※「クーポン値引き」は前受収益に含まれないという指摘を反映しました。
※「設備・備品」「ポイント引当」に関して数字を1桁間違えてた点を修正しました。
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の続き。
前の記事の最期では「DLSiteさん、売り上げは161億から250億まで伸びて絶好調!でも利益が0.58億しかないけど大丈夫?」という話をしました。
こちらを見ると、去年の純利益は8.87億でしたが今年は0.58億になっています。
これについて、ブコメでいろんな意見が寄せられていましたが、
・どうせ値引きクーポン濫発のせいでしょ? →具体的にどのくらいの数字だったのか?
・会員数増加でネットワークとか強化したんでしょ? →どのくらいの設備投資が必要なのか?
・クリエイターや社員へ還元してるならいいんじゃない? →どんな形で還元してるのか?
・他にもいろいろと投資したんだろうな →どんなところに投資していたのか?
このあたりについて貸借対照表を見ながら確かめていきます。 ちょっとした会計のお勉強がてら、DLSiteのことを知りたいという人はぜひ読んでみてください。
- ◆プラットフォーマーとして強い力をもつDLSiteは、本来なら営業利益率が20%あってもおかしくない
- ◆DLSiteが今年具体的にどんな投資活動を行っていたのか?を貸借対照表を見ながら確認していこう
- ◆結論 やはりPLを見ないとわからないことが多い(´・ω・`)
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◆プラットフォーマーとして強い力をもつDLSiteは、本来なら営業利益率が20%あってもおかしくない
DLSiteは楽天、boothと同じようなWebプラットフォーム事業です。
DLSiteの事業は「いろんなデジタル同人の取り扱い」です。FANZAと違い「物販」は取り扱っておらず在庫を一切持ちません。
DLSiteをプラットフォームとして利用する企業やクリエイターがモノを作ってそれが売れれば販売手数料を受け取るという仕組みです。
販売手数料は以下の通り。多くのクリエイターは低価格帯の商品を販売しているため、粗利は3~4割です。
売上は250億に対して、従業員は250人! 売り上げにおける人件費はかなり少ないです。
主な費用は、システム開発費用などの設備投資のほか、サーバー運営や広告費(特にアフィリエイト費用やクーポン費用)になります。
つまり、一切売り上げ拡大などを目指さずに、コストを極端に抑えれば営業利益率30%も可能・・・ということ。
実際に電子書籍のプラットフォーマーは営業利益率10%以上を確保している
だいたいの場合は持続的な成長を維持するための投資や販売施策に費用を使うので、営業利益10~15%というのが普通です。
以前に競合のひとつである電子書籍プラットフォームを運営する上場企業の営業利益をまとめたのでご覧ください。だいたい10~15%の範囲にいます。
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エイシス自体は非上場企業なので、貸借対照表で純利益しかチェックできない =営業利益率は高い可能性がある
エイシスは非上場企業ですが、毎年の決算をHPで公開してくれています。
22期(平成28年3月31日):1億
23期(平成29年3月31日):1.9億
24期(平成30年3月31日):1.6億
25期(平成31年3月31日):5億
26期(令和 2年3月31日):-0.2億(純利益は8.87億。9億円は親会社のゲオに配当として吸い上げられている)
27期(令和 3年3月31日):0.57億
これを見ると、利益を出そうと思えばいつでも利益が出せるが(実際に3年前までは売り上げに応じた利益が出ている)、利益を出しても親会社に吸い上げられてしまうので成長戦略のために利益をガンガン投資に回しているのでは?という見立てができます。
この辺りは上場企業であればPLで営業利益率を見て、あとキャッシュフロー計算書で投資キャッシュフローを見れば一目瞭然なのですが……みたいなあ……。
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◆DLSiteが今年具体的にどんな投資活動を行っていたのか?を貸借対照表を見ながら確認していこう
というわけで、ここからはBS(貸借対照表)と、今年のニュースを確認しながら見ていきます。
貸借対照表載せておけば会計に詳しい人がいろいろコメントをしてくれるはず……(他力本願)
チェックについての考え方を一応書いておきますが、なんとなくでいい人は画像だけ見てもらえばわかります。
まず資産・負債という大きな枠で見て数字の変化をチェックする。
まず左側全体で見てみると、総資産が去年40億だったのに57億に増えていることがわかります。
ここで左側がお金の使い方で右側が資金の調達方法だということが分かっていれば、「なんかの方法でお金を調達したんだな」「あるいはなんか支払いを先送りにするようなことが増えたんだな」と考えられます。
なので次は右上を見ます。すると負債の部に「短期借入金」が10億円ポンと増えていることがわかりますね。
併せて、純資産の部分はほとんど変化がないこともチェックしましょう。
10億円も資金調達したということは何かに使うはず……いったい何に使ったかをチェック。
というわけで、調達した資金を何に使ったかを見ます。ところが、実際には現金が9.4億円増えただけになっています。
ということは、これから何か大きなことに使うんだろうな……というのがわかりますね。(クーポン発行で流出するCFを維持ための可能性もあり?)
