□アルター王国・<ノズ森林>
さて、ここで少し【
また、この“
……更にこの“
『GAAAAAAAAAAAAAA!!!』
そして、この【吸血熊】は基本的に出血強要・吸血・追跡のスキルを使って獲物をじわじわと甚振る持久戦が得意な個体ではあるが、ステータスに於いてもSTRが2000代でEND・AGIも1000に迫り、更にはHPは10000に超える程の数値を持つ個体なのだ。
故に下級職一つ目で<エンブリオ>も第一形態未満の初心者<マスター>が戦った所で、1パーティー程度ならば容易く蹴散らせてしまうだけの実力がある。
……ただし、それは今相対している三人の<マスター>が
「……うん、視えるね。《ハードストライク》!」
『GAAAA⁉︎』
まず、三人の中では最もAGIが高いミカが先陣を切って【吸血熊】に突っ込んでいく……無論、まだ下級職一職目であるその速度は【ギガース】の第一形態としては高いステータス補正込みでも【吸血熊】の数分の一といった所だが。
だが、彼女は自分の体感で倍近い速度で迫る爪を
そして、攻撃を終えたミカはそのまま離脱して相手が反撃として振るってきた腕を避けた……そのタイミングとほぼ同時に左手の大砲を構えたシュウ・スターリングが接近する。
『ッ! GUAAAAA!!!』
『チッ、コイツ結構鋭いクマ!』
だが、【吸血熊】野生のモンスターとして所有していた《危険察知》がその構えられた大砲に反応したため、即座に【吸血熊】は
シュウは【
……更に彼は自分の<エンブリオ>が危険視されている事を逆に利用して、【吸血熊】に隙を作らせて三人目であるミュウがその死角となる背後から接近出来る様にもしていたのだ。
「せいっ! ……って、やっぱり効きませんか」
『GAAAA!!!』
接近したミュウは【吸血熊】の後ろ足に向けて正拳突きを放ったが、単純に相手のENDが高すぎてダメージにはならなかった……【
まあ、だからこそ《危険察知》をすり抜けて接近出来たのだし、隙を作る役目は果たせたと判断した彼女はその場を素早く離脱し……直後、煩わしいモノを排除するために【吸血熊】は彼女がいた場所に爪を振るわれが、既に間合いの外に離脱した彼女には当たらずその隙を突いて残りの二人が態勢を立て直して再び攻撃に移る。
……と、この様に各々が持つ規格外の
「……さて、このまま戦い続けると相手の攻撃を躱しきれなくなって
「ステータスに差があり過ぎて、アクティブスキル込みでもまともに攻撃が入らないからなぁ。……シュウさん、何かドカンと一発デカイのとか無いの?」
『一応、俺の<エンブリオ>には1日1発高威力の砲撃を撃つスキルがあるが……今の俺のステータスじゃ急所にでも撃ち込まないと致命傷にはならないだろうし、何より完全に俺のスキルを警戒されている状態で当てるのは厳しいクマ』
そう、【吸血熊】のSTRから繰り出される攻撃は直撃すれば彼等三人共一撃で戦闘不能になる威力があり、それが自分達よりも数倍早く繰り出されるという状況は彼等をしても長時間戦い続ける事は非常に困難であった。
更に彼等の攻撃は【吸血熊】のENDとHPに阻まれてまともなダメージが通らず、唯一ダメージを与えられる可能性もあるシュウの<エンブリオ>【戦神砲 バルドル】の《ストレングス・キャノン》──第一形態では自身のSTRの五倍の威力がある砲撃を撃つスキル──も、現在のシュウのステータスでは1000をギリギリ超える威力にしかならず、普通に当てても致命傷にはならないのである。
……まあ、警戒されている事を利用してブラフに使う事で相手の動きを誘導して、この近郊状態を維持している事も軽々しく撃てない理由になっているが。
『GOAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
更に悪い事に、最初はステータスで劣る相手にいい様にされて所為で怒って攻撃が雑になっていた【吸血熊】も、戦っている相手がこちらに対してまともにダメージを与えられないと分かると、怒りが収まって攻撃の精度が元に戻り始めたのだ。
……当然、今まで辛うじて相手の攻撃を凌ぎ続けてきた彼等にとっては、そんな僅かな差でも致命傷に成りかねないのだが。
「ええいっ! こっちにまともな手が無い事がバレましたか⁉︎」
『向こうのAGIが高過ぎてよっぽど接近しないと急所には当てられんクマ! ……後、着ぐるみ着てるから動き辛いクマ!』
「じゃあ脱げばいいんじゃないかな(名案)……まあ、勝算が無いわけじゃないんだけど……」
そう言ったミカは一瞬だけ心配そうな瞳でミュウの方を見た……その視線を受けた彼女は姉の言う“勝算”とは、自分の未だに孵化していない<エンブリオ>の事であると思い至った。
