電子情報工学科 Department of Information and Communication Engineering

計算知能からメディアデザインまで
情報分野で世界をリード

情報通信産業(メディア、インターネット、モバイル、ソーシャル、人工知能など)は、実質GDP成長の約3分の1をけん引する日本最大の産業です。
活躍できるフィールドが幅広く、産業界からの人材ニーズが高いのも特徴です。
電子・情報の世界をデザインし制御する人材をはじめ、知識を統合しアイデアを創る人材、興味や得意分野をとことん伸ばしたいという人材を輩出しています。
情報系でありながら、スマホや電子機器のハードまで学ぶことができるのも学生に人気です。

「情報」を基盤にした広範囲な教育

コースの説明の図
 

「目に見えない電子・情報の世界をデザインし、制御する」「広範な知識を統合し、これまでにないアイデアを創る」「興味ある分野、得意分野をとことん伸ばす」ことを教育の理念に掲げている。

修士課程修了後の進路

約8割を超える学生が修士課程に進学する。約6000人の卒業生が広範な分野で活躍していることもあり、この5年間に限っても200を超える企業や研究機関に学生が就職している。
※グラフは平成27年度の電気系工学専攻・修士課程修了者の進路

修理過程修了後の進路のグラフ

主な就職先:ソニー、日立製作所、富士通、NTTデータ、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、Google、楽天、ヤフー、任天堂、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、産業技術総合研究所ほか

3年生の時間割例「S1S2」
※S1とS2を通しで実施

時間割の図

電子情報工学科のカリキュラムの特色は、情報系ながらもスマートフォンや電子機器のハードについても学べる点。というのも、3年のS1S2までは、電気電子工学科とも共通性の高い基礎科目を履修することができるから。実験や演習を通じてアルゴリズムやプログラミングについても学ぶことができる。

人を知り、コンピュータを考え両者のかけ橋をデザインする

 電子情報工学科では、コンピューティング技術、情報通信技術、メディアコンテンツ技術について、その根幹からソフト/ハード両面で体系的に学ぶことができます。計算知能、コミュニケーション、メディアデザインという分野を内包している研究領域なので、社会や文化に変革をもたらし、新しい時代を切り開いてきた学科ともいえます。
 電気電子工学科とは緊密に連携しており、環境・エネルギー、ナノ物理、電子・光システムなど、幅広い分野の学問を身につけることができます。例えば3年生のS1S2までは、共通性の高い基礎科目を履修します。実験・演習を通じてアルゴリズムやプログラミングを基礎から学びます。その後3年A1A2からは、より専門的な履修プランを「メディア情報・コンテンツ・人間」「コンピュータ・ネットワーク」「システム・エレクトロニクス」から選択します。
 社会と密接な関係のある電子情報工学科の研究や成果は、しばしばメディアなどを通じて取り上げられています。例えば、コンピューター将棋の「激指」やコンピューター麻雀システム「爆打」などは、テレビなどでも紹介されています。
 こうした活躍を下支えしているのは約6000人を誇る卒業生たち。後輩のために幅広く豊富な進路を開拓しているのみならず、一人ひとりが得意分野で重要な役割を果たしているからです。

インクジェット印刷したタッチセンサーや配線パターンを統合したプリンタブル・ロボットの試作に向けた相転移アクチュエーター

ユビキタス社会の実現に向け、
センサーやソフトロボットを開発

コンピューティング、通信、コンテンツの技術をソフトウェアとハードウェアの両面で学ぶ電子情報工学科。川原研究室では、ユビキタス・コンピューティングを研究している。プリンタブル・エレクトロニクス、空気圧を使ったアクチュエーターなどの先端技術を活用し、実際の社会問題解決に貢献する情報システムの実現に注力している。

[川原研究室] 川原圭博准教授

ユビキタス社会の実現に向けたコンピューティングを研究しています。センサー、無線給電、アクチュエーターなどの技術を組み合わせて、社会に役立つシステムを研究開発していきたいと考えています。

http://www.akg.t.u-tokyo.ac.jp/

 スマートフォンなどの携帯情報端末はもとより、家電、自動車などあらゆるものがインターネットにつながり、自分が求める情報が必要なときに必要な場所で受けられるユビキタス社会。現在はIoT(モノのインターネット)社会という言葉が一般化している。
 そんなユビキタス社会の実現に向けて情報通信システム技術を研究しているのが、川原圭博准教授だ。