と、こんな感じで変化が大きい部分をサイゼリヤの「間違い探し」のような感じでチェックしていくことになります。
慣れてくるとある程度仮説を持って見るようになり、チェックする部分は限られてくるのでパパッとこなせるようになりますよ。
今回は一つずつ見比べていきましょう。
特にお金の使い方が大事なので「固定資産」の部分は要チェックです。
まずは有形固定資産。物理的な設備投資の部分をチェック
ここちょっと自信がないので詳しい人いたらツッコミをお願いいたします。
最初は人員増加に合わせてオフィス設備や社内のネットワーク等に設備投資してるのかと思ったんですがサービス提供はクラウドでやっているので、ネットワーク費用の増加はBSではわからないようです。
次に無形固定資産。今度はシステム面での投資をチェック。
昔の企業とかだとこの部分がすごくしょぼいのですが、さすがWebプラットフォームで儲ける企業だけあって、めちゃくちゃ投資してますね。1年で一気にソフトウェア資産が1.9億→3億まで増えた上に、作りかけのシステムが0.7億→2.1億と今現在もゴリゴリ開発中なのが分かります。
サイト改修もそうなのですが、DLSiteビューワーの改良、「ボイスコミック」関連投資を行っています。
そしてもう一つ、これがめちゃくちゃでかいのですが実はDLSiteさんも「DLSiteにじGames」というものをやっていたのですが、「DMM」に負けじとここにかなり力を入れ始めたのです。知ってた?
「にじよめちゃん」のことは知っててもにじGamesのこと知らない人多いんじゃないかと思うんだよね……。
実は前回のDLSiteの記事であえて紹介しなかったんだけど、「誰一人ツッコミが入らなかった」ことがその知名度の低さを物語っていますね。
今まで絶好調だったDLSiteさんですが、ここは成功するのかどうかが正直わからない分野で注目しております。
未払金が一気に3倍くらいいなってるけれどもしかしてこれがクーポン値引きの影響?
さて、みなさんも気になっていると思われる「クーポン値引き」と「アフィリエイト報酬」ですが、これがどの勘定項目に該当するかがよくわからない。
明確にDLSite運営側が負担していると思われるのは人気のあるクーポンは15%~18%オフです。※ちょうど6月7日までクーポンが利用可能になってるので「サムライヴァンダリズム」は今の内に買っておくことを強く推奨です。
それとは別に「エロ漫画50%オフクーポン」みたいなのをちょくちょくやっていますが、これらは登録している業者が独自に負担しているケースが多いと思います。
ということで常時15%負担をやってるわけではないので、売り上げの5%から多くて10%くらいの負担になっている項目があればそれがクーポンによる割引負担と考えられます。
ここで厄介なのが、DLSiteの費用として考慮すべき項目はクーポン割引だけではなく、もう一つあるということです。(明確に居場所が分かっている「ポイント還元」を除く)
それがアフィリエイト報酬(商品売り上げに対して10%の報酬をアフィリエイターに払う。ポイント受け取りの場合は12%)です。こちらもすべての売り上げに対して発生するわけではないと思いますが、ぶっちゃけDLSiteの売り上げはかなり目にアフィリエイト経由が大きいと思ってます。なので、こちらも売り上げの5%程度は発生していると推測します。
・クーポンによる割引(売り上げに対する比率は5%から10%と思われる)
・アフィリエイト報酬(売り上げに対する比率は5%程度と思われる)
しかし、この条件で探してみてもぴったり当てはまるものがないんですよね……。(そもそもないのかもしれません)
怪しいのは「未払金」と「前受収益」ですが……額が大きすぎます。
・未払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、既に提供された役務に対していまだその対価の支払が終らないものをいう
・前受収益は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を行う場合に、いまだ提供していない役務に対して当期に前もって支払を受けた対価を計上するための経過勘定である。
どっちも売り上げ時に直接費用計上されてるのであれば、BSでは数字がわからないということになり、推測するしかなくなります。
というわけで、これに関しては「BSだけではわかりません」としか言いようがないです。
一応書いておくと、売り上げ250億に対して売掛金残が13億や買掛金残が17億ということは基本的に支払いの清算は1か月以内に行われているということになります。
実際、私はDLSiteのアフィリエイトをやっていますが、報酬やポイント還元などは毎月決まったタイミングで支払われています。なので、どちらに計上するにせよ、1か月分以上は溜まっていないと思われる=逆にいうと、勘定科目に載っているのであればそれが約1か月分ということになります。勘定科目のどっちになるかは凄く気になるところです。
追記:有識者コメントによると
・ エイシス側原資のクーポン費用は売上時費用化してる気がするし性質上前受収益とはちょっと違う気がする。
・クーポンの処理に前受収益は使わない / クーポンによる先行支出での集客意図は間違いないと思うが、販管費で処理してると思う
