未撮影エピソード

毎回、犯人役に多彩なゲストを迎える『古畑任三郎』。当然、そこには諸般の事情により、予定していたゲストが出演できなくなることもある。役者と設定が密接に結びついた「当て書き」による三谷の作劇法では、その役者用の設定を代役でというわけにいかないこともままあり、惜しくも撮影にまで至らなかったエピソードも存在する。

ここでは、そうした「未撮影エピソード」について、プレス発表や制作者の公式発言など裏付の取れているものに絞って、ゲストスターを中心に、簡単ではあるが紹介してみたい。

一番有名なのは、三上博史であろう。本エピソードは、三上博史が文楽の人形使いに扮して犯罪を行うというもので、第3シーズンの出演予定者としてプレス発表までされたものである。しかし、他のドラマ出演の関係で三上が降板したため、未撮影エピソードとなってしまった。

具体的に交渉にまで入っていたのは勝新太郎で、本エピソードは勝新太郎がウェスタン歌手を演じるプロットまで出来ていたのだが、スケジュール等の調整がつかなかった。その後、1997年に勝が死去してしまったため、残念ながら本作は永久に撮影されることのないエピソードとなった。

逆に映像化されたものもある。Episode27『黒岩博士の恐怖』の「殺した人間の肛門におみくじを隠すという、とんでもなく馬鹿馬鹿しい犯罪」(三谷談)は、初稿では志村けんに当てて書かれたものであるが、スケジュールの都合で実現せず、緒形拳で映像化された(もちろん、そこまでにはかなりの改稿が施されたであろう)。

他にも、渥美清、伊丹十三、島田正吾、小林薫、宮本信子、安達祐実などの名前が候補に上がっていたという。いずれも名前を聞いただけでわくわくしてしまう名優揃いである。

これらのエピソードが実際に撮影されなかったのは非常に残念ではあるが、ファンとしては、もし撮影されていたらこの名優達が古畑とどのような対決を繰り広げてくれただろうと、無限に想像の翼を広げる楽しみを残してくれたと考える他はないだろう。