□<ネクス平原> 【クインバース】の拠点
<ネクス平原>の僻地にある山岳地帯に作られたゴブリン達の“国”……そこでは数多のゴブリンを生み出す<
『遠距離部隊一斉攻撃!!! 撃て──ッ!!!』
『『『《スナイプ・アロー》!!!』』』
『『『《トルネード・ブラスト》!!!』』』
『『『《ブラスト・アロー》!!!』』』』
『『『《サンダー・スマッシャー》》》!!!』』』
まず、大斧を装備した【ハイゴブリン・キング】の号令と共に地上にいる遠距離攻撃可能なゴブリン達が、弓矢や魔法によるアクティブスキル込みの一斉射撃を空中にホバリングしているリヒトとデュラルに向けて撃ち放った。
……これらのゴブリン達は【キング】の《ゴブリンキングダム》によりステータスは最低でも亜竜級、中には純竜級にまで達している個体もいる。更に各々がアクティブスキルを使って強化された対空攻撃を放っているので、幾つかがまとめて直撃すれば純竜すら容易く屠る程の威力となっている。
それに加えて【ハイゴブリン・キング】が有する《同種族意思伝達》のスキルによって威力が高い弓矢や雷属性魔法スキルを使う者はリヒトを直接狙い、効果範囲が広い風属性魔法スキルを使う者はその周囲を攻撃して逃げ場を奪うという完璧な連携を実行する事が出来ているのだ。
その様な絶死の連携攻撃をいきなり受けたリヒトは窮地に陥っていると思われたが……。
「飛べ、デュラル」
『承知』
その一斉攻撃が放たれる直前にデュラルは音速の三倍の速度で
こんな出鱈目な飛行が可能なのは飛行中に自身の行動によって発生する悪影響をほぼゼロに出来る【天翔騎士】のパッシブ奥義《天躯翔》と、デュラルの卓越した風属性魔法技術、そして長年に渡って数多の戦場を共に駆け抜けてきた二人の連携と飛行技術によるものである。
……こと空戦に於いてであれば【天騎士】と【黄金】の組み合わせですらその影を踏む事すら出来ない、現在この世界の人間の中で最高の飛行能力を持つ【天翔騎士】に取ってはこの程度の雑な対空攻撃は驚異ですら無かった。
「しかし、ゴブリンがこのレベルの連携攻撃が可能とはな。……今度はこちらから仕掛けるぞ。《グランドクロス》!」
『分かった……《エメラルド・トーネード》!』
そうして彼等は次々と放たれる対空攻撃を躱しながらも、反撃としてそれぞれリヒトは【
……それぞれ超級職と神話級モンスターである彼等が放ったそれらの攻撃は、上級職のティアンが使う同種のものとは一線を画す威力となって地上で対空攻撃を行なっているゴブリン達に襲い掛かっていった。
『させん! 《カバーリング》!!!』
『《ウインド・レジスト・ウォール》!!!』
『《ワイドフォースヒール》!』
だが、それらの対空攻撃部隊を狙った攻撃は割り込んで来た【ハイゴブリン・ガーディアン】が持った大盾に防がれたら、【ハイゴブリン・セイジ】が使用した対風属性用の防御魔法で威力を弱められるなどをされた為、何体かのレベルの低いゴブリンを屠はしたものの全体には大した痛手を与える事は出来なかった。
……更にすぐさま後方で待機していた【ハイゴブリン・ビショップ】が発動した範囲回復魔法によってダメージを負ったゴブリン達を回復して行き、直後に再びゴブリン達の対空攻撃が始まった。
『《テンペスト・アーマー》……予想はしていたがここまでの連携が可能だとはな。並みの人間のパーティーより連携が上手いのでは?』
「一切の私心無く自分自身をもコマだと認識して、その上で最適な行動が出来るのならこうもなるだろう。……やはりコイツらを放置しておくのは王国にとって危険過ぎる。無駄かもしれんが本丸を狙ってみるぞ。《第三の腕》」
それらの対空攻撃を回避するか身に纏った暴風の鎧を使って防ぎながら戦っていた彼等は、余裕そうな会話と裏腹に眼前のゴブリン達の個々の実力とその連携制度は王国にとって十分過ぎるほどに危険であると判断していた……仮に超級職を除いた王国の全騎士達とこのゴブリン達が戦えば高確率でゴブリン側が勝つだろうと考える程に。
