美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!   作:紅葉煉瓦

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#88 私の、今の全力。

 会場の熱気がモニター越しに伝わるようだった。

 長かったあるてまフェスも最後のライブイベントを残して全てのプログラムが終了した。

 今までの選り取り見取り三々五々としたイベントとは違って、あるてまフェスに参加した全てのファンがライブを見ようと(こぞ)って会場へ押し寄せていた。

 

 とはいえ、これでも事前チケットで当選した人たちだけがここにいるわけだ。もし本当に参加者全員を集めたら……、多分その場にいたら人の密で気絶すると思う。

 アリのように密集した人たちは全員がその時を今か、今かと待ち望んでいる。二月の末とはいえ、まだ肌寒い季節なのにそこにいる人達は全員が汗をかいていて中には半袖の人もいる。

 

 以前、夏にカラオケ大会をしたときは同時接続数という数字だけでしかリスナーを認識できなかったけど、今目の前にはハッキリとリスナー一人一人の顔が見て取れて、ここに沢山のファンがいるというのが実感出来る。

 

 うぅ、今日のために何度も練習をしてきたというのに、いざ目の前にこうして光景として人を見てしまうと少し、怖気づく。

 それは他のみんなも同じようで、控室に備え付けられたモニターを見るみんなの表情は緊張に満ちていた。

 そうだよね、みんなだってこんなに大勢の前で歌うのは初めてのことだ。

 いくらわたしたちがVTuberだから別室で歌うと言っても、目の前のモニターから伝わる熱気は誤魔化しようのない本物だ。

 いつもだったら発破を掛けてくれるきりんさんもマイペースな祭さんもいない。こういうとき、あるてまで先導を切ってくれるのって誰なんだろう……。

 いっそ、いつものようにシャネルカさんが空気を読まずに騒いでくれたら楽なのに、このときばかりはシャネルカさんも無駄に空気を読んで黙り込んでいた。なんでだよ。

 そろそろ時間もないのに、未だに緊張で覚悟が決まらずにどうしたらいいか、みたいな空気が流れているとスッと誰かが立ち上がった。

 朱音アルマだ。

 

「あたしがトップバッターだったな」

 

 アルマ先輩はその表情に緊張の色を一切浮かべず、寧ろ自分こそが世界で一番とでも言いたげな自信満々の表情を浮かべ歌唱ブースの扉に手を掛ける。

 

「可愛い後輩どもに優しいあたしからアドバイスだ。目の前の観客を意識するのは大事だけどな、それが重荷になるときは歌うことだけに集中したほうがいいぞ。自分が楽しんで歌えるかどうか、が何より大事だからな」

 

 そう言って、アルマ先輩は扉の奥へと消えていった。

 しばらくして会場のモニター、そのステージ中央にアルマ先輩が映る。

 

「よぉ、お前ら。これでフェスも最後だけど取り敢えずあたし様の歌を聞いてけぇ!」

 

 爆音で流れるメロディに激しい歌声。

 アルマ先輩の選曲は彼女が十八番とするロックだった。

 まさかの一発目からカロリーの高い曲に会場のファンたちにもどよめきが奔る。わたしだって歌枠で流行りの曲が流れるのかなぁって見てた配信で一発目からロックが流れてきたら困惑する。

 しかしアルマ先輩は抜群の歌唱力で歌いきって、最後には拍手喝采のスタンディングオベーション。わたしも膝を叩いた。

 

 一発目からアルマ先輩がぶちかましてくれたおかげか、みんなの表情は先程までの緊張一色とは打って変わって今か今かと自分の番を待つように生き生きとしていた。

 二番手の十六夜はこちらにウィンクを飛ばしてくる余裕まである始末だ。お前はもっと落ち着け。

 

「はぁ、緊張する……」

 

 わたしは別にみんなのようにアルマ先輩の曲を聞いて気分が高揚するわけでもなく、変わらず不安と緊張で今にも倒れそうなぐらいガタガタしていた。ふぇぇ、どうやっても人がじゃがいもに見えないよぉ……。

 こういうとき、ベントー様やにわさんみたいに歌わない組がとても羨ましくなる。今頃もう帰宅してるのかなぁ……。

 

「緊張、しますね」

「終理永歌……」

「隅っこ、落ち着きますね」

 

 隅っこでうずくまっていると終理永歌がちょこちょこと近寄って隣に腰を下ろした。

 え、気まず……。

 

「皆さん、楽しそうに歌いますね」

「まあ、この日のためにたくさん練習したからでしょ」

「そう、ですね。私も慣れない歌を毎日歌いました……」

 

 隅っこ暮らししたいなら別の隅に行ってほしいんだけど、彼女は喋ることで気分を紛らわせたいのかなかなか腰を上げる様子はない。

 

「大変、ですよね。黒猫さんは最後ですから」

「うん……。今から交代する?」

「ふふ、遠慮します」

 

 そうなんだよ、わたしってばLive2D組の最後だから所謂トリみたいな扱いなんだよ。

 こういうとき、後ろの人はずっと不安と緊張を抱えなきゃいけないし最後の人は特にプレッシャーを感じるから、出来れば中盤から少し前ぐらいがベストだと思う。

 にも関わらずわたしが最後ってどういうことだよ……!