銀ナノインク使ったプリンタブル・エレクトロニクスで作成した電子回路

インクジェットプリンターで誰でも電子回路がつくれる

 「ユビキタス・コンピューティングを研究しようと思ったのは、大学1年生の1996年のこと。米国のパロアルト研究所の技術主任で、後にユビキタス・コンピューティングの祖といわれたマーク・ワイザー氏が提唱するユビキタス社会の概念に触発され、強く興味を引かれたのがきっかけです」と川原准教授は振り返る。
 ユビキタス社会を実現する上でキーデバイスとなるのが、環境から情報を収集し、ネットワークに送信する様々なセンサーだ。川原准教授が最初に取り組んだのは、センサーの開発研究だった。
 しかし、センサーを様々なものに搭載したとしても、電池が切れて稼働しなくなったのでは使えない。次に川原准教授が取り組んだのは無線給電。これは、無線を使って電気を供給する技術である。
 一方で、センサーを多くのものや場所に設置するには、できる限り安価で簡単につくる必要がある。そこで川原准教授は、銀ナノインクという特殊なインクを使って、電子回路やセンサーをつくるプリンタブル・エレクトロニクスの研究に着手した。
 銀ナノインクは、粒子径が数十ナノメートル(ナノは10億分の1)程度の微細な銀のナノ粒子を有機溶媒に分散させたインクである。このインクを使って、市販のインクジェットプリンターで特殊な紙に回路を印刷すれば、電気を通すことが可能になり、電子回路として使える。
 通常の電子回路は、硬い基板の上にフォトリソグラフィー(パターン露光)など複数の過程を経て形成しているため、複雑で誰でも簡単にはつくれない。それに対して、銀ナノインクを使えば、紙などフレキシブルで柔らかい基板に誰でも簡単かつ安価で電子回路を作成できるのだ。
 「銀ナノインクを使った電子回路の設計データをネットワークを介して送信すれば、誰でもプリンターで簡単にいろいろな電子デバイスがつくれるようになります」と川原准教授。2014年1月には、この研究成果を活用したキットなどを販売するベンチャー企業、AgIC(現エレファンテック)が立ち上がった。


インド農村部で実施した低価格土壌センシングシステムの実証実験
インクジェット印刷したタッチセンサーや配線パターンを統合したプリンタブル・ロボットの試作に向けた相転移アクチュエーター

農業のIoT化をセンサーで支援

 さらに、川原准教授は、研究の応用例として農業への利用を考えた。
 現在、日本では少子高齢化により農業の担い手が減少傾向にある。一方で、農作物の育成、管理は農業従事者の勘と経験に頼っている部分が大きい。それならば、センサーを使って、温度や水、肥料を管理すれば、高齢な農業従事者の負担を減らすことができる。開発したセンサーは安価なので単価の低い農作物であっても採算がとれる。
 現在は農業センサーシステムとして完成させ、2015年1月に設立された新たなベンチャー企業SenSprout(センスプラウト)が研究成果の事業化へ名乗りを上げた。現在、川原准教授は技術アドバイザーとして、IoTを使った農業の支援を行っている。

チョウ型のソフトロボット

万有情報網プロジェクトでソフトロボットを開発研究

 一方、2015年には科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)に採択され、2015年度から川原准教授を研究統括として「ERATO川原万有情報網プロジェクト」が5年半の計画で実施されることとなった。
 ERATO川原万有情報網プロジェクトでは、センサーを使ったシステムのほか、様々なテーマに取り組んでいる。その一つとして、「ソフトロボット」の開発を行っている。
 「プリンタブル・エレクトロニクスでセンサーだけでなくアクチュエーターも作成することができれば、その柔らかさを生かすことで人とぶつかっても傷つけないロボットができると考えました」と川原准教授。
 そこで、研究開発チームが注目したのが、空気圧を使ったアクチュエーターだった。これは空気圧によりアクチュエーターの体積を変えることで、ロボットの動きを制御しようという仕組みだ。
 既存のアクチュエーターは空気圧を変えるのにモーターを使っていた。それに対し、川原准教授らの研究開発チームは、樹脂など軟らかいフィルムの間に低温で沸騰する液体を入れて封止し、それをヒーターで温めて気化させることで体積を制御しようと考えた。ヒーターは、銀ナノインクで描いた配線に電流を流すことで発熱させる仕組みだ。