……故にリヒトは情報収集を兼ねてその大本である【クインバース】への攻撃を行おうと装備していた手甲型逸話級特典武具【虚腕手甲 フェルリッパー】のスキル《第三の腕》──MPを継続消費して不可視の念力を発生させて一つの物体を掴んで動かしたり出来るスキルを行使した。
「情報を集めるにしてもそれなりの損害を与える必要があるからな、出し惜しみはせん。《瞬間装備》」
更にリヒトは《瞬間装備》を使って
……そして装備した突撃槍型の伝説級特典武具【爆竜槍 ドラグブラスト】を構えながら(傍目には宙に浮いている様に見える)対空攻撃を掻い潜りながらゴブリン達に勘付かれない様に本丸である【クインバース】が座す玉座へと少しずつ距離を詰めていった。
「しかし、これだけの対空攻撃があると【ドラグブラスト】は少し使いづらいか」
『それだけでは無いぞ。……どうやら空を飛べる連中も上に登って来た様だ』
デュラルの言葉通りに【テンペスト・ロックバード】に乗った【ハイゴブリン・ライダー】を初めとした飛行可能なモンスターに乗ったゴブリンライダー部隊が空へと上がって来ていた。
……更に向こうは地上からの対空攻撃を
『……成る程、特攻と言うわけか。我らの動きを封じて自分達ごと地上から撃たせる気だな』
「自分の命すら女王を生かす為のコマだと思っているヤツらならそう来るだろう。……だが、あの程度の下手糞な飛び方で私達の足止めが出来ると思われるのは心外だな。《エアリアル・ストライダー》!」
その相手の行動の意図を正確に理解したデュラルとリヒトは不敵な笑みを浮かべながら【天翔騎士】の空対空加速突撃スキル《エアリアル・ストライダー》で持って、相手の航空戦力の中で
『なっ⁉︎ 舐めるなっ! 《ロング・スラスト》!!!』
「遅い。《セイクリッド・スラッシュ》!」
『KIEEEEEEEEE!?』
その行動に対して【ロックバード】に乗っていた【ハイゴブリン・ライダー】は手にした長槍をリヒトに突き出すが、彼は僅かにデュラルを傾けるだけでそれを回避してそのまますれ違い様に聖属性のエネルギーを纏う【収奪長槍 ドレインドレイク】で【ロックバード】の翼を斬り裂いて地上へと叩き落とした。
……尚、この時に【ドレインドレイク】のパッシブスキル《リミテッド・オールドレイン》──【ドレインドレイク】によってダメージを与えた時にそのダメージ分だけ対象のMP・SPを減少させて、その数値分だけ自身のHP・MP・SPを回復させる──によって自身を回復させるというオマケ付きである。
「本丸に仕掛けるついでに、向こうの航空戦力は可能な限り削っておくか。行け【ドラグブラスト】」
『周辺と地上には牽制を仕掛けておこう。《カッター・トーネード》』
更にそこからリヒトは《第三の腕》で保持した【ドラグブラスト】を
加えてデュラルが使った《カッター・トーネード》によって彼等を中心に無数の風の刃で構成された竜巻が発生した事で周囲にいるゴブリン航空部隊はズタズタに切り刻まれ、その竜巻が地上にも届いた事で一時的に対空攻撃も大幅に減少させた。
……それによって出来た隙をついて、リヒトは射出した【ドラグブラスト】を操って【クインバース】が座す玉座に近付けた後、その穂先を地上の【クインバース】がいる方向へと向けた。
「よし、狙える位置を取った。《
そして、リヒトがスキルを発動と同時に【ドラグブラスト】の重なった円錐の一番外側に付いている物が切り離され、そのまま円錐の底面部分から火を吹いて亜音速程度の速度でミサイルの様に地上へと飛翔していった。
『ッ⁉︎ いかん女王を守れ!!! 《ウイングド・スラッシュ》!』
だが、それに真っ先に気が付いた【クインバース】を守る【ハイゴブリン・キング】が配下のゴブリン達に指示を出すと共に、手に持った大剣を振り抜いて斬撃波を飛ばし飛来する円錐を斬り裂こうとして……その斬撃波が当たった円錐が
……これが【ドラグブラスト】の唯一のスキル《爆ぜ燃ゆる竜炎槍》の効果であり、リヒトが持つ攻撃手段の中で最大の広域攻撃である。もちろん本人は爆発に巻き込まれない様に発射直後に【ドラグブラスト】を回収しつつ高空に避難しているが。
「さて、これでどれだけ敵に打撃を与えられるか……だが、おそらく……」
