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FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE × iZotope

2021.06.22


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2021年6月10日より発売開始となったFINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE。
約90曲に及ぶシーン専用設計の楽曲制作工程やサウンドチーム編成、制作環境におけるiZotope製品の活躍を株式会社スクウェア・エニックスの作曲家 鈴木光人氏に伺った。

鈴木光人氏 プロフィール
スクウェア・エニックスの作曲家。『ファイナルファンタジーVII リメイク』、『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』、『メビウス ファイナルファンタジー』、『スクールガールストライカーズ』などを担当。
近年ではゲームのみならず、TVアニメ『スクールガールストライカーズ Animation Channel』の楽曲制作、音楽専門誌での機材レビュー執筆や舞台音楽の制作にも携わっており、多方面で才能を発揮している。


1:制作コンセプトとサウンドチーム編成について

MIスタッフT:
まずFINAL FANTASY Ⅶ REMAKEの楽曲ではゲームのセクションごとに贅沢なほどコンポーザーが分かれています。このサウンドチーム編成はどのように決まっていったのでしょうか。

鈴木:サウンドトラックのボリューム(初回限定盤はCD8枚組)を聞いたらそう思いますよね(笑)。これはCO-DIRECTOR(SCENARIO DESIGN)の鳥山求と弊社ミュージック・スーパーバイザーの河盛慶次が分担を決めていきました。ここまでのセクションは鈴木で、ここまでは誰々というように事前の設計図があり、勿論ケースバイケースでは途中に違う担当が入ったりもします。

T:なるほど。ゲームにおいては同じ曲を”アレンジし直す”場合もあると思うのですが、これほどの楽曲数(オリジナル・サウンドトラック初回限定盤はCD8枚組)になったのはチーム編成時点で何かコンセプトがあったのでしょうか。

鈴木:今までの概念で行けばアレンジし直すと言うか”汎用”という曲があります。しかしFINAL FANTASY Ⅶ REMAKEの特徴だったのがそういう概念がないんですよね。

T:概念がない?

鈴木:最初からそれはなかったようで、全てがシーン専用曲として設計されていました。

T:過去の作品ありきとはいえアレンジも物凄いバリエーションでしたから、基本専用曲というコンセプトだった訳ですね。

鈴木:そうです。やはり土台となるFINAL FANTASY Ⅶというゲームがあって、そこで一つ音楽の世界観が作られています。 曲ありきでアレンジバージョンが増える手法が取れたからこその専用設計だったと思います。同じ原曲を何人かで担当するとそれなりのバージョンができますよね。

T:最初に全部専用曲と言われた時はどのように感じられたんですか。

鈴木:実際現場は(専用曲設計であることを)ほとんどわかってなかったと思います。私は社内ですが、外部の作家さん達は未知の部分も多かったかと思います。やはり社外秘の部分が多い開発なので当時は全貌も見えてなくて、その時点でお話できない事もある中で、蓋を開けて全部を知るのはサントラが出て、手元にサンプルが届いた時だったと思います。

T:河盛さんがその辺りを最初から把握されてコントロールをされていたということですね。

鈴木:そうですね、河盛と鳥山、サウンドディレクターの伊勢誠とで綿密に組み上げられていて、そこからコンポーザーへ発注がきます。河盛の発注が実に面白いと言うか、人をアサインするのがとても上手なんです。本人曰く、なるべくファーストテイクで良い結果が出るようなアサインをしてるとの事ですが本当に素晴らしい。一人一人のコンポーザーのスキルを彼が把握していて、割り振りが的確にできているから円滑に進んだということが非常に大きい要素だと思います。

T:初回限定盤はCD8枚組ですものね。この曲数もオリジナル・サウンドトラックだけで本当はもっとあるんですよね。

鈴木:そうです。最初に出た『FINAL FANTASY VII REMAKE Original Soundtrack』が7枚組(初回限定盤はボーナスディスクを含め8枚組)で、その次は『FINAL FANTASY VII REMAKE Original Soundtrack Plus』(CD4枚組)が出ました。多いですよね。

