国民健康保険の保険料には地域差がある?安い都道府県や自治体は?高いのはどこ?ランキングで紹介
更新日: 2020年5月16日
フリーランスや自営業の人が加入する「国民健康保険」の保険料は、自治体によって異なります。都道府県や自治体によって差があるのはなぜでしょう? 保険料が安い地域や高い地域を都道府県別、自治体別にランキングで比較します。
目次
国民健康保険の保険料は自治体によって違う
健康保険とは、労働者が保険料を出し合って積み立て、医療にかかった人の自己負担を抑える支え合いの制度です。自営業・フリーランスや退職者など、勤務先の健康保険組合に加入していない人は国民健康保険に加入することになります。その国民健康保険で、加入者が納める保険料は自治体によって差があることをご存じでしょうか。
「国民」という名称からは国が管轄しているような印象を受けますが、国民健康保険の運営主体は自治体(市区町村)と都道府県であり、保険料は自治体が決めることになっています。医療費がかさみがちな高齢者が多いほど給付を行うための財源が必要になり、そのぶん保険加入者の負担も大きくなります。
現在、国民健康保険は加入者の4割が高齢者(※)であり、財政状況が懸念されるところです。本記事では、国民健康保険料について都道府県別、自治体別に比較していきます。
※75歳以上は後期高齢者医療制度に移行するため、ここでは65~74歳の加入者を指します。
国民健康保険の保険料に地域差があるのはなぜ?
国民健康保険では、事業に必要な費用を算出して加入者から保険料を徴収し、その財源から加入者に対して必要な給付を行う運用業務があります。もともとは自治体(市区町村)が運営を担ってきましたが、2018年4月からは都道府県が運営主体となりました。自治体が保険料の決定・徴収と給付を行う役割は変わりませんが、国民健康保険の事業に必要な費用として、都道府県が「分担額」を自治体に割り振る方式になったのです。
分担額には自治体の加入者数や年齢構成が考慮され、その分担額に応じた標準的な保険料率を示すことで、保険料の公正性をはかる狙いがあります。自治体ごとの運営だと、高齢者が多く医療費がかさむ自治体では、財政基盤が不安定で加入者の負担がきわめて重くなってしまいます。そこで、都道府県が運営主体となり、保険料率の見直しや算出方法の平準化につなげることで、制度の安定と公正性をはかる形となったのです。しかし、自治体による格差の解消にはいたっていません。自治体によって保険料に差がある理由は、大きく2つあります。
算出方法が違う
国民健康保険料の算出は、従来、自治体によって異なる方式がとられてきました。算出には次の4つの賦課基準を組み合わせるのですが、その組み合わせ方によって3通りの方式(2方式・3方式・4方式)に分けられます。
- 所得割…所得に応じて賦課
- 資産割…固定資産に応じて賦課
- 均等割…被保険者ごとに賦課
- 平等割…世帯ごとに賦課
例えば東京都では上記の賦課基準のうち所得割と均等割を使う「2方式」が採用されており、この算定基準に基づく標準税率が市町村ごとに示されます。しかし、同一都道府県内でも自治体によってばらばらの方式をとってきたところも多く、国民健康保険の保険料負担の差が見えにくい原因でした。国民健康保険法の改正後は、都道府県が示す市町村標準保険料率の算定方式にならって保険料率を算出する自治体が増えています。
財政状況が違う
保険料の算出方法は標準化される方向にあると前項で述べましたが、すぐに統一できない事情もあります。自治体の財政によっては、都道府県が示す標準税率では国民健康保険の財政をまかなえないケースもあるからです。
特に、高齢者が多いとかかる医療費は高くなり、自治体の住民から納付された保険料では赤字となってしまいます。国民健康保険制度の費用は、加入者が納める保険料と交付金等国からの公費を基本とし、それでも不足があれば自治体の税金から補わざるを得ません。そのため財政に余裕がない自治体では、加入者の負担である保険料が高額になることが多いのです。
国民健康保険の保険料が安い都道府県ランキング
