「サイフォンの原理」とは、水を高い位置の出発地点と低い位置の目的地点を管でつないで流す場合、管内が水で満たされていれば、管の途中に出発地点より高い地点があってもポンプでくみ上げることなく流れ続ける仕組みを言います。
この原理は、つい最近まで①大気圧の力によるものと考えられていました。しかし数年前、この説明は誤りであるとの指摘がありました。これは、大気圧の力ではなくて②重力によるとの指摘です。
では、どちらの主張が正しいのかを検証して見ます。
先ず、②「重力による」との考え方から説明します。
「サイフォンの原理」は、「滑車の原理」と本質は同じと考えます。左側の出発点から最も高い位置までの管の中にある水の重さを5[㎏]、右側の最も高い位置から目的地点までの管の中にある水の重さを10[㎏]とします。
これは、右図の定滑車の左に5[㎏]、右に10[㎏]の水を付けた場合と同じとします。右側が重いので右側の水は落ち、反対に左側の水は持ち上がります。
これをよく鎖のイメージで説明します。鎖を滑車に吊るします。出発点から最高点にぶら下がった鎖の重さが5[㎏]で、残りの鎖は出発点の地面の置かれた状態です。最高点から目的地点までにぶら下がった鎖の重さが10[㎏]です。「滑車の原理」により、鎖は重い右側に落ち左側の鎖は持ち上がります。すると、出発点で今まで地面に置かれていた部分の鎖が持ち上がり左側に移動します。こうして鎖は流れ続けます。
次に、「大気圧の力による」との考え方を説明します。
出発点の水面には1[㎏/㎝2]の大気圧が掛っています。従って、管の中の水を1[㎏/㎝2]の力で押し上げようとします。しかし、管の中の水の重さが0.3[㎏/㎝2]掛っているので、差し引き0.7[㎏/㎝2]の圧力で水は管の中を押し上げられます。
到達点の水面にも1[㎏/㎝2]の大気圧が掛っています。よって、管の中の水を1[㎏/㎝2]の力で押し上げようとしますが、管の中の水の重さが0.8[㎏/㎝2]掛るので、差し引き0.2[㎏/㎝2]の圧力で水は押し上げられます。
左からは0.7[㎏/㎝2]の圧力、右からは0.2[㎏/㎝2]の圧力が掛り、差し引き0.5[㎏/㎝2]の圧力で水は右に流れます。
ここで、出発点側の管の水の重さが0.96[㎏/㎝2]になったらどうなるでしょうか。水圧は1[㎏/㎝2]-0.96[㎏/㎝2]=0.04[㎏/㎝2]<36°の水の蒸気圧0.056[㎏/㎝2]です。
これでは、管の中の水は沸騰し水蒸気となります。水はどんどん水蒸気となり気圧が高まり、1[㎏/㎝2]になるま続きます。そして、管の中の気圧と大気圧が釣り合うと、管の中の水面は出発点と到達点の水面と等しくなります。
こうして、大気圧-出発点側の1[㎝2]当たりの水の重さ<蒸気圧になると、サイフォンは停止します。
ここでまとめます。私は、サイフォンは①「大気圧の力」と②「重力の力」との合力により起こると考えます。
到達地点側の管の中の水が落下しようとする力aの10[㎏]と、出発点側の水が落下しようとする力bの5[㎏]が、水を鎖として引き合い、aの方の力が強いので水はaに引っ張られ、右の到達地点側に流れるのではありません。
何故なら、水は回りから圧力を掛けないとすぐに気体となってしまうからです。ですから、鎖の様に何かを引っ張ることは出来ません。つまり、出発点側の管の中の水は、到達地点側の管の中の水が重力により落下する力に引かれて右側に移動したのではありません。
双方の管の中の水は、大気圧で押し上げられる力と自重で落下する力との差の力により、管の中を押し上げられるのです。そして、押し上げる力の弱い到達点側へ水は流れるのです。
そして、出発点側の水を押し上げる力が蒸気圧以下になると、水は沸騰し水蒸気となり管の中の気圧が高まり1気圧になるまで水は蒸発し続けます。こうして、管の中の水面は出発点と到達地点の水面に等しくなり、サイフォンは終わります。
このとおり、「サイフォン」は大気圧と蒸気圧と管の中の液体の比重によります。つまり、サイフォンは①「大気圧の力」と②「重力の力」が合力され起こるのです。決して、どちらか片方のみの力ではありません。