「痩せない理由は栄養失調だった」内臓脂肪が燃えにくい人に足りない"ある栄養素"
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1年で14キロの減量に成功、脂肪肝も改善した医師・水野雅登氏が、最新医学知識と自身の体験をもとに『1年で14キロ痩せた医師が教える 医学的に内臓脂肪を落とす方法』を上梓。さまざまな病気や不快症状の温床にもなる内臓脂肪を効率的に落としつつ、同時に糖尿病や高血圧の改善も期待できる方法をわかりやすく紹介する同書から、そのエッセンスを3回に分けて特別公開する──。(第1回/全3回)
※本稿は水野雅登『1年で14キロ痩せた医師が教える 医学的に内臓脂肪を落とす方法』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
■内臓脂肪が燃えない人は全員「栄養失調」
内臓脂肪を増やさない一番の方法は、良く知られているように糖質をオフする食事にスイッチすることです。
しかし、「これ」だけでは、すでについている内臓脂肪を減らす効果は期待できません。もともと内臓脂肪を増やす食生活をしていた方は、ほぼ「内臓脂肪が燃えない体質」になっているからです。
つまり、内臓脂肪を燃焼させようとしても、その“燃焼機関”が壊れているため燃えないのです。
現代日本人に脂肪の燃焼機関の不具合が生じている原因は、じつは、日本人特有の栄養失調に原因があります。それらは主に以下の5つです。
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①タンパク質不足
②鉄不足
③ビタミン不足
④ミネラル不足
⑤カルニチン不足
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順に見ていきましょう。
■脂肪燃焼の不具合①:タンパク質不足
子どもや青年、中高年や高齢者まで、すべての年代にわたり日本人は「総タンパク質不足」といってもいい過ぎではありません。
体の構成成分は、水とタンパク質と脂質で9割を占めています。そのタンパク質が不足していては、何をしても体調や病状などは改善しません。なにより重要なのに、これほど軽視されている栄養はほかにないといってもいい状態です。
私は繰り返し強調しているのですが、「タンパク質は最重要」です。
「脂肪の燃焼機関」も、タンパク質でできています。タンパク質不足の状態では、「脂肪の燃焼機関」にガタがきても、直すことすらできません。
人間の体は作りっぱなしでは、ガタがきてしまいます。このため、髪の毛も、皮膚も、血液も、内臓も、体のあらゆる部位が常に作っては壊し、壊してはまた作って……を繰り返しているのです。
「脂肪の燃焼機関」も同様に、このサイクルが必要です。ところが、タンパク質不足のままでは、それができません。建物を建てたままメンテナンスをしないのと同じで、すぐにボロボロになってしまいます。
さらに、タンパク質不足のまま糖質オフの食事にスイッチすると、体はエネルギー不足に陥ってしまいます。
非常に大切なのに、とても軽くみられているために、多くの日本人がタンパク質不足です。たんぱく質を多くとって筋肉がムキムキの人達以外は、ほぼタンパク質不足と思っていいでしょう。
■脂肪燃焼の不具合②:鉄不足
タンパク質に次いで大切なのは、「鉄」です。
「脂肪の燃焼機関」自体がタンパク質でできているのに対し、鉄は脂肪の燃焼機関で脂肪を燃やすために必須の栄養素です。
「脂肪の燃焼機関」と書いてきましたが、これは、正確には細胞内の「ミトコンドリア」のことを指しています。ミトコンドリアは、原始的な生物だった段階で細胞内に入り込み、ヒトと「共生」しているもの、とされています。細胞の中に、「ミトコンドリア」という細胞のようなものがあるというイメージから、そう考えられています。
ミトコンドリアの大きさは0.5~10μmで、1つのヒトの細胞の中に数百から数千もの数が存在しています。人間の小さな細胞1つ1つに、無数のミトコンドリアが存在しているのです。
このミトコンドリアの中で、糖質や脂肪酸、タンパク質などが代謝されて、エネルギーに変換されています。タンパク質を糖質に変える「糖新生」というはたらきも、ミトコンドリア内で行われます。
ヒトの全身の細胞の中で、ミトコンドリアが存在しないのは赤血球だけで、それ以外のすべての細胞の中に存在しています。重量でいえば、人間の体重の約10%もの重さを占めているといわれています。とても多いですね。