それでは、実際の保険料について金額の違いを見てみましょう。以下は都道府県別に標準化保険料算定額の年額をランキングしたものです。標準化保険料算定額とは、所得が全国平均並みの人が該当の都道府県内で払うと想定される保険料額です。順位 都道府県 標準化保険料算定額(年額) 順位 都道府県 標準化保険料算定額(年額) 1 埼玉県 102,533円 24 香川県 123,594円 2 神奈川県 103,669円 25 新潟県 123,615円 3 愛知県 106,055円 26 鹿児島県 123,928円 4 東京都 107,388円 27 山梨県 124,263円 5 茨城県 108,861円 28 京都府 124,878円 6 千葉県 110,937円 29 福岡県 125,562円 7 群馬県 113,813円 30 兵庫県 127,073円 8 静岡県 113,860円 31 秋田県 129,560円 9 長野県 114,052円 32 石川県 129,781円 10 岩手県 114,921円 33 北海道 129,783円 11 富山県 116,009円 34 和歌山県 131,176円 12 福島県 116,103円 35 高知県 132,508円 13 栃木県 117,011円 36 長崎県 133,414円 全国平均 117,195円 37 大阪府 134,219円 14 三重県 118,037円 38 愛媛県 134,889円 15 鳥取県 119,035円 39 青森県 134,932円 16 滋賀県 119,858円 40 島根県 135,514円 17 福井県 119,865円 41 宮崎県 138,231円 18 沖縄県 120,220円 42 山口県 138,807円 19 岡山県 120,944円 43 熊本県 139,049円 20 広島県 121,681円 44 大分県 141,562円 21 奈良県 122,449円 45 山形県 142,577円 22 宮城県 122,631円 46 佐賀県 143,079円 23 岐阜県 122,710円 47 徳島県 145,629円
1位の埼玉県と最下位の高知県では、年間43,096円の差がありました。全体の傾向としては、首都圏を中心とした東日本の都道府県が上位に来ています。九州地方の県はいずれも全国平均を上回る金額になっており、保険料負担が高めといえるでしょう。
国民健康保険の保険料は都道府県内の自治体でも差がある!
同じ都道府県の中でも自治体によって国民健康保険料は異なり、中にはその差が何倍にもなる場合もあります。以下の表は、自治体単位の国民健康保険料額について、同一都道府県内での最大・最小差が大きい順にまとめたものです。なお、実際の保険料率は各自治体が標準保険料率を参考に決定するため、この金額と一致するわけではありません。
国民健康保険料の差が大きい自治体ランキング
順位 | 都道府県 | 平均(標準化保険料算定額) | 自治体名 | 最大 | 自治体名 | 最小 | 最大と最小の差 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 北海道 | 129,783円 | 天塩町 | 190,870円 | 幌加内町 | 62,254円 | 3.1倍 |
2 | 沖縄県 | 120,220円 | 多良間村 | 175,904円 | 北大東村 | 66,359円 | 2.7倍 |
3 | 長野県 | 114,052円 | 小布施町 | 137,244円 | 根羽村 | 62,799円 | 2.2倍 |
4 | 東京都 | 107,388円 | 23区 | 114,664円 | 御蔵島村 | 56,234円 | 2.0倍 |
4 | 奈良県 | 122,449円 | 平群町 | 150,041円 | 下北山村 | 75,445円 | 2.0倍 |
4 | 島根県 | 135,514円 | 江津市 | 147,444円 | 知夫村 | 75,470円 | 2.0倍 |
7 | 山梨県 | 124,263円 | 富士川町 | 138,154円 | 小菅村 | 73,214円 | 1.9倍 |
7 | 京都府 | 124,878円 | 亀岡市 | 131,406円 | 伊根町 | 67,531円 | 1.9倍 |
9 | 千葉県 | 110,937円 | 長南町 | 127,074円 | 袖ヶ浦市 | 100,024円 | 1.8倍 |
9 | 福井県 | 119,865円 | 福井市 | 132,889円 | 池田町 | 72,387円 | 1.8倍 |
9 | 和歌山県 | 131,176円 | 湯浅町 | 158,251円 | 北山村 | 89,626円 | 1.8倍 |
12 | 秋田県 | 129,560円 | 五城目町 | 164,626円 | にかほ市 | 96,583円 | 1.7倍 |
12 | 愛知県 | 106,055円 | 名古屋市 | 122,782円 | 豊根村 | 72,164円 | 1.7倍 |
12 | 三重県 | 118,037円 | 松阪市 | 137,788円 | 大紀町 | 83,111円 | 1.7倍 |
12 | 徳島県 | 145,629円 | 阿波市 | 178,028円 | 上勝町 | 103,817円 | 1.7倍 |
16 | 青森県 | 134,932円 | 中泊町 | 164,010円 | 六ヶ所村 | 100,968円 | 1.6倍 |
