹消するなど、教師が勝手に考えた、問題文に書かれていない俺様ルールを、児童に忖度させるべきではないのでは?
A03 児童はテストを受ける前に、授業中の板書やノートで、そして、宿題のドリルで、同様のタイプの文章題を解いていて、もしかけ算の順序が違っていれば直されていました。授業に参加していて、よく聞いていた児童にとっては、かけ算の式を〈1つ分×いくつ分〉の順に書く、というのは、既知の事項です。だから、児童にとっては、教師がどんな独自ルールを設定しているのかを、テストになって推測する必要は、ないのです。
それでも、逆順に式を書いてバツにされるのは、文章題文章中に現れる順序でいくつ分の数が最初に出てくるのに誘導されてしまうからです。とくに低学年の児童は文章を解析する能力が不十分で、文章中の数の出現順序に、誘導されやすいのです。実際、ネットにアップされるほとんどのバツ採点答案が、文章中の順序でいくつ分が先に出てくる逆順文章題です。
保護者は授業に出ていませんし、授業でそのように指導されていることが、わかりません。疑問に思って、答案を写真にとり、ネットにアップすると、保護者以上に授業の文脈を知らないネットユーザーの誤解に晒されます。そのようなテストは、授業の一環として行われたものであることを認識する必要があります。
Q03 かけ算文章題の式を〈1つ分×いくつ分〉の順に書く、小数筆算で小数以下のゼロを抹消するなど、教師が勝手に考えた、問題文に書かれていない俺様ルールを、児童に忖度させるべきではないのでは?
A03 児童はテストを受ける前に、授業中の板書やノートで、そして、宿題のドリルで、同様のタイプの文章題を解いていて、もしかけ算の順序が違っていれば直されていました。授業に参加していて、よく聞いていた児童にとっては、かけ算の式を〈1つ分×いくつ分〉の順に書く、というのは、既知の事項です。だから、児童にとっては、教師がどんな独自ルールを設定しているのかを、テストになって推測する必要は、ないのです。
それでも、逆順に式を書いてバツにされるのは、文章題文章中に現れる順序でいくつ分の数が最初に出てくるのに誘導されてしまうからです。とくに低学年の児童は文章を解析する能力が不十分で、文章中の数の出現順序に、誘導されやすいのです。実際、ネットにアップされるほとんどのバツ採点答案が、文章中の順序でいくつ分が先に出てくる逆順文章題です。
保護者は授業に出ていませんし、授業でそのように指導されていることが、わかりません。疑問に思って、答案を写真にとり、ネットにアップすると、保護者以上に授業の文脈を知らないネットユーザーの誤解に晒されます。そのようなテストは、授業の一環として行われたものであることを認識する必要があります。
〈かけ算の順序〉は戦前から行われているかけ算指導法で、小数点以下のゼロを抹消させるのも、遅くとも1970年代から行われていて、その担任教師がたまたま思いついたり密かに考えて作ったりしたものではありません。〈かけ算の順序〉もゼロ抹消も、【俺様】ルールではありません。
Q04 長方形の面積は〈縦×横〉で求めますが、長方形は90度回転すれば、あるい、横から見れば、縦と横は入れ替ります。直方体の体積を求める〈縦×横×高さ〉も同様です。順序を固定することはもともとできないのでは?
Q05 「3日間連続のイベントに、4人のアルバイトを雇って、毎晩帰りのタクシー券1人1枚渡すとき、タクシー券は全部で何枚必要?」(注1)という文章題の正しい式は、4×3ですか、それとも、3×4ですか。
A05 これは、日を基準とすれば1日あたり4人分4枚が3日間分なので4×3ですが、人を基準とすれば、1人あたり3日間分3枚で、それが4人分必要なので、3×4です。どちらの解釈も同じ程度に可能です。というより、その文章題は、そのように、1つ分がどちらても解釈できるように、意図的に作られていると思います。この場合は、順序を理由にマルバツをつけることはできません。
同様に、「イチゴ味、ミカン味、メロン味、パイナップル味の4味をそれぞれ一個ずつ詰めたキャンディの袋が3つあります。キャンディは全部で何個?」という文章題でも、味を単位とすれば3×4ですし、袋を単位とすれば、4×3です。
順序は手段にすぎません。このようなときは、順序で1つ分といくつ分の理解を問えないので、順序を問わなければよいのです。逆に、もし順序を問いたいなら、このような、一つ分について解釈が拮抗する曖昧な文章題は出さなければよいのです。
「袋が3つあり、各袋に3個詰めるとき、キャンディは全部で何個必要?」という文章題についても、同様です。式は3×3ですが、同じ数値なので、児童が〈1つ分×いくつ分〉の順に書いているとしても、本当にそうなのかは教師にはわかりません。
小学生に単位・助数詞を付けさせることには、問題があります。まず、個/袋のような組立単位が使えるようになるには、分数の約分の知識が必要です。しかも、(数ではなく)単位・助数詞の約分をするためには、
2xy^2/xy = 2y
のように、単項式の割り算も学習していなければなりません。でも、分数の約分は5年で、単項式の割り算は中学数学で学ぶというのに、かけ算はすでに小2から学習しています。組立単位の使用は、小学生には高度すぎます。
個/袋×袋=(個×袋)/袋
=(個×【袋】)/【袋】
=(個×1)/1
=個
昔の算術書や教科書で採用されていた単位・助数詞の付け方があります。それは、単位を被乗数と答えに付けて、乗数にはつけないやり方です。
4個×3=12個
このやり方では、なぜ、「個」は書くのに、「袋」はかかないのか、ということが児童にはわからないと思います。しかし、次のような指導法はあります。「何個?ときいているでしょう、だから答えは12個、単位のサンドイッチの規則で、乗号の前が個。個と付いているのは4だから、4を前に置く」。
でも、単位・助数詞をつけていたこの時代にも、かけ算の順序は固定されていました。式に単位をつけることと、かけ算の式の順序を固定することは、仲良く同居できるのです。だから、単位・助数詞を書いても、〈かけ算の順序〉指導はなくなりません。算数教育の歴史がそれを示しています。
Q11 もしかけ算の式が〈1つ分×いくつ分〉となるのだったら、5×2×3のように3つの因数がある掛け算はどうなるのでしょうか。どれが被乗数(かけられる数)で、どれが乗数なのでしょうか。
A11 5×2×3のような式は、それだけでは、文章題のような文脈がないので、意味はあまり重要ではなく、どれが1つ分の数で、どれがいくつ分の数かは決めなくてもよいと思いますが、あえて言えば、乗号の前が1つ分で、後がいくつ分です。5×2の5が被乗数で、2が乗数です。では、5×2×3のように数字が3つあるかけ算は、どうなるのでしょうか。
Q12 「かけ算に順序がある」だけでなく、「倍数にはゼロは含まない」「正方形は長方形ではない」とったような、数学的な誤り、つまり、嘘でたらめ、が教えられている日本の算数教育は、トンデモではないでしょうか。
A12 倍数にゼロを含めるのか含めないかは、定義の問題にすぎず、どちらの定義が間違っているということはありません。算数での定義は、自然数の範囲で考えられてきた倍数の伝統を継承するものです。高校になると、倍数はゼロと負の数へと拡張されます。
注
注1
Q04 長方形の面積は〈縦×横〉で求めますが、長方形は90度回転すれば、あるい、横から見れば、縦と横は入れ替ります。直方体の体積を求める〈縦×横×高さ〉も同様です。順序を固定することはもともとできないのでは?
