政府はその間、沈黙を守り通してきました。第一波の後、専門家は「前のめり」であった自身らの流行対策との関わり方を省みることになり、専門家会議は解散となりました。厚生労働省の会議がアドバイザリーボードに置き換わってからは、同組織の専門家はリスク評価に徹することとなりました。
流行当初のような関係性は次第に改善していったものの、「リスク評価」と「リスク管理」の分離は大変難しいもので有り続けました。リスク管理者として決断を躊躇する政府では、何かと言えば「専門家のご意見を基に判断した」と述べて、専門家に責任を擦り付けつつアナウンスする、卑怯ともいえる言い回しが乱発しました。
リスク管理を司る判断を行うのが、国民から選挙で選ばれた政府の政治家であり、緊急事態宣言の責任は政治家にあります。しかし、「専門家が強い意見を述べた結果としての緊急事態宣言の延長」のように、社会的責任を負う内容については専門家に責任を擦り付けるような政権の態度が見られてきたのです。
だからと言って専門家が無責任で良いとは考えていないことも申し添えておきます。私も、周りの皆さんも、生命やキャリアを危険に晒してでも、少しでもものごとが好転する道を必死に考えて、微力ながら、この原稿のように重要事項を伝達することを試みてきました。
直近、“胃がえぐれそう”な事例が5月14日にありました。
この日、緊急事態宣言の対象に北海道と他2県を加える決断が基本的対処方針分科会で決定されました。当初の諮問案ではそれら道県は宣言の対象に入っていませんでしたが、リスク評価では3道県の流行状況が大変悪い状態にありました。3道県を含まないという政府の諮問内容について専門家が懸念を示し、それに対して西村担当大臣が諮問案の修正を行った上で了承される、ということが起こりました。
しかし、それは決して“健康的”な過程での諮問案の修正ではなかったと聞いています。専門家はあくまで科学的な「評価」を行い、判断の責任は「リスク管理者」である政府にあるにも関わらず、会議後、メディアでは専門家の強い意向で諮問案が修正となったと報道され、一部の記事には西村担当大臣の下で働く内閣官房の匿名の者が「専門家のクーデターだ」とコメントを寄せました。
上記にも述べましたように、お決まりのように菅総理は「専門家の意見も尊重し判断を行った」とコメントしました。
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