名古屋駅からJR東海道本線で10分ほどと近い愛知県稲沢市。
この稲沢では「便所開き」という儀式を行う地域があるそうです。
清水藍が“東海地方のちょっと変わった風習”を調査する「いくしか!不思議探検隊」では、稲沢の歴史に詳しく、自身で3回「便所開き」を行い、10回以上招かれた経験もある浄念寺前住職の桜井宣雄さんに伺いました。
『河原崎辰也 いくしかないだろう!』から。
愛知県稲沢市に伝わる謎の風習「便所開き」
新築した家のお披露目
家屋の骨組みまで組み上げた時に、お祝いの儀式(建前・棟上げ・上棟式」で餅をまく風習は全国各地にあります。
稲沢市に伝わる「便所開き」も、そんな新築にまつわる風習だといいます。
桜井さんによれば、具体的には、新築した家に知人を招いてトイレで抹茶を飲むというもの。
家のお披露目として、近所の人や親しく付き合いのある方々を呼んで、まだ誰も使っていない真新しい家のトイレで抹茶とお菓子を振る舞います。
トイレでお茶菓子をいただく…と想像しただけでなんだかシュールな画です。
稲沢市に伝わる「便所開き」も、そんな新築にまつわる風習だといいます。
桜井さんによれば、具体的には、新築した家に知人を招いてトイレで抹茶を飲むというもの。
家のお披露目として、近所の人や親しく付き合いのある方々を呼んで、まだ誰も使っていない真新しい家のトイレで抹茶とお菓子を振る舞います。
トイレでお茶菓子をいただく…と想像しただけでなんだかシュールな画です。
どんな感じで行うの?
この「便所開き」、風習というからには、長く続いているものですが、昭和30年くらいまでは和式便所がほとんどでした。
当時は和式の穴の部分に板を2枚くらい被せ、便器に蓋をして、その上に座布団を敷き、正座をして1人ずつ抹茶を飲む…といった感じでした。
現在は洋式のご家庭がほとんどですから、洋式トイレの蓋を閉じ、その上に座布団を置いて腰かけ、出された抹茶をゆっくり飲んでいきます。
当時は和式の穴の部分に板を2枚くらい被せ、便器に蓋をして、その上に座布団を敷き、正座をして1人ずつ抹茶を飲む…といった感じでした。
現在は洋式のご家庭がほとんどですから、洋式トイレの蓋を閉じ、その上に座布団を置いて腰かけ、出された抹茶をゆっくり飲んでいきます。
雑談しながら順番待ち
近所の方や親しい友人など、だいたい10~15人くらいを招待するそう。
トイレは狭いので何人も入れません。そのため招待された方はお座敷で、便所開きの順番を雑談をしながら待っています。
前の人が終わったら「次、あんたが行きゃあ~」といった感じ。
「便所開きは、地域のコミュニケーションの場になっているんです」と桜井さん。
近所の人の家をお祝いしつつ、みんなで集まって世間話をすることでメリットが生まれるようです。
トイレは狭いので何人も入れません。そのため招待された方はお座敷で、便所開きの順番を雑談をしながら待っています。
前の人が終わったら「次、あんたが行きゃあ~」といった感じ。
「便所開きは、地域のコミュニケーションの場になっているんです」と桜井さん。
近所の人の家をお祝いしつつ、みんなで集まって世間話をすることでメリットが生まれるようです。
ドア開けっぱなしのティータイム
自分の順番になると、トイレに移動して腰かけます。
そこへ、家主がお抹茶とお菓子を届けたり、あるいはトイレットペーパーの棚にお菓子が置いてあり、それらを頂きながら、ドアを開けっぱなしで家主との雑談を楽しみます。
「もう一杯いかがですか?」「このお菓子はどこそこの…」などちょっとしたティータイムとなるそうです。
ただ、便所開きが一通り終わるまでの間、当然そのトイレは使用することができないので、近所の人のトイレを借りることになるとか。
地域の方の理解があってこそです。
そこへ、家主がお抹茶とお菓子を届けたり、あるいはトイレットペーパーの棚にお菓子が置いてあり、それらを頂きながら、ドアを開けっぱなしで家主との雑談を楽しみます。
「もう一杯いかがですか?」「このお菓子はどこそこの…」などちょっとしたティータイムとなるそうです。
ただ、便所開きが一通り終わるまでの間、当然そのトイレは使用することができないので、近所の人のトイレを借りることになるとか。
地域の方の理解があってこそです。
抹茶を飲む理由
広大な濃尾平野にある稲沢市周辺は、昔から農業が盛んな地域です。
11時や15時には、農作業の手を休めて田んぼのあぜ道で抹茶を飲んだものです。
こどもたちが家から畑までお湯の入ったやかんをおつかいとして持っていく、というのが日常風景でした。
昭和30年頃からは抹茶の他にコーヒーや紅茶も飲まれるようになり、場所によっては喫茶店で休憩するようになりましたが、それまで家で休憩の時に飲むものは抹茶と決まっていました。
また、庭先や縁側などで抹茶を飲みながら休憩している時、近所の人が通りがかると「ちょっと抹茶飲んでいかんか」と声を掛け合ったといいます。
このように稲沢は、自然と昔から抹茶文化が根付いた地域と言えます。
人が集まると必ず抹茶を飲む。この風習が「便所開き」にも繋がっていると桜井さんは説明します。
11時や15時には、農作業の手を休めて田んぼのあぜ道で抹茶を飲んだものです。
こどもたちが家から畑までお湯の入ったやかんをおつかいとして持っていく、というのが日常風景でした。
昭和30年頃からは抹茶の他にコーヒーや紅茶も飲まれるようになり、場所によっては喫茶店で休憩するようになりましたが、それまで家で休憩の時に飲むものは抹茶と決まっていました。
また、庭先や縁側などで抹茶を飲みながら休憩している時、近所の人が通りがかると「ちょっと抹茶飲んでいかんか」と声を掛け合ったといいます。
このように稲沢は、自然と昔から抹茶文化が根付いた地域と言えます。
人が集まると必ず抹茶を飲む。この風習が「便所開き」にも繋がっていると桜井さんは説明します。
トイレの材木へも感謝
しかし、なぜそれをわざわざトイレで行うようになったのでしょう?
