オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第30話

 昼過ぎ。

 カルネ村から少し離れた街道で、二人の男女が対峙していた。

 男の方は、ブレイン・アングラウス。王国戦士長に惜敗した天才剣士として有名であり、現在ではナザリック地下大墳墓において武技教官として雇われている。

 対する女性側は、クレマンティーヌ。元スレイン法国特殊部隊、漆黒聖典で第九席次を務めていた戦士だ。その武力は人間種としては、ほぼ最強に位置する。

 ロンデスと共にナザリックへ向かう途中だった彼女らを、近くで試し斬りという名のモンスター狩りをしていたブレインが発見し、手合わせを申し込むべく合流したのだ。

 もっとも、ブレインの要望を察したクレマンティーヌが、先に手合わせを申し出たのであるが……。

 

「これぐらい離れてた方がいいかな?」

 

 ブレインがサクサクと丈の低い草を踏みしめ、クレマンティーヌから距離を取っていく。そして五メートルほども距離を取ったところで、クルリと振り返った。

 

「姐さんは、取っかかりは離れてた方がやりやすいだろ?」

 

 この問いかけに、クレマンティーヌの笑み……その口端が耳近くまで広がる。

 まるで口が裂けたかのようだ。

 

「さっすが噂のブレイン・アングラウス。私の戦い方とか解っちゃうんだぁ~?」

 

 マントの留め具を外したクレマンティーヌが、ずいっと前に出る。マントが自重と風によって後方下へずり落ちると、胸と腰を覆う軽鎧、さらには手甲足甲が姿を現した。

 腰にはモーニングスターと四本の刺突短剣(スティレット)を下げている。しかし、そう言った武装確認後、ブレインの目にとまったのは……鎧の装甲部に貼り付けられた物体だった。

 

「鱗鎧? いや、冒険者プレートか……。……物騒な趣味だな」

 

 僅かに眼を細めたブレインが言うと、クレマンティーヌはケラケラ笑いながら戯けて見せる。

 

「いんやぁ~、いい表現いただいちゃった! まさしく趣味~。な~に? 私に説教とかしちゃう? 殺しを楽しむな~……とか?」

 

 クレマンティーヌは戦った相手が冒険者だった場合は、殺害した後に冒険者プレートを奪うことにしていた。それは、己の腕一本、武力を頼みに危険な稼業を営む冒険者……それらを狩った証であり、一種のトロフィーであった。

 とはいえ強者ばかりを選んで殺しているわけではなく、中には銅級のプレートもある。命乞いの仕方や死に際が見苦しくて、『狩り』をするたびにゾクゾクするのだ。

 このような話を聞かせると、筋の良い……あるいは正道の騎士(クレマンティーヌからすれば失笑ものの存在)であるなら、顔を真っ赤にして激昂する。では、ブレイン・アングラウスはどうだろうか。

 彼は……。

 

「いや? 俺は、あんたの親でも彼氏でもないからな」

 

 苦笑しつつ肩をすくめたのみだ。

 

「俺もそれなりに、真っ当じゃないことをしてきたから。説教なんてする気、ねーよ。てゆうか、俺のこと揺さぶってるつもりなら時間の無駄だが?」

 

 言い終えるなりブレインが斜に構え、腰を落とす。左手は腰の鞘を掴み、右手は刀の柄にかけられていた。そして放たれる、刃のような剣気。

 

「へぇ~え……」

 

 クレマンティーヌは、耳まで裂けた笑みをひくつかせる。

 それは怒りに類する感情表現ではない。滅多に見ない面白そうな玩具。それを見つけた喜びから来るものだ。

 

「私の方が強そうとか言っておいて、油断ならないわ~。マジ、凄いわ~」

 

 腰から刺突短剣(スティレット)を一本引き抜くと、持った右手を後方へ反らす。同時に体勢をブレインよりも低く、もっと低く下げ……左手で地面を掴んだ。それはモモンガ達の居た現実(リアル)における、陸上競技。そこで見られたクラウチングスタートの体勢に似ている。

 

「殺すのがもったいない感じ~……」

 

「おいおい。就職したばっかなんで殺すのは勘弁……」

 

「<能力向上>。<能力……超向上!>」

 

 軽口を叩こうとしたブレインの言い終わりに被せるように、クレマンティーヌは武技を発動した。その聞こえた武技名に、ブレインの顔が引きつる。

 <能力向上>は、身体能力を一時的に向上させる武技だ。そして字面どおり、<能力超向上>は、<能力向上>の上位武技である。その修得の難しさは、有名どころの戦闘者でも困難だと言われるほどだ。

 ブレインも現時点では使用できない。

 

(それを別武技と複数発動とか、マジ? ……てか、<能力向上>の大小重ねがけかよ。……俺の<領域>で捉えきれるんかね?)