A04 平面図形や立体図形を自由に回転させることができる能力というのは、訓練によってはじめて身につきます。小4の児童にとって、縦4cm横8cmの横長長方形と、縦8cm横4cmの縦長長方形は、別の図形と認識されます。小6も、180度回転である点対称に手こずっています。面積や体積を求めるときも、小学生は、設問に描かれた平面図形・立体図形を、回転させません。
〈横×高さ〉でバツになることがあるのは、教科書にあるような〈縦×横〉という公式に従って書いていないためです。〈横×高さ〉なのか〈縦×横〉なのかは、慣習的に決まっていることです。同じことは、〈底辺×高さ÷2〉や、〈基準量×割合〉の公式でも言えます。
式の最初の形を公式に従って書かないとバツになることは、学校算数では、よくあります。学校では、さまざまなものが、公式を使って(なぜその公式なのかという理由も含めて)教えられています。
公式通りの立式が求められるのは、単に計算結果を尋ねているからではないからです。縦5m、横11mなどの数値が入った長方形が描かれていて、その面積を求める問題は、1)計算が正しいかどうかだけではなく、2)授業で、それが導かれた理由も含めて学んだ公式が頭に入っているかどうか、3)単位が正しいかどうか(55cm^2とか56mとかなっていなかどうか)、などが同時に問われているからです。
長方形の場合は、どれが縦でどれが横であるかわかっていることをチェックする価値はあまりありませんが、立体の場合は、見取り図を読み取る能力が試されています。三角形の求積公式における〈底辺×高さ〉であったら、4)その図形のどこの部分が底辺で、どの部分が高さであるのか(高さを辺の長さと勘違いしていないかどうか)がチェックされます。
〈基準量×割合=比較量〉という公式における比較量と基準量についても、同様で、これを正しく使うには、文章題に与えられているのが、基準量なのか比較量なのかわかっていないといけません。この意味でも、公式通りの立式が求められます。いったん立式したあとの計算では、必要に応じて、交換法則などを用いて順序を変えるなど、計算を楽にする工夫はしても、問題はありません。
かけ算の文章題で、式が逆だとバツになるのは、〈1つ分×いくつ分=全部の数〉という公式(ことばの式)に従って立式できていないからです。順序問題は公式の問題とつながっています。
Q05 「3日間連続のイベントに、4人のアルバイトを雇って、毎晩帰りのタクシー券1人1枚渡すとき、タクシー券は全部で何枚必要?」(注1)という文章題の正しい式は、4×3ですか、それとも、3×4ですか。
A05 これは、日を基準とすれば1日あたり4人分4枚が3日間分なので4×3ですが、人を基準とすれば、1人あたり3日間分3枚で、それが4人分必要なので、3×4です。どちらの解釈も同じ程度に可能です。というより、その文章題は、そのように、1つ分がどちらても解釈できるように、意図的に作られていると思います。この場合は、順序を理由にマルバツをつけることはできません。
同様に、「イチゴ味、ミカン味、メロン味、パイナップル味の4味をそれぞれ一個ずつ詰めたキャンディの袋が3つあります。キャンディは全部で何個?」という文章題でも、味を単位とすれば3×4ですし、袋を単位とすれば、4×3です。
順序は手段にすぎません。このようなときは、順序で1つ分といくつ分の理解を問えないので、順序を問わなければよいのです。逆に、もし順序を問いたいなら、このような、一つ分について解釈が拮抗する曖昧な文章題は出さなければよいのです。
「袋が3つあり、各袋に3個詰めるとき、キャンディは全部で何個必要?」という文章題についても、同様です。式は3×3ですが、同じ数値なので、児童が〈1つ分×いくつ分〉の順に書いているとしても、本当にそうなのかは教師にはわかりません。
教え方(手段)にすぎない順序を、かけ算の性質であるかのように実体化してしまうならば、それは、自由派であろうと順序派であろうと、間違っています。
Q06 〈かけ算の順序〉のような無意味なルールに従わされる今の子どもたちは、とてもかわいそうではないでしょうか。いつのまに、日本の算数教育はトンデモ化してしまったのでしょうか。誰の陰謀でしょうか。
A06 〈かけ算の順序〉指導のことをはじめて知ると、ほとんどの人は、自分が小学生のとき順序固定で教わったことはすっかり忘れていますので、最近の現象だと思いがちです。そのために、「いつのまに算数教育は悪くなってしまったのか」「今の子は可哀想だ」などという言葉が聞かれます。
Q06 〈かけ算の順序〉のような無意味なルールに従わされる今の子どもたちは、とてもかわいそうではないでしょうか。いつのまに、日本の算数教育はトンデモ化してしまったのでしょうか。誰の陰謀でしょうか。
A06 〈かけ算の順序〉指導のことをはじめて知ると、ほとんどの人は、自分が小学生のとき順序固定で教わったことはすっかり忘れていますので、最近の現象だと思いがちです。そのために、「いつのまに算数教育は悪くなってしまったのか」「今の子は可哀想だ」などという言葉が聞かれます。
しかし、たとえば、1930年に東京市が実施した学力テストの報告書に書かれている採点基準によると、かけ算の文章題の逆順式は、全部バツでした(注2)。順序指導を受ける子どもたちがかわいそうだとは思いませんが、もし、かわいそうだとすれば、今生きているほとんどの日本人が、かわいそうだということになります。
一般的に言えば、昔から行われている、というだけでは、正しいとは言えません。ただ、実際に使われて長年試されている、そうした実地使用に耐えてきている、という強みはあると思います。自由派は批判しているだけで、対抗理論を打ち出すことはほとんどありませんが、かりにあっても、実際の指導経験に裏打ちされていないので、机上の空論となるでしょう。
