機械情報工学科 Department of Mechano-Informatics

情報に形を与え、モノに命を吹き込み、
未来を創出する人を育てる学科

機械情報工学科は、創立以来、様々な産業分野に卒業生を輩出し、日本の産業界の発展を支え続けています。機械情報工学科は、人間と機械と情報を結ぶ理論とシステムを創造可能なグローバルな視点を持ち、かつ、緻密な思考を行える次世代のリーダーや研究者を育成することを目的としています。
そのため、情報学だけではなく、人を知り、デザインし、形あるものを創造する機械工学も学ぶことで、実世界に立脚した確固たる知識と経験を持つ人材を養成しています。

選択できる研究分野

コースの説明の図
 

4年生では上記のいずれかの研究室に配属され、卒業研究に取り組むことで世界をリードする成果を生み出すことを目指す。

修士課程修了後の進路

鉄道、自動車、造船、航空機、重機、電機、鉄鋼、発電プラントから半導体、バイオテクノロジーなどへと時代の要請を受けながら広がっている。企業と大学の長年の相互信頼関係の下、就職の学科推薦制度がある。
※グラフは平成18~27年度の知能機械情報学専攻(情報理工学系研究科)・修士課程修了者の進路

修理過程修了後の進路のグラフ

主な就職先:トヨタ、日産、ホンダ、ソニー、日立、デンソー、ヤフー、NTT、Google、JR東日本、新日鉄、国交省、東京都庁、特許庁ほか

3年生の時間割例「S1S2」
※S1とS2を通しで実施

時間割の図

3年生の夏には、機械工学と情報工学について発展した内容を学びます。演習では課題が与えられるだけでなく、自らが考えて設計した機械を製作することも取り入れられています。機械の基礎・情報の基盤と人間にまつわる知識を集中的に体得します。

人を知りロボットを創るロボットを作り、人間に近づく

 知能、機械、情報といった知識を融合したものが、ロボット分野であり、機械・情報・生体などの分野を幅広く学ぶことが必要です。
 機械情報工学科では、まずカリキュラムの前半に数学、四力学(材料力学・熱力学・流体力学・機械力学)などの基礎科目、機械系・情報系・人間系の専門科目を設け、情報の基盤と機械の基礎を体系的に学びます。
 また、講義だけではなく、実際の設計や製作に必要な知識や経験を習得するために演習も非常に充実しており、3年生では、画像処理、マイコン、シミュレーション、コンピュータグラフィックス、ロボット製作・制御・行動プログラミングなどのスキルを獲得。その集大成として、企画、設計、製作から発表までを学生自身が自主的に行うプロジェクトを実施しています。
 4年生では、次世代の知能ロボット、脳型情報処理、人工知能、バーチャルリアリティ、ヒューマンインタフェース、医療情報処理、マイクロマシンなど多岐にわたる卒業研究に取り組みます。機械情報工学科は、技術・人間・社会の総合的視野に立って、ものを創造し価値を生み出すことを追求することにより、産業システムと社会全体に貢献する人材の育成を目指しています。

新山龍馬講師の代表作であるアスリートロボットは俊敏な運動が可能

生き物の動きを知ることで
今までにないロボットを創造する

ロボット研究には数々のアプローチ方法があるが、機械情報工学科では「人間」「機械」「情報」という3つの視点でロボットづくりを考えている。中でも國吉・新山研究室は「知能」に重きを置き、従来のメカニカルなロボットとは異なるアプローチでロボットを研究。動物のようにしなやかに動き、柔らかなロボットをつくろうとしている。

[知能システム情報学研究室(國吉・新山研究室)] 新山龍馬講師

生き物の知能や運動機能を解明し、ものづくりに発展させる研究を行っています。人間の心やふるまいの発生原理の解明を目指した赤ちゃんロボット、人間や動物の運動スキルを理解し再現する生物規範型ロボットなどを研究、開発しています。