 

 ブレインの<領域>は、自身を中心とした三メートル範囲内で、極限まで攻撃命中率と回避率を上昇させる武技だ。これはブレインのオリジナル武技で、不可視の相手とて捕捉可能なのだが……。

 

(最後の特性は、今関係ないな。……いや、あるか)

 

 ブレインが見たところ、クレマンティーヌは高速突撃型の戦士だ。更に言えば、彼女は膂力に速度、体力や耐久力まで、戦士として必要な要素のほとんどがブレインを上回ってる。少なくとも、そうブレインには見えていた。

 であるならば、武技まで使って増速した彼女の突撃を、ブレインは目視できるだろうか。

 

(無理……かな? おっかないねぇ……。<領域>の不可視知覚で追えりゃ良いんだが……)

 

 捉えさえすれば、これまたオリジナルの武技<瞬閃>……いや、上位版の<神閃>といった高速剣技で迎撃可能だ。それこそ<領域>との合わせ技である、秘剣虎落笛(ひけんもがりぶえ)を叩き込める。本来は喉を狙う技だが、余裕があれば軽傷で済むような斬り方をすればいいだろう。

 このように、ブレインは格上が相手ということもあり、慎重になっていた。

 一方、クレマンティーヌの方でも、納刀したまま構えているブレインに対し攻めあぐねている。

 ブレインが読んだように高速突撃をしたいのだが、ブレイン側に隙が無いのだ。どこにどのルートで突っ込んでも迎撃されるような……。

 

(やっぱ居合いの使い手かぁ。相性悪ぅ~。相手の待ち構えてるとこに突っ込むって阿呆だし? どうしよっかな~……)

 

 迷っている間にも、せっかく発動した武技の効果時間が過ぎていく。

 元々気が短いクレマンティーヌは、苛立ち……かけたが、この時はアッサリと気分を入れ替えていた。

 

(別に殺し合いじゃないしぃ~。手合わせなら難しく考えることないよね~。ブレイン・アングラウスの居合いの迎撃。それを圧し潰せるかどうか、試してみよ~)

 

 メシッ……。

 

 左手で掴んだ地面が握りしめられる。手甲の指先が地中に消えた。

 次の瞬間……。

 

 ズドン! 

 

 と、地面を蹴ったとは思えない音を発し、クレマンティーヌが跳ぶ。ボブカットの金髪が反射する陽光。それがうねる線のような(きら)めきとなって、瞬時にブレインの間合い……<領域>の外縁に到達した。

 一方、ブレイン側でも迎撃行動に移行している。剣気による結界。それが侵されるなり、身体が動く。彼のオリジナル武技<領域>とは、そういう武技なのだ。

 そして振るわれるのは、これまたオリジナル武技の<神閃>。元より居合抜きによる高速抜刀が、武技化したことで更なる高速化。そこから高みを目指して改良したものだ。相手には(レベルにもよるが)抜き手すら見えず、斬られた事実にすら気づけない。

 それほどの技なのだが、クレマンティーヌはブレインの上を行った。

 ブレインの<領域>に飛び込むや、さらなる武技、<流水加速>を発動させたのである。

 これは<能力向上>系の武技が身体能力を向上させるのと違って、速度特化で向上させる武技だ。つまり、<領域>内で捉えられたはずが、そこから更に増速したことになる。

 

(嘘だろ!?)

 

 クレマンティーヌの手甲狙いで<神閃>を発動させていたブレインが目を剥いた。両者にしてみれば刹那の攻防ではあるが、高速戦闘に対応できる彼らは、思考も加速しているのだ。

 高速であるにもかかわらず、妙にゆっくりに見えるクレマンティーヌ。彼女が突如として速さを増し、迫る刃を回避してブレインに迫ってくる。右手に持たれた刺突短剣(スティレット)が狙うのは、鞘を握ったままの左肩だろうか。

 

「う、うぉおあああ!?」

 

 喉よ裂けろとばかりに咆哮。ブレインは気合いと根性で、振っている刀の軌道を変えようとした。上体も可能な限り回して向きを変えようとする。

 高速攻撃中、その半ばでの攻撃目標変更。

 これはブレインらクラスの剣士にしてみれば、不可能中の不可能事だ。

 なぜなら「あっ!」と思った、その時。それは、すでに行動を終えた後なのである。

 時間を戻すことができない以上、「あっ!」と思ったところから引き返せた人間は存在しない。

 ブレインがやろうとしているのは、つまりはそういうことなのだ。

 しかし、この時のブレインは不可能を可能にした。

 クレマンティーヌの<流水加速>発動によって外れるはずだった刀身が向きを変え、急角度で彼女を追い出したのだ。狙う先は……ともかく、真っ先に身体に刺さりそうな刺突短剣(スティレット)。これを跳ね上げるか叩き落とせれば……。

 

(よっしゃ! ……うげぇっ!?)

 

 ブレインは見た。

 迫るクレマンティーヌの左手に、いつの間にか二本目の刺突短剣(スティレット)が握られているのを……。そして、クレマンティーヌがしてやったりとばかりに笑み崩れているのも見てしまう。

 このままでは右の刺突短剣(スティレット)を退けたとしても、左の刺突短剣(スティレット)で痛い目を見るのは確実だった。

 一方、クレマンティーヌはブレインが見た笑みのまま、自身の勝利を確信している。

 

(超()い技にぃ、途轍もない根性だけどぉ! 地力と経験が足りなかったね~っ! 左肩、いっただき!)