順序指導を批判する自由派も含めて、多くの日本人は、順序指導を受けて、数学を学んできました。順序指導はかけ算の指導法の1つなので、それがないとかけ算が理解できなくなるというものではありません。しかし、自由派も、自身の高等数学的なかけ算理解を獲得する過程の初期の段階で、おそらく、習得したものなのです。ただ、だいぶ前に乗り越えてしまい、そして、忘れてしまっているだけです。恩知らずです。
Q07 「3つの袋があり、どの袋にも4つ詰めるとき、キャンディは全部で何個必要?」という文章題で、1つ目の袋にまず1個、2つ目の袋に1個、最後の袋にも1個入れます。これを1周目とすれば、2周目では、2つ目のキャンディをすべての袋に詰めます。4周することで、最後には、どの袋にも4個詰められます。1周に3個ずつのグループを4つ作れるので、〈1つ分×いくつ分〉の順に書けば、式は3×4になり、これもマルになるのでは?
A07 これは、いわゆるトランプ配り(カード配り)ですね。トランプ配りをすれば、そのような解釈も間違いなく可能になります。こう解釈することで、いくつ分と思われた袋の数3は一つ分に、一つ分と思われた各袋のなかのキャンディの数4は、いくつ分になります。つまり、一つ分といくつ分が逆転します。
そのような解釈が間違っているとは思いませんが、しかし、非現実的です。というのも、小学生は事物に即して物を考えるので、問題文中にトランプ配りの様子を叙述するなどの誘導がないと、そのような解釈をしないからです。その解釈は、〈かけ算の順序〉論争の自由派が順序派をやり込めるために出してくるもので、大人でも、論争に参加していない限り、思いつきません。もちろん、説明されれば理解はできますが。
トランプ配りのようなことは、1個2個と数えられる量(分離量)では比較的容易ですが、連続量になると、とたんに、難しくなります。むずかしても、可能と言えば可能です。たとえば、47円の消しゴム4個を買うときに、47回の分割払にして、1回につき4円ずつを支払うならば、式は4円×47回になります。しかし、そのような曲芸的な解釈を小学生が思いつく可能性を考える必要はありません。
同数グループがあったとき、各グループの構成員数が一つ分で、その文章題では、各袋のなかのキャンディの個数4です。小学生がするドリルや確認テストのなかの文章題では、文章のなかでそのように「4個ずつ」などと一つ分として与えられているものを、ちゃんと一つ分として把握できているかどうか、が試されています。いくつ分についても同様です。
小学生はどうしても、数の意味を理解せずに、文章に現れる数をともかくも、習いたての九九で掛けて答えを出そうとします。そうではなく、〈1つ分×いくつ分〉というかけ算の構造の理解が重要なのです。
Q08 かけ算には順序はない、つまり、交換法則が成り立つので、順序を理由に式をバツにするのは、交換法則を否定している点で、数学的に誤っているのでは? 数学的に正しい式を不正解とするものではないでしょうか。
A08 「3つ袋があり、各袋に4つずつ詰めるとき、キャンディは全部で何個?」という文章題で、逆順式3×4がバツになるのは、「〈1つ分×いくつ分〉の順に式を書きましょう」という指示に従っていないからです。そのバツは、けっして、交換法則を否定するものではありません。
それは、「3と4の公倍数を【小さいほうから3つ】書きなさい」という設問で、【小さいほうから3つ】という解答書式上の指示に従わずに24から4つ書けば、バツになるのと同じです。そのような設問を作ったからと言って、そしてまた、そのような採点をしたからと言って、3と4の公倍数が3つしかないと主張していることにはなりません。【小さいほうから3つ】は、公倍数の性質ではなく、解答書式上の指示にすぎないからです。
かけ算の文章題の場合も同じです。書かれていまかせんが、そこには、【かけ算の式は〈1つ分×いくつ分〉の順に書きましょう】という、解答書式上の指示があるのです。【答え欄の答えには単位・助数詞を付けましょう】というのも、書かれざる指示です。しかし、この順序の固定は、かけ算の性質ではありません。それは数学的なものではなく、教育的なものです。数学的なものではないので、「数学的に誤り」であることも、「数学的に正しい」ことも、ありえません。
Q09 式逆でバツを付けられた児童は、数学が嫌いになってしまうのではないでしょうか? その数学的才能の芽を潰されてしまうのではないでしょうか。
A09 かけ算の式の順序が逆でバツになった小学生が、数学が嫌いになるという証拠はありません。そのように言ってツイッターなどで騒いでいるのは大人であり、子どもではありません。大人は、〈因数×因数〉タイプの対称的なかけ算の概念をすでに獲得していますから、そのかけ算の可換性を、子どもにいわば「感情移入」してしまい、もし自分だったら、数学が嫌いになるであろうと、無意識に推測しているだけです。しかし、子どもはまだ、〈因数×因数〉タイプのかけ算の概念やそのかけ算の固有な可換性の感覚、つまり、「順序はどうでもいい」という感覚を獲得していないので、実際に、それが原因で数学が嫌いになることはありません。
以前に、ツイッターで山田さんという人が、数学が嫌いないし苦手になった理由を応募しました。その理由のなかには、三角関数だとか、負の数だとか、ベクトル・複素数だとか、文字式だとか、サイン・コサイン・タンジェントだとか、微積分だとか、因数分解だとか、証明の意味だとか、公式の丸暗記だとか、2次関数だとか、文章題だとか、2次関数の場合分けだとか、2次関数だとか……
