とある三兄妹のデンドロ記録:Re   作:貴司崎

20 / 75
この話から新章開幕です。では本編をどうぞ。


第2章 【墓標迷宮探索許可証】を入手せよ!
今回のイかれたメンバーを紹介するぜ!


 □王都アルテア・南門前 【武闘家(マーシャル・アーティスト)】ミュウ・ウィステリア

 

 はい、そういう訳で私達ウィステリア三兄妹は【墓標迷宮探索許可証】を入手する為のクエストである【王都周辺及びその街道沿いのモンスター討伐・調査の手伝い 難易度:三】を受けて、今は同じ様にクエストを受けた<マスター>やティアンの騎士達と共に王都アルテア南門前にやって来ているのです。

 このクエストは王国が王都と各街の交通網を確保する目的で定期的に発注していて、私達の様な外部協力者は基本的に騎士団の人達に着いて行き、彼等がモンスターを討伐したり周辺の調査をする事を手伝うのが主なクエストの内容となっています……が、今回は報酬である【墓標迷宮探索許可証】に釣られた多くの<マスター>がクエストを受けに来たので多少形式を変更して、騎士1〜3人と<マスター>複数名でパーティーを組んでそれぞれ王都周辺や街道沿いの担当する地点を回るという形式になっている様なのです。

 ……そして、私達は王都の南側にある<サウダ山道>から<ネクス平原>辺りを担当するらしいので、こうやって南門前に集まっているという訳ですね。

 

「しかし、これだけ多数の<マスター>に原価十万リルの【墓標迷宮探索許可証】を報酬としても大丈夫なのでしょうか?」

「その辺りは特に問題無いですね。……元々、神造ダンジョン<墓標迷宮>の探索は、出土したレアアイテムを王国の市場に下ろす事を含めてアルター王国の重要な()()の一つですから。なので【許可証】を持っている人間は多い方が良いんですよ。この“十万リル”という値段も『王国所属でこれだけのお金が稼げるならある程度信用が置ける』という意味での値段ですし、このクエストも騎士団の仕事の手伝いをキチンとしてくれる事で【許可証】を渡しても問題無い相手だと判断する為のものですからね」

 

 私はふと漏らした疑問に答えてくれたのは、今回私達と一緒にパーティーを組む事になった近衛騎士団所属の【聖騎士(パラディン)】リリィ・ローランさんでした……名前からも分かりますが彼女はアイラさんの妹さんだそうです。姉様が言ってました。

 ちなみに私達のパーティーにいる騎士は彼女一人であり、これは『万が一に備えて一つのパーティーに騎士を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持つ様に配置する』という騎士団の方針によるものだそうです。

 ……つまり、彼女は単独で亜竜級モンスターと互角に渡り合える実力を持つという事の様です。凄いですね。

 

「後、気になったのですが近衛騎士団というのは王族や王城を守る事を主任務としていると聞きました……が、この任務にも結構な数が参加している様でしたが大丈夫なのでしょうか?」

「ああ、元々近衛騎士団には王族・王城の守護以外にもアルター王国最精鋭部隊として他の騎士団への救援を行う遊撃部隊としての役割もあって、今回は多くの<マスター>がこのクエストに参加したので騎士団の人手が足りなくなって手伝いに来たのですよ。……それに王城には【大賢者】殿と【天騎士】殿が詰めていますから。……あのお二人が居れば、それ以外の近衛騎士の数が多少増減しようと総戦力的には誤差の範囲内です」

 

 私のそんな質問に対して、リリィさんは薄い笑みを浮かべながらそんな事を言い放ちました……冗談を言うような雰囲気に見えましたが目は笑っていなかったので、多分彼女が言った事は事実なんでしょうね……。

 ……ちなみに私がリリィさんとばかり喋っているのは、兄様と姉様が同じパーティーに居る別の<マスター>達に挨拶をしているからなのです。

 

「やあエルザちゃん、久しぶりだね! また一緒にクエストを受けられるなんて嬉しいよ。……しかし、前と比べるとガードナーの数が増えてるし、更にはテイムモンスターも居るとは見違えたよ」

「はい、ありがとうございますミカさん。……あれから【ワルキューレ】が第三形態になったお陰でアリアにも仲間が増えましたし、私も【従魔師(テイマー)】としてモンスターをテイムして戦力を整えてみたんです」

 

 姉様が話して居るのは今回のクエストでパーティーを組む事になった<マスター>の一人である【従魔師】のエルザ・ウインドベルさん、姉様とは以前に騎士関係のクエストで一緒になってフレンド登録をしたそうなのです。

 