http://www.isi.imi.i.u-tokyo.ac.jp/ja/

金属的な動きではなくしなやかな動きを実現

 人間を含む生き物は、柔らかい臓器や皮膚を持ち、しなやかに動くことができる。対してロボットは、素材も動きも硬くぎこちない。人間のように動くヒューマノイドロボットも多数存在するが、ギアドモーター特有の“ロボット的な動作”から抜け出せていない。
 機械情報工学科の國吉・新山研究室では、知能や身体性という観点からこうした問題に取り組み、今までにないロボットをつくり出そうとしている。「人間を知る」というサイエンティフィックな興味に根ざしていると新山龍馬講師は話す。
 「人間の体の仕組みは未解明な部分も多く、動かしにくいハードウェアなはずなのにロボットより柔軟に動くのはなぜでしょうか。その理由を探り、ロボットという形で動かしてみたいと考えています。研究室では、神経や脳、感覚など生物的要素とロボットやものづくりとを融合させた研究を行っています。哲学などを含む人間科学的な研究領域でもあるといえますが、観察・解析による原理探究を行うだけではなく、ロボットという形でつくり出すという工学的アプローチをとるのが特徴です」

ネコが壁に跳び乗るダイナミックな動きを再現した跳躍ロボット

人間や動物の動きを模した生物規範型ロボットを開発

 新山講師がつくったロボットの代表格としては、壁に跳び乗るネコの動きを模したネコ型ロボット(脚力がつき過ぎて最終的にカエル型になった)、走る人間の脚を再現したアスリートロボットなどがある。生物の動きから学ぶこれらのロボットは、“生物規範型ロボット”と呼ばれる。
 ネコ型ロボットでは、ネコの動画を見て動きを調べたり、獣医学の専門書でネコの解剖学を学んだりすることから始めた。さらに脳神経科学的な動きのコントロール、筋肉の動かし方など、ネコのダイナミックな動きを解析してロボットの動作に生かした。ネコらしい脚力を再現するために、駆動部にはモーターを使わず、空気圧人工筋肉を採用している。
 人間のように走ったりジャンプしたりするヒト型のアスリートロボットも、ネコ型ロボットと同じ空気圧人工筋肉を使っている。従来のヒューマノイドロボットはプロポーションと関節の構成がヒトらしいのが特徴だが、モーターで動くロボット独特のぎこちなさが残る。そこで新山講師は、形態と同時に、その動きのしなやかさを人間に近づけようとしたのだ。しかし、ヒト型でも、人工筋肉ならではの制御の難しさという問題に直面した。新山講師は次のように説明する。
 「従来のロボットは関節の角度や足を置く位置などを、精密に制御しています。最近では、レーザーを使った距離センサーから環境情報などを受け取り、リアルタイムで動きを修正することも可能になりました。それでもロボット特有のぎこちなさは残ります。対して人工筋肉は、そこまで事細かに設定しなくても、走ったり、ジャンプしたりすることができます。人間が走ろうと腿を前に出せば膝下は自然に前に出るのと同じように、ある程度勢いに任せて動ければいいという考え方です。そのほうが省エネルギーで、自然な動きになります。このようにモーターと人工筋肉とではロボット制御に対する考え方が大きく異なるので、今までとは違う制御手法を確立しなければいけないという難しさがあるのです」

人体と同じような関節と人工筋肉からなるアスリートロボット
カブトムシの翅の構造や動きを模した飛行ロボットも研究中

材料も動きも柔らかいソフトロボティクスも

 現在力を入れているもう一つの研究分野がソフトロボティクス。近年世界で研究が進む新しい分野で、文字通り“柔らかいロボット”が研究対象だ。ロボットの材料だけでなく、動きも含め、広い意味で柔らかさを追求する。
 ロボットの材質が柔らかくなれば、接触したときのリスクも軽減する。人間とロボットが共に作業することが増える今後を考えると、より安全なロボットという視点も重要になる。柔らかい材料としては、シリコンゴムや樹脂などを使用する。これらの材料は変形しやすい特性がメリットである一方、力の加わり方によってどう曲がるかの予想が難しい。コントロール、センシング、駆動、どれをとっても、柔らかい材料を使うことで制御の難易度は格段に高くなる。
 ロボットの駆動部には硬いモーターではなく、柔らかい人工筋肉を使う。また、人間の皮膚のように柔らかいフレキシブルセンサーをつくろうとしている。
 「私たちが考えるソフトロボティクスでは、電源や通信配線の問題まで見据えた、実用性の高いセンサーが必要です。理想は、人間の皮膚のように全身を覆うようなセンサーであること。全身のセンシングが可能になれば、わずかな接触力を感知して転倒を防いだり、ロボット自身がどのように動いたかを記録して学習したりすることにも役立てられます」

