英アストラゼネカ製ワクチン、接種者7人が血栓で死亡
ジェイムズ・ギャラガー保健・科学担当編集委員
イギリスの保健当局はこのほど、英オックスフォード大学/アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンを接種後に、血栓によって死亡した事例がこれまで7件あったと、BBCの取材で認めた。
医薬品・医療製品規制庁(MHRA)のデータでは、3月24日までに同ワクチンを接種した1800万人のうち、30人に血栓が生じたことが分かっている。
ただし、血栓がワクチンによるものか、自然発生したものかは明らかになっていない。
MHRAはアストラゼネカ製ワクチンについて、リスクよりも効果の方がなお上回っていると説明。世界保健機関(WHO)と欧州医薬品庁(EMA)もこれに賛成している。
アストラゼネカの広報担当者は、「患者の安全が我が社の最優先事項だ」と語った。
しかし、血栓をめぐる懸念によってドイツやフランス、オランダ、カナダなどでは、同ワクチンの使用を高齢者に限定している。
MHRAが4月2日に発表したデータによると、これまでに22件の脳静脈洞血栓症(CVST)が報告されている。
CVSTは、体内の血小板の減少と共に起こる。MHRAはさらに別の8人から、血小板の減少に伴う別の血栓症を確認した。
その上で、BBCへの電子メールの中で「残念ながらうち7人が亡くなった」と認めた。
MHRAのジューン・レイン長官は、「COVID-19感染と合併症を防ぐ効果は(中略)あらゆるリスクを上回っている。引き続き、ワクチン接種のお知らせが来たら受けに行ってほしい」と述べた。
研究チームは現在、アストラゼネカのワクチンがこの非常にまれな血栓の原因かどうかを調べている。EMAは先週、「証明はされていないが、可能性はある」と述べている。
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2つの問題が懸念度を高めている。1つは血栓の珍しい性質そのもので、血小板の減少や希少な抗体によって起こるさまざまな血液凝固異常が含まれる。
ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドン(UCL)神経学研究所のデイヴィッド・ワーリング教授は、「つまり、ワクチンが珍しいCVSTの原因である可能性が出てきている。まだ解明はされていないので、さらなる研究がすぐに必要だ」と話した。
もう1つの問題は、アストラゼネカ製ワクチンと米ファイザー/独ビオンテック製ワクチンの違いだ。
イギリスではこれまでに、ファイザー製ワクチン接種者1000万人のうち2人にCVSTが発生したが、血小板の減少はみられなかったという。
しかし、これらの血栓症が通常どれくらいの頻度で起こるかも分かっていない。推定では1年間に100万人中2~16人と言われている。また、コロナウイルス自体が異常な血栓を引き起こすこともあり、それが頻度を高め当ている可能性もある。
ドイツではワクチンを接種した270万人のうち31人がCVSTを起こし、9人が亡くなった。死者の大半は若年~中年層の女性だった。
イギリスでは血栓症を起こした人について、ドイツのようなデータは発表されていないが、より広範囲の人々が影響を受けているとみられている。
因果関係の証拠
ある研究者はBBCの取材に対し、ワクチンと血栓の「因果関係」を示す証拠が増えていると述べた一方、アストラゼネカ製ワクチンの効果はなお、接種しない場合のリスクをはるかに上回っていると強調した。
イーストアングリア大学の医学微生物学者ポール・ハンター教授はBBCのラジオ番組に出演した際、「珍しい事例が偶然、多発することは珍しいことではない」と話した。
「でも(血栓の報告が)まずはドイツで、そして今はイギリスであるように、ある集団でそういった事例が起き、別の集団でも起きたとなると、それが偶然によるものだという確率は極めて低いと思う」
「さらなる調査が必要なのは明らかだが、現時点の証拠では、因果関係があるという方向に動いていると思う」
一方で、BBCの報道番組に出演したエディンバラ大学の公衆衛生専門家リンダ・ボールド教授は、血栓は「珍しい事例」であり、「ワクチンがこういう結果の直接の原因だという関係性は、現時点では」確認されていないと強調した。
ボールド教授は、視聴者にワクチンを接種するよう呼びかけた上で、「COVDI-19自体が血栓のリスクを大きく高めている。そのことが、こうした事例が見られていることの説明の一部かもしれない」と述べた。
<分析>
ワクチンから鎮痛剤まで、すべての医薬品には深刻な副作用が起こる可能性がある。
たとえば季節性のインフルエンザワクチンでは、100万人に1人が神経障害のギラン・バレー症候群になる可能性がある。
そのため、実際に問題となるのは「リスクを取るだけの効果があるのか?」ということだ。
まだ証明されていないが、もし新型ウイルスワクチンが血栓の原因だった場合、死亡する確率は250万人に1人だ。
しかし、新型ウイルスそのものによる脅威の方が、血栓リスクを上回っている。
もし60歳の250万人がCOVID-19にかかった場合、5万人が死亡する可能性がある。これが40歳であれば、死者は2500人だ。
リスクと効果のバランスについては、ワクチン接種事業の対象が新型ウイルスによる死亡リスクの低い若年層に移り、安全に関するデータが増え次第、引き続き検討されるだろう。