 ちなみに終理永歌は中盤少し前とかいう絶好のポジションである。こうやってわたしと喋ってる間にも順番が近づいてきているわけだ。

 わたしは暇つぶしに使われる遊びの女かよ!

 

「あ、もう出番です。では、お先に失礼します」

「やっぱ代わらない?」

「ふふ……」

 

 返事に意味深な笑みだけ残して終理永歌は去っていった。多分あの笑みに意味はない。

 会場モニターを見ると、あれだけ緊張していると言っていた終理永歌も練習以上の成果でしっかり歌ってトークまでバッチリ決めていた。

 だいたいこういうとき、緊張してるんだよねーって言う奴はちゃんと成果残すんだよな。裏切り者め……!

 

 それから代わる代わる色んな人がわたしの元を訪ねてきた。

 咲夜さんだったり我王だったり三期生の後輩たちだったり。みんな口では緊張していると言いながら、わたしをからかうようにやけに絡んでくるのだ。

 他人に絡む余裕のあるお前らよりわたしのほうが緊張してる自信あるね。お前らは所詮エセ緊張よ!

 

 あと二人でわたしの番、いよいよ緊張もピークという状態でやってきたのは結だった。

 結はわたしの前、つまり次に歌う番だ。

 

「緊張してる?」

「あ、当たり前じゃん」

「そっか。私も緊張してる」

「……みんなそれ言ってきた」

 

 まあ全員ちゃんと歌い上げてきたけど。

 

「みんな緊張してるのは本当よ。それを少しでも紛らわせようとしてるのも本当。でも最後が燦だから気を遣ったんじゃないかな」

「こっちは神社気分だよ……」

 

 成功祈願的な。

 

「私は燦と喋るとリラックス出来るよ」

 

 空気清浄機じゃん。

 

「迷惑だった?」

「別に、そうは言ってない」

「よかった」

 

 結はそれだけ言うと、立ち上がって歌唱ブースへ向かった。

 あぁ、いよいよわたしの番か。緊張する。でも、最初の頃に比べればマシになった気がする。

 

 

「たのしんでる、かぁーー!!!」

 

 震える身体を誤魔化すように、大声で叫ぶ。

 わたしの呼びかけに呼応するように会場のファンたちも大声で返事をしてくれた。既に会場の熱気はピーク、多分天井には湯気とか出てそう。

 

「てことでね、なぜか、なーぜーかートリを任された黒猫燦です! ライブの最後が私とか運営正気かよ!」

 

 いや、ほんとに。

 

「正直今めっちゃ緊張してるし他の人達がめっちゃ上手かったからどうしようってパニクってるけど、取り敢えず歌います! ちゃんと合いの手入れろよオタクなら!」

 

 気持ちは充分、スタッフさんに目で合図を送って曲を流してもらう。

 もう泣いても笑っても自分が歌う番だ。だったら思いっきり気持ちの全部で歌おう。

 

──っ、~~~♪」

 

 やば、いきなり声裏返ったんだけど。

 慌てて元の音程に戻して歌い続ける。間違えたからって一々リアクションを取っていたら全部が崩れるし、曲に置いていかれる。鋼の心が大事ってトレーナーさんが言ってた。

 

 丁度曲の合いの手の部分に差し掛かった。

 有名な曲だしオタクならこういうの大好きだろうと思って選曲したから、「せーのっ」と分かりやすくコールすると目論見通り会場のみんなが乗ってくる。楽しい。

 そして、

 

「はぁ、はぁ……」

 

 五分にも満たない短い時間だったけど、全力で歌いきった。

 歌い出し以外は完璧で合いの手もしっかり返してくれて盛り上がったんじゃないかな、と自己評価。

 

「つ、つかれた……」

 

 今日何度目になるか分からない言葉が思わず口から漏れる。

 最後の最後でやっちゃった、と慌てて口を閉じるけど、会場からは「おつかれー!」「よくがんばった」とわたしを労う声が聞こえる。

 ずっと一人で吐き出すだけの言葉だったけど、こうやってファンの人たちにその頑張りを認めてもらえると、なんだか凄い報われた気分になる。

 