T:遂に発売開始された”FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE”でも専用曲というのは同じコンセプトなのでしょうか。

鈴木:そういうことになります。ついこの間オリジナル・サウンドトラックをマスタリングしましたが、リストを見た結果ほとんど新規(86曲)になってましたね、よくこの期間で作ったなと感じました(笑)

T:『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE Original Soundtrack』のみで86曲! 曲数のバランスが合いませんね(笑) スケジュールはどのような進行だったのでしょうか。

鈴木:僕が発注をもらったのが去年の夏ぐらいで、年末までかかりきりで作業していました。同時に河盛が連携している外部作家さんがいたので、同時進行で恐ろしい数の曲が河盛に集まっていました。

T:本当に音の屋台骨のようなお仕事を河盛さんがされてるということですね。発注を受ける鈴木さんのサウンドチームにはどのような方がいらっしゃいますか?

鈴木:僕の制作で実際に手を動かす人としては、 河盛から僕のところに来て、同じサウンド部の関戸剛へ発注する形や、歌モノであれば同じくサウンド部の土岐望と一緒に作ったり。基本的にはその三人ぐらいで音楽については完結しています。
外部へ発注するケースではそれぞれの得意ジャンルがあるので、オケ楽曲であればとくさしけんご氏、レコーディングからミックスまで全て完結出来る本澤尚之氏にお願いしています。
私たちがDAWを駆使して作る部分は主にこのメンバーが中心になりますね。


2:リモートワーク下での制作環境について

T:では具体的な制作環境をお伺いさせてください。現在リモートで仕事をされていると伺っていましたが、オフィスとリモートでの制作環境は完全にイコールでしょうか。

鈴木:結果論から言うと完全にイコールになりました。

T:これ実際にイコールにしていくことは中々難しいですよね。

鈴木:当初そう思いましたが、音楽を作る分には本社制作チームが使っている環境をMacごと持って帰るというだけでした。もちろん細々した物もあるわけですが。
元々コロナ禍の前から自宅と会社の環境を同じようにしていて、仕事とは別に家で制作することも多かったのでモニタースピーカーやオーディオインターフェース、DAWも一緒にしていましたから移行はスムーズでした。会社と同じモニター環境でできればと思って、少しずつ揃えていきましたが結果的に2020年3月以降はとても助かりました。


写真:鈴木氏の自宅スタジオにてメインモニターとして活躍するFocal Shapeシリーズ

T:ゲーム音楽制作と聞くと、ハイスペックなWindows PCが鎮座しているイメージが業界としてありますが、ラップトップのみで成り立つものなのでしょうか。

鈴木:チームの編成や考え方次第ではMacやWindows PC 問わず1台でハードディスクに音源さえ入れれば何でも出来ると思います。付加価値として外部音源やアウトボードがありますが、絶対必須となるインターフェースさえ共通にすれば作曲はどこでも出来ます。
それ以前は会社で使っていたMac Proを自宅に持ち帰るのが億劫でしたが、実際に持ち帰ってセットアップしてみると、意外とすんなり馴染んだ経験がありました。全く同じ環境を作ってリモートワークをするメリットは早い段階で感じていましたから、そこからテストを兼ねて徐々に自宅環境を作っていきました。私の場合同時に自宅のハードウェアも合わせてセットアップしたため、結果東新宿の本社より充実した環境になりまして、今非常に仕事がやりやすいです(笑)

T:拝見しましたが往年から最新のシンセサイザーやリズムマシン、エフェクター類までご自宅充実していますね、具体的にDAWやインターフェースなどもお伺いできますか?

鈴木:FINAL FANTASY VII REMAKEからDAWはNuendoを、元々はCubaseを使っています。

T:DAWは皆さん元々Steinbergをお使いなのでしょうか、

鈴木:社内外でSteinbergユーザーが多く、プロジェクトの受け渡しの利便性から自ずとそうなってますが、私の持論としては「DAWは慣れてるもの」が良いです。やはり曲作りの上で手足となる物なので、少しでも手数が少ない方が良いですよね。
要となるモニタースピーカーとオーディオインターフェースは会社環境と同じくFocal Shapeと RME Fireface UCXを使っています。RMEはずっと会社のデフォルトインターフェースになっていて、 ほとんど全員RMEを使っています。

T:なるほど。実際RMEはドライバーの更新も長く10年使えると言われてますし、業務用途では特に頼れますよね。

鈴木:そうですね。部として絶対的な信頼がRMEにはあります。あとは自宅用に導入したTASCAM Model 16というミキサーも最近のお気に入りですね。

写真:TASCAM Model 16

T:次にコントローラー周辺は何をお使いですか?