他には、3次方程式、集合と論理、行列、相加相乗平均、1次方程式、2次関数、虚数、n進法、確率と場合の数、展開・因数分解と絶対値、座標、連立方程式、立体、図形、数列、合同・相似、極限、平方根、動く点P……
小学校の学習事項もありました。割合、暗算、引き算、繰り下がりの引き算、数字、割り算の余り、計算ドリル、3桁の割り算の筆算、九九の暗唱、小数の掛け算・割り算、速さ、百マス計算、分数やその乗算・除算……
回答者の1人青茶氏は、掛け算の順序と動く点P、反比例を挙げています。(2018/05/24 23:07)。掛け算の順序を理由として挙げたのは、この人くらいです。しかし、アンケートが示すように、数学のありとあらゆる事項が、数学嫌いと苦手の原因となりえます。かけ算の順序はその1つにすぎません。もし、数学が嫌いになるから無くせというのなら、算数と数学の全体を無くさなければなりません。
Q10 かけ算の順序が、一つ分×いくつ分というかけ算の仕組みを理解させる手段だとしたら、4個/袋×3袋=12個のように、式に単位・助数詞を付けさせれば、4と3のどちらを単位あたり量、他のどちらをいくつ分と見なしているのかがわかるので、順序は不要になるのではないでしょうか。
4個/袋×3袋=3袋×4個/袋=12個
A10 単位・助数詞を付けさせれば、一つ分といくつ分を区別させることはでき、順序は不要になるのは確かです。しかし、順序でも、同じことは可能です。個/袋のような一あたり量は、乗号の前に置くと、定めておけばよいのです。
一般的に言えば、昔から行われている、というだけでは、正しいとは言えません。ただ、実際に使われて長年試されている、そうした実地使用に耐えてきている、という強みはあると思います。自由派は批判しているだけで、対抗理論を打ち出すことはほとんどありませんが、かりにあっても、実際の指導経験に裏打ちされていないので、机上の空論となるでしょう。
順序指導を批判する自由派も含めて、多くの日本人は、順序指導を受けて、数学を学んできました。順序指導はかけ算の指導法の1つなので、それがないとかけ算が理解できなくなるというものではありません。しかし、自由派も、自身の高等数学的なかけ算理解を獲得する過程の初期の段階で、おそらく、習得したものなのです。ただ、だいぶ前に乗り越えてしまい、そして、忘れてしまっているだけです。恩知らずです。
Q07 「3つの袋があり、どの袋にも4つ詰めるとき、キャンディは全部で何個必要?」という文章題で、1つ目の袋にまず1個、2つ目の袋に1個、最後の袋にも1個入れます。これを1周目とすれば、2周目では、2つ目のキャンディをすべての袋に詰めます。4周することで、最後には、どの袋にも4個詰められます。1周に3個ずつのグループを4つ作れるので、〈1つ分×いくつ分〉の順に書けば、式は3×4になり、これもマルになるのでは?
A07 これは、いわゆるトランプ配り(カード配り)ですね。トランプ配りをすれば、そのような解釈も間違いなく可能になります。こう解釈することで、いくつ分と思われた袋の数3は一つ分に、一つ分と思われた各袋のなかのキャンディの数4は、いくつ分になります。つまり、一つ分といくつ分が逆転します。
そのような解釈が間違っているとは思いませんが、しかし、非現実的です。というのも、小学生は事物に即して物を考えるので、問題文中にトランプ配りの様子を叙述するなどの誘導がないと、そのような解釈をしないからです。その解釈は、〈かけ算の順序〉論争の自由派が順序派をやり込めるために出してくるもので、大人でも、論争に参加していない限り、思いつきません。もちろん、説明されれば理解はできますが。
トランプ配りのようなことは、1個2個と数えられる量(分離量)では比較的容易ですが、連続量になると、とたんに、難しくなります。むずかしても、可能と言えば可能です。たとえば、47円の消しゴム4個を買うときに、47回の分割払にして、1回につき4円ずつを支払うならば、式は4円×47回になります。しかし、そのような曲芸的な解釈を小学生が思いつく可能性を考える必要はありません。
同数グループがあったとき、各グループの構成員数が一つ分で、その文章題では、各袋のなかのキャンディの個数4です。小学生がするドリルや確認テストのなかの文章題では、文章のなかでそのように「4個ずつ」などと一つ分として与えられているものを、ちゃんと一つ分として把握できているかどうか、が試されています。いくつ分についても同様です。
小学生はどうしても、数の意味を理解せずに、文章に現れる数をともかくも、習いたての九九で掛けて答えを出そうとします。そうではなく、〈1つ分×いくつ分〉というかけ算の構造の理解が重要なのです。
Q08 かけ算には順序はない、つまり、交換法則が成り立つので、順序を理由に式をバツにするのは、交換法則を否定している点で、数学的に誤っているのでは? 数学的に正しい式を不正解とするものではないでしょうか。
A08 「3つ袋があり、各袋に4つずつ詰めるとき、キャンディは全部で何個?」という文章題で、逆順式3×4がバツになるのは、「〈1つ分×いくつ分〉の順に式を書きましょう」という指示に従っていないからです。そのバツは、けっして、交換法則を否定するものではありません。
それは、「3と4の公倍数を【小さいほうから3つ】書きなさい」という設問で、【小さいほうから3つ】という解答書式上の指示に従わずに24から4つ書けば、バツになるのと同じです。そのような設問を作ったからと言って、そしてまた、そのような採点をしたからと言って、3と4の公倍数が3つしかないと主張していることにはなりません。【小さいほうから3つ】は、公倍数の性質ではなく、解答書式上の指示にすぎないからです。