「みんな、ありがと! これで最後になるけど今日のフェスは楽しかったか! 私は楽しかった、来てくれて本当にありがとう! じゃあ、短いけどこれで──

 

 締めの言葉、しかし会場が突如暗転する。

 突然の出来事に会場がにわかにざわめき立つ。

 そして、

 

「私を忘れられると困る」

 

 スモークとレーザービームが会場を彩り、その中から動く人影が出てきた。

 

「祭先輩!?」

「ぶい」

 

 現れたのは世良祭だった。

 Live2Dから3Dの身体になった祭さんはステージの端から端まで走ると最後に中央に戻ってVサインをした。

 

「推しが動いてる!?」

「? 黒猫さんは動かない?」

「あ、私はちょっと……」

 

 中央に表示されているわたしのモデルから距離を取る祭さん。

 あ、ちょっと、追いかけれない! 誰か3Dの身体もって来い! 3D追いかけっこしたい!

 

「ライブがしたくて3Dになりました。これで思い切り歌える」

 

 祭さんの口角が上がる。Live2Dと違って3Dは細かい表情のトラッキング精度も上がっている。

 

「じゃあ、黒猫さんは退場。ここからは私のステージ」

「あ、はい。頑張ってください」

「一緒に歌う?」

「うっ、……やめときます」

 

 マネージャーさんに合いの手を提案されたときは断ったけど、本人から言われると凄い悩む。

 でも、流石にLive2Dの身体で3Dの祭さんと一緒に歌うのはハードルが高すぎる。

 わたしは泣く泣く辞退した。

 

「いくよ。私の、今の全力。全部で」

 

 それから、会場のモニターで祭さんの勇姿を焼き付けた。

 いつもは配信でどう頑張っても身体が揺れるだけだった祭さんが、今はステージを歩いたり腕を突き上げて全身で歌っている姿を表現している。

 あぁあああ、飛び跳ねる度にマフラーと髪の毛がぴょんぴょんしててわたしの心もぴょんぴょんする!

 

 そうこうしているうちに、一曲歌い終わる。

 汗を拭く腕の動きや水を飲む動きも全部見れるからなんか凄い。会場もずっと歓声が上がっている。わたしもなんならそこで見たかった……! 絶対窒息するけど。

 

「まだ、いける?」

 

 祭さんの問いかけに会場全体が応える。わたしも応える。うるさかったみたいで真横の結がペシッと膝を叩いて来た。ごめんって。

 

「じゃあ、次の曲は」

「ちょっと、まったー!」

 

 マイクを構えて歌おうとする祭さんを止めるように、大声と共に飛び出してきた人影。

 

「あ、きりん」

「ちょっとちょっと祭ちゃん!? 今普通に歌おうとしたよね!?」

「つい」

「つい、じゃないよもー! 次は私の番なのに!」

「一緒に歌う?」

「せめて最初の一曲は一人で歌わせて!?」

「しょぼん……」

 

 多分、これ台本じゃなくて素でやってるんだろうなぁ。

 リハーサル見たときは祭さんが呼び掛けて登場とかそんな感じだったし。3Dライブでテンション上がりすぎたのかな……。

 

「ほら、祭ちゃんはそこで三角座りして。ここからはきりんさんのターン! みんな、いっくよー」

 

 きりんさんが歌っている間も側で三角座りして手拍子している祭さんが可愛い。

 会場のインド人も尊すぎて手を合わせて泣いている。

 祭さんがあまりその場を動かずに身体だけで動きを表現して歌うタイプだとしたら、きりんさんは逆にステージの端から端まで走り回って元気よく歌うタイプだ。

 歌い終えてすぐにデュエットが始まるけどそれは変わること無く、きりんさんが祭さんの周りを走り回ってサビの部分で同じ振り付けをする。

 対象的な二人だというのに、並んでいる姿はとてもお似合いに見える。

 

 はぁ、尊い。

 

 合間にトークを挟んだり他のライバーを呼んで感想を聞いたり3D追いかけっこをしたり──床になりたい──して。最後にはきりんさんが感極まって祭さんに抱きついたことで会場から黄色い歓声が上がった。

 そして、

 

「今日は来てくれて本当にありがとうございました! あるてまも私たちも無事に一周年を迎えられて嬉しいです! まだまだ色んなイベントとか二期生の一周年とか、あるてまはこれからも頑張っていくので応援よろしくおねがいします!」

「よろしく」

「ってことで、家に帰るまでがあるてまフェスだよ! 気をつけて帰ってね! ばいばーい」

 

 長かったあるてまフェスが終わりを告げた。

 はぁ、本当に疲れた。帰ってお風呂入って寝よう……。




やたら長く感じたフェス編もおわり
次からなに書こうかな

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