鈴木:Native InstrumentsのKOMPLETE KONTROLを使ってます。コントローラー自体は社内でバラバラかもしれませんがNative Instrumentsユーザーは非常に多いです。あと廃盤製品ですがSteinbergのCC121もよく使っています。

T:Native Instruments社の音源は皆さん多く使われていますか?

鈴木:そうですね。わりと多くのスタッフがNI社の音源を使っていると思います。まずKONTAKTを立ち上げるというケースが非常に多いです。NIは多くの音源がありますが、汎用的に良く使う物は決まっています。他に飛び道具的に民族楽器の音だったり、守備範囲が広いこともKONTAKTの魅力です。それ以外では昔から出ている FM8やBATTERYが今も好きです。

T:確かにKONTAKTやREAKTORをベースに制作されたプラグインも多いですし、BATTERYやFM8などのプラグインは今でも魅力的ですね。

鈴木:もう一つ音源で『必ずないとダメだな』と感じているのは、 SpectrasonicsのOmnisphereとSTYLUS RMXですね。
中でもSTYLUS RMXは息が長い製品ですが、使い勝手が良くかつ動作が軽いというのが大きくて、DAWのサンプラーよりも優先して使っています。STYLUS RMXじゃないとキマらないシンバルやブレイクビーツなど愛用しています。


Spectrasonics Stylus RMX “Xpanded”

T:以前私もSpectrasonics本社に行きましたが、”10年使える”製品でなければ作らないというコンセプトの会社なので、どの製品も完成度が今なお飛び抜けています。今回FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADEの楽曲制作で活躍したiZotope製品のお話も伺えますか?

鈴木:はい、今回FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADEの楽曲で、多くのコーラスを入れる楽曲がありました。普段本社の東新宿で制作を行う場合は、サウンド部のスタッフに声をかけて、ブースに入ってその場で録音することが可能なんです。ボイスサンプルが欲しい時とか、仮歌とか、「今からどうでしょう?」という感じでお願いしたり、廊下を歩いてるスタッフに声かけたり(笑)
それは非常に緊張感があって面白い作業でしたが、自宅作業環境では難しいためサウンド部全員宛に希望のコーラス内容とフォーマットを書いてメールを投げました。すると「興味あります!」って続々とメールが届き、14,5人くらいのコーラスが集まりました。
その後、実際Nuendoプロジェクトに並べて一つずつ確認していくと、フォーマットは同じでも録音環境(音質)の違いが問題になり、そこでiZotope RX 8が活躍しました。
最初に重要だったのがそれぞれ異なる部屋鳴りを消すDe-Reverbです。その後バックグラウンドなどのノイズ除去にSpectral De-NoiseやDe-Click。中にはパソコンの内蔵マイクでそのままで録音している人もいて妙なハムノイズが乗っているケースにはDe-Humを使ったり。
一個一個の音を聞いて、それぞれ処理をする結果になって、おそらくRX 8がなかったら実現は難しかったと思いますね。

