矛盾深まる土地規制法案――数百万人の私権制限の恐れ。入管法に続き廃案しかない
与党が衆院採決強行した法案は立法事実なし。安保を口実に政府の恣意的運用許す
馬奈木厳太郎 弁護士
7.外国資本のリスクを理由とする政府のご都合主義。高市議員の暴論
5つめです。この法案は、自衛隊などの施設周辺の土地を外国資本が購入し、それが安全保障上のリスクになるということが法案提出の理由とされています。
一方で、政府はこの間、インバウンド政策を推進しており、外国人の観光目的での来日などを積極的に進めてきました。また、政府はIR政策も推進しており、カジノを備えた統合型リゾートの建設などを目指しているところでもあります。
そうであれば、当然、外国資本の流入も予定されるところであり、しかも北海道も長崎県も特定複合観光施設の区域整備に積極的な自治体で、航空自衛隊千歳基地周辺の外国資本による土地購入の事例も、苫小牧市がIR導入に積極的であることから、それを見越して香港資本がIR関連目的で購入したのではないかと考えられるところです(購入されたのは苫小牧市がIR施設の整備を予定している土地の隣接地です)。
政府が、一方でこうした政策を推進しておきながら、自衛隊などの施設周辺の土地の購入について、それが外国資本によるものだからということで直ちに安全保障上のリスクだとするのは、矛盾であり、端的にいってご都合主義としかいいようがありません。
妄想で法整備の必要を説く高市氏。国籍だけで敵と見なす発想

安倍内閣で総務相を務めた高市早苗氏=2020年7月3日
また、総務相や自民党政調会長を歴任した高市早苗衆議院議員は今回の法案について10年以上にわたって取り組んできたといい、
自身のブログで絶対に必要な法整備だとして次のように語っています。
当時の私が最も懸念していたのは、2010年2月26日に公布され、7月1日に施行された中国の『国防動員法』でした。
『国防動員法』は、第49条で「満18歳から満60歳までの男性公民及び満18歳から満55歳までの女性公民は、国防勤務を担わなければならない」とし、第26条では「必要な予備役要員を確保する」としていました。
外国在住の中国人も免除対象とはしておらず、国防勤務の対象者です。
また、企業経営者には予備役出身者が多いと聞いており、仮に日中間に軍事的対立が起きた場合には、中国資本系企業の日本事務所も中国の国防拠点となり得ますし、莫大な数の在日中国人が国防勤務に就くことになる可能性があります。
「仮に日中間に軍事的対立が起きた場合には……、莫大な数の在日中国人が国防勤務に就くことになる可能性があります」というのは、具体的には何を意味するのでしょうか。国内で中国人の人が蜂起でもするというのでしょうか。
日中間での軍事的対立が生じないようにし、対立関係を調整するのが議員の仕事の一つだと思いますが、それ以上に、「在日中国人が国防勤務に就くことになる可能性」を何の恥ずかしげもなく記述していることに驚きました。これはもはや妄想の類であり、「脳内リスク」としかいいようがないと思います。
ご本人が勝手に妄想されるのは自由ですが、「脳内リスク」で法律を作るのは言語道断です。しかも、多くの市民の私権を制限する法律であればなおさらです。
こうした発想は、行為ではなく属性に着目するものですが、とくに国籍などの大括りの属性で評価する点で問題です。個人主義を基底とする日本国憲法とも相容れないものですし、特定の人々をその属性ゆえに潜在的な脅威ないし敵だとする発想でもあります。今回の法案は、そうした発想をいわば公認することにもつながりかねません。極めて問題です。
「基地の被害者が加害者として監視される」本末転倒

2019年4月に墜落した航空自衛隊三沢基地所属の最新鋭ステルス戦闘機F35A。墜落3カ月前の姿=2019年1月7日、三沢基地
外国人との関係だけではありません。この間、沖縄県などは米軍基地の存在によって多大な犠牲を強いられ、多くの被害が出ています。最近も、米軍関係者による犯罪は続いていますし、米軍機の墜落や部品、窓などの落下物、騒音などの被害に加えて、有機フッ素化合物の流出の問題もあります。こうした被害から地域住民を守るのではなく、むしろ基地の方を守り、周辺の住民を調査対象にしようとする姿勢には、強い反発が示されています。
内閣委員会での審議で、沖縄県選出の赤嶺政賢議員は、「基地からの被害を受けている人たちは、基地機能の阻害の加害者の対象になる前に基地からの被害者だ」、「基地からの被害者が加害者として監視される、そういう性格を持った法律になっている」、「何よりも基地周辺の住民が、基地からの加害に対して反対の感情を増していく、こんなことで安全保障なんて存立できませんよ」と述べました。
加害者と被害者の転倒、守るべきものの優先順位の転倒がここには如実に示されていると思います。