そして、一般にはあまり知られていないことですが、鉄不足はほとんどの女性と、メタボや生活習慣病やメンタルに問題のある男性の多くに当てはまります。
私の担当編集者たちが自らの血液を医療機関で調べたところ、全員に鉄不足があることが判明しました。とくに女性については、鉄不足ではない人を探すほうが難しいといえます。
それほど、日本は鉄に関しては異常事態になっています。そして、そのことについてまだまだ知らない人が多く、鉄不足と気づかないまま、さまざまな症状に悩まされているのです。
■日本人が鉄不足になる「日本固有の事情」
詳しくは拙著『1年で14キロ痩せた医師が教える 医学的に内臓脂肪を落とす方法』にもあたっていただきたいのですが、日本でこれほど多くの人が鉄不足になっているのは、次のような「日本固有の事情」が関係しています。
①食物に鉄を添加していない
欧米では、小麦粉に鉄の添加が義務付けられているのをご存じでしょうか。多くの国で国策として食品への鉄の添加が義務付けられています。しかし日本では、行われていません。これが日本人の鉄不足の一因となっています。
②医療機関でも「異常なし」と判断される
鉄不足が進行すると、頭痛をはじめとする各種の症状が出てくる人が少なくありません。症状が強くなると医療機関を受診しますが、各種検査をしても「異常なし」の診断になることが多いのです。
なぜか。医療機関で採血検査をした際の鉄(とくに貯蔵鉄=フェリチン)の基準値が、日本はアメリカの半分で、そのため実際には鉄不足であり、症状が出ているにもかかわらず日本では「異常なし」と判断されてしまうケースが多いのです。
③植物性信仰などの対策間違い
外来などで「鉄不足です」とお話しすると、「ほうれん草を食べればいいんですね」という言葉がよく返ってきます。これは日本人によくある反応でしょう。
確かに、ほうれん草には鉄が含まれていますが、これは植物性の鉄であって、動物性の鉄とは違う構造をしています。そのため吸収率は、動物性の鉄の「5分の1以下」に過ぎず、ほうれん草を食べるだけではとても十分な量をとることはできません。
それ以外の食物でも、含まれている鉄の量を考えると、食事から鉄不足を解消するだけの鉄を摂取することは現実的ではありません。
④日本の鉄サプリの問題
食べ物で鉄不足を解消できないとしたら、現実的にはサプリメントしか選択肢がなくなります。ところが、日本で流通している鉄サプリは「ヘム鉄」と呼ばれる鉄が含まれているのですが、胃腸にはやさしいものの、鉄の含有量が少ないというデメリットがあります。
ヘム鉄サプリメントを何年も飲み続けたのに、鉄不足がまったく改善しなかった症例を、実際に何例も診ました。そのため、ヘム鉄はその量の少なさから、私は鉄不足の解消にはほぼ結びつかないと考えています。
⑤母親ゆずりの鉄不足
日本のこの状況下の中では、当然ながら、子どもを産む母親のほとんどが鉄不足になっています。母親が鉄不足でも、母体から鉄をどんどん削り取って、子どもへ鉄を与えるように人間の体はできています。
しかしながら、それも限界があります。母体の鉄が枯渇(こかつ)すれば、子どもは当然ながら鉄不足になってしまいます。場合によっては「胎児からずっと鉄不足」ということも、十分にあり得るのです。
■脂肪燃焼の不具合③:ビタミン不足
内臓脂肪がたっぷりとついている人ほど、タンパク質や鉄はもちろんのこと、ビタミン不足が顕著です。健全な代謝を支えるビタミンがないということは、当然ながら、体が脂肪を燃やす力も非常に脆弱(ぜいじゃく)になります。
現代日本の「普通の食事」は、「三食キッチリ主食をとる」というものです。
消費者庁の認可している「トクホ(特定保健用食品)」にも、「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」という表示が義務付けられているのが、象徴的です。このような「糖質盛りだくさん」の食事では、その他の各種栄養素が必然的に不足してしまいます。
まず、ビタミンB群とCは水溶性ビタミンのため、体内に蓄えることができません。ほかの脂溶性ビタミンは体脂肪に蓄えることができますが、B群やCの場合は、一生懸命とっても、使えない分はそのまま尿に出ていってしまいます。
栄養剤や栄養ドリンクなどを飲んだ後に、尿の色が黄色くなっているのを見たことがある人は多いでしょう。あれはビタミンB2の色なのです。ビタミン摂取の上級者になると、この尿の黄色の程度をチェックすることで、摂取したビタミンB群が効いているかどうかを判断する人もいます。
まずは、この不足しがちなビタミンB群とビタミンCを積極的にとることが、脂肪燃焼体質へ近づくためのスタートラインです。しかも、蓄えることができない栄養素ですから、毎日の摂取が必要です。