 

 驚愕に引きつるブレインの表情が、ゾクゾクするほど面白い。

 このまま戻って来た刀によって右の刺突短剣(スティレット)を弾かせ、クレマンティーヌ自身は吹き抜けていく刀身をかいくぐる。そして、ブレインの肩に左の刺突短剣(スティレット)を突き立てるのだ。

 音に聞こえた天才剣士を負かす。また、最強に近づいてしまった。

 股間と背筋に痺れるような感覚が走るが、決着はクレマンティーヌの想像どおりにはならなかったのである。

 

 カツッ……パキン!

 

 乾いた音がしたかと思うと、ブレインの刀が右刺突短剣(スティレット)を半ばから斬り飛ばしてしまったのだ。

 瞬間。刺突短剣(スティレット)から青い電光がほとばしるが、それらはすべてブレインの刀……その刀身に絡まり、吸い取られていった。

 しかし、両者にとっては、今の現象よりも気にかかることがある。

 

「あ、悪い」

 

「ちょぉおおおおおっ!?」

 

 本来なら、突撃の勢いを載せた一撃をブレインの肩に叩き込み、彼を吹き飛ばしていただろう。

 しかし、刺突短剣(スティレット)を斬られたクレマンティーヌは、ブレインの眼前で足を止めると、無残な姿となった刺突短剣(スティレット)を顔前に差し上げた。

 無い。どう見ても、剣身の半ばから先が無くなっている。

 

「なんてことしてくれんの、あんた! これはねぇ! そこいらじゃ手に入らない上物なのよ!?」

 

「だから、悪かったって……」

 

 もはや手合わせどころではない。

 クレマンティーヌは、その場で崩れ落ちて愚痴り出すし、ブレインは頭を掻きながら対応に困っている。

 

「え~と……。終わったのかな? 二人とも、怪我が無くて何よりだが……」

 

 見届け役のロンデスが近寄って来た。

 彼は落ち込んでいるクレマンティーヌを一瞥すると、まだ話ができそうなブレインに声をかける。

 

「結局のところ、勝負はどうなったんだ? 俺には、よく見えなかったが……」

 

「勝負? ああ、俺の負けだ」

 

 ブレインは苦笑交じりに答えた。

 刺突短剣(スティレット)を斬れなければ、攻撃を受けて倒されたのはブレインの方だ。

 それに、クレマンティーヌが武技追加で増速した時。あれに対応できたのは奇跡もいいところで、二度と同じことができるとは思えない。無理やり剣の軌道を曲げた腕や、捻った腰なんかが今になってズキズキ痛んでいる。回復のポーションを飲んでおくべきだろう。

 

「それと、こいつにも助けられた」

 

 腰の刀を、ブレインは鞘越しにポンポンと叩いた。

 刺突短剣(スティレット)を斬った後の雷撃。あれを防げたのは武器性能のおかげだ。刀が雷を引き受けてくれなければ、ブレインは大地に倒れ伏していたに違いない。

 

「クレマンティーヌの方でも急所は狙ってこなかったしな。もう、勝てた要素が見当たらねぇよ。しかし、だ。そんなことより……これ、どうしよう?」

 

「これ……なんて、随分な言い方するじゃないの!」

 

 突如復活したクレマンティーヌが、ブレインに食ってかかる。

 自分は前の職場を脱走した身だ。持ち出した武具は、かつて使用していた物ほどではないが、先ほど言ったように滅多なことでは入手できない逸品である。刺突短剣(スティレット)自体は残り三本あるものの、この損失は大きい。 

 

「あれはねえ、魔法詠唱者に魔法を封じて貰えれば、私だって<火球(ファイアーボール)>や<雷撃(ライトニング)>を使える、超便利武器だったんだからね!」

 

「おま、あの雷撃ってそういうことだったのか!? <雷撃(ライトニング)>をブチかまそうとか、俺を殺す気か!」

 

 超至近距離で殺傷力の高い魔法が発動したのだと認識し、ブレインが気色ばむ。だが、クレマンティーヌは何処吹く風だ。

 

「私は、魔法まで使う気なかったしぃ? あんたが刺突短剣(スティレット)を斬ったから暴発したんじゃないの?」

 

 そういうことなのかも知れないが、クレマンティーヌ自身も刺突短剣(スティレット)の構造や理屈を把握しているわけではないため、真実は闇の中である。そうして二人は泥沼の口論に発展しかけたのだが、ここでロンデスが口を挟んだ。

 

「その辺にしたらどうだ。クレマンティーヌ。俺達は先を急ぐ身だぞ? 訪ね先……いや、頼り先の関係者と関係を悪化させてどうする? それに、アングラウス殿。できれば、壊れた刺突短剣(スティレット)の代わりになるような武器について、何か心当たりがあれば助かるのだが?」

 

 言いつつロンデスの視線はブレインの腰……刀に向けられる。それに気づいたブレインは、鞘口を手で押さえると半歩ほど身を引いた。

 