「お久しぶりですミカ殿。今日はよろしくお願いします」

「初めまして、次女のセリカです。回復を担当して居るので怪我をしたら仰って下さいね」

「【ワルキューレ】三女のトリムだよ! よろしくね」

 

 そして、エルザさんの側には同じ顔をしている三人の女性がまるで従者の様に付き添っていました……彼女達がエルザさんの<エンブリオ>【代行神姫 ワルキューレ】なのだそうで、それぞれ長女のアリアさん、次女のセリカさん、三女のトリムさんと言うのだそうです。

 そして、彼女達は固有スキルの効果で<エンブリオ>でありながら<マスター>と同じ“ジョブ”に就く事が出来るらしく、それぞれアリアさんが【騎士(ナイト)】、セリカさんが【司祭(プリースト)】、トリムさんが【戦士(ファイター)】に就いているらしいです。

 

「ふーん、モンスターの【ティール・ウルフ】もこうして見ると結構カワイイね! ……普段は適当に叩き潰してミンチにしてるから分からなかったよ」

『ッ⁉︎ BAUWAU⁉︎ (主ィ⁉︎ コイツ目がマジです⁉︎)』

『KUEEE……(この少女からは何かこう恐ろしい気配を感じるのですが……)』

「え、えーっと……ミカさん、あまり怖がらせないで下さいね……」

 

 それに加えて彼女はテイムモンスターとして【ティール・ウルフ】のヴェルフと【ウインド・イーグル】のウォズを従えており、実に強力そうなチームを組んでいますのです。

 ……後姉様、ただの冗談だと思いますがその二匹は凄く怖がっている様なので自重して下さい。姉様の“直感”時の雰囲気は感覚が鋭い者からすると空恐ろしいモノを感じるので……。

 

「おうレント、今日はよろしく頼むぞ」

「ああ、こちらこそよろしく頼むアット」

 

 別の所では兄様が一人の男性──リアルでデンドロの情報が載ったホームページを作っている<Wiki編集部・アルター王国支部>のクランオーナーであるアット・ウィキさんと話していました……何でも以前【魔石職人(ジェムマイスター)】のジョブクエストで知り合ってフレンドになったそうです。

 

「しかし、その合計レベルに加えてもう既に上級職か。……やはり、お前の<エンブリオ>は獲得経験値増幅系か?」

「その辺りはご想像にお任せしよう。……それよりもデンドロWikiは俺も見たぞ。アルター王国の部分は中々良い感じに纏まっていたじゃないか」

「まだ、王都とその周辺の情報を僅かながら纏められただけだがな。……まあ、お前が言っていた事を参考にしてティアンへの聞き込みを重視しながら情報を集めたお陰で、他の支部よりはやや情報量が多くなったが」

 

 ちなみに<Wiki編集部>の他のクランメンバー達も一緒に来ていたらしいのですが、人数分けの関係上あぶれてしまいこちらに回されたそうなのです……まあ組み分けの際には<マスター>同士の揉め事を減らす為に出来る限り顔見知り同士で組む様にしていたので、偶々この空きパーティーに兄様という知り合いが居た彼は自らこちらに来た様なのですね。

 ……それ故に、この様に都合よく知り合い同士が組むパーティーとなったのです。

 

「七大国の中で唯一侵入方法が分かっている神造ダンジョン<墓標迷宮>はこのアルター王国の目玉だから、なるべく早く自由に入れる様にしておきたい。……市場価格が十万リルもする以上<Wiki編集部>全員分の【許可証】を用意するのは今のところ難しいからなぁ」

「まあ確かに首都の地下にある最下層不明のダンジョンとか、実にエンドコンテンツ感があるからな。情報を上げればホームページはさぞかし賑やかになるだろうさ」

 

 ……ふむ、まあこの様にパーティー同士の中も良い様ですし、これならこの【墓標迷宮探索許可証】入手クエストもどうにかなるでしょう! 

 

『……それでミュウ。現実逃避的にモノを考えるのも良いけど、あっちの()はどうするんだい?』

「……どうしましょう、ねぇ……」

「…………」

 

 そんなミメの声を聴きながら、私は先程からずっとこちらの事を睨みつけてくる男性──先日、私達を襲って来て返り討ちにあったPKの一人であるシュバルツ何某さんにどう対応しようかと途方に暮れました……以前、彼を直接デスペナにしたが原因なのか、最初に顔を合わせてからずっと私の方をを睨んで来ているんですよね。

 ……ちなみにパーティー人数が七人なのは、リリィさんがサブジョブ入れている【指揮官(リーダー)】のスキルでパーティー枠が増えているからです。更に他の騎士さん達の話を聞くと、彼女なら即興で作られた<マスター>のパーティーでも上手くまとめられるだろうという事で、あぶれた人を優先的に回したりもした様ですね。