T:ありがとうございます。リモート環境の課題をRX 8が解決したんですね。

鈴木:因みに作業中思ったんですけど、iZotope Dialogue Matchがあったらもっと早かったかもしれません。

T:確かにDialogue MatchはVST対応が待たれますね(現状AudioSuiteのみ対応)。RXのあとにDialogue Matchで背景音や残響、マイクのEQ特性を全部揃えることが出来るので、このようなケースでは役に立つと思います。


iZotope Dialogue Match

鈴木:ですよね、スタジオで録った基準になる音があって、最終的に全部その質感になったらベストなので、VST対応を切望しています。

T:本社に改めて伝えておきます。

鈴木:iZotope製品について他の曲ではVocal Synth 2をほとんどの曲に使っています。ピッチを直す作業はNuendoのピッチ補正機能を使いますが、ハーモニーを書く部分は基本Vocal Synth 2をMIDIでコントロールしています。プラグインと言うより基本的な作曲工程の一つとして入っているイメージで、一個のボーカルラインを録音した後にVocal Synth 2で広げていく流れですね。


iZotope VocalSynth 2

T:ありがとうございます。今回iZotopeからのお願いですが、Vocal Synth 2が使用されているFINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADEの楽曲から日本のiZotopian向けにプリセットデータを提供いただくことは可能でしょうか。

鈴木:了解しました、オーディオデータの方はお渡しできませんが、良い塩梅のプリセットを選んでみますね。

☆本プリセットデータはMusic Production Suite 4を昨年の製品発表時から今年の6月30日までに国内で購入/ご登録いただいた全てのMPS4オーナーにもれなくプレゼントされます。プレゼントには製品付属の国内サポートIDご登録が必要ですのでお忘れなく!


3:クリエイティビティを生み出すワークフロー

T:実際のワークフローをお伺いしたいのですが、まずゲームのための音楽ではなく、鈴木光人さん個人としての楽曲制作工程をお伺いさせてください。

鈴木:そうですね。工程は近いようで、全く違ったりします。ゲームの場合はご承知の通りテーマがあり、土台があり、そこに紐づいた楽曲を作ります。
個人の場合は、ある時は箱庭のように全てをコントロールするよう細かく作り込んでいきます。音楽の展開もエフェクトも、その後のミックスも全て自分だけで完結します。

私の場合は主にエレクトリックな打ち込みが多いですが、反面オーディオ素材だけを組み合わせて作るパターンもあり、前者をMIDIベースとしたら後者はオーディオベースという感じで周期がありますね。
実は普段から録りためているオーディオライブラリがあり、Zoomのハンディレコーダーを普段から持ち歩いています。
フィールドレコーディングした素材、部屋で鳴っている素材、普通に友達が遊びに来てお酒を飲みながら音を出してる状態を録音したり、とにかく録りためたものを組み合わせて一つにしていく手法です。
このパターンは僕の発想を遥かに超えたものが出来上がります。スタート地点がほぼないに等しいから、客観的になりつつ同時に楽しんでいるわけです。

T:普段からオーディオライブラリを作ることがライフワークになっているんですね。

鈴木:そうですね。新しい機材とか、新しいソフトを扱う時はまずレコーダーを回す感じです。
様々なプリセットを触っている瞬間を全部録って記録します。もちろんシンプルに「この人と一緒に音楽を作りたい」という原動力もあるんですけど、スタート地点は先ほどの二つが結構大きいです。

T:なるほど、ではゲーム音楽となった場合のワークフローもお伺いしたいのですが、FINAL FANTASY Ⅶ REMAKEで鈴木さんの楽曲はジャンルの多さなど曲の幅がとても広い印象があります。どこまで具体的な依頼になって鈴木さんのもとへ発注は来るのでしょうか。

鈴木:FINAL FANTASY Ⅶ REMAKEの場合、最初に仕様書を作っている鳥山が非常に音楽も好きな人で、細かく指定がある時もあります。具体的な依頼の場合、またはこんな感じでどうかと相談する場合、或いは直接意見を出し合って決めたりもしますが、8割くらいは依頼の内容そのまま進めているケースが多いです。
最初の方に河盛の件で話した、鈴木にお願いするならこういうジャンルという思考があるからだと思います。手の内をお互いに理解できているので、勿論依頼通りのカードを出す時もあれば、「最近はこっちの方が熱いです」という感じでYouTubeを送り合って相談しながら育てるパターンもありますね。

