□アルター王国・王都アルテア南門前 レント・ウィステリア
「……おー、青い空、白い雲、草の感触、そして目の前に聳え立つ白亜の街……これは
俺、
その際に
……そして、初期国家を事前に決めていたアルター王国にして、このゲームを始める事になったのだが……。
「まさか、ゲームを開始していきなり上空からパラシュート無しスカイダイビングをさせられるとは思わなかったぞ。……高所恐怖症の人とかトラウマになるんじゃ無いか?」
正直、事前説明無しに“コレ”とかサービスが足りていないと思う……改めて思い返すとゲーム内のシステムの説明とかもされていないし……。
「まあ、そこはもう終わった事だからしょうがないとして……問題は妹達とどうやって合流するかだな。初期ログイン地点は王国首都の東西南北にある門の前のどれかだと聞いたし、このままここで待つか目の前にある街に入るか……ん?」
そこまで考えたところで、俺は上空から声が聞こえてくる事に気付いた……その声は徐々に近づいて来ている様だし、恐らく俺と同じ初ログインのプレイヤーだろう。
……よく聞いてみると声は二人分あるようで、どうやら二人の人間が落ちて来ている様だった。
「へぶっ⁉︎」
「おっと」
落ちて来た二人はどうやら両方共中学生ぐらいの少女の様で、片方は上手く着地出来ず尻餅をつき、もう一人は綺麗に両足を揃えて着地した。よく見てみるとあの二人の顔には見覚えが……いやいや、そんな都合のいい事がある訳が……。
……そう思っていたら、綺麗に着地した茶髪のセミロングの少女がこちらを見ると話しかけて来た。
「おや、そこに居るのは兄様……レント・ウィステリアさんなのです?」
「……まさかとは思ったが、そっちの名前はミュウ・ウィステリアとミカ・ウィステリアか?」
「そうだよー、レントお兄ちゃん。……しっかし、このゲーム凄いね。VRはやったことないんだけど、見た限り現実と変わらないや」
俺のその質問に尻餅をついていた方の白髪ロングヘアーで赤目の少女がそう答えた……やっぱり、そんな気はしていたんだが……。
「随分都合が良いな、全員この場所に落とされるとは」
「あ、それは違いますよ兄様。……私が担当してくれた管理AIのアリスさんに頼んだら、初日限定のサービスとして兄様と姉様を同じ場所に落としてくれる事になったのです」
詳しく話を聞くと、俺達が合流出来るかどうかが気になったミュウちゃんが担当のアリスという女性に良い方法が無いか聞いてみたところ『じゃあ、さっきログインしたレント・ウィステリアというプレイヤーと同じ場所に投下してあげるわ。初日だから私達の演算能力にも余裕があるしサービスよ』と言われたので、その提案に乗ったらしい。
また、ミカの方も同じ地点に投下してもらう様にして貰ったとの事……気が利いているのかいないのかよく分からないな。
「私を担当していたチェシャさんは少し困惑していたけど、『まあ、初日だしいいかなー』って言ってここに投下してくれたよ」
「……まあ、さっさと合流出来たのならそれはそれで良いか。……それでミカ、
俺のその質問にミカとミュウちゃんは一転表情を真剣なモノに変えた……この<Infinite Dendrogram>を始めるキッカケになったのはミカの“直感”だからな。その辺りはまず確認しておかないと。
「うーん、流石にログインしてすぐじゃこの“世界”については殆ど何も分からないけど……チェシャさんに『この<Infinite Dendrogram >は只のゲーム何ですか?』と聞いた時には、少し驚かれた後『この<Infinite Dendrogram>で現実のプレイヤーに物理的に危険が及ぶ事は一切無いよー』って言われたかな」
「私もアリスさんに似たような事を聞きましたが、彼女もプレイヤーへの物理的危険は無いと言った上で『少なくとも<Infinite Dendrogram>の世界は
「俺の担当したダッチェスは『ただし、貴方達がこの世界で見たモノによる精神への負担は別だけど。ホラー映画とかと同じ理屈よ。……後は自分の“目”で確かめなさい』とも言っていたな」
管理AIから聞いた情報を纏めると『<Infinite Dendrogram>はプレイヤーの現実の身体には一切無く(ただし精神への影響は例外)あくまで
「まあ、私の勘だと
「後はもう兄様に言われた通り、自分達の目で見て判断するしかないでしょうね」
「ま、最後はやっぱりそうなるか……じゃあ、先ずは目の前にあるこのアルター王国の首都らしい所に行ってみるか」
そういう訳で、俺達は目の前にある見上げる程に大きな白亜の壁に組み込まれている巨大な門へと向かっていった。
◇
幸い目の前にあった門は解放されており、先程から馬車や人が行き来しているので俺達も普通に入る事が出来た……出来たのだが……。
「……さて、ここから私達は何をすれば良いのでしょうか?」
「……俺達は何か明確な目的があってこのゲームを始めた訳では無いからな。行動の指針が無い」
「チェシャさんは『このゲームでは君達は“自由”だよ。何をやっても良い』って言ってたけど……自由すぎて、まず何をすれば良いのか分からないんだけど!」
正直言って、ゲームのシステムを説明するチュートリアルぐらいはあっても良かったんじゃないかと思うんだが……この<Infinite Dendrogram>、クオリティは凄いけどシステム面はクソゲーでは?