かけ算の文章題の場合も同じです。書かれていまかせんが、そこには、【かけ算の式は〈1つ分×いくつ分〉の順に書きましょう】という、解答書式上の指示があるのです。【答え欄の答えには単位・助数詞を付けましょう】というのも、書かれざる指示です。しかし、この順序の固定は、かけ算の性質ではありません。それは数学的なものではなく、教育的なものです。数学的なものではないので、「数学的に誤り」であることも、「数学的に正しい」ことも、ありえません。
Q09 式逆でバツを付けられた児童は、数学が嫌いになってしまうのではないでしょうか? その数学的才能の芽を潰されてしまうのではないでしょうか。
A09 かけ算の式の順序が逆でバツになった小学生が、数学が嫌いになるという証拠はありません。そのように言ってツイッターなどで騒いでいるのは大人であり、子どもではありません。大人は、〈因数×因数〉タイプの対称的なかけ算の概念をすでに獲得していますから、そのかけ算の可換性を、子どもにいわば「感情移入」してしまい、もし自分だったら、数学が嫌いになるであろうと、無意識に推測しているだけです。しかし、子どもはまだ、〈因数×因数〉タイプのかけ算の概念やそのかけ算の固有な可換性の感覚、つまり、「順序はどうでもいい」という感覚を獲得していないので、実際に、それが原因で数学が嫌いになることはありません。
以前に、ツイッターで山田さんという人が、数学が嫌いないし苦手になった理由を応募しました。その理由のなかには、三角関数だとか、負の数だとか、ベクトル・複素数だとか、文字式だとか、サイン・コサイン・タンジェントだとか、微積分だとか、因数分解だとか、証明の意味だとか、公式の丸暗記だとか、2次関数だとか、文章題だとか、2次関数の場合分けだとか、2次関数だとか……
他には、3次方程式、集合と論理、行列、相加相乗平均、1次方程式、2次関数、虚数、n進法、確率と場合の数、展開・因数分解と絶対値、座標、連立方程式、立体、図形、数列、合同・相似、極限、平方根、動く点P……
小学校の学習事項もありました。割合、暗算、引き算、繰り下がりの引き算、数字、割り算の余り、計算ドリル、3桁の割り算の筆算、九九の暗唱、小数の掛け算・割り算、速さ、百マス計算、分数やその乗算・除算……
回答者の1人青茶氏は、掛け算の順序と動く点P、反比例を挙げています。(2018/05/24 23:07)。掛け算の順序を理由として挙げたのは、この人くらいです。しかし、アンケートが示すように、数学のありとあらゆる事項が、数学嫌いと苦手の原因となりえます。かけ算の順序はその1つにすぎません。もし、数学が嫌いになるから無くせというのなら、算数と数学の全体を無くさなければなりません。
Q10 かけ算の順序が、一つ分×いくつ分というかけ算の仕組みを理解させる手段だとしたら、4個/袋×3袋=12個のように、式に単位・助数詞を付けさせれば、4と3のどちらを単位あたり量、他のどちらをいくつ分と見なしているのかがわかるので、順序は不要になるのではないでしょうか。
4個/袋×3袋=3袋×4個/袋=12個
A10 単位・助数詞を付けさせれば、一つ分といくつ分を区別させることはでき、順序は不要になるのは確かです。しかし、順序でも、同じことは可能です。個/袋のような一あたり量は、乗号の前に置くと、定めておけばよいのです。
小学生に単位・助数詞を付けさせることには、問題があります。まず、個/袋のような組立単位が使えるようになるには、分数の約分の知識が必要です。しかも、(数ではなく)単位・助数詞の約分をするためには、
2xy^2/xy = 2y
のように、単項式の割り算も学習していなければなりません。でも、分数の約分は5年で、単項式の割り算は中学数学で学ぶというのに、かけ算はすでに小2から学習しています。組立単位の使用は、小学生には高度すぎます。
個/袋×袋=(個×袋)/袋
=(個×【袋】)/【袋】
=(個×1)/1
=個
昔の算術書や教科書で採用されていた単位・助数詞の付け方があります。それは、単位を被乗数と答えに付けて、乗数にはつけないやり方です。
4個×3=12個
このやり方では、なぜ、「個」は書くのに、「袋」はかかないのか、ということが児童にはわからないと思います。しかし、次のような指導法はあります。「何個?ときいているでしょう、だから答えは12個、単位のサンドイッチの規則で、乗号の前が個。個と付いているのは4だから、4を前に置く」。
でも、単位・助数詞をつけていたこの時代にも、かけ算の順序は固定されていました。式に単位をつけることと、かけ算の式の順序を固定することは、仲良く同居できるのです。だから、単位・助数詞を書いても、〈かけ算の順序〉指導はなくなりません。算数教育の歴史がそれを示しています。
Q11 もしかけ算の式が〈1つ分×いくつ分〉となるのだったら、5×2×3のように3つの因数がある掛け算はどうなるのでしょうか。どれが被乗数(かけられる数)で、どれが乗数なのでしょうか。
A11 5×2×3のような式は、それだけでは、文章題のような文脈がないので、意味はあまり重要ではなく、どれが1つ分の数で、どれがいくつ分の数かは決めなくてもよいと思いますが、あえて言えば、乗号の前が1つ分で、後がいくつ分です。5×2の5が被乗数で、2が乗数です。では、5×2×3のように数字が3つあるかけ算は、どうなるのでしょうか。
算数の教科書に、「円い箱が2つずつ入った四角い箱が3箱あり、円い箱にはお菓子が5個ずつ入っているとき、全部でお菓子は何個?」という文章題があります。考え方は2つあります。
1)まず、四角い箱のなかのお菓子の個数を5(1つ分)×2(いくつ分)=10で求めておいて、次に、四角い箱に入ったお菓子の個数を1つ分として、3箱分なので、それに3(いくつ分)をかけます。式は、
