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矛盾深まる土地規制法案――数百万人の私権制限の恐れ。入管法に続き廃案しかない

与党が衆院採決強行した法案は立法事実なし。安保を口実に政府の恣意的運用許す

馬奈木厳太郎 弁護士

拡大米軍横田基地。周辺には市街地がせまり、住宅が密集する=2018年4月10日、東京都羽村市、朝日新聞社ヘリから

4.指定区域拡大の可能性。日本全土が対象となり得ると政府認める

 2つめ。区域指定の対象として、法案では自衛隊や米軍とならんで、生活関連施設が規定されていますが、想定される対象として、これまでは原発と軍民共用空港が挙げられていました。ただ、条文上は生活関連施設として何が対象となるのかについては政令で定めるとしており、特段の限定がないことから、審議では原発と軍民共用空港のほかに想定されているものがないのかが議論となりました。

 この点、国民保護法施行令においては、生活関連施設として、発電所や水道用水の取水場、駅、放送局などを定めていることから、施行令との異同が質されることになりました。これに対し、政府側は、「現時点では、鉄道施設あるいは放送局などのインフラ施設につきましては生活関連施設として政令で定めることは想定してございません。ただし、どのような施設を生活関連施設として本案の対象とするかにつきましては、この先の国際情勢の変化あるいは技術の進歩等に応じ、柔軟かつ迅速に検討を続けていく必要がある。その結果として、将来的にそれらの施設を生活関連施設として政令で定めることはあり得る」と述べ、将来的には原発と軍民共用空港以外の施設にも拡大させる可能性を認めました。

 政令は、国会の関与を経ないで政府が定めることができますが、政令次第では、日本全土どこでもが調査対象となりうることを、政府自身が認めたことになります。

該当施設リストの公表を拒否した政府の詭弁

 また、生活関連施設の対象が限定されていないことに加えて、政府は、自衛隊や米軍、海上保安庁の施設について、特別注視区域や注視区域の要件に該当する施設リストを公表することも拒否しました。

 政府側は、「リストを公表した場合、防衛省が特に守りたい自衛隊の施設の数や配置が総体的に把握され、自衛隊の能力をより容易に推察することが可能になる。また、自衛隊の各施設の役割とその重要性は安全保障環境の変化に応じ変わり得ることから、防衛省が全国で特に守りたい重要な施設の現時点の配置を示せば、我が国の防衛戦略構想の一端を示すことにもなりかねない。これらの安全保障上の懸念を踏まえ、現時点の自衛隊施設の注視区域及び特別注視区域の候補リストを公にすることは差し控えさせていただきたい」と述べ、自衛隊の能力や防衛戦略構想が推知されることを拒否の理由に挙げましたが、区域指定された場合には官報で公示されることになっており、こうした答弁は詭弁としかいいようがありません。

拡大土地規制法案を可決した衆院内閣委員会。採決後、反対派が委員長席に詰め寄った。右は小此木八郎・領土問題担当相=2021年5月28日、国会内

全国の数百万人規模に影響か。不動産価格下落も

 内閣委員会の理事会にはリストをもとに施設を例示したペーパーが配布されたとのことで、それらによれば、防衛施設関係としては、注視区域が400か所以上、特別注視区域は100か所以上が法定要件を充たすとされており、特別注視区域についていえば、指揮中枢機能または司令部機能を有する施設として市ケ谷、朝霞、横須賀、横田など、警戒監視、情報機能を有する施設として与那国、対馬、稚内など、防空機能を有する施設として八雲、霞ケ浦など、離島に所在する施設として奄美、宮古島、硫黄島などがそれぞれ示されていました。

 対象となる施設は、首都圏はじめ、北海道から沖縄にまで及ぶもので、影響を受ける人々は数百万人規模になると予想されます。リストを公表しなかったのは、公表によって影響を及ぼす範囲が明らかになることによって、法案に反対する声が大きくなるのをおそれたのではないかと私は考えています。

 なお、特別注視区域に指定されると、重要事項説明の対象になるとされており、宅地建物取引士は売買契約にあたって説明を行うことが義務づけられます(注視区域については、今後検討する予定)。また、不動産価値の下落などの影響も考えられますが、政府は価値下落について補償する考えはないと明言しています。

 多くの人に影響が出る法案であるにもかかわらず、国民的議論となっていないなか、このように国民が知らないまま、国民に知らせないままでの審議が続いている状況は、適切だとは思えません。

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筆者

馬奈木厳太郎

馬奈木厳太郎(まなぎ・いずたろう) 弁護士

1975年生まれ。大学専任講師(憲法学)を経て現職。 福島原発事故の被害救済訴訟に携わるほか、福島県双葉郡広野町の高野病院、岩手県大槌町の旧役場庁舎解体差止訴訟、N国党市議によるスラップ訴訟などの代理人を務める。演劇界や映画界の#Me Tooやパワハラ問題も取り組んでいる。 ドキュメンタリー映画では、『大地を受け継ぐ』(井上淳一監督、2015年)企画、『誰がために憲法はある』(井上淳一監督、2019年)製作、『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』(平良いずみ監督、2020年)製作協力、『わたしは分断を許さない』(堀潤監督、2020年)プロデューサーを務めた。演劇では、燐光群『憲法くん』(台本・演出 坂手洋二)の監修を務めた。

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