「こいつは、やるわけにはいかんぞ?」

 

「私ぃ、刀とか趣味じゃない~」

 

 脇からクレマンティーヌが苦情を申し立てるが、ロンデスは聞き流す。

 

「いや、そういった素晴らしい刀を入手できたんだ。何か伝手でもあるのではないか?」

 

 売り手や入手先を紹介してくれるのであれば、そこで武器を購入することも可能だ。して、購入代金の幾分かをブレインに出して貰うのはどうだろう。

 ロンデスが自案を提示すると、ブレインとクレマンティーヌは顔を見合わせた。

 

「で? アングラウスとしては、今の話……どうなわけぇ?」

 

「この刀の入手先か? ……ぶっちゃけ、ナザリック地下大墳墓。で、俺の雇い主の一人なんだが……。頼めるのかなぁ……」

 

 ブレインは渋面となる。

 自分と関係が深い至高の四十一人と言えば、武人建御雷だ。彼は気さくで大らかだが、周囲の僕達はそうではない。気安く頼みごとなどしては、僕達の怒りを買うのではないだろうか。

 暫く考えたブレインは、捨てられそうな犬の目で見てくるロンデスと、「損失~、補填~、弁償~」と子供のように煽り立てるクレマンティーヌに根負けし、首を縦に振るのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「じゃあ、村長と打ち合わせたとおり、ナザリックからゴーレムを貸し出して、外壁なんか作らせますかね?」 

 

 村長宅から出たモモンガは、続いて外に出た弐式炎雷に話しかけた。

 

「ええ。まずは防壁ですよね。せっかくだから、何かギミックを付けてみようかな」

 

 弐式も乗り気である。

 森からカルネ村に戻ったモモンガ達は、ペテルら漆黒の剣と村内で一時別れ、ンフィーレアを伴って村長宅に入っていた。相談内容は、森の賢王……改め、ハムスケから得た情報で、トブの大森林内のモンスター勢力図が乱れていること。このことについて、カルネ村にモンスターが押し寄せる危険性についてだ。

 これを聞かされた村長は大いに驚いていたが、すぐに事態の深刻さを認識。モモンガに対してナザリックの助力を要請した。ただ、何もかも頼るというのではなく、カルネ村で支払える範囲内での有償で……となっている。

 この判断の理由として、一つにはベリュースらの襲撃によって死者は出たが、男手が壊滅したわけではないこと。もう一つとして、すがるばかりでは情けないし、申し訳なくも感じていることがある。

 

「とにかく前に向けて、村民一丸となって復興したい」

 

 そういう村長の言葉に粋を感じたモモンガは、弐式と相談の上、ゴーレムの貸し出しを決定したのだった。 

 

「大したモンスター……この場合は機材かな? そう、大した機材でもないですし。タブラさん達には後で報告する……で、いいですよね?」

 

「ゴーレム自体はモモンさんの手持ち品だし。いいんじゃないすか? てゆうか、そろそろ名前の呼び分けが面倒になってきましたね」

 

「むう……」

 

 弐式に言われたモモンガは、口をへの字に曲げて唸る。

 本名は鈴木悟。現状、仲間内ではモモンガ。ナザリックの僕及び、対外的にはアインズ・ウール・ゴウン。冒険者としてはモモン。鈴木悟はともかく、三つの名前を使い分けていることになるのだ。

 しかも、カルネ村村民や村に来た者の幾人かは、アインズとモモンが同一人物であると知っている。

 

「ん~……でも、前にも言いましたけど。モモンはアインズの別名義で、ペンネームみたいなものですし。冒険者登録の限定名ですから。その辺は、ゆるゆるやっていけばいいかな……と」

 

「ですかね。そんなに堅く考えなくていいってことかな。……お? ブレインの気配……」

 

 頷いていた弐式が、村の入口側を見て呟く。彼のセンサーにブレインが引っかかったらしい。

 

「戻って来ましたか。エンリが試し斬りに行ったと言ってましたから。その帰……」

 

「いや、モモンさん。誰か連れてるようですよ? ……ああこれ、ロンデスだわ。他にもう一人……」

 

 と、この時、影の悪魔(シャドーデーモン)が一体出現し、同様の報告をしてきた。そして自分が話した内容を既に弐式が知っていたことについて、大いに動揺し謝罪している。

 

「いいって、いいって。お前らの潜んでる位置だと、俺の感知範囲の中なんだから。むしろ、任務を立派に果たしてるのが確認できて満足だよ。この調子で、今後も頑張ってくれ」

 

 そう言って弐式が肩をパムパム叩くと、影の悪魔(シャドーデーモン)は感激の涙を流しながら姿を消した。

 

「弐式さんも、『至高の御方』らしくなってきましたね」

 

「強いて言うなら、部活の後輩を褒めてる感覚なんですけどね~」

 

 二人で軽口を叩き合いつつ、ルプスレギナを引き連れてブレインが来る方向を目指す。弐式の話によると、村中央の広場あたりで出会すそうなのだが……。

 