 

「……そして、その結果がコレなのです。確かに顔見知りではあるのですがね……」

『騎士さん達も<マスター>達の組み分けには凄く苦労していたから、あんまり文句を言う訳にも行かないしねぇ』

「………………」

 

 尚、この事に気が付いた姉様は『ミュウちゃんが彼のハート(胸部)を打ち抜いた(物理)んだから頑張ってね(笑)』と言い、兄様は『彼が用のあるのはミュウちゃんの様だから俺は離れておこう』と言ってそれぞれの顔見知りの所に行ったのです。ちくしょうです。

 ……とは言え、このまま放置しておいて今回のクエストに支障を出す訳にも行かないですし、最低限揉め事を起こさない様にはした方がいいでしょうし話し掛けるしか無いですよね……。

 

「えーっと、シュバルツさん。……別に私の事を敵視するのは構いませんが、最低限クエスト中はある程度協力してほしいのです」

「……そんな事は言われずとも分かっている。こうしてクエストを受託した以上、その間は私情を持ち込むことはせん」

 

 ふむ、私は《真偽判定》のスキルを持っては居ませんが、とりあえずは嘘を付いている感じはしないですし大丈夫そうですかね……どうやら彼は思っていたよりも真っ当なPKで幸いでし「だが!」……へ? 

 

「勘違いするなよ、俺は別に貴様と馴れ合うつもりは断じて無い! ……俺に初めて死を味合わせた女、ミュウ・ウィステリアよ……いつか必ずお前を打ち倒しこの屈辱を必ず晴らす! それまで首を洗って待っているがいい!!!」

「…………は、はぁ……」

 

 なんか、いきなりシュバルツ何某さんはこちらに指を突き付けてそんな事を宣って来たのです……つか、そんな大声で私の名前を呼ばないで下さい。周りにいる他の<マスター>やティアンがこっちを見ているじゃないですか。

 後姉様『おー、実にテンプレライバルキャラな台詞だね』とか呑気に言わないで下さい、兄様も『ミュウちゃんにやられたのにあそこまで吠えられるとは中々見所があるな』とか言って関心しないで下さい!

 ……そんな事をしていたら騒ぎを聞きつけて来たリリィさんが私達の所にやって来ました。

 

「ミュウさん、シュバルツ・ブラックさん、お二人の間に何があったかは知りませんが、今回のクエストでパーティーとして行動出来ない様であれば最悪辞退して頂く事になりますが」

「心配ご無用。……先も言った通り一度クエストを受託した以上は、そこに私情を挟むような事は一切無いと約束しよう」

「……私としてもそちらの方から仕掛けて来ない限りは何か揉め事を起こす気は無いのです」

「……どちらも嘘は言っていない様ですね。……分かりました。ですが、クエスト中は私の指示に従って諍いを起こさない様に」

 

 リリィさんは《真偽判定》で私達の発言に嘘が無い事を確認すると、それだけ注意をしてから立ち去って行きました……チッ、本当に面倒な事をしてくれますねコイツ、お陰でリリィさんに迷惑が掛ったじゃないですか。空気読めよ。

 ……尚、周りのティアンの騎士達はやや困惑している様でしたが、<マスター>達は『良いライバル系ロールプレイだな』とか『中々はしゃいどるねー』とか『殺し愛な関係かな!』とか呑気に宣ってました。やはり<マスター>(ゲーム)ティアン(リアル)では価値観に差がありますね……。

 

『御愁傷様、ミュウ』

「(ありがとうございます、ミメ。……まったく、変な奴に目を付けられたのです)」

 

 次、あのシュバルツ何某が私に襲い掛かってきたら容赦なく潰しましょう……後、自分達だけ厄介事から逃げた兄様と姉様も覚えておくといいのです。

 ……そんな風に私が頭を抱えていると、他の騎士達に指示を出していたリリィさんが私達の元に戻ってきました。

 

「さて、準備は整いましたので今からクエストを始めます。……私達のパーティーは主に<サウダ山道>から<ネクス平原>に入る辺りのモンスター討伐を行います。万が一、何かあった場合には私に聞いてください、その都度指示を出します。……それでは行きましょうか」

 

 それだけ言ったリリィさんが<サウダ山道>に向けて進んで行ったので、私達もその後を追って行きました……その直後、兄様と姉様がこちらにやって来ました。

 ……どうやら何かこっそり話をしたい事があるみたいなので、私はジト目になりながらもさり気なく二人に近づいて行きました。

 