(5×2)×3=30
2)もう1つは、まず、丸い箱の数を求めます。円い箱は四角い箱に2つずつあり、四角い箱は4つですので、2(1つ分)×3(いくつ分)で、6箱あります。円い箱1つには、お菓子が5つ入っていますので、5(1つ分)×6(いくつ分)で、30個と求められます。式は
5×(2×3)=30
このように、〈1つ分×いくつ分〉を入れ子式に重ねることで(まさに、その二重の箱のように)、3つの数のかけ算の式でも、解釈が可能です。
また、ここから結合法則が成り立つとがわかりますので、校舎脇の木の高さは、高さ2メートルの雲梯の3倍、校舎の高さは木の2倍であるとき、結合法則から、校舎は雲梯の6倍であることがわかります。
Q12 「かけ算に順序がある」だけでなく、「倍数にはゼロは含まない」「正方形は長方形ではない」とったような、数学的な誤り、つまり、嘘でたらめ、が教えられている日本の算数教育は、トンデモではないでしょうか。
A12 倍数にゼロを含めるのか含めないかは、定義の問題にすぎず、どちらの定義が間違っているということはありません。算数での定義は、自然数の範囲で考えられてきた倍数の伝統を継承するものです。高校になると、倍数はゼロと負の数へと拡張されます。
また、算数では、「正方形は長方形である」とも「ない」とも教えられていません。図形の包摂関係は、以前に小学校で教えられましたが、理解できない児童が多数いて、その反省から、教えられなくなりました。児童は、教えられてないとき、自然言語の用法やイメージに基づいて、正方形と長方形の関係を理解しています。
「かけ算に順序がある」という表現は、「順序」という言葉が何を意味するのか曖昧です。算数で、〈因数×因数〉の抽象的な掛け算は小学生には難しいので、〈1つ分×いくつ分〉や〈基準量×倍(割合)〉で定義される非対称なかけ算が教えられていることは確かです。この非対称性を「順序」と呼ぶなら、小学校で学ぶかけ算に順序はあります。
「かけ算に順序がある」という表現は、「順序」という言葉が何を意味するのか曖昧です。算数で、〈因数×因数〉の抽象的な掛け算は小学生には難しいので、〈1つ分×いくつ分〉や〈基準量×倍(割合)〉で定義される非対称なかけ算が教えられていることは確かです。この非対称性を「順序」と呼ぶなら、小学校で学ぶかけ算に順序はあります。
この定義では、〈1つ分×いくつ分〉、〈いくつ分×1つ分〉という2つの順序が考えられます。しかし、日本の算数で〈1つ分×いくつ分〉と書かれている式は、アメリカやドイツ、ブラジルなどの算数教育では、〈いくつ分×1つ分〉の順に書かれている、という意味では、順序はありません。
〈かけ算の順序〉指導は、教える内容というよりは、教え方です。教え方は適切かどうかは問えますが、嘘か真実か、ということはありません。それは、「かけ算の式は〈1つ分×いくつ分〉の順に書きましょう」という解答書式上の指示です。指示そのものについて、真偽を問うことはできません。「窓を開けて下さい」という指示について、窓が閉まっている事実を根拠に、その指示は嘘だと言うことはできません。
「日本の算数教育は、すべてがトンデモ化していて、信頼性がまったくない」と言って、大げさに騒ぎ立てる人は、なぜ、それが、たとえば、日本人の数学的能力の国際的な低さなどとして顕在化しないのか、考えてみるべきです。なぜ、PISAの成人数学力の調査で日本が1位なのか、なぜPISAやTIMSSの国際的な数学テストで、日本の小中高生が最上位の成績を収めているのか、について、釈明が求められると思います。
Q13 〈かけ算の順序〉では、運動量を求める式は、質量(kg)×速度(m/s)、それとも、速度(m/s)×質量(kg)となる? F=qv×BとF=B×qvのどちらが正しいのか? 「1~5の数字カードから2枚選んで並べる方法は何通り?」の問題を解くかけ算は5×4なのか4×5なのでしょうか?
A13 〈かけ算の順序〉は、日本の学校算数で行われているかけ算の指導法なので、第1に、小学校で扱わないような事柄については、かけ算を使う場合でも、小学校で習う順序は、関係がありません。第2に、〈かけ算の順序〉は、小学校で習うかけ算、つまり、〈1つ分×いくつ分〉とか〈基準量×倍(割合)〉とかいった非対称なかけ算の指導法なので、〈因数×因数〉タイプの対称的なかけ算には、適用できません。
〈かけ算の順序〉指導は、教える内容というよりは、教え方です。教え方は適切かどうかは問えますが、嘘か真実か、ということはありません。それは、「かけ算の式は〈1つ分×いくつ分〉の順に書きましょう」という解答書式上の指示です。指示そのものについて、真偽を問うことはできません。「窓を開けて下さい」という指示について、窓が閉まっている事実を根拠に、その指示は嘘だと言うことはできません。
「日本の算数教育は、すべてがトンデモ化していて、信頼性がまったくない」と言って、大げさに騒ぎ立てる人は、なぜ、それが、たとえば、日本人の数学的能力の国際的な低さなどとして顕在化しないのか、考えてみるべきです。なぜ、PISAの成人数学力の調査で日本が1位なのか、なぜPISAやTIMSSの国際的な数学テストで、日本の小中高生が最上位の成績を収めているのか、について、釈明が求められると思います。
Q13 〈かけ算の順序〉では、運動量を求める式は、質量(kg)×速度(m/s)、それとも、速度(m/s)×質量(kg)となる? F=qv×BとF=B×qvのどちらが正しいのか? 「1~5の数字カードから2枚選んで並べる方法は何通り?」の問題を解くかけ算は5×4なのか4×5なのでしょうか?