「あ、居た居た。ブレイン。本当にロンデスを連れてますね。もう一人は……女性かな?」

 

 広場の端で居るブレイン達を、モモンガが発見する。

 ブレインの方でもモモンガと弐式、それにルプスレギナに気づいたようだが、こちらは顔を引きつらせて驚いていた。

 人の顔を見て驚くとは失礼な。これでも気を遣って人化してるんだぞ……とモモンガがむくれている隣で、弐式が呟く。

 

「『うげっ! アインズ様! 村に来てたのか……』って言ってますね」

 

「相変わらずの忍者イヤーです。でも、『うげっ!』の部分は必要でしたか?」

 

 弐式の方を見て言うモモンガ。その目の端で、赤い髪がスライドするのが見えた。ルプスレギナがモモンガらを追い越して前に出たのだ。

 

「『来てたのか』ではなく『御出(おいで)だったのですね』でしょうが。口の利き方を知らない下等生物には仕置きが必要です」

 

「ちょ! ルプスレギナ! 何する気だ!? 口調も違ってるぞ!」

 

 慌てて手を伸ばしたモモンガが、ルプスレギナの左肩を掴んで引き留める。その肩越しにルプスレギナは振り返ったが、表情には不満が溢れていた。

 

「ですが、ア……モモンさん。新参者の態度がなってないとか……」

 

 不満げだったのが泣きそうなものに変貌する。

 

「ルプスレギナ……」

 

 モモンガはルプスレギナの肩から手を離した。

 

(職場に愛着や誇りを持てるなら、そこに泥を塗るような行為は容認できないか。それは理解できるな……。現実(リアル)の頃の俺には無かった感覚だけど……)

 

 営業職の鈴木悟は、自分の仕事スキルには一定の自信を持っていた……と、モモンガは思う。それなりに長く続けてきた仕事であるし、自分だけのノウハウもあったから異世界転移した日まで、解雇もされずに続けてこられたのだ。

 ただ、仕事や職場に愛着があったかと聞かれると首を傾げざるを得ない。自分はユグドラシルのためだけに生きていたようなものだから。

 

(そんな俺からすれば、ルプスレギナや他のNPCらがナザリックを誇りに思うのは嬉しくもあるし……羨ましいんだよな)

 

 なんとなく感慨にふけってしまうが、それを瞬時に振り払ったモモンガはルプスレギナを諭すことにする。

 

「ルプスレギナよ。今の私は冒険者のモモンだ。お前にも言ったように、一々の畏まった態度や物言いは不要である。ま、周囲の目は意識するべきで、その場に合わせた対応は必要であるがな。そう言ったわけで、今のブレインの対応については特に咎めるに値しない。と私は判断した。そういうことだ」

 

「はい。わかりました……」

 

 心から納得いった風ではないが、取り敢えず矛先を納めてくれたらしい。

 何やら、モモンガが掴んだ肩を手で押さえ、嬉しそうに頬を染めているが……。

 

(……可愛いじゃないか。……と、とにかくだ。ナーベラルばりにアレな言動とかされなくて良かった)

 

 弐式に聞かせるわけにはいかないので、心の中で呟く。ところが、気がつくと弐式がジッとモモンガを見ていた。

 

「な、なんです?」

 

「モモンさん。今、ナーベラルみたいなことを言い出さなくて良かった。とか思ってたでしょう?」

 

「うっ!?」

 

 モモンガは石化したように固まる。特に今は人化中なので、驚きが顔全体で表現されていた。 

 

「ま、責めてるわけじゃないです。ペスに預けてるナーベラルに会いましたが、かなり良い感じで出来るメイドになってますよ。人間嫌いは、そのままですけど」

 

「ほほう?」

 

 弐式の言ってることが贔屓目によるものでないなら、それは重畳だとモモンガは思う。ナーベラルは容姿が人間寄りで、しかも美人。加えて、戦闘メイド(プレアデス)の中では高位階の魔法を使いこなすという逸材だ。対人コミュニケーション能力に難があったが、そこを改善できたのなら外部で運用するのも良いだろう。

 

「弐式さんにナーベラルを付けて、プラス何人か……ですかね。それで外部行動班が一つでも増えるなら、上々です」

 

「ふふふっ。我が冒険者パーティー『漆黒』は、多人数の変動編制ですからね。その辺は自由自在だからマジ便利!」

 

 そう言って笑い合いながら、弐式は「……その節は、うちのナーベラルが御迷惑を……」と頭を下げ、対するモモンガが「いえいえ。今の成長につながったのなら何よりですよ」と返す。

 ギルド長とギルメンの和やかな語らいが展開されたわけだが、この間に、ブレイン達がモモンガ達の前に到着していた。

 

「あのう、アインズ様?」

 

 おそるおそると言った風にブレインが話しかけてくる。モモンガは「俺、そんなに怖いか? 今は人化中だぞ?」と思ったものの、それを口に出すでもなく頷いて見せた。

 

「今は冒険者活動中なので、モモンと呼んで欲しいが……。まあ、この村の中ではアインズで構わんだろう。今後は気をつけてくれ。で……」 

 