とのことです。ありがとうございます。
これだけではなくポイント引当金が1億円くらい積まれている
利用者の方はご存じかと思いますが、DLSiteはただでさえクーポン値引きをしまくっている上にいろんな形で「DLSiteポイント」というのを配っています。
そもそも購入時のポイント還元が10%ありますし、レビューやツイートキャンペーン、アフィリエイトなどなどでDLSiteポイントをゲットする機会が非常に多いのです。
私は去年81000円分をDLSiteで消費していますが、ほとんど現金を使ってません。
昨日も「アトリエかぐや過去作品が10本10000円(6月7日まではクーポン併用で8200円)で買える」というセールがあったのでさっそく購入しましたが、見ての通り全部ポイントを使って購入しています。
とにかくこのコロナ特需を逃がすまいと、利用者を増やすためにクーポンを大量に放出し、さらにポイントもばらまきまくってくれているので利用者には大変ありがたい状況になっているんですね。みんな、DLSiteで買い物をするなら今やで……。
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◆結論 やはりPLを見ないとわからないことが多い(´・ω・`)
というわけで、まずはBSから推測できる内容をまとめるとこんな感じ。
・250億の売り上げに対して、本来であれば粗利は60億~80億はあると思われる。
・年内に4回実施した大規模クーポン値引きおよびアフィリエイト費用の合計は10%強とみると、20億~30億程度かかってると思われる。(ただしBSの勘定科目では確認できず)
・さらにポイントを多様な方法でばらまきまくっており、こちらも結構な額になっている。(引当金が1億ということは、溜まってるポイントはその倍くらいあると思われる)
・それでも30億以上の利益は残りそうだが……30億も投資しているのだろうか?
BSでわかるのは「ネットワークの増強・設備投資・人員増強による採用費増」
「にじGAMES強化のためのゲーム会社買収・新規音声サービス(ZOWAなどへの投資)」なのであり、これらは3億円程度と意外と少ない。
まだ30億から35億円が行方不明になってます。
次は残り30億~40億円の使い方の行方を想像しつつ、「クリエイター還元」や「新規事業」について見ていこう
BSでわかるのお金の使い方は設備投資の部分だけであり、推測が可能な部分を除いてもまだ30億~40億くらいのギャップがあります。
これらについて正確な数字はPL(損益計算書)を見ないとわかりません!ですが、今年一年の活動を見ることである程度推測することはできます。
①一番大きいのは「ユーザー数増加によるネットワーク費用(クラウド費用)の増加」だと思われる。
②販促のためにアフィリエイト以外にも広告宣伝費を結構使っているはず。(一時期「ひぐま屋」の広告をよく見かけた)
③2021年3月から6月にかけて、大々的に「クリエイター還元」などの施策を行っている。
④新規事業に関連して人員も増強しまくっている。
というわけで、(2/2)では具体的に「クリエイター還元」や「新規事業」についてどのようなことをやっているかについて見ていきましょう。
というわけで続き書きました。
www.tyoshiki.com
この部分を書きたいために今まで頑張ってきたので、どうか読んでほしい……。
私のように会計知識皆無な人間が適当に読んでも割といろんなことがわかる
ご覧いただければわかると思いますが、私は簿記知識は皆無です。
なんとなーくで読んでますがいろいろ推測できて面白いですよね。
BSだけだとわからないことが多いですが、PLも合わせてみるとさらにいろんなことがわかってすごく楽しいですよ。
こんな感じで厳密に考えなくても企業の数字見てはあーだこーだ言い合うのはとても楽しいと思います。
このあたりに興味がある人はぜひ「会計クイズ」って本を読んでみてください。
おまけ
これがトライシスの事業譲渡のぶんかな?
2期前の純利益5億だったのでこれに対して2億程度の税金がかかるのはわかるけれど、なぜ翌年還付がこんなに大きいのだろう?
有識者コメント。
一定額の法人税が発生すると翌期に中間納税として前期の法人税額に基づいた金額を前納する。その期に前期より利益が出なかった場合は中間納税額が当期の法人税額を上回るので未収還付法人税等が計上されるよん。
ありがとうございますー。
switch7
興味深いです
次回も楽しみにしてます!
Nush
未払金のとこで未払費用の説明してますけど別物なのですごく気になります。
未払費用は期間帰属が関わるもので、未払金は期中に単発的に発生したものです。
ここからは推測なんですが、
未払金の増加は素直に考えたら無形固定資産の投資のうちの未精算分が多く含まれているように思えます。
前受収益はポイントの残高じゃないでしょうか。
ポイント購入時の仕訳を考えると (現金)/(XXX) になりますが、XXXに当てはまりそうなのが預り金か前受収益ぐらいです。
まあこの辺はBSだけじゃわからないので結論は同じになります。
よしき (id:tyoshiki)
ありがとうございます!
後ほど修正したいと思います