桜井さんによれば、家を建てる時には欠かせない「材木」が大きく関わっているそうです。
人目につく座敷や玄関に使われる材木は 太くて立派なものが多いため、客から「これはどえりゃあ立派な木ですね」などと褒めてもらう機会があります。
お客さんに出されたお茶や菓子の香りを、家主と一緒に楽しむ機会にもたくさん恵まれます。
一方、トイレの材木は、同じ山から切り取って来られたのにたまたま節があったり、日当たりや栄養の関係で細くなってしまったり、という理由でトイレに使用されます。
そういうところに使われた材木は、誰にも褒めてもらえず、ましてやお茶の香りなど嗅ぐことはありません。
こうした不幸な立場にあるトイレの材木にもきちんと感謝し、最初くらいお茶の香りを存分に満喫しんでもらおうという精神が、「便所開き」の風習には息づいているそうです。
桜井さんによれば、家を建てる時には欠かせない「材木」が大きく関わっているそうです。
人目につく座敷や玄関に使われる材木は 太くて立派なものが多いため、客から「これはどえりゃあ立派な木ですね」などと褒めてもらう機会があります。
お客さんに出されたお茶や菓子の香りを、家主と一緒に楽しむ機会にもたくさん恵まれます。
一方、トイレの材木は、同じ山から切り取って来られたのにたまたま節があったり、日当たりや栄養の関係で細くなってしまったり、という理由でトイレに使用されます。
そういうところに使われた材木は、誰にも褒めてもらえず、ましてやお茶の香りなど嗅ぐことはありません。
こうした不幸な立場にあるトイレの材木にもきちんと感謝し、最初くらいお茶の香りを存分に満喫しんでもらおうという精神が、「便所開き」の風習には息づいているそうです。
便所開きと健康の関係
この風習には病気予防などの健康祈願の意味がある、との説がありますが、これについて「関係ありませんよ(笑)」と言う桜井さん。
通常トイレではお茶を飲みたがらないので、便所開きの時にお茶を飲ませるため、健康と結びつけた後付けの説なんだとか。
例えば「ひな祭りが過ぎてもお雛様を出したままだと嫁入りが遅くなる」という忠告と同じようなもので、ご褒美(健康)をあげるからちゃんと便所開きしなさい、ということのようです。
「便所開き」の本来の目的は、感謝を伝える風習。
そのため、稲沢では新居に住む前、引っ越しの段階で“仏壇の魂入れ”と同じように「便所開き」も大切な風習として今に伝えられています。
一件シュールな風習ですが、その基本に「感謝の気持ち」があると聞き、ほっこりしました。私も機会があれば「便所開き」をやってみたいと思います。
(清水藍)
通常トイレではお茶を飲みたがらないので、便所開きの時にお茶を飲ませるため、健康と結びつけた後付けの説なんだとか。
例えば「ひな祭りが過ぎてもお雛様を出したままだと嫁入りが遅くなる」という忠告と同じようなもので、ご褒美(健康)をあげるからちゃんと便所開きしなさい、ということのようです。
「便所開き」の本来の目的は、感謝を伝える風習。
そのため、稲沢では新居に住む前、引っ越しの段階で“仏壇の魂入れ”と同じように「便所開き」も大切な風習として今に伝えられています。
一件シュールな風習ですが、その基本に「感謝の気持ち」があると聞き、ほっこりしました。私も機会があれば「便所開き」をやってみたいと思います。
(清水藍)
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