……それと同時に、自分が今まで
(……ええ、本当は私の<エンブリオ>が何故中々孵化しないのかぐらいは分かっていたのです。……ただ、私はこの期に及んで自分の“戦いの才能”を活かすか殺すかで悩んでいたから、<エンブリオ>も自分の方向性を決められなかっただけなのです)
……彼女ミュウ・ウィステリア──
それを克服する事と自分の才能を制御する為に格闘技の道場にも通ったりしていたが、未だに嫌悪感を抱いたままである。
(師匠には『自分の才能に振り回されない程度の技術は教えたから、後は自分でどうするか決めろ』と言われましたし、兄様や姉様は私が自分の才能を殺す道を選んでも責めはしないでしょうが……)
そこまで考えてから、彼女は自分の左手を見て自分の覚悟を叫んだ。
「そんな事で、あの二人の足を引っ張る事だけは絶対に嫌なのです! ……だから、私の才能を活かす<エンブリオ>としてさっさと目覚めなさい!」
『やれやれ、僕は中々強引な<マスター>に引き当てられたみたいだね。……まあ、それがキミの望みなら是非もないさ』
その覚悟と自分が二人に置いていかれるかもしれないと言う“危機感”によって、彼女の左手にあった
「おはようマスター。……僕はTYPE
「メイデン……?」
ミュウは聞いた事の無いカテゴリー名に首を傾げなから、目の前に現れた
……そうしてやや困惑していたミュウに対して、ミメーシスはその手を差し出してこう告げた。
『GUUUUUUU……』
「その辺りの事を説明したいのは山々だけど、今はのんびりしている時間は無いからね。……アイツが様子見している間に説明を終わらせたいから、直ぐにこの手を取って欲しい」
「分かったのです」
今は戦闘中なので思った疑問は後回しにしようと決めたミュウは、直ぐ様言われた通りミメーシスの手を取った……まあ、幸いにも【吸血熊】は“目の前でいきなり人間が増える”という今まで経験した事の無い現象に対して、一旦距離を取って様子を見ていたので妨害される事は無かったが。
「じゃあ行こうか……《
その言葉と共にミメーシスの姿は桃色の粒子となって解けていき、そして即座にその粒子はミュウの身体と重なって
「これは……!」
『これが僕の第一スキル《憑依融合》……僕とマスターを融合させてそのステータスを足し合わせるスキルだよ。……僕は
故にこの《憑依融合》は使用条件として『両手武器が非装備状態である事』や『融合時に<エンブリオ>と<マスター>が接触状態である事』などの条件はあるが、維持コストやクールタイムなどが一切存在しないのである。
……最も、普通のガードナーであれば複数の制限付きの切り札として存在する融合スキルを常時使用するにあたってのデメリットは当然あり、まずガードナー形態時の【ミメーシス】のステータスはMPこそ5000はあるもののHP・SPは100程度で、それ以外のステータスはオールゼロという有様である。また更なるデメリットとしてマスターのステータス補正もオールゼロになっている為、このスキルでのステータス強化は殆ど期待出来ない様になっているのだ。
「成る程、つまり融合してもステータスはほぼ伸びないと……後、変身バンクとかは無いんですかね?」
『流石にそれは無いかなぁ。……まあ、メインは
『GUAAAAAAA!!!』
そこでいい加減に痺れを切らしたのか、様子見をしていた【吸血熊】が再び戦闘行動を開始した……それに対してミカとシュウが迎え撃つが、先程までの焼き直しの様に防戦一方になっていき、そのまま【吸血熊】がミュウに向けて突撃する事を許してしまった。
……だが、彼等はミュウがもう一つのスキルを確認するだけの時間は見事に稼いでいたが。
『GUAAAAAAA!!!』
「分かりました……では、もう一つのスキルの発動をお願いするのです」
『了解マスター……《
向かって来る【吸血熊】に対して、ミュウはミメーシスにもう一つのスキルを発動させながら表情一つ変えず冷静な目でそれを見つめて……彼我の距離が更に縮まった瞬間、相手と
……そして、殴られた【吸血熊】はそのまま後ろに吹き飛んでいったのだ。
『GAAAA⁉︎』
「ふむ、増加したAGIに少し振り回されましたか。やや間合いがズレました」
『まあ、今のマスターのAGIは1147、STRは2085……
そう【模倣乙女 ミメーシス】の第二スキル《天威模倣》の効果は『敵対対象一体を指定してそのSTR・END・AGI・DEX・LUCの内高いものから二つまでのステータス数値をマスターのそれへ同期させるスキル』である……【吸血熊】は前述の五つのステータスの内STRとAGIが高かったので、そいつを対象にスキルを使ったミュウのSTRとAGIは同じ値になっているのだ。