「初日だから情報も殆ど無いし! このゲームがどういうシステムなのかも説明無いし!」
「うーん、マップがあってもどこに行けば良いのか分からなければ意味は無いですね。まずは地道に情報収集から始めるしか無いのでは?」
「まあ、それしか無いか……とりあえず、ここは騎士の国らしいからその辺にいる騎士っぽい人に話を聞いてみよう。多分、警察機関とかも騎士がやっていると思うから悪い様にはされないだろ」
そんな希望的な観測を元に騎士と思われる人間を探すと、門のすぐ近くに<アルター王国第一騎士団・南門駐在所>と書かれた看板を掲げた建物を見つける事が出来た……そりゃあ、首都の門に警備の兵を置くのは当然だよな。
……と言う訳で、俺達はそこに居た騎士さんに話を聞いてみる事にした。
「あの、すみません。少し宜しいでしょうか?」
「はい、何でしょうか?」
「えーっと、私達この世界に来たばかり何ですけど、正直この世界の常識とかさっぱり分からないので色々と教えてほしいんですが」
俺が駐在所に何人か居た騎士さんの一人に話しかけたら、いきなりミカがその様な事を相手に問いかけた……一瞬、NPCにそんな聞き方で大丈夫なのかと思ったが、直後に管理AIが『<Infinite Dendrogram>のNPCは人間と同じ思考能力を持つ』と言っていた事を思い出した。
……それなら寧ろその聞き方が正解かもな。それに、ミカがそうしたという事はそちらが“正解”何だろう。
「この世界……ああ、もしかして
「<マスター>? ……お兄ちゃんとミュウちゃんは知ってる?」
「いや、知らない単語だな」
「私もなのです。……申し訳ありませんが、私達は<マスター>という言葉の意味を知らないのです。なので、それを含めたこの世界の一般的な常識を教えて貰えないでしょうか?」
なんか、騎士さんの口からいきなり知らない単語が飛び出して来たし……やっぱり、チュートリアルとか用語説明とかはゲームシステムに入れた方が良いと思うんだが。
……幸いな事に、その駐在所に居た騎士達は嫌な顔一つせずに快くこちらの質問に答えてくれて、様々なこの世界の一般常識を教えてくれた。
「簡単に纏めると<マスター>っていうのは<エンブリオ>に選ばれた者の事で、不死身であるがその代償として頻繁に異世界に飛ばされてしまうと……上手い設定だね」
「そして、この世界では“ジョブ”につく事によってレベルを上げるシステムになっている様です……ジョブレベルゼロの私達はまずジョブに就く事が目的になるでしょうか」
「後、<マスター>以外のこの世界の人間は“ティアン”と呼び、ここは<王都アルテア>というアルター王国の首都で、冒険者ギルドとかではクエストを受けられるなどなど……情報量多すぎ。これでヘルプやチュートリアルが無いとか……」
……管理AIはもうちょっと初心者サービスを充実させて置くべきでは? いや、本当に。
とりあえず、色々と教えてくれた騎士さん達にはお礼を言っておかないとな。
「本当にありがとうございました。お陰で助かりました」
「いえいえ、こういう事も我々の仕事ですから。……それに<マスター>の方々が
「……奇行……ですか?」
ミュウちゃんがそう聞き返すと、駐在所の騎士さん達は苦笑いをしながら肩をすくめて答えてくれた。
「ああ、<マスター>が今日から多く現れる事は事前に知っては居たんだが……その現れたばかりの<マスター>達がジョブに就く事すらせずにフィールドへと走り出してしまい、そこでモンスターに襲われて死亡する事件が非常に多く発生していてな……」
「<マスター>が不死身とは言え、それを目撃した王都の民にも不安が広がっており今も王都周辺を騎士達が見回りをしているのですが……どうも、多くの<マスター>は貴女達の様にこちらの話を聞いてくれず、向こうの話もどうも要領を得ない様でして……」
「……あー……そりゃあ、こんな世界に初めて来たら走り回りたくもなるよねぇ……」
「……なんか色々とすみません」