『女王! ご無事ですか⁉︎』
『ええ、問題有りません。貴方達が守ってくれましたし
だが、爆炎に巻き込まれた筈の【クインバース】が座す玉座の周りには四体の【ハイゴブリン・セイジ】が戦闘開始時からずっと展開していた防御結界が展開されおり、更に周囲のゴブリンが己の身を呈して守った所為で【クインバース】にはかすり傷一つつけられていなかった。
……加えて《ゴブリンキングダム》身代わり効果のお陰で【キング】が全員生存しており、それ以外のゴブリン達もステータスバフが掛かっていたと爆発点が地上から離れていた事もあって死んだ数は一割程度で、その他負傷したゴブリンもその半数以上が戦闘可能な状態だった。
「やはり駄目か。……一応、並みの亜竜級モンスターで構成された群れ程度なら壊滅させられる威力があるんだがな。【ドラグブラスト】の残弾も残り五発だから無駄撃ちは出来ん」
『下手に撃つと自分達も巻き込みかねないし、もう初見で無い以上は向こうも対応してくるだろう。……所詮我々は個人戦闘型だから広域殲滅はそこまで得意ではない上、身代わりを突破出来る攻撃手段もないからアイツらは倒してきれんか』
実際、彼等は自分達が保有する戦闘手段では【クインバース】率いるゴブリン軍団を倒し切る事はまず不可能だと最初から予想しており、今回戦ったのもゴブリン達の能力などを把握しながらついでに出来る限り戦力を削るのが主な目的である。
……だが、実際戦った結果相手の戦力は最初の予想以上であり、リヒトを持ってして王国側が【クインバース】達を倒せる手は【大賢者】に《イマジナリー・メテオ》などの広域攻撃魔法を連発してもらうぐらいしか無いと思える程だった。
なので、リヒトはここで戦闘を切り上げて王都に詳しい情報を伝えるべきだと考え撤退しようとしていたのだが……それより早く、今までやられっぱなしだったゴブリン達は起死回生(彼等視点)の反撃を行おうとしていたのだ。
『……よし! 準備は整ったか! お前達、場所を開けろ!』
「ん? 一体何を……」
まず、長槍を持った【ハイゴブリン・キング】最後の一体がそう指示を出すと、配下のゴブリン達の一部が急いで拠点の外側へと移動し始めたのだ……すると拠点の一角にぽっかりと誰もいない場所が出来た。
……そんなゴブリン達の行動に警戒を強めたリヒトは急いで離脱しようと高度を上げようとしたが、その直前にその場所の地面が
『『『『『『『────────────ー』』』』』』』
そこでリヒトが見たものは地面が崩れたその場所にあらかじめ作られていた地下室と、その中には数十体の【ホブゴブリン・メイジ】達が一心不乱に何かの魔法の詠唱の様なものを行なっている光景だった。
……そのゴブリン達を行動を見た彼は、それがかつて【大賢者】の徒弟達が行なっていた
「まさか《ユニゾン・マジック》だと⁉︎ デュラルッ!!! 全速離脱!!!」
『承知ッ!!!』
『『『『『『『────《ライトニング・ヴァイパー》!!!』』』』』』』
それに気が付いたリヒトはデュラルを瞬時に最高速度まで加速させてその場を離脱しようと試みるが、それと同時にゴブリン達の詠唱が終わり上空へと超級職の奥義すら上回りかねない威力の雷が放たれて、即座にその軌道をその名の通りまるで蛇の様に捻じ曲げて離脱したリヒトを追っていった。
「《ライトニング・ヴァイパー》……追尾効果付きの雷属性魔法、しかも確か当たった相手に
『【ブローチ】対策か、念のいった事だ!!!』
そんな事を言いながら彼等は加速系アクティブスキルを使って音速の三倍を超える速度で逃走するものの、その背後からは極太の雷蛇が電撃を撒き散らしながら急速に迫ってきていた……《ライトニング・ヴァイパー》は追尾式の雷属性魔法である影響でその速度は本物の雷速には届かないが、それでも音速の
……いくら世界最高クラスの飛行能力を持つ彼等でも流石に自分を追いかけて来る雷を振り切る事は出来ず、とうとう雷蛇が背後から二人を飲み込んだ。
『チッ! 《スフィア・サンクチュアリ》!』
「……止むを得んか。《空陣て……」