全身に触覚センサーを実装した等身大ヒューマノイド(國吉教授)

動きの原理が分かればロボット以外への応用も可能

 研究の学術的なゴールの一つは、人間の動きそのものを解明することだ。その成果が必ずしもロボットとして結実するとは限らない。人間が速く走る仕組みが明らかになれば、より効果的なコーチング術として活用したり、そのような理論に基づいたシューズを開発したりするなど、様々な応用が考えられる。また、生き物が歩行する仕組みから、階段や荒地など、どんな環境でも自律的に走行できる生物型ロボットがつくれるかもしれない。
 「生き物の知見は、人工筋肉などのハードウェア技術、溝があったら飛び越えるなどの自律性や賢さ、なつくなどのコミュニケーションといった幅広い領域にまたがります。だからといってネコができることをすべて再現するのは難しいので、まずはジャンプする後ろ脚というように、興味深いところをそれぞれ取り上げて研究しています」
 人間の赤ちゃんからアスリート、動物、昆虫と、幅広い対象からロボットの可能性を探る國吉・新山研究室では、あらゆることが研究対象になる。人間の筋骨格系を模したアスリートロボットでも、走高跳びをさせたり、バレーボールをさせたり、泳がせたり、様々な動きに特化した研究へと発展させることが可能だ。
 「この研究室で取り組む分野は幅広いので、何にでも興味を持てる学生に来てほしい。解明されていない課題を自ら見つけ出し、形あるもの、動くものをつくることの醍醐味を体感してみてください」

森さん写真

従来のロボットにはないような
速くてしなやかな動きを実現したい

大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 修士課程1年
國吉・新山研究室 森 翔太郎さん

進学のきっかけはロボットづくりだったとか?

大学1年の時にRoboTech(ロボテック)というロボコンサークルに入り、ロボットづくりにハマりました。他にもロボットを研究している学科はありますが、機械情報工学科では、特にロボットに注力しています。ここでは機械と情報というメカトロニクスにとって欠かせない2つの要素を学ぶことができるので、将来エンジニアになるときに役立つのではないかと考えました。

研究室選びのポイントは何だったのでしょうか?

この研究室でつくっているロボットが自分の好みに合っていました。中でも新山先生が以前つくられたアスリートロボットは、ゆっくり動く従来のロボットとは違って、素早くしなやかに動くことができます。その他にも柔らかいロボットなど“普通じゃないロボット”をつくってみたいと考えたのです。

現在取り組んでいる研究テーマは何ですか?

バドミントンをするヒューマノイドロボットで、腕の部分の製作に取り組んでいます。バドミントンのシャトルを打つには、スイングの速さやスナップのしなやかさが求められます。しかし、人間の手首の構造は大変複雑なので、まずは人間の構造を簡略化したロボットをつくりました。現在、開発中のバドミントンロボットは、実際に人間と同じようなスイングができるよう“1自由度”の肘と“3自由度”の手首を備えています。この部分の開発だけでもかなりの時間を要しました。先生からの助言や研究室の仲間とも要所要所で議論などをしながら研究のヒントにしています。最大の課題は、従来の制御手法では対応できないこと。バドミントンロボットでは速い動きが可能な空気圧のアクチュエーターを使っていますが、その反面応答が遅く、わずかな角度のズレを修正するのにとても時間がかかります。こうした課題を解決して、いずれは自律的に打ち返して人間相手にラリーができるようなヒューマノイドロボットをつくりたいと考えています。

現時点で将来の進路はどのように描いていますか?

修士課程修了後は就職して、企業のエンジニアとしてロボットづくりを続けたいですね。ロボットをつくったり、触ったりしている時間が好きなので、開発志望です。大学院では自分の好きな研究を進めながら世界の研究の最先端を学んでいます。ここで得られたスキルを将来生かしたいと考えています。

開発中のバドミントンロボットは1自由度の肘と3自由度の手首を備える
駆動部分は素早い動きが可能な空気圧アクチュエーターを採用