やっぱ嫌い。
両親のせいでウマ娘が嫌いになったトレーナーとそのトレーナーを好きになったキタサンブラックのお話。
これをシリーズ物にしても良かったけど今書いてるやつを完結させないとゴチャゴチャになりそうなのでやめました。
もし、要望があったのなら続編を書くかも……しれない?
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俺はトレセン学院で働いてるトレーナーだ。
と言ったが実の所俺はウマ娘の事が嫌いなのだ。
理由は簡単な話、俺の夢を壊したから。
まぁこれは当てつけになるから正確には夢を壊した関係者になるからかな。
ならば何故働いてるのか?
俺だって働きたくないしウマ娘なんて見たくもない。
だが、俺の家はトレーナー業界で言う名家らしく両親の圧もあり、取りたくもない資格を取り受かって欲しくなかった中央に受かってしまった。
小さい頃から良く『お前も一流のトレーナーになるんだぞ』と父親に言われ続けていた。
その時の俺は特に夢もなかったし、ならばトレーナーになろうと思っていた。だが、ある日両親に連れて行ってもらったレストランの料理の味に感動し、その時に料理人になろうと誓った。だって、料理で人を感動させられるんだぜ?夢しかねぇじゃん!
俺は毎日の様に母の料理を手伝い、お小遣いを貰えば料理の本を買いに行っては1人で練習した。
半年ぐらい経ったぐらいには母も父も美味しいと言ってくれた。俺にはそれが堪らなく嬉しかった。これからも料理を極めて絶対に料理人になってやる!と思っていたが現実は余りにも非常だった。
『料理も出来るトレーナーなんて珍しいぞ?これならウマ娘とも良好な関係が築きやすいな!』
腸が煮え返る思いだった。俺はそのために料理をしたかったんじゃない……俺は料理人になりたかっただけなのに……。
その時の俺は曖昧な返事しかしなかったと思う。
中学に上がると両親は熱心にウマ娘のことやトレーナーになるための知識を俺に叩き込んできた。
残念なことに勉学が得意な方だった俺は覚えたくもない事がすんなり頭に入ってしまった。
だが、俺も料理人への夢は諦めてなかった。勉学を終えるとすぐさま料理の勉強をしつつ料理を作った。
ビタミンや身体のエネルギーになりやすい具材、時にはデザート作りにも精を出した。
高校は料理の専門学校に行こうと思っていたから、その事を中学3年に上がる前に両親に伝えた。
両親は優しく、特にこれと言った制限とかを強いてたわけではなかったため許してくれるだろうと思っていた。そうこの時までは……
『何言ってるんだ?お前はトレーナーになるんだぞ?料理人なんかなれるわけないだろ?』
『俺にだって自分の夢があるんだ!!トレーナーにはならない!』
『甘えたこと言うな。お前だって我が家がトレーナー業界の名家であることを知ってるだろ?今更その名に泥を塗るわけにはいかん』
『そんなの俺には関係ないだろ!?』
『……諦めてくれ。名家までなると周りの目もある。』
『だけど…!!』
『○○!!!』
自分の名を大声で呼ばれ情けないことに萎縮してしまった。
男のくせにダサくも涙を流して自分の部屋に走って戻った。
次の日から料理はしなくなった。
☆
ここはトレセン学院。色んな地方からウマ娘と呼ばれる者たちが高みを目指して教育を受ける場。
今日も会いたくもないウマ娘へのトレーニングをする。
「トレーナーさん!次は何をしますか?」
「ああ、次は……」
こいつの名はキタサンブラック。俺がトレーナーになった時に初めから担当しているウマ娘だ。
トレーナーになったからには、ウマ娘を担当しなければならないため、選抜レースが行われた時に2位だったこいつを選んだ。確かその時の1位はサトノダイヤモンド?とかいうウマ娘だったかな。
確かキタサンを担当するために露骨に嫌な顔してもあっちに嫌がられるだろうと思って笑顔を作って話しかけたはずだ。多分。
『初めまして。良ければ君を担当したいんだが、いいかな?』
その時のこいつは、2位の自分でもいいんですか?と聞いてきたな。担当出来れば誰でもよかった。なんて事は言えるはずもなく
『君の走りを見ていて君はもっと速くなれると思ってね。どうだろう……もっと上に…さっきの子に勝ちたくはないか?』
その言葉にキタサンは泣いてあの子に勝ちたいと言っていた。
内心どうでもいいと思ったが仕事として割り切った対応をその後もした。
かれこれこいつを担当して5ヶ月になる。
ウマ娘の事が嫌いだから適当にトレーニングを教えていた。訳でもないが、まぁ伸びなかったら伸びなかったで俺には関係ないかと思っていたのだが……中々にどうして、キタサンはデビュー戦からのこの5ヶ月の間のレース全てを1位で勝ち抜いた。
『トレーナーさん!もっと私を強くしてください!』
『……ああ』
その時の俺はもしかして逸材を選んだのか?と困惑した。
だって全てのレース勝っちゃうし何なら選抜の時に1位だった子にも勝ってるし……はぁ。まぁ、いいや
「次は筋力トレーニングだ」
「はい!」
その日は筋力トレーニングの後に中距離を5本走らせてトレーニングを終えた。
なんか毎回タイム伸びてね?