その寸前にデュラルが自分達を囲む球状の防御結界を展開したが、それごと彼等を飲み込んだ極大の雷蛇は内側に向けて大威力の放電を長時間に渡って行い続けた。
……そうして内部にある彼等の影が見えなくなる程の雷光と轟音を伴いながら放電は続き、それが終息した後そこには塵一つ残ってはいなかった。
『……よし! 我等が女王を狙う愚かな敵は跡形も無く消え去った! 我々の勝利だぁ!!!』
『『『『『『オオオオオオオオオォォォォ────ッ!!!』』』』』』
……それを見た【ハイゴブリン・キング】があげた勝どきに続いて<ネクス平原>の一角にゴブリン達の大歓声が響き渡ったのであった……。
あとがき・各種設定解説
リヒト・ローラン:今回は様子見だったので引き気味に戦っていた
・尚、武芸に関しては【天騎士】の方が上(それでも超一流)だが、乗馬技術と飛行技術に関しては上回り世界最高峰の腕前を持つ。
・ちなみに特典武具は今までに出た物以外にもまだいくつか持っていたりする。
・後、全力の単独行動時には特典武具をフル装備するが、そうすると外見が騎士とは思えないデザインになるのが少し悩み。
【虚腕手甲 フェルリッパー】:リヒトが所有する逸話級特典武具
・外見は狼の頭部を模した灰色の手甲で、STR+20%・AGI+20%の装備補正がある。
・装備スキルは《第三の腕》のみで、このスキルは一つの物にしか干渉出来ない代わりに物の大きさは関係ない仕様。
・彼が保有する特典武具の中では地味な物だが、デュラルに乗っている時には手綱を掴む所為で片腕がふさがる為《第三の腕》で別の武器を保持したり片手で扱う長槍を支えたりとかなり活躍している。
・元となったのは【斬爪魔狼 フェルリッパー】という狼型<UBM>で鋭い爪を使って攻撃するモンスター……と見せかけて念力で作った不可視の爪で不意を打つ攻撃を得意としていた。
・実はリヒトが初めてMVPを取った相手で、まだ超級職にツイていない頃に同僚と一緒に戦って犠牲を出しながらも討伐した。
・最も長く使い続けている特典武具であるので扱い慣れており繊細な念力のコントロールも可能だが、【天翔騎士】の奥義《天躯翔》の効果でAGIがデュラルと同じになる様になって以降はAGI補正が無駄になっていたりする。
【爆竜槍 ドラグブラスト】:リヒトが所有する伝説級特典武具
・正確な外見は内側が空洞になったコーン型の円錐が複数重なっている感じで、モチーフはとあるロボアニメに出て来る『ショットランサー』という射出機能付き円錐槍(分かり難い)
・装備スキルは《
・また、複数の円錐を同時に発射して爆炎の威力を大幅に上昇させる事も可能だが、円錐一つの再生には24時間かかり最大で六つまでしかストック出来ない。
・欠点は弾速が亜音速ぐらいしか出ないので空戦だと遅すぎて空爆ぐらいにしか使えない事。
・元となったのは【爆竜王 ドラグブラスト】という天竜種の“竜王”で、空爆で地上を焼き払う事を好む凶暴な個体だったので討伐された。
・尚、この武器の最も強力な使い方は《第三の腕》で射出して敵に突き刺した後、全弾起爆して内側から焼き尽くす手法(特典武具だから再生するし)
デュラル:飛行能力という部分だけなら神話級<UBM>クラス
・基本の翼を使った飛行の他にも風属性魔法を使ったジェット噴射や煌玉馬の様な空中走行などの複数の飛行手段と【天翔騎士】の各種スキルを組み合わせて、更にお互いの技術と経験でもって360度全方位最高速自在飛行を可能にしている。
・本人のAGIは15000程だが《天馬強化》レベルEXによって30000程になっており、高速飛行しながらの魔法行使も可能。
【クインバース】率いるゴブリン達:総戦力だと超級職すら退けるレベル
・《ユニゾン・マジック》を使っていたのは以前の話で出産していたゴブリン達で、それだけに特化しているタイプなので通常戦力としては弱くなっている。
・拠点には地下室も有り、重要な生産拠点などは実はそちら側にある。
読了ありがとうございました。
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