美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
「お疲れ様」
今日だけで何度も聞いた言葉を湊に貰いながら、机に倒れ込むように突っ伏した。
「あ~机きもちいい……。ここに住みたい……」
「なに言ってんのよ」
ひんやりした机の冷たさが緊張で火照った頬に心地良い。
朝からずっと喋り続けて緊張の連続だったせいか、ここで結と配信をしたことによって最後の最後に緊張の糸が完全に解れてしまった。気負いせずに安心できる相手とは言ったけども、どうやら気が抜け過ぎてしまったようだ。
もう椅子にもたれる気力すら無いよ……。
「この後はライブでしょ。ほら、リハーサルしなきゃいけないんだから休んでる時間はないわよ」
「うぅ、おぶって……」
わたしたちが今いる場所はラジオ番組とかを撮る座って喋れる収録ブースだ。
ここから立って思い切り歌える歌唱ブースに移動しなきゃいけないんだけど、正直もう立ち上がるのすら億劫だからもうここで歌えば良くないか?
湊は呆れた様子で、
「引き摺っていいなら連れて行くけど?」
「スパルタじゃん」
それってお菓子売り場の前で駄々をこねる子供と同じ扱いでは?
「ところで湊は疲れてないの? わたしより前に来てたんでしょ?」
「まあ、少しは疲れてるけどまだ平気よ。……この後のライブステージで力尽きるかもしれないけどね」
流石は社会人、学生のわたしより体力があるようだ。
「早く行かないとまた遅刻ってイジられるかもよ」
「うっ」
今日だけで二回も遅刻しているんだから、流石に三回目は勘弁してほしい。
朝だってこんな感じにうだうだした結果があの遅刻になったんだから、そろそろ前々の行動を身に付けないと。
わたしは机と同化しそうな身体をやっとの思いで引っ剥がし、立ち上がった。
「っとと」
「ちょっと、大丈夫?」
「あぁ、うん、へーきへーき」
久々に立ち上がったせいで急な立ち眩みに襲われた。思えばこの部屋に入ってからというものの、一度も立ち上がった記憶がない。
心配した湊が肩を貸してくれる。なんだかんだ言いつつ、やっぱりこういうところは優しいなぁ。
「ん、歩ける?」
「へーきだってば。心配性だなぁ」
「そんなの……、心配するに決まってるでしょ」
「あ、うん……」
小突かれるぐらいの反応を期待していたのに、割とガチな反応が返ってきて一瞬言葉に詰まる。
さっきは厳しいことを言ってたけど、ちゃんと心配してくれてるんだ……。
なんか嬉しくなってしまった。
「あのさ、」
「うん」
「腕、借りてもいい? いやほらまた立ち眩み来たら大変だし転んだら歌うどころじゃないから別に無理なら全然いいんだけど」
「いいよ」
気恥ずかしさから色々と言い訳を捲し立ててしまったけども、湊は間髪入れずに頷いてくれた。コイツ優しいか?
お言葉に甘えて、ぎゅっ、と湊の右腕に抱きつく。
到底、筋肉が付いてるとは思えないくらい細くて柔らかい腕だった。……どこにあの無尽蔵の体力が隠されているんだろう。
「ちょっと、歩きづらいんだけど」
「イヤ?」
下から見上げるように、湊の顔を覗き込む。
「……別に、そうは言ってない」
何でも無いように、ぷいっ、と顔を逸らされた。つれないなぁ。
でも、抱きついてるから分かる。腕を通して湊がドキドキしているのが伝わってくる。
わたしのドキドキも伝わってるのかな。
──この火照りは心地良い。
◆
「黒猫さんと夏波さんがイチャイチャしてる……!?」
「し、してないし!」
「………」
歌唱ブースの控室に行くと十六夜桜花がいた。
彼女は腕を組んでいるわたしたちを目ざとくも見つけると、驚きの声をあげる。
おい、湊は顔を赤らめて黙るな。なんか変な空気になるだろ!
慌てて離れると湊が少し物悲しそうな表情をしていた。やめてくれ、それはわたしに効く。
「僕がリハーサルしてる間に黒猫さんと夏波さんが甘酸っぱい青春してるなんて」
「甘酸っぱくないし! 青春でもないから!」
なんで最初に出くわすのがコイツなんだ……!
もっと、他の人なら話がややこしくならなかったのに……!
「………」
何人か適当にあるてまの人を思い浮かべた。
シャネルカ・ラビリット、神夜姫咲夜、終理永歌、神々廻ベアトリクス……ダメだ、ややこしい奴しかいない……ッ!!!
わたしはそそくさと十六夜から逃げるように隅っこの方へ寄った。奴も流石に追っては来ないようだ。
しばらくすると続々と他の人達も集まってきた。数人が入っても大丈夫な広めのブースの、更に広めの控室だから窮屈は感じない。
でも、所属ライバーが殆ど全員集まるのはなかなか無いことだからちょっとしたお祭り騒ぎだ。特にシャネルカさんがうるさい。
「なのです!」
リハーサルは一人ずつ行うから今は順番待ちだ。
流石にフルで歌い切るには時間が足りないので発声とサビの確認だけして、後は日本人お得意の譲り合い精神で効率良くいく感じだ。まあ、日本人じゃない人いるけど。
でもさ、順番待ちの間って暇だよなぁ。
今の間にエゴサでもするか……。
えーっとなになに、『黒猫さんの炎上講座をイベントでやるとかこれが真の炎上では?』『鯵の炙り焼き』『黒猫さん可愛かった』『ゆいくろはガチなのか……?』『ゆいくろよりまつねこを推せ』『黒猫さんも成長したな。今年から見始めたけど』
鯵は塩焼きだろ。
それから適当にTwitterでめっちゃ疲れてるとかウサギがウルサイとか呟いていると、スタッフさんが呼んできた。どうやら順番が来たようだ。
マイクの前に立って、喉をんんっとチューニングする。一日中喋り続けた後に歌を歌うとか、絶対に終わったら喉がガラガラになりそうだ。
ボイトレの先生に教えてもらった発声をしてから、自分が歌う曲を掛けてもらう。
ここ一ヶ月で何度も歌ってきた曲だから、既に歌詞は完璧に覚えている。レッスンの成果もあってか、サビの部分はもちろん、苦手だった箇所も難なく歌うことが出来た。
「ふぅ……」
軽く吹き出た汗をハンカチで拭いながらブースを出る。
みんなの視線が一瞬集中して、ウッとなりながらまた隅っこの方へ逃げた。
そういえば殆どのメンバーが揃っているけど、この場に祭さんときりんさんはいない。
二人はライブステージのトリとして、3Dお披露目と共にダンスをしながらライブをすることになっている。
だからこことはまた違う、3Dモーションキャプチャが出来る別室でリハーサルを行っている。
あっちは最後だから時間が余っているし、初の3Dお披露目ということで入念なリハーサルが行われいることだろう。
あるてまに所属している特権として、他の人より先にまつきりの3Dを何回か見させてもらってライブの見学もしたけど、うん、やっぱりまつきりはいいぞ。
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