「お疲れ様でしたトレーナーさん!」
「お疲れ。器具は俺が片しとくから帰っていいよ」
「いや、私が使ったんだから私も片付けます!」
「疲れてるだろ?寮に戻って休め」
「嫌です!」
めんどくせぇ奴だな。と思ったが邪険にも出来る訳もなく簡単なものを片付けさせて寮に戻らせた。俺もさっさも片付けてトレーナー専用の寮ではなく、トレセン学院から少し離れたアパートに戻った。
だが、俺はこの時ミスをしてしまった。
☆
自宅に帰ってきた俺はトレーナーになるまでやらなかった料理をまたし始めた。理由は料理してないとストレスが溜まるから。
料理し直し始めた時は少し失敗もしたが2〜3回目ぐらいには中学の時の腕に戻っていた。何なら今の方が美味しく出来るんじゃねぇか?と思う。
今日は何を作ろうか、オムライス?いや、カレー?あ、今無性に肉じゃがが食べたくなったから肉じゃがにしよう。
そして俺は夕飯でも食べながら明日のトレーニングでも考えるか。
仕事は一応しといた方がいいからな。
そう思いテーブルに置いた作った肉じゃがと白飯を食べる前に鞄からバインダーを取り出そうとした。
が、そのバインダーがない。
え?忘れた?嘘だろ……
あれがないと今日のトレーニングしたことを考慮して次のメニューを考えられねーじゃん……今から戻っても門は閉まってるし、どうしよと考えていた時にインターホンがなる。
「ちっ。こんな時に誰だよ」
小さく舌打ちをしつつはーいと言ってドアを開けると
「こ、こんばんは。トレーナーさんの忘れ物……ですよね?」
「え?あ、そうだけど……キタサン、なんで俺の家に?てか、何故俺の家知ってるんだ?」
俺は突如来た人物に驚きを隠せず早口になってしまった。
なんせ、俺の嫌いなウマ娘が俺の今住んでるアパートに訪れてきたから。
「えっと、トレーナーさんの住所はたづさんが教えてくれて……それと、私もトレーニング場に忘れ物してたから取りに戻ったらこれがあったので……」
「あ、ああ…そういう事か。すまないありがとう。」
あの緑の女め……だが、背に腹はかえられない。どうせもう訪れることはねぇだろからな
「い、いえ!………ん?スンスン……いい匂い。もしかしてご飯の途中でしたか?」
「まぁな」
「これって……お肉の匂い?いや、鍋?」
なんだよ。なんでそんな探るんだよ。
その時何故かバカ正直に俺は答えてしまった。
「いや、肉じゃがだよ」
「え!?トレーナーさんが作ったんですか!?」
「……まぁ自炊しないと生きていけないからな」
そこは誤魔化した。なんせ料理するのが好きなんて言いたくないし。
「美味しそうな匂い……」
おい、なんでそんな物欲しそうな目で見てくるんだ?
