その結果、代わりに『振り返れば~』から、司馬の恩師・中川淳一を演じた鹿賀丈史が登場。第8話の『殺人特急』で自分の浮気を調べていた興信所の所長を毒殺するも、たまたま同じ特急に乗り合わせた古畑によって、その犯行が看破される話だった。
なお、前述した織田のツアーには、ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系)のプロデューサー・亀山千広と、『古畑任三郎』を企画した石原隆も同行していた。しかも、フェアウェルパーティーにおいて古畑が『踊る~』に出演する企画が立ち上がったものの、折しも田村のスケジュールが舞台と重なっており、仕事を同時に2本取らない主義だったため、惜しくも実現には至らなかったという。
犯人役のゲストで出演してはいるが、当初の設定とは異なる役となったのが、第2シーズン初回の『しゃべりすぎた男』での明石家さんまである。この回でさんまが演じたのは敏腕弁護士役だったが、これはさんま自身の「古畑とのセリフ対決にしたい」という要望で、法廷闘争ものへと変更されたのだ。当初は、マネージャーを殺すロックシンガー役が予定されていたという。これは、かつて桑田佳祐が「さんまの声はロック歌手向き」と褒めたことがあったためだ。
この回はファンの間でも“屈指の神回”との誉れ高く、役柄の変更はナイスな判断といえるのだが、当のさんまはセリフを完璧に覚えて芝居をするのではなく、むしろまったく覚えてこずに即興で演技をするタイプ。ただでさえ長ゼリフで有名な三谷脚本なのに、もっとセリフが膨大な量になってしまい、自分で自分の首を絞める結果となってしまったという。
第3シーズン『その男、多忙につき』で犯人役を演じた真田広之も同様に役柄変更が奏功したパターンだ。出演が決定したときは“寡黙な茶道家”役が候補に挙がっていたが、古畑が犯人を追いかけ回して捜査を進めるという回をつくるために、“一度に何件もの仕事を抱える超多忙な売れっ子メディアプランナー”の設定になったという。
最後は一番の変わり種である。なんと古畑の部下の今泉慎太郎役で出演していた西村まさ彦も、犯人の候補に挙がっていたというのだ。第3シーズンが始まる直前の話だが、今泉役ではなく、当初はクールな犯人役での出演が検討されていたという。
脚本担当の三谷幸喜は、当時のことを雑誌のインタビューでこう語っている。結局、第3シーズンでは今泉役での出演となったが、出番が減少したため、西村は三谷に抗議した。だがこれは三谷が、西村本人に「今泉と犯人役のどちらをやりたい?」と聞いたところ、「どっちもやりたい(笑)」という曖昧な回答が返ってきたために、結果として今泉の出番を減らすことにしたというのだ。
このほか、女性鑑識官役で宮本信子が、天才少女役で安達祐実の出演が検討されたという。また、個性派俳優として抜群の演技力を誇る小林薫や中井貴一も犯人役候補になっていたといわれている。
『古畑任三郎』は、絶妙なキャスティングとその役柄が大きな見どころのひとつとなっているだけに、実現化しなかったエピソードはどれも気になるものばかり。もし、制作されていたらどんなストーリーになっていたのか、想像してみるのもまた一興だろう。
(文=上杉純也/フリーライター)