T:『蜜蜂の館』ではiZotope本社もあるボストンでレコーディングが行われていましたね。その辺りは具体的な指示はあったのでしょうか。

鈴木:そこは面白い部分で、結果論からいくと、世界中のアーティストにアプローチし、最終選考で残った方がたまたまボストン在住だったということなんです。その時点で、ディレクターとはコンセンサスが取れていたので、そこからは自由でした。次はボストンのどこのスタジオで録ろうかっていう話になるんですけど、録るなら先方の環境で録った方がリラックス出来ますし、こちらの誠意を見せるという意味もあり現地のQ ディビジョン・スタジオで収録を行いました。

T:最高のトラックを作るために必然的にそうなったということですね。ここから具体的なゲーム音楽の部分もお伺いしたいのですが、FINAL FANTASY Ⅶ REMAKEの場合、プレイヤーの行動に合わせてインタラクティブかつシームレスに楽曲が切り替わります。この部分は昨年全国の島村楽器店様にて中継で行った『iZotope O3 Day』イベントでも鈴木さんに伺いましたが、プレイヤーに違和感を感じさせない繋がりはどのように演出されているのでしょうか。


画像:2020年11月3日『Ozoneの日』を記念して行われたLiveイベント、鈴木光人氏や小曽根真氏ら総勢7人のゲストが集った。

鈴木:はい、まず楽曲のもつ力をゲームに当て込むことが一番大事なところです。『この曲があのシーンでかかって印象に残っている』と言われるのはとても嬉しいことです。BGMでありながら、BGMと思って作ってない部分も実はあります。最低限としてクオリティの高いものを作るのが僕の使命であり、そこまでいって初めて基準なんですね。カッコ良くてもダサくても世界観に合ったサウンドでないとやはり使えません。
次にそれをどう当てはめて、どう切り替えていこうか、という作りの部分です。これは完全にテンポ管理で、FINAL FANTASY Ⅶ REMAKEで僕が受け持っているセクション(9章)に関していうと、実は全部テンポが一緒なんです。同じテンポに聞こえない部分もあると思いますが実は全部一緒で、(楽曲が)行こうとおもったらどこにでも変化できる作りになっています。ゲームのシステムの中にAbleton Live(セッションView)が動いている感じです。
当然タイムストレッチなどで強制的に合わせることも可能なんですけど、楽曲Aで使っているパーツとBやCで使っている個々のパーツ自体を全部共通テンポにしました。
だからどこからでも戻れて、どこへでもいけます。サンプルは全部生演奏で自分が作った素材ではありますが、組み合わせは自由なんです。

T:裏でAbletonが動いているイメージはわかりやすいですね(笑)

鈴木:テンポ感とピッチはやはり大事ですね。実はFINAL FANTASY Ⅶ REMAKEではテンポ感のみを考えていましたが、FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE INTERGRADEではさらに進化させています。
ライブ会場で生演奏をバックにゲームプレイしている感覚を持ち込もうという話になりまして、何かリアクションしたら次々と曲が変わって行きます。音楽のジャンルもそのセクションはジャズのようなジャンルで、ドラム、ベース、トランペット、ギター、サックスという少ない編成にしています。
キャッチーな曲ではあるんだけど、何かアクションがあったら曲を変えるようなシーン展開がFINAL FANTASY Ⅶ REMAKE INTERGRADEには入っていますので是非遊んでみてください。

T:なるほど、だからこそコンポーザー一人に対してこの章全体を担当、みたいな割り当て方をしないと成り立たないということですね。

鈴木:そうです、だからこそ設計図が河盛の頭の中にあります。最初セクションの尺が時間で指定されますが、30分であればその間出入り自由な複数の楽曲を組み立てて作ろうということからスタートします。
例えばジャズっぽいシーンの場合、リアルタイムに生成してドラムパターンを変えるのはまだ難しい。その場合最初にランダマイズなドラムを録ることができるドラマーのアサインから始まります。作り方も特徴があって、先ほどのサンプルを録りためるように贅沢にスタジオで全部サンプルを作って組み合わせていきました。



