新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)発生を防ぐため、国が高齢者施設の職員らに求めている感染確認検査(PCR検査など)が、兵庫県内では大幅に遅れている。兵庫県は5月下旬、新型コロナ対策の特別措置法に基づく協力要請を対象施設に初めて出したが、申請したのは2割以下。専門家は「変異株によってはワクチン効果をすり抜ける可能性がある。第4波の悲劇を繰り返さないためにも、職員のPCR検査を徹底すべき」と指摘する。(高田康夫)
高齢者施設で感染が広がると、利用者は重症化しやすく死亡に至るケースも多い。県のまとめ(5月24日時点)では、3月以降に64件の福祉施設でクラスターが発生し、1249人の感染が判明。神戸市長田区の介護施設では4~5月、140人が感染し、31人が死亡した。
政府は今年2月、2回目の緊急事態宣言が発令されていた兵庫県など10都府県に、高齢者施設や障害者施設の職員を対象に集中的に検査するよう求めた。
■費用は公費で
兵庫県は、協力の意思表示をした施設に人数分の検査キットを送り、検査業者が回収する方式を導入。費用は公費で賄われる。ところが、厚生労働省が4月末にまとめた2~3月の実施状況は、兵庫県内で対象になった1787施設中、検査したのは410施設(23%)。他の9都府県(48~77%)に比べ半分以下だった。
政府は4~6月も集中的検査を要請。兵庫県所管分(神戸、尼崎、西宮、明石、姫路市を除く)は1159施設が対象になったが、検査は感染状況によって地域で優先順位を付けて1施設当たり1回としたため、5月19日時点で263施設の9269人への検査にとどまる。一方、1450施設を対象に2週間ごとに検査をする大阪府は、延べ1846施設の7万1019人に検査を実施している。
検査数は県所管以外でも低調で、神戸市で529施設の1万4532人、明石市で19施設の978人、西宮市で33施設の435人。尼崎市は感染拡大で手が回らずに6月からの実施となり、姫路市は新規職員や新規入所者を対象にした検査しかしていない。検査によって、大阪府内では計153人の無症状職員の陽性が明らかになった一方、兵庫県内では計7人にとどまっている。
■1~2週間に1度
政府は1~2週間に1度程度の定期的な検査を求めているが、兵庫県高齢政策課は「1日に検査できる量が限られており、感染拡大地域の状況をより早く把握するために優先順位を付けた」と説明するが、厚労省の担当者は「定期的な検査をせずに感染拡大を防止できるのか」と疑問を投げかける。
ただ、国からの要請に応じて、兵庫県は6月中に実施する検査で初めて全施設を対象にし、5月下旬、新型コロナ対策の特措法に基づいて各施設に協力を要請。緊急事態宣言下で百貨店に求めている土日休業などと同様の要請で、罰則はないが、埼玉、千葉、岐阜、石川、広島県も同様の要請をしたという。
検査を申し込んだのは対象の5分の1以下の約200施設にとどまったが、同課は「ワクチン接種が進む中で、一定の協力が得られた。任意の検査だとしても、積極的に利用してもらいたい」としている。
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■施設職員への検査不十分
【国立遺伝学研究所・川上浩一教授の話】神戸市の死亡者の多さに驚いた。人口比で見ると、全国平均の約3倍にもなる。高齢・福祉施設でクラスターが数多く発生しており、職員らへのPCR検査が十分ではない。ワクチン接種が始まり、もちろん期待しているが、三つの懸念がある。(1)持病などで体質的にワクチンが打てない人がいる(2)重症化は抑えられるが、接種しても感染する人はいる(3)変異株によっては、ワクチン効果をすり抜ける可能性もある。感染防止のためパンデミックが収まるまではPCR検査が必要だ。今後、感染第5波がくる。第4波の悲劇を繰り返してはいけない。
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