■脂肪燃焼の不具合④:ミネラル不足
先に指摘した鉄以外にも、さまざまなミネラル不足が起きています。
とくに不足するものが「Mg(マグネシウム)」と「Zn(亜鉛=英語でZinc)」の2つです。タンパク質や鉄と同じく、ほとんどの日本人に不足しているといっていいでしょう。
この2つのミネラルは、脂肪を燃焼してエネルギーを生み出す回路を動かすうえで欠かせないものです。不足すると脂肪燃焼が停滞してしまいます。
マグネシウムは、ほかの多くの栄養素と違って、食事から十分量摂取することのできる、数少ない栄養素です。豆腐を作る際に使われる「にがり」や、天然塩などに豊富に含まれています。
また、マグネシウムは皮膚からも吸収することができるため、入浴の際にミネラルを多量に含む塩をお湯に溶かし入れることで補充ができます。お風呂に入れるマグネシウムとしては、「硫酸マグネシウム」が主成分の「エプソムソルト」が有名です。「ソルト」という名が付いてはいますが、硫酸マグネシウムの純粋な結晶で、塩分は含まれていません。
一方、亜鉛は貝類・肉類・豆類などに含まれてはいますが、いずれも微量なため、こちらは食事から十分な量をとることが難しく、サプリメントでとる必要があります。
ただし、亜鉛不足の人のほとんどは、タンパク質不足も同時に抱えています。タンパク質不足が重い場合には、亜鉛を胃が受け付けないことがあります。胃壁も消化液も、タンパク質でできているためです。タンパク質不足の人のなかには、亜鉛が負担になってしまい、胃もたれや吐き気を起こす人もいます。
このため、ビタミン類と同様に、ミネラルをとる前にタンパク質不足の解消が必要になります。
■脂肪燃焼の不具合⑤:カルニチン不足
栄養に関して意識が高い方は、「カルニチン」という名前を聞いたことがあるかと思います。
カルニチンは、アミノ酸が3つつながった比較的シンプルな構造をしており、体内でとても重要な役割を持っています。それは「長鎖脂肪酸を燃やすことをサポートする」という役割です。
私たちの体脂肪は、脂肪細胞の内部の大部分を占める「脂肪滴」という形態で蓄えられています。その成分は中性脂肪がほとんどで、さらにその多くは炭素数が16~18という「長鎖脂肪酸」が占めています。その長鎖脂肪酸を燃やすときに、ビタミンCとともに、カルニチンが必須なのです。
「脂肪の燃焼機関」の実態が、細胞の中に数多くあるミトコンドリアであることは先に説明したとおりです。
脂肪細胞に蓄えられた長鎖脂肪酸は、脂肪細胞の中にある脂肪を分解する酵素「リパーゼ」によって、「脂肪酸」と「グリセリン」というものに分解されて、血液中に出されていきます。そして血流にのって、各細胞の中へとり込まれていきます。
■カギを握るミトコンドリア
ただし、細胞内に入っただけでは、まだ燃えることはできません。その細胞内の中にある燃焼機関である、ミトコンドリアの中まで入り込まないと、燃やすことができないからです。
長鎖脂肪酸がミトコンドリアの中へ入り込むためには、ビタミンCとカルニチンの両方が必要となるのです。どちらか一方でも不足すると、長鎖脂肪酸は「脂肪の燃焼機関」であるミトコンドリアの中に入っていくことができないので、燃やしようがない、ということです。
ちなみに、「長鎖」以外の脂肪酸である、「短鎖」と「中鎖」の脂肪酸の場合は、ビタミンCもカルニチンも不要になります。短鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸は、ビタミンCやカルニチンがなくてもミトコンドリアの中に入っていけるからです。
以上、見てきたように、内臓脂肪が燃える体を取り戻すために、まずは5つの「栄養失調」を改善することから取り組んでみてください。「脂肪を燃やすサイクル」はここから始まります。
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水野 雅登(みずの・まさと)
医師
日本糖質制限医療推進協会提携医。両親ともに糖尿病家系だった自らの体の劇的な変化をきっかけに、糖質制限を中心とした治療を開始。97単位に及ぶインスリンの自己注射を不要とするなど、2型糖尿病患者の脱インスリン率100%という実績を打ち出す。糖質制限やインスリンを使わない治療法などの情報をブログ、Facebook、Twitterや講演会などで精力的に発信している。首都圏を中心に健康診断での診察も行っている。
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