16 | 山形県 | 142,577円 | 新庄市 | 153,844円 | 飯豊町 | 98,546円 | 1.6倍 |
16 | 埼玉県 | 102,533円 | 本庄市 | 113,650円 | 小鹿野町 | 73,249円 | 1.6倍 |
16 | 石川県 | 129,781円 | 加賀市 | 147764円 | 川北町 | 93,667円 | 1.6倍 |
16 | 岐阜県 | 122,710円 | 池田町 | 142161円 | 飛騨市 | 86,850円 | 1.6倍 |
16 | 福岡県 | 125,562円 | 桂川町 | 150879円 | 久山町 | 97,193円 | 1.6倍 |
16 | 鹿児島県 | 123,928円 | 日置市 | 136992円 | 三島村 | 84,705円 | 1.6倍 |
23 | 群馬県 | 113,813円 | 榛東村 | 133548円 | 南牧村 | 88,698円 | 1.5倍 |
23 | 兵庫県 | 127,073円 | 尼崎市 | 150070円 | 香美町 | 97,252円 | 1.5倍 |
23 | 愛媛県 | 134,889円 | 久万高原町 | 153476円 | 上島町 | 105,283円 | 1.5倍 |
23 | 高知県 | 132,508円 | 南国市 | 140287円 | 東洋町 | 95,069円 | 1.5倍 |
23 | 熊本県 | 139,049円 | 錦町 | 153,222円 | 水俣市 | 99,465円 | 1.5倍 |
23 | 大分県 | 141,562円 | 竹田市 | 151,567円 | 姫島村 | 99,550円 | 1.5倍 |
23 | 宮崎県 | 138,231円 | 都城市 | 151,268円 | 西米良村 | 99,299円 | 1.5倍 |
30 | 神奈川県 | 103,669円 | 湯河原町 | 131,988円 | 綾瀬市 | 91,136円 | 1.4倍 |
30 | 静岡県 | 113,860円 | 吉田町 | 125,016円 | 川根本町 | 86,734円 | 1.4倍 |
30 | 鳥取県 | 119,035円 | 若桜町 | 147,569円 | 伯耆町 | 102,703円 | 1.4倍 |
30 | 岡山県 | 120,944円 | 井原市 | 148,206円 | 矢掛町 | 105,297円 | 1.4倍 |
30 | 広島県 | 121,681円 | 呉市 | 132,901円 | 神石高原町 | 92,658円 | 1.4倍 |
30 | 長崎県 | 133,414円 | 川棚町 | 158,591円 | 佐々町 | 110,787円 | 1.4倍 |
36 | 栃木県 | 117,011円 | 鹿沼市 | 145,962円 | 野木町 | 110,560円 | 1.3倍 |
36 | 新潟県 | 123,615円 | 粟島浦村 | 134,449円 | 刈羽村 | 105,624円 | 1.3倍 |
36 | 富山県 | 116,009円 | 上市町 | 129,477円 | 舟橋村 | 96,116円 | 1.3倍 |
36 | 滋賀県 | 119,858円 | 栗東市 | 132,939円 | 多賀町 | 100,564円 | 1.3倍 |
36 | 大阪府 | 134,219円 | 高石市 | 149,347円 | 千早赤阪村 | 112,322円 | 1.3倍 |
36 | 山口県 | 138,807円 | 宇部市 | 151,629円 | 田布施町 | 117,329円 | 1.3倍 |
36 | 佐賀県 | 143,079円 | 江北町 | 153,230円 | 玄海町 | 119,174円 | 1.3倍 |
43 | 茨城県 | 108,861円 | 境町 | 123,584円 | 八千代町 | 103,994円 | 1.2倍 |
43 | 香川県 | 123,594円 | 多度津町 | 133,779円 | 小豆島町 | 109,171円 | 1.2倍 |
差が最も大きいのは北海道で、最も保険料が高い天塩町と最も安い幌加内町では、その差は3.1倍にもひらいています。各都道府県内で最も保険料が高い自治体を見てみると、東京都23区や愛知県名古屋市などの都市が目につきますが、島や村など少ない人口で大きな負担を負わざるを得ない自治体があることもうかがえます。
地方移住にあたっては、都道府県だけでなく自治体レベルで保険料を確認しておくことで、国民健康保険に関する出費を抑えることができるかもしれません。ただ、都道府県内での平準化が進み、いずれは格差が小さくなっていくとみられています。
国民健康保険の保険料が高い自治体は? 安い自治体は?
