コメ先物 農家はこう活用 堂島商取、本上場申請取り下げ
大阪堂島商品取引所は4日、コメ先物の試験上場の再延長を農林水産省に申請した。7月11日に本上場を申請したが、自民党の反発で取り下げた。主食のコメを投機対象とすることの抵抗感や、価格の乱高下への不安はなお強い。大阪堂島商取の主要銘柄である新潟コシヒカリで実際の取引に参加している新潟県内の生産者はコメ先物をどう使っているのか。3人に話を聞いた。
経営計画立てやすく
■木津みずほ生産組合・坪谷利之代表 新潟県で約45ヘクタールの水田で240トンのコメを生産している。昨年10月に「新潟コシ」が上場された際に取引に参加し、12トンを売った。以前から先物には興味があったが、新潟コシヒカリ単独での価格は分かりにくかった。先物取引は価格と量で合意できれば売り先が決まる。サンプルを持って自ら販売先を探す必要がない。
農協に出荷する場合はお盆すぎでないと販売価格が分からないが、新潟コシヒカリの場合、先物なら10月時点で翌年10月の新米価格が分かり、経営計画を立てやすくなる。売上高が分かれば、一定の利益を確保するために経費をどう抑えるべきか考えやすくなる。
コメが投機対象となるとの批判があるがコメは時間がたつと原則的に値下がりする。ワインのように特定の年代に価値がつくビンテージはなく、批判はあたらない。現物価格が先物の契約価格より高くなることもあるだろうが、最低価格が保証される意味が大きい。
販売先広がる
■新潟ゆうき・佐藤正志代表取締役 新潟県内で協力農家も含めて330~380ヘクタールで年700トン程度のコメを作っている。多くは販売先を決めて栽培しているため、コメ先物の売りのヘッジとしての活用は様子見だ。ただ昨年は豊作でコメが余り、卸業者も買ってくれなかった。都会の消費者から追加注文もあるので一定の在庫は必要だが、昨年収穫分は多すぎた。
そこでコメ先物の一種である「合意早(はや)受渡制度」と呼ぶ相対取引を使った。販売量を見ながら2月に40トンを売り、8月にも新米の収穫が近づいてきたので余りそうな10トンを受け渡した。先物取引は私1人の人脈とは比べものにならないほど多くの販売先にあたれる。業者が与信管理をしているため代金の回収リスクもない。
来年から国の生産調整がなくなり、縮む市場を理解しない農家がコシヒカリを作りすぎる可能性がある。先物があれば価格も見えるので収支計画を立てやすくなる。
納得価格で売る
■新潟農園・平野栄治代表取締役 昨年に新潟コシヒカリが単独で上場され、価格が分かりやすくなった。新潟県内の倉庫で受け渡しもできるようになり、運送料も考えなくて済む。
当社はグループ生産と周辺農家からの購入を合わせ、年2000トン程度を販売している。農家から販売を依頼された(すでに収穫済みの)コメについて、先物取引のなかの「合意早受渡」を初めて使ってさばいた。
この仕組みなら、価格に納得すれば売れる。市場を介さないと相手に足元を見られる不安もあるが、そうした懸念がない。頼まれたものなのでスピーディーに販売しないと農家も心配になる。
取引量を増やすためにもコメ先物は本上場のほうがいい。価格の目安ができ、関係者はこれに基づいて取引価格を考えられるようになる。全農の力が弱まりつつあるなか、より多くの農協が参加するのも有意義だ。
投機の懸念払拭 課題

コメ先物は一定期間後の価格を予想して売買する。先の取引価格を固定して天候などによる価格変動リスクを回避できる。一方、投機的な取引によって実際の需給とはかけ離れた値動きをする可能性もある。JA新潟中央会農業対策部の横山徹郎部長は「価格が変動しやすくなると、生産者は機械設備の更新計画などを立てづらくなる」としてコメの先物取引には反対の立場だ。
2018年産米からは政府によるコメの生産調整(減反)がなくなる。横山部長は「生産量が増えて価格が下がる事態も考えられる。先物取引による影響を見極めるべきだ」と指摘する。
このような農家の考えに敏感なのが自民党の農林族議員だ。同党は7月27日、本上場は容認しがたいとの意見をまとめた。その代わりに試験上場の再延長なら認める姿勢を示した。大阪堂島商取は「農家や外食業者に収支計画を立てやすくなる有益な手段として売り込んでいく姿勢に変わりはない」(幹部)という。本上場の実現に向けて、さらなる利用者目線の商品開発のほか、JAの全国組織を含めた生産者への周知活動が求められる。