……だが、このスキルはコストとして発動時と1分間経過する毎に同期させた最も高いステータス──今はSTRの2085分だけMPを支払わなければならないから、今の彼女達では二分程度しか維持出来ないが……。
『それに、今の僕じゃENDまでは同期出来ないから耐久力は変わらないよ』
「問題無いですね、当たらなければどうという事は有りませんから……それにステータスさえ互角であれば、アレを倒すのに一分も掛かりませんよ」
『GAAAA⁉︎ GUAAAA⁉︎』
その言葉通りにミュウは即座に【亜竜吸血熊】との距離を詰めて懐に潜り込むと、近過ぎる事と体格差の所為で精度が落ちた反撃を全て躱しながら拳と蹴りの連打を見舞いそのHPをあっという間に削り取っていった。
……TYPEメイデンの特徴は
「では、そろそろ終わらせましょうか」
『GUAA⁉︎ GAAAAAAAA⁉︎』
そう言ったミュウはこちらを噛み砕こうとした【吸血熊】牙を躱してその脇を擦り抜け、そのまま後ろ脚の膝部分に全力の蹴りを打ち込んでへし折った。そして、片足が【骨折】して態勢が崩れた相手の腕を掴み、その重心を崩しながら強化されているSTRを使って投げ飛ばしたのだ。
……投げ飛ばされた【吸血熊】は仰向けのまま地面に叩きつけられ、足が折れている所為で中々立ち上がれず……。
「私を忘れて貰っちゃ困るよ。《ハードストライク》!」
『⁉︎ GAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
その隙に接近して来たミカがアクティブスキル付きの【ギガース】を
追い詰められた【吸血熊】はどうにかしてここから離れようと両手も使って無理矢理立ち上がろうとし……直後、そのこめかみに金属製の大砲が突きつけられた。
『ここまで丁寧に隙を作ってくれたなら、今の俺でも接近するぐらいは出来るクマ』
『GA! AA……⁉︎』
それは、ずっと自分の切り札を撃ち込む隙を伺っていたシュウだった……二人が自分の為に隙を作ろうとしている事に気が付いていた彼は、相手の両腕が封じられたこの絶好の機会を逃す事無く接近したのである。
『終わりだ《ストレングス・キャノン》!』
『GAAAAAaaaaaaa…………』
そうして、動けない【亜竜吸血熊】のこめかみに突きつけられた大砲から放たれたエネルギー弾は、その頭部を跡形もなく吹き飛ばしたのだった。
『……うん、スキルの効果が切れたから間違い無く倒せたよ』
「宣言通り、
……こうして、彼等はデンドロ初日に遭遇したボスモンスター、【亜竜吸血熊】を撃破する事に成功したのだった。
あとがき・各種設定解説
末妹:ようやく! <エンブリオ>が! 孵化したのです!
・彼女の内面や才能についてはいずれ書きます。
【模倣乙女 ミメーシス】
TYPE:メイデンwithガードナー
能力特性:模倣&???
固有スキル:《憑依融合》《天威模倣》
・ミュウ・ウィステリアの<エンブリオ>で、モチーフは西洋哲学の概念の一つで『模倣』という意味を持つ言葉“ミメーシス”。
・紋章の形状は“同じ姿をした二人の少女が互いの手を合わせている”というもの。
・常時融合型ガードナーである為、単体でガードナー形態になる事は不可能。
・ガードナーとしての種族はエレメンタルであり、《憑依融合》状態だとミュウの種族もエレメンタルになる。
・融合条件の一つである接触状態は紋章の中にいる場合でも満たせる。
・《天威模倣》のコストを払う経過時間は『同期出来るステータスの最大数』引く『同期しているステータスの数』足す一分になる(第一形態の場合は同期させるステータスが二つなら一分ごとコストを支払うが、一つだけなら二分ごとになる)
・《天威模倣》のクールタイムは効果終了から一分程度だが、同一対象には24時間再使用出来ず途中で同期させるステータスを変更する事も出来ない。
妹:敵の弱点を狙うのは基本だよね!
・今回は末妹の晴れ舞台の為に全力支援に回った。
シュウ・スターリング:ラストアタック担当
・流石にまだ着ぐるみでの動きには少し慣れていない……着ぐるみも動きやすさとかは考慮されていないイベント用の代物だし。
【亜竜吸血熊】:敗因『相手が悪かった』
・実際、亜竜級の中では結構強い個体で、相手を甚振って血を啜る事を好む性格で頭も良い。
・王都周辺で目撃されていれば討伐依頼が組まれるぐらいには危険なモンスターだった。
読了ありがとうございました。
本格的にボスとの戦闘を書いてみましたがどうでしょうか? ちょっと三人称での説明がくどかったかな……意見・感想をいつでもお待ちしております。