A13 〈かけ算の順序〉は、日本の学校算数で行われているかけ算の指導法なので、第1に、小学校で扱わないような事柄については、かけ算を使う場合でも、小学校で習う順序は、関係がありません。第2に、〈かけ算の順序〉は、小学校で習うかけ算、つまり、〈1つ分×いくつ分〉とか〈基準量×倍(割合)〉とかいった非対称なかけ算の指導法なので、〈因数×因数〉タイプの対称的なかけ算には、適用できません。
小6の教科書には「場合の数」の単元があります。場合の数を求めるときに使うかけ算は、元来は〈因数×因数〉タイプのものだと思いますが、小学校では、樹形図や多角形などを使って、漏らさず重複せずにすべてを列挙することが目指されていて、かけ算の式は見つかりません。
質量×速度(mv)は、次元数×次元数のかけ算であり、このかけ算は対称的な〈因数×因数〉タイプに分類できます。この対称的なかけ算は、算数では、基本的には、扱われません。mvは、慣習的にvmではなくmvと書くことが多い、ということはあるかもしれませんが、それは算数での〈かけ算の順序〉とは関係がありません。
〈1つ分×いくつ分〉は、伝統的には、〈被乗数×乗数〉でした。古い算術では、被乗数(かけられる数)は名数または無名数、乗数(かける数)はつねに、無名数でなければならない、とされていました。というのも、7kgの重りが4つあるとき、4つは4mでも4kgでもない。ただの4だからという理由からです。
被乗数が名数の場合
7kg+7kg+7kg+7kg =7kg×4 =28kg
名数は、単位・助数詞が付くような数、無名数はつかない数です。無名数に何かつくとしても、「倍」とか「回」とかで、単位ではありません。7kg×4mのように、乗数が次元をもったかけ算は、算術のなかでは、不合理とされたのです。
算数で、〈被乗数×乗数〉タイプに属さないかけ算は、長方形の面積を求めるときの縦×横と、道のりを求める時の〈速さ×時間〉くらいです。それぞれ、〈被乗数×乗数〉に還元されています。
縦×横については、長さと長さという2つの次元から、面積という新しい次元を作り出しているのではなく、あくまで、1cm^2の単位正方形がいくつから構成されているか、ということから考えられています。
速さについては、道のりと時間という2つの次元を組み合わせて創られた新しい次元ではなく、ある条件のもとにある道のりとして、理解されています。それは、定速で移動するものについて、単位時間あたりに走る道のりを表しています。このように理解されたとき、秒速7m×4秒のかけ算は、リンゴが7個載る皿が4枚ある、というのと同じ構造をしています。ですから、
7m+7m+7m+7m =7m×4 =28m
です。つまり、〈被乗数×乗数〉と同じ図式で考えられています。
Q14 中学受験でも〈かけ算の順序〉を守ったほうがよいのでしょうか?
A14 中学受験の答案というのは、本人や保護者に返却されないので、保護者がネットにアップするということもありません。だから、全体で何点であったかは知ることはできても、個々の問題がどのように採点されたのか、は本人・保護者・ネットユーザーたちには、わかっていません。
しかし、順序は気にしないでいいでしょう。というのも、第1に、〈かけ算の順序〉というのは、小学校算数におけるかけ算指導法なので、中学の教師が採点するテストにおいて、そのような採点基準が採用されているとは考えられないからです。
式の順序が逆でバツになっている採点答案の写真がネットにアップされているのをみると、そのほとんどか、授業で実施されている単元テスト(カラーテスト)やドリル、プリントなどです。これらのテストは、授業でやったことができているかどうかをチェックする確認テストであり、授業者と採点者が同じで、その採点は、授業に依存する度合いが高く、テスト前の授業中に書いた板書やノート、宿題のドリルやプリントなどと、採点基準が同じです。授業中にかけ算の式の順序を直されていたなら、テストでもバツにされて、やり直しです。
第2に、適性型の試験以外では、試験の解答用紙には、多くの設問で、答えだけ書けばよいからで、式を書く式欄がないからです。
A15 たしかに、「交換法則」という用語は、中学ではじめて学びますが、かけ算を習い始める小2のうちに、九九表に発見できる規則性として、かけ算の交換法則は実質的に学習します。「被乗数と乗数を交換しても答えは同じ」なのです。3年ではその法則の妥当範囲が整数全体に、小4で小数に、小6で分数に(そして中1で負の数も含めた有理数全体に)拡張されます。
では、〈かけ算の順序〉指導は、かけ算を学び始めて、数ヶ月も経たないうちに終わるのかというと、そうではなく、中学年・高学年でも見られます。というのも、交換法則というのは、乗号の前後の数の交換が結果に影響しない、と言っているだけで、いつでも自由に交換できる、という意味ではないからです。
結果が同じなら、自由に言い換えてもよいと思われるかもしれません。たしかに、算数でも、計算では、結果が重要なので、そうです。しかし、文章題のように意味が重要なところでは、意味が合うものを適切なものとします。
というのも、算数では、かけ算を〈1つ分×いくつ分〉という非対称で固定した図式を用いて教えますので、3×4は3個のものから成るまとまりが4つ、4×3は4個の3つを意味します。たとえば、「3つのふくろのどれにも4個入っているとき、キャンディーは全部で何個?」という文章題の式は、4×3であり、3×4は意味が違います。
〈1つ分×いくつ分〉は、小学校で学ぶかけ算の基本型で、これは、中学年や高学年で、〈単価×数量〉や〈容器容量×容器数〉、〈基準量×割合〉、〈速さ×時間〉などへと展開・発展していくものです。これらはすべて〈1つ分×いくつ分〉と同型なので、その同型性を容易に見抜けるように、順序を固定するのです。
A16 ダミーの数字を入れた文章題、かけ算以外の演算が同時に必要になるような文章題は、教科書にも載っています。そのような設問は、もちろん、より難しい応用的な問題なので、最初から出すわけにはいかず、その段階になるまでは、数字が2つしか出てこない単純なかけ算文章題を解くことになります。どんな学習も、最初は、単純なものから始めます。単純で簡単なかけ算文章題は、避けることが困難です。
ダミーの数字を入れたり、他の演算(足し算、ひき算)が同時に必要になるようにしたりすれば、児童は、かけ算に必要な2つの数字と、必要ではない、あるいは、他の演算に使う3つ目の数とを判別しなければなりません。ですから、このような文章題は、児童が数の意味に無頓着になってしまうことに対する牽制となることは確かです。
しかし、この方法では、肝心かなめの、1つ分といくつ分の識別ができているかどうかがわかりません。