もしかして食いたいのか?いや、だが……うーん。。。。仕方ない。
「……何も食ってないなら食べてくか?」
「え!?いいんですか!!?」
「バインダー持ってきてくれたしな。」
嫌いとは言え、このままはい、さようならと言えるほど愚かではない。
「だが、食ったら早く帰れよ」
「はい!ありがとうございます!では、お邪魔します/////」
「おう。」
明日の弁当のために少し多めに作ってたから量は大丈夫なはず。
てか、なんかキタサン顔赤くね?気のせいか。
「わぁ!美味しそうな肉じゃが!」
「ご飯は大盛りか?」
「えっと……はい/////」
「ん。了解」
俺はご飯を大盛りにしてキタサンの前に持っていく。
「いただきます!あーん…あむ…ゴクっ。おいしぃ!!」
こいつ一々テンション高ぇな。
「トレーナーさん!とても美味しいですこの肉じゃが!」
「そりゃよかったよ」
「トレーナーさん料理するの上手なんですね!」
「……まぁ少しだけな」
この時、そうでもねぇよ。とは言いたくなかった。それを言ってしまうと料理人を目指していた中学時代の俺を否定する気がしたから。少なからず自分の料理は美味しいと思っていたかった。
そして、こいつは常に美味しそうな顔でご飯を食べ続けた。俺も一緒に食べた。うん、ちゃんと美味しい。
てか、こいつと一緒に飯食うの初めてだな。遠距離のレースの会場とか行っても同じレースに出る友達のウマ娘と飯食ってたりしたからなキタサンは
「ご馳走様でした!はふぅ……美味しかったぁ」
「お粗末さん。」
よし、食い終わったなら早く帰らせようとした時キタサンが質問をしてくる。
「トレーナーさん1つ聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「ん?」
「お昼のお弁当も自分で…?」
なんで知ってんだよ。トレーナーの職員室で食ってんだぞ?昼に俺のとこ来たことねぇだろお前。
「なぜ?」
「前にダイヤちゃんがお昼にトレーナーの職員室に行ったらトレーナーさんがお手製の弁当を持ってきてたとこを見たって……ダイヤちゃんの見間違いだろうと思って気にしてなかったけど……」
そういえば、来てたなサトノダイヤモンド。
俺の方チラチラ見てた気がしたが気のせいじゃなかったのか。
「………まぁ俺が作ってるけど」
一応トレーナーたちも食堂を使えるが、俺は絶対行かない。なんせウマ娘がたくさん集まるところに自ら突っ込むなんてアホだろ。
「やっぱり。それでですね……お願いが………あるんです………けど…」
嫌な予感がする。
「……なんだ?」
「次のレース1位でゴールしたら私にもお弁当作ってくれませんか!?/////」
図々しい奴だな。
だが、他のトレーナーは1位になった時に担当しているウマ娘にご褒美をあげてると聞いたな。ならば俺もあげた方がいいのか?だが、何故嫌いなウマ娘にそこまでしてやらにゃならんのだ。
ああ……だけど……
「……1着だったらな」
「ホントですか!?やったぁ!」
歳相応な顔で喜ぶウマ娘のキタサンブラック。
「でですね!お弁当の中身は唐揚げと卵焼きとあと……」
「その時の献立は俺が考える」
「えぇ〜そんなぁ!」
「だいたい1着取れたらの話だぞ」
「それなら大丈夫ですよ?」
キタサンは微笑んで俺の顔を見る。
「だってトレーナーさんがついてるんですもん」
「……そうかい」
「それに、トレーナーさんの肉じゃがとっーても美味しかったんですもの!また食べたくなる味でした!」
「……そう。」
必ず1位を取るという確固たる自信。それに俺を信じて疑わない目。
こいつの目はデビュー戦の時から変わらないな。1度決意したらやり遂げると告げている目。
唯一俺がキタサンに対して印象強かったとこだろう。
それに数年ぶりに聞いたな…俺の料理を美味しいと言ってくれたやつ。
まぁ両親にしか食わしたことないからあれだけど……やっぱ美味しいと言われたら嬉しいものだ。
ウマ娘だから嫌いと一括りにするのはやめたほうがいいかもな……俺も意地になっていた部分があるし。
「あ……もうこんな時間……」
「ああ。そうだな、気をつけて帰れよ」
「うぅ……わかりましたぁ。」
ふぅ……やっと帰ってくれる。この後お前のためにメニュー考えなきゃならんしな。というか俺も単純だな……たかだか肉じゃがを美味しいと言われた程度で気持ちを変えるのなんて。
まぁその事について悪い気はしないけど
「あ!トレーナーさん明日も来ていいですか!?」
「それはダメだ。」
前言撤回。やっぱ嫌いだウマ娘なんて