櫛形送電器と複数の受電器を用いた電界結合型無線給電システム

将来の様々な状況に対応できる力を身につける

 前述した博士課程1年の鳴海紘也さんの蝶の形をしたソフトロボットは、応用例の一つだ。
 「新たなプリント技術やAI(人工知能)を活用すれば、既存の概念にとらわれないロボットを実現できる余地があります。ドローンや車輪付きのロボットでは入っていけない場所、例えば土の中、草むらの中で活躍するようなロボットの実現を考えています」と川原准教授。
 現在はプロジェクトに参加している慶應義塾大学の研究者など研究室内外のメンバーと共同で自由に発想を膨らませている段階だが、5年後、10年後には実現したいと川原准教授は意気込む。
 「私たちの研究グループには、情報、電気、機械など複数の専門家がいます。センサー、無線給電、アクチュエーターなどいろいろな技術を組み合わせて全体最適化を図り、社会に役立つシステムに仕上げていくデザイン力が私たちの強みだと考えています。今後も農業に限らず、様々な社会の課題やニーズに、ユビキタス・コンピューティングで貢献していきたいと思っています」と川原准教授は語る。

鳴海さん写真

現実世界でも
欲しい物をコピー&ペーストしたい

大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 博士課程1年
川原研究室 鳴海紘也さん

文科一類から工学部に進学したのはなぜですか?

大学受験時には将来やりたいことが見つからず、文科一類に所属して漠然と過ごしていました。しかし、学部2年生の時に自分の手でものづくりをしてみたいと思い、文系から理系に転向して工学部電子情報工学科に進学しました。現在は大学院情報理工学系研究科の博士課程に在籍しています。所属する川原研究室を選んだ理由は、従来の研究の常識にとらわれない自由な雰囲気が気に入ったからです。

現在どのような研究をしていますか?

私の研究は、市販のプリンターで導電性インクを印刷し、電気回路やセンサー、アンテナなどを試作する技術を出発点としています。学部4年では、導電性インクで描いた配線を消すペンなどを開発し、川原研の成果活用を推進するベンチャー企業で販売していただきました。その後、もしロボットを動かすアクチュエーターが簡単に印刷できれば、従来の印刷技術と組み合わせて、通信や給電、センシングを行える紙のロボットがつくれると考えました。そこで、後輩の中原健一君や新山龍馬講師と共同で、印刷できる薄く柔軟なモーターを開発しました。プラスチック製の袋に入った液体を、印刷したヒーターで気化させて膨らませる仕組みです。これを銀ナノインク回路と組み合わせると、気温や人間の接触に応じて羽ばたくチョウなどを簡単につくれます。
最近では3Dプリンターを使って食べ物をつくることにも挑戦しています。例えば和菓子業界では木型職人の後継者不足が問題になっていますが、伝統的な形をデジタルデータで保存し、再び印刷することで文化の伝承を支援できる可能性があります。また、情報学の知見を用いれば、過去のデザインから新しいデザインを自動生成することも可能になるでしょう。

将来の夢を聞かせてください。

電子情報工学科でモーターや食べ物をつくるというと、電子や情報はやらないのと不思議に思うかもしれません。もちろんやるのですが、この学科はビット(情報)だけでなくアトム(物質)も対象にしています。私の研究する印刷によるものづくりは、パソコンの中だけではなく現実世界でもコピー&ペーストを実現するという意味で、ビットとアトムの両面に取り組むものです。将来はいつでもどこでも誰でも欲しい物をコピーできる社会になればいいと願っています。

3Dプリンターなどの新技術で従来にはないものの印刷に挑戦
オーストリアの科学芸術祭で薄く柔軟なモーターを用いたパビリオンを展示