 モモンガの視線が、ブレインからロンデスへとスライドする。

 幾分緊張しているような面持ちのロンデスであるが、特に怪我などはしていないようだ。

 

(ふむふむ。影の悪魔(シャドーデーモン)らは報告どおりに上手くやったようだな)

 

 いい感じだぞ! と気を良くしたのも束の間、ロンデスから「助けては貰えたが、丸腰で路地裏に放り出された」と聞き、肩を落とすことになる。

 

「それは……申し訳なかったな。影の悪魔(シャドーデーモン)達には、後で言っておこう。それで、この村には私を訪ねてきてくれたのかね?」

 

「偶然に出会ったアングラウス殿の案内でな。元々、ゴウン殿を頼るつもりだったので、貴殿を訪ねて来たということで間違いない。ゴウン殿……」

 

 ロンデスは一歩前に出ると、モモンガの前で跪いた。

 

「俺には、もうスレイン法国へ戻るという選択肢が無い。戻ったとしても殺されるだけなのでな。他に職を探すとしたら……ありがたくも勧誘してくれた貴殿の下しか考えられない。先に誘って貰ってから日が開いたが、俺を……雇っていただけるだろうか?」

 

 言いながら見上げるロンデスの瞳が、真っ直ぐにモモンガの目に突き刺さってくる。

 モモンガはジンワリと胸が熱くなるのを感じ、大きく頷いた。

 

「よかろう。当面は、そこに居るブレインと同じ、外部協力員の待遇だな。無論、ナザリックの一員であるから、功績や成果に応じた報酬は期待してくれて良い。給与については、改めて協議させて貰おう」

 

 住居についてはカルネ村に用意し……。

 

「モモンさん。この村を襲撃した前科があるのに、カルネ村入居はマズいですよ」

 

「おっと、そうでしたね」

 

 弐式に耳打ちされたモモンガは、「なんで、そこに思い当たらなかったかな?」と呟きつつ、別案を模索した。

 

「トブの大森林の中……は、アレらが居るからロンデスも気まずいか。そうなると……ナザリック地下大墳墓の第六階層かな」

 

「アウラとマーレのところですか。あそこは闘技場の他に森があるし、人間も住めそうですよね」

 

 弐式の賛意を得たモモンガは、その場で<伝言(メッセージ)>を飛ばしてタブラ達、他のギルメンの了承を取った。ナザリック内に外部の者を住まわせるのだから、緊急の協議案件だと考えたのである。

 結果としては全員が賛成。

 元よりロンデスについて知っていたヘロヘロは「異議なし!」の一言で了承。タブラと建御雷は「モモンガさんが良いって言うなら、問題ない」とのこと。ギルメンからの信頼が重たいが、ともかく反対者が居なかったので、村に常駐させている戦闘メイド(プレアデス)……ユリ・アルファに一時、ロンデスを預けることとする。

 先ほど話し合った『襲撃犯のロンデスをカルネ村に置くのか?』に抵触するが、あくまで一時的な措置だ。

 

「後はアウラに言って、第六階層にログハウスでも建てさせるか……。それはそうと……」

 

 モモンガは、ロンデスに「いいから立て」と促し、彼のすぐ後ろで居る女性戦士に目を向けた。

 

「貴女は、どなただったかな? カルネ村への移住希望者であるなら、村長と話すと良い……が?」

 

 言い終わりにロンデスを見る。

 ロンデスを連れてきたのはブレインだが、女性戦士の振る舞いを見るに、彼女はロンデスと行動を共にしているように見える。ならば、彼女についてはロンデスに聞くべきだろう。

 

「実は、エ・ランテルの牢より脱して暫くの頃、同市内で偶然に出会いまして……」

 

 雇用されることが決まった後なので、ロンデスの口調が変わっている。そこにモモンガは幾ばくかの寂しさを覚えたが、顔に出すことなく頷き、続きを促した。

 

「互いに身分を明かした後、彼女がナザリックでの雇用を希望しましたので。以後は行動を共にしていました」

 

「ほう、身分?」

 

 ロンデスの身分……この場合、元の身分である元スレイン法国騎士ということはモモンガも知っている。だが、それを聞いて行動を共にしたと言うのであれば、この女戦士は名のある冒険者だろうか。それともスレイン法国の関係者だろうか。

 モモンガの視線は、改めて女性戦士に向けられた。

 

「先に名乗るとしよう。我が名はアインズ・ウール・ゴウン。ナザリック地下大墳墓の支配者……の取りまとめ役だ」

 

「先に御名乗りをいただき、痛み入ります」

 

 女性戦士は、跪きはしなかったが胸に手を当て一礼する。その所作は、礼儀作法に疎いモモンガや弐式が見ても、自分達とは一味違うのものと感じさせた。強いて言うなら、デミウルゴスがモモンガ達に対して一礼するのを彷彿とさせる。

 

「私はクレマンティーヌ。そちらのロンデス・ディ・グランプと同じ、スレイン法国に属しておりました」

 

