原作通り、暗黒期を体験している。
原作通り、リューさんが復讐している。
原作通り、ベルがオラリオに来てヘスティアと暮らしている。
原作通り、迷宮都市オラリオは。
迷宮都市オラリオ。
それはこの世界で最も有名な都市の名であり、最も発展している都市の代表格でもあり、同時に最も特殊な性質を持つ世界の中心地の名前。
そこにはあらゆる場所から多くの野心を持つ者達が集まり、各々が見定めた神々の恩恵を受けながら力を持ち、危険に満ちたダンジョンへと足を運んでいく。
そうして手に入るのは、富か、名声か、力か。
……それとも、絶望か。
天界から降りた神々と、変化を求めて集まるその子供達。
波乱と混乱に満ちた1000年に渡る歴史の末、オラリオという都市は今漸く平和を掴みつつある。
そして今日もそんな街に1人、新たな冒険者候補が足を踏み入れた。
side???
「ふう、ここがオラリオですか。……聞いていたよりも、なんとも複雑な表情をした街ですね」
私が門番さんに見送られながら大きな門をくぐると、そこには様々な種族の人々が入り乱れる広大な都市の姿があった。
これまで見てきたどんな町よりも若い人々が多いせいか、あちらこちらから快活な声が聞こえてくる。
その賑やかさにはこちらが少したじろいでしまうほどのピリピリとした圧力を感じるが、同時に長旅で疲れきった身体に新たな活力を与えてくれるような明るいものだ。
今一度旅で疲れ切った身体を伸ばし、改めて存分にこの街を見渡すと、私は軽く頬を叩いて気を引き締める。
「さて、とりあえずは宿をとって、"ロキ様"を探さないといけませんね。あの方は『有名な神だから誰かに聞けば直ぐに分かる』と仰っておられましたけど……こうも元気な街に来た事は無いので、誰かに話しかける事すら気後れしてしまいそうです」
そう言いつつも近くに見えた宿屋の受付さんに自然と宿を取る旨を伝えることが出来るのだから、自分も相当に慣れたものだなと思う。
それこそ受付さんは、厳つい顔つきをした筋肉隆々の如何にもと言ったスキンヘッドの男性なのに。
宿の代金はやはり他町の宿と比べればそれなりに高い方だった。
選んだ宿が他の宿よりも安いと気づいた時には2度驚いた。
それでもある程度の纏まったお金を持ってきたおかげで何とか十数日程度ならば泊まることが出来そうであったし、足りないようであればダンジョンデビューという手段も取れるのは、この街ならではの良さなのかもしれない。
とは言え、その前にまずは目的も果たさなければならない。
これからまた忙しくなりそうだ。
ちなみに見た目に反して意外と人の良いスキンヘッドのおじさんは、"ロキ様"と言えばオラリオ屈指の探索系ファミリアの主神様であるということを教えてくれた。
おまけにロキファミリアの本拠地が存在する場所を地図に記してくれるなど、本当に色々と良くしてくれた。人は見かけによらないとは言うが、このおじさんもそういう人なのかもしれない。
……いや、厳つい顔をしていながら実は優しいというギャップも魅力の一つなのだろうか?きっと彼は近くに居て付き合いの長い女性からモテるタイプに違いない。
それなりに生活が安定してきたらこの宿のことを宣伝しようと心に決めて、私は宿を出た。
ロキファミリアの本拠地は、北メインストリートから1つ外れた街路の脇にある、『黄昏の館』という場所だそうだ。おじさん曰く『行けば分かる』とのことだったが、確かにこうして見てみるとそう言った理由がよく分かる。
"館"というよりは"城'と言った方が正しい気もするが、他の建物と比べても規模もデザインも一際目立ち、正に都市最大のファミリアの本拠地に相応しい場所だと感じた。
きっと設計者も購入者も、どちらも満足のいく逸品だったに違いない。こうして見る外観だけでも隅々まで拘りを感じるのだから、果たして内装はどんな感じになっているのだろうか。想像するだけでもワクワクさせてくれるのは観光地を訪ねた時の感覚に近い。
そしてその肝心のロキ様については……
「申し訳ありません。生憎、主も幹部の人間も全員遠征の打ち上げに行っております。恐らく戻ってくるのもかなり遅い時間になると思いますので、大事な用でしたら明日また来て頂いた方が宜しいかと」
「あや……それは、仕方ありませんね」
なんとも丁寧な口調の門番の彼が言うに、ロキ様は現在ダンジョンから帰ってきた方々と共に、街の酒場へと乗り込んで行ってしまったらしい。
とは言え、神様から神様への手紙を渡すという重要な役割を担っているのだから、『帰ってきたら渡しておいて下さい』なんてわけにもいかない。
知らない街で夜中に出歩く勇気も無ければ、夜中に人様のお宅を訪ねるなんて常識の無い行動も出来ないため、確かに今日は彼の言う通りに日を改めた方がいいだろう。
幸いにも門番の彼はとても紳士的だった。きっと頼めば明日また来るという事を伝えておいてくれるに違いない。
(……ん、少しお腹も空いてきたかも)
それに、そろそろ夕食の頃合いだ。
宿では食事は出ない上に、これから自炊をするというのも時間的にあまりよろしくない。
そうなれば今日は外食にしようかと門番の彼にオススメの食事処を訪ねると、彼は西のメインストリートにある"豊穣の女主人"と呼ばれる酒場を紹介してくれた。
少々値は張るが、その分味とサービスは保証できるという。
おまけにお店には腕の立つ店員も居り、安心して食事が出来るとのことなので、私は即断でその店に行く事を決めた。
そんなに良い所なら常連さんになってもいいかもしれない。この街に長期的に住む予定なのなら、行きつけの店の一つや二つは作っておくべきだろう。
「色々とお世話になりました、また明日来ますね」
「表通りまで送りましょう、細道は危険で迷い易いですから」
「いいんですか……?ありがとうございます」
人の良さそうな彼に再度お礼を述べると、彼は大通りまで私を送ってくれると言ってくれた。
私自身、特別運が良い方ではないのだが、ここに来てからどうも人に恵まれているような気がしている。
これも神様のご加護なのだろうか?
これから行く酒場も楽しみになってきた。
宿屋のおじさん
スキンヘッドの厳つい顔をしたおじさん、とても優しい。
オリキャラ、2度と出てこない。
ロキ・ファミリアの門番の紳士
ロキを主(あるじ)と呼ぶくらい紳士的なお兄さん。
オリキャラ、忘れた頃にあと一回出てくる。