エンジニア 新保 正博氏


エンジニア 本澤 尚之氏

T:これは贅沢かつ大変な作業だと思いますが、ゲームコンソールの進化と共に当たり前の制作手法になっていくのでしょうか。

鈴木:時間も手間もかかりますけどね(笑)。似たような作り方は今までもやってきてますが、ちょうど今回はそれが特にハマるジャンルでもあり、ハマるプレイヤーがいたので需要と供給のように環境が整ったからこそできたという側面があります。
もう一つのポイントとしては予備拍の概念です。つねに4拍で動いているんではなくて、切り替えに一拍だけ欲しい時もあります。専用のドラムフィルなどを何個か用意して、タイミングを合わせて1小節後に次の曲みたいな切替を音楽的に今回やっているのが特徴かもしれません。

T:そこは是非このインタビューを読んでいただいた方も注目してプレイしてもらいたいと思います。
このようにゲームに実際に配置される音楽とオリジナル・サウンドトラックは当然別物だと思いますが、具体的な工程の違いを伺えますか?

鈴木:その通り全く違います。一番特徴的なところで言うと、ゲームの中ではモノラル楽曲もあります。まして複数人で一つの作品を作っているので聴かせどころは様々です。音量バランスも違うし、LRの広がりや空間など、ゲームの場合は実装用にEQ含めて全て調整されています。それは効果音とのバランスもありますし、音楽は盛り上げるための要素の一つとして調整を行なっているのが大きいです。逆にサントラは独立して一つの音楽として成り立たせていますから、ミックスもマスタリングも全て別の工程になります。

T:サウンドトラックではマスタリングスタジオ・オレンジの名前もよく登場されていますよね。


マスタリングスタジオ・オレンジ エンジニア 小泉由香氏

鈴木:はい、ほとんどオレンジですね。エンジニアの小泉由香氏にいつもお世話になっています。私は原音忠実な音も好きですが、歪みギリギリで粘る音、または完全に歪んじゃってる音も好きです。小泉さんのマスタリングは立体的な音、、いや、最後にオレンジでモニターしたいという「安心感」と「客観的」な視点が欲しいのかもしれません。FINAL FANTASY Ⅶ REMAKEのサウンドトラックは聴いてて楽しくなる。それが全てじゃないでしょうか。

T:マスタリングを経てどのように調整されているのか、間も無く6月23日発売のFINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADEオリジナル・サウンドトラックの方も楽しみにしています。


4:ユーザーへのメッセージ

T:最後にお伺いしたいのですが、昨今NIとiZotopeの技術提携について期待するところはありますか?

鈴木:これは今年一番大きいニュースですよね。びっくりしました(笑)
Native Instrumentsも、iZotopeも仕事で必ず使うものなので期待している部分もありますが、まず両社の棲み分けが完璧に出来ていることが大きいです。僕の使い方としてはNIで土台となる音楽を作って、調整や補正の部分でiZotopeのRXなどが活躍します。NI側に特に欲しいと思うのはiZotopeのA.I.エンジン。UIやToolなど音楽を作る工程が、自動化は難しいですが手軽になるともっと音楽の敷居は低くなります。コロナ禍でDTMは特に人気がある中そういう進化があるとドンドン面白い作品が出てくると期待しています。

(2021年3月、両社は技術提携を発表)

T:我々もそこは同じ思いで、技術屋資産や融合した製品が形になることを期待しています。先日iZotope VINYLもNKSに対応しましたし、ハードウェア面も両社コントローラーとMTRなので、仰る通りかぶっていませんね。

鈴木:単純に楽しみですね。

T:私も楽しみです。では最後の質問ですが、FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADEの発売を楽しみにしているファンの皆さんへ鈴木さんからメッセージを頂けますでしょうか。

鈴木:FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE INTERGRADEのユフィを主人公とした新規追加エピソードは、アレンジ&新曲共に沢山の社内外スタッフで制作しました。プレイヤーの動きに連動した音楽の数々、そしてキャッチーなメロディなど口ずさみながらプレイして頂けると嬉しいです!

T:ありがとうございます、私も実際にゲームをプレイするのを楽しみにしています!

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インタビューに登場したVocalSynth 2プリセットをはじめ、その他国内限定特典が予定されている”iZotope夏のアップグレード祭”情報はこちら! 2021年6月30日まで!