「なるほど。スレイン法国の方か。我ら、ナザリックでの雇用を希望とのことだが……。元の所属について聞いても良いかな?」

 

 騎士のようには見えないが、礼儀作法は大したものだ。ひょっとしたら、貴族のお転婆令嬢かもしれない。そんなことを考えていたモモンガであったが、クレマンティーヌの口から出た台詞に目を剥くこととなる。

 

「スレイン法国の特殊工作部隊……六色聖典が一、漆黒聖典にて第九席次を務めておりました」

 

「漆黒聖典!」

 

 モモンガは驚きの声色にて、クレマンティーヌが口に出した部隊名を復唱した。

 漆黒聖典。それは陽光聖典よりも戦闘力が高い部隊の名だ。デミウルゴスの報告に寄れば、破滅の竜王なる存在が復活すれば対処するのが主目的らしい。

 また、タブラ・スマラグディナの考察するところでは、他にも任務があるはずだし、他の聖典で手に負えない事態が発生すれば出張ってくるだろうとのことだ。

 

「ふむ。噂には聞いている。母国では重要な立ち位置だったのだろう? こう言っては何だが、我らナザリックは現状、有名であるとは言いがたい。そのような組織に身をゆだねて構わないのかな?」

 

 興味もあって聞いてみると、クレマンティーヌは「母国に未練は無い」と言う。

 

「それにロンデスから、アインズ様は第七位階魔法を修めておられると聞きました。そのような強大な方にお仕えできれば、これに勝る喜びはありません」

 

「なるほど……そうか」

 

 言葉少なに答えたモモンガは、おべっかが過ぎる気がする……と考えていた。言動や態度に何ら問題はないのだが、やはり『営業用の態度』に思えてしまう。

 

(営業スマイルとか、そういうのは良いんだよ、俺も営業時代にやってたし。でも、クレマンティーヌって、他に何かありそうだな……)

 

 上手く言葉にはできない。だが、漠然とした違和感を覚える。

 

(なんて言うのかな。薄皮一枚、かぶって話をしてる……みたいな……)

 

 暫し考えたモモンガは、またも弐式に相談することとした。

 

「弐式さん。クレマンティーヌに関しては、全員で相談した方が良いと思いませんか?」

 

「……」

 

「弐式さん?」 

 

 返事をしない弐式にモモンガが重ねて声をかけると、それでようやく弐式がモモンガを見た。

 

「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてた。ええと、何でしたっけ?」

 

 モモンガが質問を繰り返すと、弐式は「それは賛成です」と答える。

 その後、ロンデスとクレマンティーヌは、カルネ村におけるナザリックの拠点……空き家を改装したもの……に行き、第六階層での住居が整うまで住み込むこととなった。同時に、カルネ村駐在を務めるユリ・アルファの指揮下に入るととなる。

 

「ギルメン会議でクレマンティーヌの扱いが決まったら、ロンデスと共に呼び出しますかね」

 

 去って行くロンデスとクレマンティーヌの後ろ姿を見送りながら、モモンガは弐式に話しかけた。それを受けて、弐式が一つの案を提示する。

 

「モモンさん。そこのブレインもそうですが。ナザリックの一員となる以上、俺達の素性……違うな『正体』を知らせておきません?」

 

「え? 人化してない方の? そういうのって、隠しておいた方が良くないですか?」

 

 ギルメンの幾人かと合流できたことで、普段はユルユルなモモンガであるが、ある面においては慎重なままである。

 そんなモモンガに弐式が食い下がった。

 

「いやね、ロンデスやブレインはともかく、クレマンティーヌはビシッとやっておかないと……どうも危ない気がするんですよ。さっきの丁寧な態度だって、なんか上っ面だけみたいな気がするし」

 

「ああ、弐式さんも同じ考えでしたか。と言うか、さっき考え事してたのは、それだったんですね。それなら賛成です。タブラさん達にも話を通しておきましょう」 

 

 笑いながら「話がまとまってからのことですけど。やるとなったら玉座の間がいいですかね~」と言ったモモンガは、所在なげに立っているブレインを見る。

 

「建御雷さんから刀を借りたそうだが。使い勝手はどうだ?」

 

「え? あ、はい! 極上です!」

 

 それまで硬かったブレインの表情が柔らかくなった。自分で対応できる話題を振られて緊張が解けたらしい。

 

「頑丈ですし、良く斬れます。さっきもクレマンティーヌの雷撃を……あ……」

 

「どうした?」 

 

 言葉を切ったブレインの顔を、モモンガが覗き込んだ。

 少し焦り気味のブレインが言うには、出会ったばかりのクレマンティーヌと手合わせをし、彼女の武器を壊してしまったらしい。しかも、魔法を封入できる珍しい物だったとか。

 

「へ~え。ユグドラシルでは見ないし、聞かない武器ですね」

 

「まあ属性効果なんて付与しちゃえばいいですし。違う効果のが欲しいなら、複数用意してアイテムボックスに入れておけば……と、壊したアイテムの補填だったな」

 

 話に入ってきた弐式に対応していたモモンガは、途中でブレインを見る。

 