「……何の用ですか、自分達だけ厄介事から逃げた兄様と姉様」

「あーごめんごめん。まさかシュバルツ何某があそこまで積極的とは、このミカの目を持ってしても見破れなかったよ」

「ただ睨みつけているだけで殺気や悪意は余り感じられなかったからな。……まさかあそこまで騒ぎになるとは……」

 

 ……とりあえず、兄様と姉様には後で王都のお高いお菓子を買わせる事を取り付けたので、さっさと姉様には本題に入って貰うのです。

 

「……それで? 何を感じ取ったのですか姉様」

「……うん。どうもこのクエストで何か厄介ごとがあるっぽい。それも()()()()()()()()()()()()()()()の」

「やっぱりそうか。……どうりでお前が事前に準備をしておこうと言うわけだ」

 

 まあ、姉様が『このクエストの前にお金を稼いで装備を整えよう』と言った時点である程度は予測していましたが……尚、もっと詳しい情報が知りたかったのですが、姉様曰く“このクエストで何らかの危険があり、私達がそれに関わらないとかなり多くの犠牲が出る”という事以外はまだ分からないそうです。

 

「……まったく、相変わらず肝心な所で役に立たない直感だよ」

「……まあ分かりました。私もよく注意しておくのです」

「今のところはよく注意しつつ、何かあったら相互に連絡を行いぐらいしか出来んか。……とりあえず、今はクエストに集中しよう」

 

 私達は一通り手早く話終わってから兄様がそう締め括った後に、何事も無かったかの様にパーティーに戻って行きました……内憂外患とはこの事ですかね。さて、このクエストはどうなる事やら……。




あとがき・各種設定解説

末妹:面倒なのに目を付けられた
・シュバルツ何某への評価は以前までは“強かったPK”だったのだが、今回の一件で“空気読めない奴”に変更された。

シュバルツ何某:戦線布告には成功
・ただ、テンションに任せてやらかした事を内心は後悔しており、リリィに話しかけられた時はテンパってキャラが変わっていた。

兄&妹:知り合いと友好を深めていた
・ちなみにシュバルツ何某へ特に何もしなかったのは妹が特に“危険”を感じなかった事と、彼があくまで()()()()()()()()()()()()真っ当なPKとして行動したから。

アット・ウィキ:既にクラン結成&Wiki作成済み
・今回参加したのは【許可証】自体の情報をWikiに乗せる為にクエストの詳細な情報を入手する為でもある。

エルザ・ウインドベル:妹のフレンド
・デンドロ初日組でガードナーとテイムモンスターを強化して戦う一般的な【従魔師】<マスター>。
・戦力としてはガードナー三体、テイムモンスター二体を有しており今現在の<マスター>の中ではかなり高い。
・だが、装備や食費がかかるので金欠気味であり生産職である友人から素材と引き換えに格安で装備を譲って貰ったりしている。
・今回のクエストでも<墓標迷宮>で資金稼ぎをする事を目指して【許可証】入手の為に参加した。

【代行神騎 ワルキューレ】
<マスター>:エルザ・ウインドベル
TYPE:ガードナー
能力特性:代行
到達形態:Ⅲ
保有スキル:《代行者(オルタネイティブ)》《主の加護》
・モチーフは北欧神話の戦乙女“ワルキューレ”、種族は天使で女性の人型ガードナー。
・姿形は髪型と髪の色以外は全て同じで、人型<エンブリオ>特有の食癖は“マスターが食べているものと同じものしか食べない”。
・現在の内訳は最初から居る金髪ロングストレートの長女アリア、第二形態に進化した時に生まれた銀髪ツインテールの次女セリカ、第三形態に進化した時に生まれた青髪でポニーテールの三女トリムである。
・各々の基本ステータスは初期の<マスター>並みと非常に低いが、スキル《代行者》により人間範疇生物と同じ下級職六つ、上級職二つのジョブに就きレベルを上げる事が出来る。
・ただし《代行者》で就く事が出来るのはマスターが転職条件を満たしているものだけで、更にマスター及び【ワルキューレ】の間で就いているジョブを被らせる事が出来ないデメリットがある。
・《主の加護》は【ワルキューレ】に基本ステータス補正を与えるスキルで、第三形態時には一人につき合計400%の補正を各ステータスにつき10%刻みで10%〜200%の割合で割り振る事が出来る。
・デメリットとしてマスターのステータス補正はゼロになり、一度補正を変更すると72時間は再変更出来なくなる。

リリィ・ローラン:引率担当
・色々アレな<マスター>の引率を押し付けられた苦労人。
・尚、彼女はまだマシな部類の模様……考察クランパーティーやら宗教クランパーティーやらファンクラブパーティー担当の騎士と比べれば。


読了ありがとうございました。
新しい章もこれからボチボチ投稿していくので、これからも応援よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。