……まあ、事前情報が殆ど無ければそんな事も起こり得るよなぁ。やっぱり、管理AIはちゃんとしたチュートリアルとかでゲームシステムの説明をするべきでは? (四回目)
さて、彼等には世話になったし、何かアドバイスでもしておくべきかな。
「えーっと、多分『この世界ではジョブに就かなければレベルがゼロのまま上がらないシステムだ』と説明すれば、その<マスター>達も思い止まってくれると思うのです」
「王都内の冒険者ギルドとかでクエストを受けられると言ったりするのもいいかもね。……モンスターに殺される為にこの世界に来る<マスター>は殆どいないと思うし」
「……俺達の方でも、可能な限り他の<マスター>に今聞いた情報を教えたりするので」
「ありがとうございます。今聞いた情報は見回り担当の騎士達に伝えておきましょう」
そうして、改めて騎士さん達にお礼を言ってから、まず俺達は彼等に教えられた王都内にある冒険者ギルドがある場所へと向かう事にした……どうやら、彼等の話によると冒険者ギルドでは元々初心者冒険者への講習などを行なっており、そこでならより詳しい説明をして貰えるだろうとの事だ。
……さて、マップによると冒険者ギルドはこの大通りを進んだ先にある様だな。
「さて! なんか色々とグダグダだったけど、とりあえずまずは冒険者ギルドに行こうか! なろう系小説では最初に行くのがお約束だし!」
「確か様々なクエストの斡旋を行なっている施設との事でしたね。騎士さん達は何をするのか決まっていないのなら、まずそこで話を聞けばいいのではないかと言っていたのです」
「まずは、どんなジョブがあるかを知らなければジョブに就く事も出来ないしな……ん? おっと」
「ッ! 済まん! 大丈夫か⁉︎」
そうやって駄弁りながら大通りを歩いていると、突然後ろの方から
その人物はフードの所為で顔はよく分からなかったが、どうやらとても焦っている様だった。また左手には第ゼロ形態の<エンブリオ>があったため、俺達と同じ初日ログイン組の<マスター>だと分かった。
「ああ、別に大丈夫ですよ」
「そうか良かった。……じゃあ、俺は急いでいるので失礼する! …… 上から見た光景だと、確かこの先に
そんなよく分からない事を言いながら、フードを被った彼はものすごい勢いで走り去って行った……しかし、着ぐるみ屋?
「そんなに着ぐるみが好きな人だったのかな? ……あんなに焦っていたし」
「まあ、個人の趣味は人それぞれだし、ゲームなんだから変な遊び方をする人もいるだろう」
「うーん……フードでよく分かりませんでしたが、あの人どこかで見た事がある様な……?」
俺達は少しだけ唖然としながら彼が走り去った跡を見つめていた……後、ミュウちゃんは何か気になったのか首を傾げていたが。
……まあ、あんまり気にしてもしょうがないか。
「とりあえず、他人の事よりも今は自分の事だ。俺達もさっさと目的地に行くぞ」
「まあそうだね。あの人みたいに走る必要はないけど急ごうか」
「そうですね。……まあ、再び会う機会でもあれば思い出すでしょう」
そうして、俺達は少しだけ歩く速度を速めながら冒険者ギルドへと向かって行ったのだった。
あとがき・各種設定解説
三兄妹:管理AIはもっと初心者支援増やして、どうぞ
・管理AI『それも含めて君達は“自由”だから。頑張って』
・また、騎士達がした説明は原作で出て来る設定が殆どなので省きました(全部書くと長くなるので)
南門駐屯所の騎士達:奇行が目立つ<マスター>達に大人の対応をしている人格者達
・“まだ”王国には沢山の騎士がいる為、門や街中の警備などはしっかりしている。
・三兄妹のアドバイスで<マスター>の自殺騒動は多少マシにはなった模様。
フードを被って着ぐるみ屋を求めて走り去った謎の男:いったい何ウ・スターリングなんだ……
・尚、フードは初期装備として選べる物の一つ。
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