「よろしい。後で仲間と話しておこう。良いのがあったはずだ。……まあ、クレマンティーヌが持ってる刺突短剣(スティレット)を見せて貰って、その後になるだろうがな」

 

「ありがとうございます!」

 

 ホッとした面持ちのブレインであったが、続いてモモンガが「後でクレマンティーヌとロンデスを呼ぶから。せっかくだし、お前も立ち会うように」と言うと、脱力しかけた肩に再び力が入ることとなる。

 

「お、俺も……ですか?」

 

「まあ、ついでだ。難しく考えなくてよろしい」

 

 そう告げると、モモンガは弐式とルプスレギナを連れて、漆黒の剣と合流するべく歩き出すのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「驚いたぞ。クレマンティーヌが、あんなに真面目な態度が取れるだなんてな」

 

 指定された家に向かう道すがら、ロンデスが笑いかける。対するクレマンティーヌは「あんなの、聖典で訓練させられただけよ」と面白くなさそうに呟いたが、やがてその足を止めた。合わせるように足を止めたロンデスは「どうかしたか?」と声をかけたが、クレマンティーヌは勢いよくロンデスの顔を見るや、怯えた表情で訴えかける。

 

「……わからない。わかんないんだよ! 私、だいたいの奴は見た感じで強さがわかるんだよ? 戦士職や魔法職なんか関係なくね!」

 

 だが、モモンガや弐式を見ても、クレマンティーヌにはピンとこなかったらしい。

 ではモモンガ達は、強者を装った弱者なのか。

 仮定を口に出したクレマンティーヌは、即座に「それは絶対に違う」と自ら否定した。

 

「ロンデスや、あのニグンが第七位階魔法を使うのを見たんでしょ? だったら、やっぱり強いんだよ。問題は、私に見抜かせない強さが、本当はどの程度なのか……」

 

 クレマンティーヌは続けて言う。

 自分は、スレイン法国から自由になりたい。好き勝手にやっていきたい。人だって気ままに殺したい。しかし、それをするためにはスレイン法国からの追求が障害となる。

 ロンデスに同行しナザリックを頼る気になったのは、法国の追っ手から身を守るのが目的だった。

 

「けどさ……。ここまで底が読めない相手だとは思わなかったよ……」

 

「正体が知れないのは同意するが……。そこまで怯えるほどなのか? 俺には、わからん。途轍もなく強い……ぐらいの認識しかないな」

 

 頭を振るロンデス。その彼を、クレマンティーヌは羨ましそうに見つめた。

 

「わからないって言うなら、私を基準に考えてみれば? ロンちゃんにとってのさ、漆黒聖典隊員って、どんな強さなわけぇ?」

 

「漆黒聖典隊員の強さ……」

 

 ロンデスは、まず陽光聖典がモモンガ達と戦ったときのことを思い出す。集団でアルベドと戦い、一切合切が通用せず方針を転換。力試しの一環として、魔封じの水晶から強大な天使を召喚したが……モモンガによって一瞬で滅ぼされてしまった。

 陽光聖典が弱かったのではなく、モモンガ達が強大すぎたのだ。

 では、その陽光聖典よりも強いと思われる漆黒聖典はどうか。ロンデスが知る漆黒聖典隊員は、目の前のクレマンティーヌだけである。その彼女の強さは、天才剣士として知られるブレインとの手合わせで見る機会があった。

 結果としては判定勝ちのようであったが、あれはブレインの持つ武器が強すぎた結果であって、刺突短剣(スティレット)が斬られていなければ、クレマンティーヌが危なげなく勝っていたことだろう。

 見比べて感じたところでは、クレマンティーヌは彼女一人だけでも陽光聖典隊以上の強さを持つようにロンデスは思う。

 この感想を述べたところ、クレマンティーヌは「にゃははは!」と笑った。

 

「高く評価してくれて、ありがとうね~。実際は戦いように寄るし、陽光聖典隊員の魔法攻撃をさばき切れるかどうかで勝敗が変わっちゃうんだけどさ~」

 

 だが、必ず負けるわけでもないと言うのだから、彼女の戦闘力は凄まじいものだと理解できる。

 こうして話の前段階として『クレマンティーヌの強さ』がロンデスに知れたところで、クレマンティーヌは表情を固く……そして暗くした。

 

「でね、ロンちゃん? アインズ……様と、ニシキ……様の近くにさ、赤毛の女が居たでしょ?」

 

「居たな。確か、ルプスレギナ……だったか? 従者か何かだろうが……」

 

 返事をするロンデスに向け、クレマンティーヌは力無げに笑って見せる。

 

「節々で私に殺気ぶつけてきてたから解るんだぁ。あの女ね、私より強いんだよ?」

 




<誤字報告>
ARlAさん、schneizelさん、Mr.ランターンさん
ありがとうございます

しかし、毎度毎度、投稿時に誤字を取り切れてないのが何とも……
自分の描き方は、ガサッと投稿文を書き上げた後で、
読み返しながら手直ししていくというものなのですが……
まことにもってトホホなのです……

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