厚労省の監視指導・麻薬対策課からBuzzFeedに抗議 「発言者を特定した記事、許容できない」 今後の審議会取材を拒絶する可能性も
「発言者の特定禁止」という謎ルールが設けられた厚労省の大麻検討会。最終回を委員の氏名入りで報じたBuzzFeedに厚労省から抗議の電話があり、今後の審議会の「出入り禁止」の可能性も示されました。BuzzFeedは厳重に抗議しました。
大麻「使用罪」の創設が議論された厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」(座長=鈴木勉・湘南医療大学薬学部設置準備室特任教授)。
この最終回のとりまとめについて、委員名を明記して発言内容を書いたBuzzFeedの2本の記事について6月15日、事務局の同省監視指導・麻薬対策課から、BuzzFeed Japan Medicalに対し、「発言者の名前が掲載されている」と抗議の電話があった。
山根正司・同課長補佐は、「傍聴申し込み用紙自体に法的拘束力はないが、御社の今後の審議会や検討会の入場に関しては検討する」と、今後のBuzzFeedの記者の傍聴を拒絶する可能性を示した。
BuzzFeedは、報道を萎縮させるようなこうした公的機関の圧力に対して厳重に抗議した。
1つの検討会のルールで、別の審議会や検討会も出入り禁止?
BuzzFeed Japan Medicalは参加前に、同課の担当者に「この留意事項は納得できない。国民に知らせる必要があれば報じる」と伝えた。担当者との協議の上、毎回、この「留意事項」を読んだという意味でチェックするという但し書きを添えて傍聴申込書を出し、傍聴してきた。報道内容を制限されるのは不当だと考えたからだ。
また、この「独自の傍聴ルール」について問題提起する記事も書いてきた。
この事前協議や但し書きについて把握した上での抗議なのか質したところ、山根課長補佐は「厚労省としても担当者との事前協議によりという文言は確認しているが、当課としては、内容や趣旨も理解いただいた上で参加していると思っている」と答えた上で、こう告げた。
「発言者を特定するような内容が掲載されたことは、当課としては許容し難いものですので、今後、御社の検討会や審議会の入場に関しましては検討させていただきたい」
つまり、この検討会内で一方的に押しつけたルールに従わなかったことを理由に、この検討会以外の審議会や検討会の取材や報道も、厚労省として拒絶する恐れがあるということだ。
大麻「使用罪」創設など、大麻取締法改正については秋に別に審議会が設けられて議論されることになっているが、暗にこれへの傍聴や報道を厚労省が拒否する可能性を示している。
監視指導・麻薬対策課は、発言者を特定しないルールを設けた理由について、「発言者等に対し外部からの圧力、干渉、危害が及ぶおそれが生じることから、発言者氏名を除いた議事録を公開することとしており、同趣旨から報道機関の方にも発言者の特定をしないようお願いしている」と答えている。
今回、発言者を特定した記事をBuzzFeedが出したことで、委員が外部からの圧力、干渉、危害を加えられた事実があるか確認したところ、「現状、私のところでは把握しておりません」と答えた。
しかも、検討会は6月11日の第8回目の会合をもって議論を終了し、結論を打ち出している。この検討会についてはもはや、外部からの圧力を受ける恐れはない。
なぜ「大麻や薬物の問題」だけ「危害」を心配するのか?
この検討会でのみ「発言者の特定をしない」という特別なルールが設けられている理由については、「大麻や薬物の問題は非常にセンシティブなので、発言者に圧力や干渉、危害が及んではうまく運営ができない」と改めて山根課長補佐は言う。
だが、医療の問題はある意味全てセンシティブだ。
例えば、ワクチンの副反応疑いについて検討する「厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)」ではワクチンに反対する人が委員や事務局に対して意見を言う場面もよくあるが、一般の傍聴も許されている。委員が退席するまで傍聴者は着席したままにするなどのルールを設けて、混乱はなく運営してきた。
大麻「使用罪」の創設は、国民の人権を一時的に停止し、強制的に拘束する要件を拡大するという重大な案件だ。この問題を議論するのに集められた専門家がどのような立場でどんな発言をするのかは、国民が知るべき内容だ。
この問いかけに対しては、山根課長補佐は「おっしゃることについては決して否定するものではない。今回に限っては事前に説明してご理解もいただいているものだと思うので、他の皆さんもご協力いただいているのでご連絡している。他(の報道機関)との平等を保つためでもある」と答えるに留まった。
一般の人が、審議会や検討会での議論に意見を表明し、委員にその意見を要望として伝えることは、民主主義国家では当たり前にあっていいことだ。
なぜ大麻や薬物の問題だけ他の問題と比べてことさら、「圧力や干渉、危害」が及ぶと判断するのか。違法薬物の使用者を取り締まる立場にある同課が大麻使用者らに対して抱く偏見を元にありもしない脅威を掲げ、議論をオープンにしない言い訳にしていないか。
この指摘に対しても、「(使用罪に)反対の立場だけでなく、賛成の立場からも圧力や干渉、危害はあり得る」と反論するのみだった。
なお、6月11日の最終回の審議終了後、BuzzFeed Japan Medicalが田中徹・監視指導・麻薬対策課長に現場でこの検討会の傍聴規制について理由を質したところ、こう答えている。
「委員名に関しては、僕は全て公表していいと思っていたが、委員が自分の名前を出してくれるなという人もいたわけだから、その方のご意見を尊重することは事務局として当然だと思っている」
報道の自由や国民の知る権利を軽視していないか?
根拠のない傍聴の「謎ルール」に従わない報道機関は、他の審議会や検討会の傍聴や報道からも排除するーー。
これが許されるなら、官庁側事務局の胸先三寸で、政府機関の意図に反する報道を制限することが可能になりかねない。それは、国民の知る権利と報道の自由の軽視を意味しないだろうか。
「官公庁が報道の制限を盾にする発言はそんな気軽にできることではない。『従わなければ今後入れないぞ。排除するぞ』と脅しをかけているようなものだが、その重大さがわかっているのか」と質したが、
「そういうことではない。これまで委員の氏名を書いていなかったのに、今回書いているのが確認されたので連絡しただけだ。傍聴させないと言っているわけではなく、今後の対応について検討させていただきたいと言っているだけ」と回答した。
今回の検討会は「傍聴希望者が多い場合は抽選にする」という形だった。事務局が意図すれば、傍聴者を制限することが可能な仕組みといえる。
BuzzFeed Japan Medicalは、「こうした一方的なルールに従わなかったということで、別の会議体まで取材や報道を制限することはあってはならない。報道機関にそのような脅しをかけるべきではない」と抗議した。
そして、今回の検討会でも委員に危害を加えるようなことが確認されていない以上、法案の中身を詰める今後の審議会では、国民に議論をオープンに伝えるためにも、過剰な傍聴制限のルールを設けないよう要望した。
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