同一都道府県内でも自治体によって差があることがわかりました。次に全国の自治体における保険料を比較してみましょう。前項のランキングと同じデータから、平成29年度時点で保険料が高い自治体トップ10、安い自治体トップ10を抜粋すると以下の通りになります。
国民健康保険の保険料が高い自治体トップ10
順位 | 自治体名(都道府県) | 国民健康保険料(年間) |
---|---|---|
1 | 天塩町(北海道) | 190,870円 |
2 | 阿波市(徳島県) | 178,028円 |
3 | 多良間村(沖縄県) | 175,904円 |
4 | 由仁町(北海道) | 170,581円 |
5 | 五城目町(秋田県) | 164,626円 |
6 | 中泊町(青森県) | 164,010円 |
7 | 長万部町(北海道) | 162,518円 |
8 | 田子町(青森県) | 160,167円 |
9 | 川棚町(長崎県) | 158,591円 |
10 | 湯浅町(和歌山県) | 158,251円 |
国民健康保険の保険料が安い自治体トップ10
順位 | 自治体名(都道府県) | 国民健康保険料(年間) |
---|---|---|
1 | 御蔵島村(東京都) | 56,234円 |
2 | 幌加内町(北海道) | 62,254円 |
3 | 根羽村(長野県) | 62,799円 |
4 | 北大東村(沖縄県) | 66,359円 |
5 | 大鹿村(長野県) | 66,479円 |
6 | 伊根町(京都府) | 67,531円 |
7 | 小笠原村(東京都) | 67,649円 |
8 | 檜原村(東京都) | 67,771円 |
9 | 稲城市(東京都) | 68,180円 |
10 | 新島村(東京都) | 71,004円 |
北海道からは1位の天塩町を初めとして高い自治体トップ10内に3つの自治体が入っている一方、安い自治体トップ10にも幌加内町がランクインしています。前述した「国民健康保険料の差が大きい自治体ランキング」で、自治体による保険料の差が大きい都道府県1位となっていた通り、北海道内でもどの自治体に住むかで保険料の負担は大きく違ってくるでしょう。全国で最も国民健康保険料が安い自治体は東京都御蔵島村でした。最も高い北海道天塩町との金額差は年間で134,636円、3.4倍もの開きがあります。
まとめ
高齢化社会に伴い事業の安定そのものに課題を抱える国民健康保険ですが、制度を維持するためにはまず加入者による保険料の納付が欠かせない財源となります。2018年の法改正をうけて同一都道府県内における保険料の負担は平準化の方向にはありますが、財政や年齢構成などの事情もあり、一律に格差解消とは考えにくいのが現状です。自治体レベルで比較すると最大3.4倍、年間で13万円以上もの保険料の差が出ると試算されました。移住を検討する際は、候補地の国民健康保険事業について、保険料の金額や保険料改定の計画などを自治体レベルで確認しておくのがいいでしょう。
※統計は、すべて平成29年度「市町村国民健康保険における保険料の地域差分析」厚生労働省保険局調査課より引用しています。