A17 算数では、公式に従った立式がしばしば求められます。比較量を求める割合文章題なら、式は「基準量×割合(小数に直された百分率)」です。順序派の教員でも、長方形の面積では順序を問わない人も多いのですが、しかし、「縦×横」の順に式を書くことが求められることも、めずらしくありません。
もし、画像のように、描かれている長方形が斜めに傾いている場合は、どちらが縦で、どちらが横なのわかりません。傾きをどちらに倒して、どちらの辺を縦に、他のどちらを横にするかは、児童にまかされています。順序で公式通りの立式かどうかは判断できず、順序は採点の基準にはなりません。傾けて描かれているのは、明らかに、順序は問いませんよ、という意思表示なのです。
同様のことは、直方体の体積を求める場合も同様です。直方体の見取り図では、高さについては曖昧さはなくても、描き方によっては、どちらが縦(奥行き)で、どちらが横(幅)かがわからないことがあります。その場合は、縦×横×高さの縦と横については、順序は問われるべきではありません。
見取り図で、直方体が頂点の1つを支点にして立っているように描かれているとき、あるいは、直方体が不規則に回転している動画で示されているとき、縦とか横とかいった概念自体が使えません。
順序は、高さだとか底辺だとか基準量だとかいった、公式を構成する概念がわかっているかどうかを確認するための手段にすぎません。順序が手段として使えないときは、使わなければよいのです。
A18 教科書では、「かけられる数」「かける数」は、次のように、簡単にしか説明されておらず、乗号の前がかけられる数、後がかける数、ということくらいしか読み取れません。
かけ算は、伝統的には、同数累加の簡略算と定義されてきました。4+4+4+4+4のように、同じ4を繰り返し足すとき、繰り返される数4と繰り返しの回数5を使って、4×5と短く表現するのか、かけ算なのです。このとき、繰り返しの対象となる数4を被乗数、繰り返しの回数5を乗数と言います。「被乗数」と「乗数」は、英語では、それぞれ、"multiplicand", "multiplier"で、小学生向けの大和言葉表現では、それぞれ、「かけられる数」「かける数」となります。
日本の算数では、1980年代以来、かけ算の定義に、「1つ分[の数]」「いくつ分」が使われてきました。「かけられる数」「かける数」は、元来、かけ算は同数累加の定義の構成要素です。この定義ですと、かけ算は独自な演算というよりは、足し算の式表現の1つの特殊な場合にすぎません。つまり、それは数式の表現の仕方の問題にすぎません。
これに対して、1つ分といくつ分は、同数累加の、事物における対応物です。4×3 =4+4+4は、それに対応する事物で言えば、4個入りのキャンディの袋が3つある、ということです。つまり、式における同数累加は、事物における同数グループに対応しています。小学生は演算のような抽象的なものを、具体的な事物に基づいてこそ理解するので、〈1つ分×いくつ分〉のように事物に焦点をあてた定義のほうが、〈被乗数×乗数〉よりも、学習上はよいと言えます。
「1つ分」「いくつ分」の導入で、「かけられる数」「かける数」の用語が教科書で使われなくなったわけではなく、たとえば、九九表は左縁縦に上から段数1,2,3と並んでいますが、これが「かけられる数」となっていて、上縁横に、「かける数」が並んでいます。交換法則も、「かけられる数とかける数を交換しても答えは同じ」と、この用語を使って定式化されています。東京書籍では、4年の教科書にも5年の教科書にも、中1の数学教科書にも、使われています。
A19 一般的に言えば、そのようなルールはありませんし、式を書かなければならならい理由さえありません。しかし、児童・生徒が先生について学んでいる学校では、事情が違います。
小学校では、ドリルは、授業で学んだことを確実にするためのもの、単元テストはそれが習得できているかどうかをチェックするためのものです。小学生は、学校で、四則演算について、筆算などの計算アルゴリズムだけでなく、問題文からどのように式を立てるのか、つまり、式の立て方も学びます。計算問題では計算の正確さや速さしか問われませんが、文章題は総合的で、計算の正しさだけでなく、立式も問われます。だから、答え欄だけでなく、式欄も用意されているのです。
式が書いてあれば、教師は、その児童が、文章題文章からどのように立てたのか、ということが、ある程度、推測がつきます。間違っていたとき、その原因が、文章の不完全な読解なのか、立式の間違いなのか(割り算なのにかけ算を使っている)、計算ミスなのか、がわかります。原因を診断できれば、それを「治療」に生かせます。このことのために、問題文にある数字しか使えないというルールがあるのです。
問題文にある数字しか式に使えない、というのは、あくまで、原則で、「2ダースの鉛筆は本数では何本?」、「太郎と花子と次郎のおのおのに4個みかんを配るとき、みかんは全部で何個必要?」といった場合に、それぞれ1ダース12本の12、太郎と花子と次郎のあわせて3人の3は、問題文に直接でてきませんが、1ダースは12本といった知識を使って、文章から引き出さなければなりません。
A20 違います。行列のかけ算やベクトルの外積、直積は非可換で、掛ける順序を替えると、結果が違ってきます。この意味での順序、結果に影響する順序(順序A)は、算数で習うかけ算にはありません。順序派の教師も、被乗数と乗数を交換しても答えは同じだと、教えています。
では、〈かけ算の順序〉とは何かと言えば、結果ではなく意味に影響する順序(順序B)です。かけ算を〈因数×因数〉で考えているかぎり、この意味での順序も、かけ算にはありません。しかし、〈因数×因数〉は小学生には抽象的すぎるので、算数では、かけ算は〈1つ分×いくつ分〉で導入します。
かけ算の式を〈1つ分×いくつ分〉の順序で書くことにしたとき、3×4と4×3は、計算結果は同じ12ですが、3×4は3個のもののまとまりが4つあることを、4×3は4個が3つあることを意味します。順序が違うと、結果は同じですが、意味が違ってくるのです。
かりに、算数での〈かけ算の順序〉と、行列のかけ算などの順序と同じことだとしても、どうして小学校なのでしょうか。大学で学ぶことの準備は、大学の1つ手前の高校になってすればよくて、3つも手前の小学校で学ばなければならない理由があるのでしょうか。
注
注1
寝巻猫氏作問
「「3日間開催のイベントに5人のスタッフを雇いました。各開催日の解散時間は深夜になるため、各人にタクシーチケットを支給します。タクシーチケットは全部で何まい必要ですか?」
どう立式するのか早く教えてください。」(@nemakineko48 2018/12/02 08:26AM)
注2
@temmusu_n氏ツイート(2018/10/19 01:15PM)。
(2021/02/13 20:00 手直し・増補)