支部長ご挨拶

2020年10月より、尊厳死協会四国支部長を拝命いたしました西口です。
四国支部の業務引継ぎにあたり、えひめ尊厳死を考える会と尊厳死協会四国支部の設立に尽力され、初代支部長を務められた越智昭三さんのことをお聞きし、当時の四国支部と四国各県の尊厳死を考える会の皆さんが作られた四国支部の会報誌を拝見しました。そこには理事や会員の方からの投稿が掲載されていて、尊厳死の希望が叶えられる社会の実現にかける情熱の熱量の多さに圧倒されました。野元前支部長のご厚意で、越智さんが平成5年に自費出版された「尊厳死を考える」という冊子と、会報誌である「リビング・ウィル四国」をお預かりしましたが、この中で感じたのは、尊厳死協会設立当初は、尊厳死のことについて十分に学び、考えを深められた方々が、自分の希望する尊厳死を実現してもらうために尊厳死協会という団体を必要としていた、という状況であったのだろうということです。延命至上主義の考えが強かった当時は、積極的治療の非選択という考えは一般的ではなく、回復の見込みのない状態となった際に延命処置をしてほしくないという希望は聞き入れてもらえない可能性が高いため、尊厳死協会の会員になる方は尊厳死を宣言し、その宣言書を協会本部が管理し尊厳死が実現されるための助言や周囲への働きかけを行う、という仕組みとなり、さらに尊厳死が法的に認められる必要があると考え、法制化に向けた活動をされていたのだと思います。
しかし、20年の時が経過し、医療現場では延命的な処置も含めてどこまでの医療行為を望むのか、ほぼ一律に本人や家族に確認するようになっており、延命的な治療を希望されない方のカルテには「DNR(延命処置拒否)指示あり」と明記されるようになっています。また、「アドバンスケアプランニング(ACP)」、「人生会議」という、延命処置をする、しないも含めてこれまでの人生をふり返りながら、本人の価値観、人生観に基づいて事前に家族や医療者と話し合う機会を持つことを勧められるようになっており、協会を取り巻く社会や、一般の方々の考え方が変わってきているように感じます。その意味では以前ほど尊厳死の実現は難しくはなくなっていて、協会の会員数が徐々に減少しているのもそういった状況を反映しているのかもしれません。しかし、先般ALSの患者さんの言われるがままに、主治医以外の医師がその患者さんに安楽死を実行し、嘱託殺人の罪に問われるという事件が起こり、その報道の中では尊厳死と安楽死を同一視するような報道や意見も見受けられ、尊厳死の思想はまだ十分には理解されていないと考えます。また、先述した「リビング・ウィル四国」の中で越智さんが「尊厳死の願いを実現するためには、家族と医師の協力が肝要であること、末期に世話になるであろう家族や近親者には、「尊厳死の宣言書(リビングウィル)」を見せて、日ごろから自分の意思をはっきり伝え、よく理解しておいていただくようにしましょう。また、いまお世話になっている医師には、リビングウィルを見せて自分の意思を伝え、同意していただくようにしましょう」と述べられており、これこそACPであると思いますが、20年経ってもこの思想の普及はまだまだ不十分なのだと思われます。
尊厳死協会は今年4月に公益財団法人となり、協会の活動は尊厳死の法制化を主軸にするのではなく、終末期に至るまでの医療に関する自己決定が保証されるよう、リビングウイルの普及啓発に努めることを主体とすることになりました。時代の変化の中で尊厳死協会の役割、活動成果もより会員各人に近いものとなり、現時点では会員ではない、一般の市民の意識変容を促すことをも求められるようになると思われます。
まだまだ若輩であり、四国支部支部長としてどこまでお役に立てるか不安もありますが、皆様のご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

四国支部長 西口 潤

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